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どうも、お久しぶりです。TARです。

更新が滞ってしまってすみません。テスト期間中なので、まだしばらくそうかもしれません。
そのお詫びになるかどうかはわかりませんが、今回は少し長めです。
前話のシリアス話が一応今回で終わりますので、ギャグが好きという方は安心してくださって結構です(笑)

御意見、御感想は随時受け付けております。

では、本編へどうぞ。
転換8「雨降れば地は固まるもの」
「……三十七度六分。風邪だね」

 次の日の朝。やはりというか何というか、あんな大雨の中にいたものだから、俺は風邪を引いてしまったらしい。看病をしてくれている美樹が、体温計を片手に呆れて言った。

「やっぱり、昨日のことが原因だね。そりゃ、風邪も引くよ……」

 美樹はそう言って、盛大にため息をついた。……美樹の言う通りだと思う。

 昨晩、俺はずぶ濡れのままに帰宅した。そして驚いて声をかけてくる家族たちに向かって、ただ一言『傘を忘れちゃって……』と言い放った記憶がある。
 京は酷く面食らったような顔をしていたが、顔を背けると何も言わずに部屋へ行ってしまった。そして、色々と世話を焼いてきた家族たちを尻目に、俺はのろのろと風呂にだけ入って寝たのだった。

「色々聞きたいことはあるけどね……。学校から帰ってきたらにする。きよさん、一人で大丈夫?」

「あ、うん……」

 美樹が心配そうに言った言葉に、俺は小さく頷いた。美樹はそれでもなお心配そうな表情を見せたが、少し迷った後に言った。

「そう……? じゃあ、行ってくるからね」

「行ってらっしゃい……」

 俺のおでこにタオルと氷嚢を乗せると、美樹は鞄を持って部屋を出ていってしまう。冷たすぎる氷も、今の火照った身体には丁度良かった。俺はしばしその心地良さに身を任せた。





 ……大丈夫と言いはしたが、一人になると、急に心細くなった。嫌でも昨日一日のことが、頭をよぎるのだ。
 今日俺は『風邪で欠席』ということになるのだろう。みんなは、どう思うだろうか。素っ気ない態度をしたままだった朱菜、葵、緑のことも気になってくる。まだ、謝ってすらいないのに。一度考えだすと、止まらなかった。

 ……風邪の時は弱気になる、というのは本当なのかも知れない。

「京のアホ……」

 何気なしに呟いてみる。それが無意味だとわかっていても、何かに気持ちをぶつけないと不安に押し潰されそうだったからだ。

「バカ。ドジ。マヌケ。短気。ヘタレ。変態。きちがい……」

 よくこれだけ出てくるものだ。……今思うと、やはりあれは嫉妬だったのだと思う。
 女に変わってしまった俺と違って、変わらない日常を享受できる京に対しての、くだらない無い物ねだりだったのだ。

「結局、俺がバカじゃんかよ……」

 じわり、と涙が滲んできたのを俺は感じた。何だか、今日は駄目だ。涙腺がまともに機能してくれないように感じた。
 誰もいない部屋で、俺は流れてくる涙を拭うことなく、しばらく一人で泣いた。

 頭に乗せられた氷嚢ひょうのうが、もうすでにただの水となっていた。














「……う、ん……?」

 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。俺はふと目を開ける。

「あ、起きた? おはよー、きよさん」

 同時に、女の子が声をかけてくる。黒い髪をしているのはわかるのだが、誰だ? 俺がまだぼやける視界を手でこすると、そこにはタオルを絞っている美樹がいた。

「熱も大分下がったみたいで、良かった」

 『ほら』と、美樹が俺に体温計を差し出して見せる。……三十七度二分。なるほど、確かに熱は下がったようだが。一つ、疑問ができる。俺はそれとなく美樹に聞いてみた。

「ねぇ、美樹? ……熱、いつ計ったの?」

「え? ……普通にきよさんが寝てる間だけど」

 やっぱり?
 美樹が言った言葉に、俺は真っ赤な顔を尚更赤くする。

「別に女同士だし、家族じゃない。……そんな恥ずかしがることでもないでしょ?」

 美樹はあっけらかんと言うが、これは性別関係なく恥ずかしい。しかも、俺は妹にそれをされてしまったのだ。俺がそれを想像して、たまらず顔を背けると、ふと時計が目に止まった。
 時計が指し示していた時刻は、十時二十一分。……?

