第9話:微かな休息
PM17:55。
ケイ達は先程助けた男性の家で休息を取っていた。中で殺したゾンビについては許可をもらって適当に近くの部屋に放り込んでおいた。
今は僅かに血が残っているリビングで男性が出してくれた麦茶を飲んでいた。ちなみにいつでも逃げられるよう靴は履いたままだ。
男性は自分の分の麦茶を飲むと、話を始めた。
「私は川井義男。警察官だ。今日は非番で父と一緒に家でのんびりしていたんだが、突然あのゾンビどもがどこからか現れてきたんだ。私は外に出るのは危険だと思い、家に篭っていたんだが・・・。」
「連中がなだれこんできたわけだ・・・。」
「ああ・・・。父は私を庇って食われ、私も君達がいなければ殺られていただろう。」
父親のことを話すとき、川井の顔色が僅かに曇った。恐らく、黄泉が倒した老人のゾンビは彼の父親だったのだろう。老人の死体を外に出すときも、彼は自分からその死体を持っていっていた。
「・・・お悔やみを申し上げます。」
黄泉は正座をしながら沈痛な面持ちで頭を下げた。殺害した張本人である
「いいんだ。むしろ父を楽にしてもらったんだ。私の方が謝罪するべきだろう。」
川井はそう告げて黄泉の頭を上げさせた。
その後、ケイ達も自分達の経緯を話し、これからどうするかを改めて話し合うことにした。
「ふうむ・・・。警察署か・・・。」
川井はケイ達の脱出プランを聞くと、テーブルなどをどけて床に広げた地図を見ながら顎に手を当てて考え込んだ。
「・・・何か問題でも?」
黄泉が尋ねると、川井は地図を指指しながら話をしていく。
「まず、ここから警察へ向かうには、必ず大通りか住宅地を抜けなければならない点だ。どこにゾンビがいるか分からない以上、この二つはあまり通りたくないな。」
地図を確認すると、今ケイ達がいるところから警察に向かうには、確かに住宅地と大通りのどちらかを抜けないといけなくなる。しかし、どちらも普段人が多くいるところであり、必然的にゾンビが多くいる可能性が高い場所だった。
次に、川井は一度2階に行き、黒い箱のような物を持ってきていた。
「? 何だそれ?」
壁にもたれてだらけていた一文字は、川井が持ってきたものに興味を引かれていた。
「これは無線機さ。父は昔通信士をやってたことがあったらしくてね。家でいつもいじっていては妙な放送を聴いていたんだ。」
「川井さん使えるんですか?」
「私も小さい頃から父が使っているのを見ていてね。」
川井はリビングに無線機を置くと、電源をつけてどこかに連絡を取ろうとしていた。
しばらく黙って周波数をいじっていたが、やがて目的のところに繋がってらしく、呼びかけを始めた。
「こちら川井巡査。南警察署応答せよ。繰り返す。こちら川井巡査。誰か応答せよ。」
どうやらこの街の警察署に繋げているようだ。しかし、何度呼びかけても向こうからの応答は無かった。
何度か諦めることなく呼びかけを行っていたが、やがてため息をつきながら無線機のマイクを置いた。
「先ほども試したんだが、ずっとこんな感じだよ。」
「・・・誰も出ないってことはまさか・・・。」
「・・・警察・・・壊滅してる・・・。」
最悪の展開を予想して、胡坐をかいて座っている松村と、ケイの傍で座っている夕日が顔を青くしながら呟いた。
しかし、一文字の隣に座っているケイはさらに悪い状況に思い立っていた。
「全員がゾンビになってるってこともありうるぜ。こりゃ警察署に向かうのを思い直した方がいいかもしれねえな。」
「マジかよ・・・。勘弁してくれよホントに・・・。」
一文字が思わず天を仰ぐ。自分達が向かっていたところにゾンビがわんさかいるかもしれないのだ。良い気分ではないだろう。
「もういい加減にしてほしいんだけど・・・。」
ケイの隣にいる野辺が疲れた様子でため息をついた。流石に彼女も段々と参ってきているようだ。あまり顔色が良くない。
ふとケイが皆の表情を見ると、まともな顔色をしているのは入り口で立ったままの今田だけで、他は全員顔色が悪かった。
