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第3話:包囲
「で? これからどうするの?」
「まずは装甲車を調べよう。」

敬の提案に、一文字が露骨に嫌そうな顔をした。

「え〜? あんなとこはいんの俺はごめんだぜ?」
「そうよね。臆病者にはちょっとキツイかしら?」
「てめえ・・・。」
「喧嘩なんかしてる場合ではないだろう! 早く調べるぞ!!」
『イ、イエッサー!』

一文字と野辺がまた口論をしようとすると、瑞田が怒鳴って止めさせた。
とりあえず、M92Fを手に入れた敬を先頭に、中へと入っていく。
中は所々に血が付いており、隅にはちぎれた腕が落ちていた。

「ひっ・・・。」

瑞田は小さく悲鳴を上げると近くに居た敬の服を掴む。敬はそれに気づくと、瑞田の方を向いて彼女を労わる。

「瑞田先輩。大丈夫ですから。」

彼女に優しげな微笑を浮かべると、瑞田も段々と落ち着きを取り戻していく。
瑞田は顔を赤く染めながらも服を掴む手を離そうとはしなかった。

「す、すまない。」
「いいっスよ別に。こんな状況じゃ無理もありませんから。」

瑞田はさらに礼を言うと、敬から離れた。
一部始終を見ていた野辺は、不機嫌そうにしていた。それを一文字が茶化す。

「あの2人、随分といい雰囲気だな?」
「・・・うるさいわよ。」
「だってよ、あんだけ優しくされたら会長ぐれえ落とせるんじゃドブ!?」

余計なことを言ってくる一文字の股間に膝蹴りを叩き込んで黙らせると、改めて敬の方を見る。
敬も丁度こちらを向くところだった。

「お〜い、手分けしてこんなか調べんぞ・・・・・・どうしたんだ?」
「さあ? 私は運転席を調べるから。瑞田先輩、手伝ってください。」
「分かった。」
「んじゃ俺は後ろを調べるわ。」

股間を押さえてうずくまっている一文字は見事にスルーされ、敬達は車内を調べ始めた。
運転席を調べている間も、野辺の機嫌は悪いままだった。

(アイツは、敬はアタシのモノなのに・・・。)

ハンドルの周辺を調べながら、ちらりと瑞田を見る。
凛々しさを感じさせる横顔を見て、心の中で対抗心を燃やす。

(敬は、絶対に渡さない・・・!!)

そんな野辺の内心を知らない敬は、突然寒気に襲われていた。

(何だろ? すげえやな予感がする・・・。)

不安を消し去るかのように調査に集中する敬。荷台となっている部分で、3丁の銃と予備の弾を見つけることが出来た。
しばらく車内を調べてみた敬達だが、銃以外の発見は無く、とりあえず一旦外に出て銃を調べることにした。ちなみに一文字は性別が変わる危険を味わったが、何とか男の状態で復活した。

「え〜と、M92FSが俺のも合わせて3丁。M4A1カービンが1丁か・・・。」
「詳しいのだな。」
「こいつはガンマニアだからな。家に何丁もエアガン持ってるし。」
「あと的当て系のことはかなり得意だしね。」
「じゃあこの大きい銃は君が使うべきだな。」
「分かった。じゃあ他のハンドガンはお前ら3人が持ってろ。」

そう言うと敬はM4のマガジンを外し、中に弾が入っているのを確かめると銃に差しこみ、チャンバーに初弾を装填した。
他の面子はズボンやスカートのベルトにホルスターを付けてM92Fを持ち運びしやすくしている。
すると、野辺が敬に銃の使い方を聞いてきた。

「アタシも詳しくは知らないのよ。」
「ちょっと貸してくれ。」

敬は野辺からM9を受け取ると、安全装置を外してマガジンを抜き、スライドを後退させたままにする。

「弾が切れたらこういう状態になる。こうなったらマガジンを交換して、それからここのレバーを下ろしてスライドを戻す。これで撃てるぞ。」

M9にマガジンを差しこみ、スライドストップを下ろしてスライドを元に戻す。その一連の動作は流れるように行われた。

「・・・慣れてるわね・・・。」
「まあ、伊達にガンマニアじゃねえさ。実銃使う機会がくるとは思ってなかったけどな。」

野辺に銃を返すと、敬は他の面子にも使い方を教えに行く。
しばらくして全員の準備が終わると、その場で今後についての会議が開かれた。

「それで、これからどうすんだ?」

一文字が先程の野辺と同じことを告げると、一番に口を開いたのは瑞田だった。

「まずは警察署に駆け込むべきではないか?」
「いや、市街地は多分危険だと思うぜ。」

瑞田の提案を、敬は即座に却下した。

「・・・何故だ?」
「市街地から来た装甲車があれだけ血で汚れてるんだぞ? 多分市街地じゃあもっと悲惨なことになってる。」
「な・・・!?」

瑞田があまりのことに凍りつく。敬はさらに自分の考えを告げていく。

「どれだけ被害が拡大してるかは分からねえが、軍隊まで出てるってことはかなりの大規模になってるってことだ。恐らくこの街はもう死人の街に変わってるんだろう。」
「わ〜お、素敵なことになってんなあ・・・。」
「となると、このまま街から離れた方がよさそうね・・・・。」
「・・・確かに。下手に市街に行ってはどうなるか分からないからな・・・。」