「あれ……、美樹。学校はどうしたの?」

「あぁ、学校? やっぱり心配になったから早退しちゃった!」

 不思議そうに言った俺に、美樹はさも当然のように屈託のない笑みを浮かべた。
 胸が、温かくなるのを感じた。

「美樹、ありがとう……」

 俺は素直にそう言った。美樹の好意が本当に嬉しかったし、何だか一人は不安だったのだ。その心遣いに、感謝した。持つべきものは心優しい妹だ。

「それは別にいいんだけどさ。……きよさん」

 だが美樹は、それにはさして気にする様子もなく俺に言った。

「お兄ちゃんに、何かされたんでしょ?」

「え!?」

 美樹の放った言葉は、今の俺にはドンピシャと言っていいほど『図星』だった。……何かされた、というより何かあった、という意味でだが。

「べ、別に……」

「嘘。……昨日から、お兄ちゃんもきよさんもおかしいもん。口もきいてないみたいだし」

 言い淀んだ俺に、美樹は追い打ちのように語気を強くして言う。その眼は真っ直ぐに俺を見据えてきて、『誤魔化されない』という意志がひしひしと伝わってくる。俺は昔から、その眼には逆らえないのだ。仕方なく覚悟を決め、話せない部分を抜かしてゆっくりと事情を話した。

「は~、なるほど……」

 言い終わると、終始真剣に聞いていた美樹が、何故か突然にやけ声をあげた。

「つまりきよさんは告白なんかどうでもいいみたいなお兄ちゃんの態度に、やきもきしたわけだ?」

 ……やきもき? 何か違うような気がするが、まぁ、ちょっとしたニュアンスの違いだろう。俺は美樹の様子を訝しく思いながらも、小さく頷いた。

「そりゃそうだよね~! 想い人が自分のことなんかどうでもいいって様子だったら、悲しいよね? うんうん、乙女だねぇ!! きよさん」

 は? ……想い人?

 美樹は一体、何をどう勘違いしたのだろうか。俺が京を好き? ……しかも恋愛感情的に?
 おかしい、非常におかしい。どうしてそんな結論になったのか、美樹に小一時間ほど問い詰めたい程だ。
 とはいえ、言えないところを省いたのだから、美樹が勘違いしてしまうのも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが……。

「はぁ……」

 俺は短くため息をつく。見ると美樹は先程の喜びようとは打って変わって、今度はわなわなと怒りに燃えていた。

「まったくお兄ちゃんめ……! こんなにいじらしい人が思ってくれてるっていうのに……!!」















「へっくしょん!! ……誰か俺のウワサしたかな」

 俺はお決まりのことを言って、ずずずとティッシュで鼻水を拭く。

 ここはどこ? ……ここは学校。俺は誰? ……神谷京です。

 ……まぁ、薄々わかってはいましたけどね。この登場の仕方は自分でも痛いって。
 うん、だからそんなに冷たい眼で見ないでくれるかな? 仕方ないだろ? 俺だって色々と混乱していて、自分を落ち着けたいんだ。

 昨日の一件から一日。今日はきよが風邪を引いたので、俺だけで登校した。
 あの時から、きよとは一言も口をきいていない。……あいつの様子がおかしかった理由は今になっても皆目見当はつかないが、あの時の俺に非はなかったと思う。……多分。
 しかし、夜に後から帰宅したときのきよには正直かなり驚いた。全身がずぶ濡れだったことにも驚いたのだが、俺が何より驚いたのはきよの表情だった。
 かつて見たことがないくらいに、きよの顔は暗く、無機質だったのだ。家族のみんなは駆け寄りいたわったが、俺にはとても出来なかった。
 胸の内が何かに侵されているみたいで、今でもスッキリとしない。……昨日と同じく外は雨で、それがなおさら俺を苛立たせた。

「……くそ」

 俺は短く吐き捨てると、ざわざわする気持ちを誤魔化すように教室を後にしようとした。
 だが、俺を呼び止める声に立ち止まる。

「神谷くん。……ちょっといい?」

 声の主はきよの友人の一人、藤川朱菜だった。もちろん横にはいつもの二人東堂葵、西城緑もいた。

「……何?」

 俺は振り返ると、ぶっきらぼうにそう返した。
 声をかけられたことには、さして驚かなかった。俺が一人で登校したこともあって、男子たちからも質問責めにあった。ならば当然、きよの友人である彼女らからもいつかは来る、と思っていたからだ。

「何……って、わかってるでしょ?」

 西城からかけられる言葉。気性の穏やかな彼女だが、その言葉には若干の棘が含まれているように感じた。……あぁ、充分わかっているが?