ケイは自分の顔がどうなっているかは分からないが、恐らく良くは無いだろうと思った。
「・・・ここで仮眠を取っていこう。皆精神的に限界が来てる。」
「そうだな・・・・・私もいささか疲れているようだ。」
黄泉が賛成したが、その声にも力が入っていない。
「ごめん・・・私もうだめだわ・・・・。」
野辺はそれだけ言うと、ケイの肩にもたれて眠ってしまった。余程疲れていたのか寝つきがいいのか、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
「お〜い、動けんのだが・・・。ちょっと〜?」
ケイが野辺を揺すって起こそうとするが、野辺は全く起きる気配が無かった。
ケイが体を動かせずに困っていると、今度は夕日が胡坐をかいていたケイの膝を枕にしてしまった。
「ちょ、俺は寝具じゃないよ!?」
「ケイくんの傍・・・・安心する・・・。」
それだけを告げると、夕日もすぐに眠ってしまった。
「・・・ハア・・・。」
しばらくどうやって起こそうか考えていたが、2人のとても安らかな寝顔を見て、やがて諦めて体を壁に預けた。肩と膝からは温かい人の温もりが伝わってくる。
それを感じながら、ケイの瞼は徐々に重くなっていった。
「やっぱスケコマシだなお前。」
一文字はケイが完全に眠ったと思ってつい口を滑らしていたが、ケイの耳には微かに届いており、後で仕返しがされるのだが、それは後の話になる。
無論そんなことは知らない一文字は、何となく嫌な予感を感じながら瞼を閉じていった。
「私も・・・・・眠るか・・・・。」
大分眠気に襲われている黄泉はそう言うと、ケイ達4人の近くまで行って寝転がった。
やがて、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。
それぞれが寄り添うように集まっている5人を見て微笑ましそうに川井は笑った。
「フフ・・・大分仲が良いようだね・・・。」
「会長は確か初対面だった筈だが・・・・・まあいいか。」
今田は呆れた様子で苦笑していた。その表情には最初の頃にあった警戒心は全く無く、友人を見るような目つきだった。
「今田さんだって、大分角が取れてるじゃないですか。」
「う・・・、まあ、こんな状況でいさかいを起こしても意味が無いしな・・・。」
松村からの思わぬ攻撃に動揺したのか、今田の返事が弱々しくなった。
川井もニヤニヤ笑いながら、今田の様子を面白がって切り込んできた。
「ほほう? そう言うわりには、私を助けるときには随分良い呼吸だったようだけどね?」
「そういえば、ケイさんと随分気が合うみたいですよ。何度も意見が合ってましたから。」
「ぐうう・・・わ、私は上で外を見ている!!」
今田は2人からの言葉攻めに耐え切れなくなり、2階へと逃げていった。今田で遊んだ2人は彼が2階に逃げた後もしばらく笑っていた。
ひとしきり笑い終えると、河合は少し意外そうな顔をして松村を見ていた。
「しかし、意外だね。君はもっと大人しい子かと思っていたんだが・・・。」
川井の疑問に、松村は苦笑を浮かべた。
「いやあ・・・・・ああいうのを見ると、ついついからかってしまうんです。」
「・・・結構Sだね君・・・・。」
川井は松村の意外にSな性格に、ちょっと引いていた。
その後、リビングは5人も先に寝ているため、松村はリビングの廊下を挟んで向かいにある和室へ向かい、川井はしばらく呼びかけを続けるため無線機を持って2階の自室へ向かった。
そして、家の中はケイ達の寝息を除いて一切の音がしなくなった。
ようやく訪れた、静かな時間だった・・・。
僅かな休息。しかし、その先には望まぬ未来が待っていた。
次回からは一人称で進めていきます。
急に変わって分かりにくいかも知れませんが、ご了承ください。
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