街からの脱出で行動方針が決まりかけたところで、敬がふとあることについて尋ねる。

「そういや先輩の家族ってどこに住んでるんですか?」
「え・・・あ!」

彼女もようやく思い出した。このような状況で街にいた場合、確実に無事では済まされない。しかし、瑞田は余裕を浮かべていた。

「心配ない。今家族は実家に行っていて後10日ほど経たないと帰ってこないのだ。」
「なら大丈夫か・・・。」
「君達はどうなのだ?」
「アタシは家出してるから平気。」
「俺は勘当されてここに来たから無問題モウマンタイ!」
「俺も家族は別の県にいるから大丈夫だな。それと一文字。つまんねえぞ。」
「オーマイガ!!」
「それもくだらないわ。ていうかアンタの存在全てがくだらない。」
「俺全否定!?」

3人のコントまがいの応対に、思わず笑みを浮かべてしまう瑞田。
すると、3人はしてやったりという感じの笑みを浮かべ、それぞれハイタッチをしていた。

「ふふふ・・・。すまないな、こんなことをさせてしまって。」
「別にいいわよ。ぶっちゃけ一文字のボケはアドリブだし。ホントに面白くないし。」
「このクソアマ! そんなに俺が嫌いか!?」
「ええ。」
「何いけしゃあしゃあと言ってやがんだ!!」
「落ち着けって。」

野辺に殴りかかろうとする一文字を、敬が羽交い絞めにして止める。それを涼しい顔をして眺めている野辺。
ほんの少し前に人が死んでいるにも関わらず、これだけ明るくいられる人を、瑞田は知らなかった。ましてやそれが学校一の不良と、その相方なのだから。

(彼等となら、頑張れそうだ。それに・・・。)

瑞田は一文字にドラゴンスープレックスをかましている敬を見つめた。思い出すのは、自分の前で、まるで守護するかのように男と自分の間に立ちふさがった時のこと。そして、装甲車内で自分を労わってくれたときのことだ。

(彼が居てくれるなら・・・・私は・・・。)

胸の中に現れ始めた小さなキモチを自覚しつつ、それを胸の中に仕舞う。
敬はコンクリートに頭を強く打ってようやく正気に戻った一文字に謝っていた。

「すまん・・・。まさか間違えてドラゴンスープレックスをやっちまうなんて・・・。」
「おお・・・。何かくらくらするけど、まあ大丈夫だろ。」
「頭から血が流れてるわよ・・・。」

そんなこんなで一文字の頭には自分で持っていたバンダナが巻かれることになった。

「それじゃあそろそろ移動するか。」
「そうだな。確か街から出るには東に向かえばよかったはずだ。」
「んじゃ、とっとと行こうぜ。」
「ちょっと待って。」

ようやく出発しようとしたとき、野辺が突然止める。

「どうした?」
「気づかないの? 今、何にも音がしないことに。」

その言葉に、野辺以外の3人も急いで耳を澄ます。
本来ならば悲鳴ぐらいでも聞こえるはずなのに、聞こえるのは風の音ぐらいなのだ。
全員が異常に気づき、急いで臨戦態勢に入る。

「おい、これって・・・。」
「皆、急いでここを離れるべきだ。」
「ちょっと遅かったみたいだぜ・・・?」
「それって・・・。」

車が突っ込んできた西門を見ていたはずの敬の呟きに、全員が敬の目線を追う。
そこには、ゆっくりとした足取りで向かってくる、大量のゾンビが居た。

「う、嘘・・・。」
「いつの間に・・・。」
「さあな。考えたく無い。」
「後ろからも来たぜ!!」

一文字は正門から来たゾンビの大群を見て叫ぶ。こちらも西門と同じぐらいの数だったが、学生服を着た者が混じっていた。
それを確認した敬は顔をしかめる。

「どうやら先に逃げた奴らは全滅したみたいだな・・・。」
「そんな・・・くそう!!」

瑞田はあまりの憤りに血でも吐きそうな様子で叫ぶ。もうどうにもならないと分かっていても、納得がいかなかった。

「先輩。今キレたってどうしようもない。落ち着いてくれ。」

敬は努めて冷静に瑞田を宥める。しかし、そう言っている敬もM4を構えている手にかなりの力が込められており、内心がどんなものかを教えていた。
それを見て、瑞田も次第に落ち着きを取り戻していく。

「・・・すまない敬。君には助けられてばかりだ。」
「んじゃ、俺がピンチのときは頼む。」
「了承した。必ず助けよう。」

2人は笑みを交わすと、すぐに表情を真剣なものに変える。4人は上から見て丁度十字になるようにして背中合わせになり、どこから来ても対処できるようにしていた。
ゾンビ達はまだ離れているが、このままでは逃げ場が無く、いずれ囲まれてしまうだろう。

「さて、どうすんだ?」

一文字が相棒である敬に尋ねる。敬は校舎を見ると、あることを提案した。

「校舎の中にしばらく立て篭もろう。時間が経てば状況が変わってるかもしれない。」

敬は瑞田の方を見る。

「瑞田先輩「黄泉だ。」え?」

黄泉は微笑を浮かべていた。

「君ばかり名前で呼んではフェアでは無いからな。」
「・・・じゃあ黄泉。校内で立て篭もれそうなところは?」
「生徒会室だ。扉は頑丈だし、たまに泊り込みで書類を整理したりするから飲食物をいくらかあるぞ。」
「よし、そこに決定!」

敬の言葉に、野辺と一文字が獰猛な笑みを浮かべた

「それじゃあ・・・。」
「とっとと・・・。」
「にっげろー!!」

敬の合図とともに、4人は一斉に生徒会室のある職員棟に駆け込んでいく。














彼らは決して折れない。信頼する友が、頼りになる仲間が傍にいる限り・・・。






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