「昨日の今日で休みだしさ。……なぁ、本当に風邪なのか?」

 東堂は、本当に心配そうな顔で俺に聞いた。……言うわけにはいかない。そんなことも、充分わかっている。

「ただの風邪だよ……。心配しなくても大丈夫だって」

 俺は何か言いようのない罪悪感を感じながらも、何事もないように言った。

「……ねぇ、神谷く」

「じゃ、俺もう帰るから!」

 藤川の言葉を遮り、俺はわざと明るく言った。そして、素早く体を反転させると走ってそこから去っていった。

 ……きっと、逃げたかったのだと思う。

「ちょっと! 神谷くん!!」

 俺を呼ぶ藤川の声だけが、頭の中に響いていた。











 重苦しい思いを背負いながら俺は帰宅する。昨日のきよの姿が頭の中で何度も反復され、思わず頭を振り乱す。ふと玄関の下を見ると、美樹の靴があることを発見する。
 ……あいつ、帰ってきてるのか。

 正直きよのことは心配だったけど(ちょっとだぞ、ちょっと)、昨日のこともある。何より、何を言えばいいのか分からない。俺はいつも通りに自分の部屋へと向かった。美樹が帰ってきているのなら、看病の心配もないだろう。
 ……だが、その途中の階段で、美樹とばったり会う。美樹は俺と目があうやいなや、逃がさないように俺を横の壁に押し付けた。

「……お帰り、お兄ちゃん」

 その後に『うふふ』とついてもいいくらい、満面の笑顔だ。……怒っている。明らかに怒っている。妹のことはある程度他の奴よりは知っていると自負している。そんな俺が確信できるのだ。笑ってはいるが、この眼は間違いなく怒っている。
 本気で怒った時の美樹は、そりゃもう恐いものだ。それを知っている俺だからこそ、まるで蛇に睨まれた蛙よろしく、その場に固まった。

「お兄ちゃん。……まさかこのまま自分の部屋へ行こうとしてた、ってわけじゃないよね?」

「め、滅相もない」

 美樹にキリキリと絞められ(どこをとは言わないが)、俺は首を光速で振って訴えた。

 ……うぅ、非常に怖い。

「私、今から薬とか栄養つけるための果物とか買いに行ってくるから、ちゃんと看病して謝っておいてね?」

「え!? ……でも」

「返事は?」

「はい」

 どう考えても分が悪すぎる。所詮は無駄なあがきだったということか。俺が素直に頷くと、美樹は『ん』と言って玄関まで向かった。

「あ、そうそう忘れてた! ……いくら仲直りしたからといって、きよさんに変なことしちゃ駄目だよ?」

「しねぇよ!!」

 美樹は最後にそれだけ付け足すと、どしゃ降りの外へ出かけていった。
 後に残されたのは、俺ときよだけだ。

 取り敢えず、言われた通りに部屋の前まで向かう。そこまでは、何の問題もない。そして、後はドアを開けるだけなのだが……。

 いかん、決心がつかない。

 まだ解決していない部分はたくさんある。話し合ってスッキリさせた方が良い、ということはわかっているのだ。あの時はお互い、意思疎通が出来ていなかったようだし。ずっとこのまま話をしないなんて、出来るわけもないんだから。

 ……だがなぁ。

 俺は部屋の前を何回も往復し、言わばあの某CMの『入ろっかやめよっか考え中』という状態であった。
 ……その時。

『女神ストレンジャアスプラッシュキィイィィッック!!』

「あぷけろす!?」

 突如、俺の頭を蹴り抜く快音。鈍い衝撃と共に俺の体は吹っ飛び、勢い良く倒れる。
 ナイスキックだった。

『こんにちは、ヘタレキング。ウジウジしやがって』

「こんにちはじゃねーよ!! あまりの唐突さに、かつてないほどの面白い悲鳴を上げちまったじゃねーか!!」

『別にそこまで面白くはないですけど……』

「怒るぞ?」

 相変わらずのやり取りを交わしあう。俺はほこりを払いながら立ち上がり女神を見やるが、女神はそんな俺を睨み返す。未だに不満がある様子だった。

『怒るぞ? ……それを言いたいのはこっちの方です。きよに酷いことを言って、自覚してないんですから』

「何だよお前まで。……俺が何したって言うんだよ」

 俺はモヤモヤと混ぜ合わさって思っていたことをぶちまける。しかし女神は俺の方を一瞥すると、呆れたように言った。

『きよが勝手に怒ってきたのに、何で俺が。……ってことですか?』

「……そうだよ」

 俺は苛立ちも露わに答える。……女神が何を言いたいのかわからない。
 俺は必要以上にあいつを責め立てていないと思っていたのだ。怒られる理由など、ないと思っていたのだ。だが、そんな俺に対して女神が言った言葉は、俺が予想もしていなかった言葉だった。

『確かに、きよも感情を抑えきれなかった部分もあったかもしれません。……でも、京。あなたは、きよの気持ちを考えたことがありますか?』

「え……?」

 あいつの気持ち? ……そんなこと、確かに考えたことはなかったが。どういうことだ。

「そ、それが何だってんだよ……?」

『あの子が、どうしていきなり怒ったかわかりますか?』

「…………」

 俺は無言で、小さく首を横に振った。わかるわけがない。今日だって、ずっとそのことを考えていたのだ。そして、それでもわからなかった。
 女神はそんな俺を見ると苦笑いを浮かべながら、諭すように言った。

『……不安だったんですよ。新しい世界が』

 俺は言葉を失った。不安なんて、普段のあいつからは微塵も感じられなかったからだ。新しい友達も出来ていたみたいだったし……。
 呆然としている俺に構わず、女神は続けた。

『性別も変わって、交友関係も全て白紙です。……そんな環境にいきなり放り出されれば、あなただって辛いでしょう?』

「でも、あいつはあんなに楽しそうで……」

 詭弁だった。あいつの胸の内なんて、俺にはわかるはずがない。

『表向きです。心の中にはずっと渦巻いていたんだと思いますよ。……だから』

 女神はそこまで言い終えると、俺を真っ直ぐに見据えた。そして切なそうに微笑み、言った。

『同じ存在のあなたが……、支えだったんですよ』

「あ……」

 俺はその言葉に反論することも出来ず、ただ、情けない声をあげた。

 もう、気付いていた。

 俺たちは、同じ存在だった。それは二人になってからも変わらなく、秘密も何もなく話せる。お互いにとってそんな存在だったのだろう。
 特にきよにとって俺は、自然体でいられるほぼ唯一の相手だったのだ。そんな相手に、『ラブレターなんて』とか『まぁ、頑張れ』などの突き放した言葉をかけられたら、どうだろうか。……考えるまでもない。
 ラブレターを貰ったきよは、かなり不安に思ったはずだ。そんな中、俺は『自分は関係ない』とでも言わんばかりの言葉を投げつけたのだ。……アホか、俺は。

「ごめん……。俺間違ってた……」

『それを私に言ってどうするんですか? 気付けたのなら、後は自分で頑張って下さい』

 俺の言葉に女神はやっと納得したかのように柔らかく微笑むと、消えていった。同時に、いつもの真っ白空間も消える。
 ……あったのか。気付かなかった。
 恐らくみんなもそう思っただろうから、代表して俺が突っ込んでおいた。
 まぁ、そんなことはどうでもいいか。俺は部屋のドアを静かに開けて、中に入った。
 美樹の趣味で、部屋にはたくさんの可愛らしいぬいぐるみがあった。テディベアのようなものから、リアルな犬のぬいぐるみまであった。俺はそれには触れず端にあるベッドまで歩み寄ると、ベッドを覗き込んだ。
 そこには、すやすやと眠っているきよの姿があった。

 ……まぁ、想定内と言えば、想定内だ。

「おい、きよ」

「ん……」

 起こそうと軽く頬を叩いてみるが、きよはそれに嫌そうに小さく身じろぎをしただけであった。
 ……寝ている時は大人しいんだけどなぁ。ま、それは俺も同じなんだろうけど。

「起きろ!」

 俺はふっと自嘲するように笑うと叫び、きよのおでこに強烈なデコピンを繰り出した。

「あだっ!!」

 きよは短い悲鳴を上げるとベッドから起き上がり、辺りをキョロキョロと見回した。……その姿は、見ていてちょっと面白い。
 ふと、俺と目が合う。

「!! ……き、京……」

 その瞬間、一気に声がしぼんだものへと変わっていく。恐らく、きよはまだ引きずっているのだろう。無理もない、俺も女神に言われてやっと決心がついたんだ。
 つまり、ここで俺もまだ引きずっていたならば気まずい雰囲気になっただろうが、生憎俺はもう吹っ切れているわけで。

「なぁ、きよ」

「な、何……?」

 俺が話しかけると、きよは怯えたように身体をビクッとさせた。そして俺と目を合わせられずに、視線を右へ左へうろうろとさせていた。……何だか、今日のきよも昨日とは違う意味で様子が変だ。風邪のせいか頬は朱に染まっており、瞳も潤んでいる。

 おっと、いかんいかん。

 俺は頭の中から関係ないことを振り払うと、取り敢えず言いたかった言葉をきよに告げた。

「悪かった」

「え……?」

 きよは俺の言葉を聞くと、その大きな碧の目を益々大きく見開いた。

「昨日のことだよ。……俺、お前が不安に思ってたこと全然気付かなくて。……ごめんな。マジ、悪い」

 俺は本当の気持ちを、そのまま素直に言った。『今ならきよの気持ちがわかる』なんて言うのは厚かましいかもしれないが、今は悪いと思っていることは確かだ。その言葉に偽りはない。

「きよ?」

 先程から呆けたように言葉を失っているきよに俺が声をかける。するときよは弾かれたように顔を上げた。

「あ、う、うん! ……お、俺も、悪かった」

 そして、弱々しく紡がれる言葉。きよは俯き、その両手には布団を強く握られていた。
 俺はその言葉を素直に嬉しく思った。

 ……きよも悪いと思っていてくれたのだと。
 いや、もしかしたら俺なんかよりずっと前から思ってくれていたのかもしれない。……ずっと思い詰めたような顔をしていたし、辛そうだったから。
 俺が顔を綻ばせ、そんなことをつらつらと考えていると、きよはポツポツと語り出した。

「ごめんな……。俺、なんか自分の生活がどんどん変わっていくのが怖くて……。『俺は本当は男なのに』って、思えば思うほど虚しくなって……。それで、お前に八つ当たりして……。本当に、ごめん」

 最後の方は、涙声になってかすれてしまっていた。きよの目からはポロポロと涙が零れていた。見れば肩は震えていて、握られた両手には一層の力がこもっているようだった。

「お、おい!? ……な、泣くなよ」

 俺は焦った。こんな状況で目の前で女の子に泣かれて動揺しない奴がいるとしたら、俺はそいつを男として認めないだろう。それぐらい、女の子の涙というものは男にとって破壊力があるものなわけで。

 ……ていうか、こいつ本当にきよか?
 こう言っては失礼かもしれないが、普段のきよの百倍ほどしおらしくなってしまっている気がする。やけに素直だし、弱々しいし。……言うなれば、女の子みたいだ。
 さすがにきよも自分自身で驚いたのか、慌てて涙を拭っていた。

「あ、あれ? ……ち、違う! 泣くつもりじゃ……!! 何で、止まんね……」

 拭っても拭っても涙は溢れ、シーツを静かに濡らした。俺は何故だか、そんなきよの姿を見て酷く胸が高鳴るのを感じた。

 な、何だこれ……?
 きっと、今の俺は耳まで赤くなっているだろう。こんな経験は初めてだと思う。……認めたくないが、認めるしかない。

 俺は今のきよを『可愛い』と感じてしまっていると。

「おい、きよ……」

「ごめん、ちょっとこっち見ないで……」

 俺が真っ赤なままの顔で言うと、きよは顔を背ける。もちろん恥ずかしいからだろうということはわかっているが、俺は構わず近づいて、肩をぽんと叩いた。
 胸は熱かったが、不思議と気持ちは落ち着いていた。俺はきよにあやすように静かに言った。

「悪かったから、もう泣くなって」

「こ、こっち見んなってばぁ……!!」

 きよは物凄く恥ずかしそうに顔を俯かせた。俺がそんなきよに苦笑しながら背中をぽんぽんと叩いてると。

「きよ(さん)大丈夫!?」

 勢い良くドアが開け放たれ、美樹、藤川、東堂、西城が一斉に入ってくる。そして俺たちがとっさの出来事に唖然としていると、駆け寄ってくる。……何なんだいったい。

「お、お前らどうして……?」

「きよが心配で見舞いに来たのよ!!」

「家の前でばったり会っちゃって。きよさんのお友達だって言うから」

 俺の言葉に藤川と美樹が早々と答える。

「話は全部聞いたぜ。……神谷、ちゃんと仲直りしたか?」

「ちゃんとしたよ……」

 東堂の言葉に俺は渋い顔をして、小さく頷いて答えた。
 それを聞くと、四人ともがきよへと視線を向ける。そして、矢継ぎ早に俺に言う。

「きよ泣いてるじゃないのよ!!」

 怒る藤川。

「本当に仲直りしたのかよ~?」

 疑う東堂。

「……お兄ちゃ~ん?」

 睨む美樹。

「神谷くん。あんまりきよ泣かせると……、ね?」

 微笑む西城。目が恐いです。『ね?』って何ですか『ね?』って。

「ち、違う違う! 違うってみんな!!」

 俺が危うく四人にリンチされかかっているところをきよが止める。そして、みんなを宥めた後でゆっくりと事情を話してくれた。

「な~んだ! そういうことかぁ」

 美樹があはは、と笑う。どうやらみんなわかってくれたようで、俺は危機一髪、一命を取り留めた。……あー、怖かった。ほんと、心臓に悪い。

 きよはというと、友の見舞いに感極まってしまったようで、また涙を溢れさせていた。

「みんな……、ありがとう。私、ごめんね」

「なぁ~に泣いてんのよ! 友達として当たり前よ!!」

「早く元気出せよな~!!」

「大丈夫だよ。……神谷くんには、後で私からもよく言っておくから」

 泣きじゃくるきよを、友人三人らで優しく慰める。

 ……純粋に、いい友達を持ったと思う。

 でもそれはいいとして、俺は後で西城からよく聞かされなければいけないのだろうか? ……出来れば御免被りたいのだが。マジで恐いし。いやほんと。

「まぁ何はともあれ、一件落着……ってところかな?」

「……そうだな」

 美樹が嬉しそうに言って、俺の隣に立つ。俺は笑って頷いた。一件落着して、良かった。もうこんなことしたくねぇしな。……後で女神に礼も言っておかなければ。

「ちゃんと反省してるの? ……お兄ちゃん」

「してるっつうの」

 言葉と同時に、笑い声が響く。

 雨はいつの間にか、上がっていた。
後書き劇場
第六回「今更ながらに見た目紹介」

どうも、作者です。今回はタイトルの通り、美樹の見た目とキャラ紹介でもしようかなと思います。

神谷美樹。14歳4月17日生まれの牡羊座。A型。
好きな食べ物:味噌汁、甘いもの
嫌いな食べ物:苦いもの全般
趣味:ぬいぐるみ集め、人の世話(特技?)
小説内で書かなかったので、見た目。
黒髪で、右分けの七三ぐらいでピンで止めている。肩にかかるくらいのセミロング。背丈はきよと同じくらい。


……と、いうことで。
やっとシリアスが終わりました(笑) いや、楽しかったですけどね。
今回の一件で色々意識にも変革がみられ、これからどうなることやら。

女神が頑張ってましたけど(爆)

それと後一つ。これからまたしばらく一話完結になっていくと思うので、春にできる『花見』などの書いて欲しいネタのリクエストがあれば感想としてお送りください。
作者は今、ネタはあるんですがどれからやればいいのか…、という状態でして。
よっぽど難しいもの以外は、多分大丈夫だと思います(笑)

そういうことで、また次回に。


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