fairy-tale(4/19)縦書き表示RDF


fairy-tale
作:ドルフィン



第四話「従専(じゅうせん)」


 従魔師専門学校、通称、従専。そこには、様々な従魔師と従魔が在籍し、日々世界の秩序を守るため、修練、勉学に励んでいる。王が設立した従専は、世界に3千校もあり、その中でも王のお膝元であるセントラルシティに造られた第一従魔師専門学校、第一従専は、最も歴史のある誉れ高い世界の代表校、となっている。

 ここに在籍できるのは、よっぽどのエリートかよっぽどの変わり者。もしくはエリートで変わり者。ぶっちゃけ、どっちかオンリーって奴はほとんど見かけない。大抵の奴が、エリートで変わり者だ。

 もちろん、俺たちも含めて――な。






第四話「従専じゅうせん






「あーあ。マジで王の呼び出し無視して来ちゃったよ、従専……」

「しつこいですね。あんな猿のことは無視しなさい」

「まあ、俺もあの巨大オブジェに入るのはもう御免だけど、かといって、ここも似たようなもんだしな……複雑なわけだ」

「そうですね。あの猿公えてこうが造ったというだけで吐き気がします」

「……そこまで蔑めるお前ってすげえな」

 眉根を寄せて従専の校舎を見上げていたチトセは、俺の言葉にちらりと横目で俺を睨むと、何も言わず校門をくぐっていった。俺もしょうがなくチトセの後に続く。

 第一従魔師専門学校。その外観はやはり王城路線に漏れず、全長五十メートルに及ぶ巨大な招き猫だ。そう……ブリッジした巨大招き猫だ。しかも正門側から見たら、猫の顔がひっくり返ってこっちに向いているから、始末が悪い。猿の考えていることは、俺たちにはさっぱり理解できない。

 例によって、入り口は半開きの猫の口だ。ブリッジの体制で堪える猫の顔も、やはりリアルに作りこまれている。

備え付けられたエスカレーターに乗り、俺たちは猫の餌となった。内装は別に異常のないベーシックな造りになっている。まあ、建物の構造上、教室の割り振りはちぐはぐだが、生憎と今日俺たちがここを訪れたのは、従魔師として無事に王の認可が下りたことを担任教師に報告するためで、教室には用はない。まあ、無事かどうかは疑わしいが。

 そもそも、教室を使った授業はほとんどが従魔師見習い一年目の間だけだ。初めの一年で従魔師としての基礎を叩き込まれ、次の一年では実習を中心とした戦闘訓練、最後の一年は直接任務をこなし場数を踏んでいく(もちろん、見習いの間は先輩従魔師が常についている)。そして、無事見習い期間の三年を修了すれば、一人前の従魔師となれるのだ。

 従魔師は常に命の危険が付きまとう過酷な職業だ。しかし、世界の安寧を守るため、従魔師はなくてはならない存在だ。それでも、この世界の住人と従魔師の間にある溝は埋まらない。もっとも、そんなじめじめした話など、クールな俺は気にならないが。

 ちなみに、従魔師は見習い期間を終えた時点で、魂の保護を認められる。原則、保護する魂は王の定めた負の魂だけだ。従魔師の役割は、世界に点在する999個の負の魂を保護すること。そうして、晴れて従専を卒業できるというわけだ。

「入りますよ、プレーンヨーグルト」

 職員室の前に着いたチトセが、身に着けた従専の制服を正して、俺を振り返った。チトセの催促する視線を受け、俺はTシャツの上に着込んだ緑と黄色を基調にしたトラックジャケットのポケットから手を出した。

 チトセがドアを開けると、閑散とした職員室が顔を出した。この時間帯はほとんどの教師が授業に出払っているのだ。しかし、職員室の片隅に担任教師を発見し、俺たちは職員室の中に足を踏み入れた。

「おはようございます、藤丸先生」

 先客二人と話をしていたふっさん(藤丸先生)は俺たちに気付くと、こちらに顔を向け声を返してきた。

「おはよう、チトセ。P・Y。王の認可は下りたか?」

「はい。滞りなく済みました」

 はっきりとそう言ってのけるチトセの横で、俺はあえて何も言わないでおいた。

「そうか。まあ、お前たちなら大丈夫だとは思っていた。では、任務が決まり次第また連絡する。それまでは家で待機だワン……ん、んん! 待機だ」

「っぷ!」

 ふっさんの犬なまりに、俺は思わず吹き出した。先客の一人も、クスクスと笑っている。そう、なにを隠そうふっさんは犬なのだ。文字通り。

 どうやら、犬でも首にネクタイを巻きつければ従専の教師になれるらしい。もはや、このブルドッグが俺たちの担任教師であることに違和感など感じないが。犬のクセにこのおっさん(性別♂)めちゃくちゃ強いし。人間の言葉扱えるし。

「よ、用が済んだらさっさと出て行けワン! んん! 出て行けっ!」

「っくっくく……! ふっさん……最高!」

「貴様ら全員三秒以内に俺の視界から失せねえと滅殺だワン!」

「ぎゃはははははははははは!」

 俺は爆笑しながら、腹を抱えて職員室から逃げ出した。チトセと、先客二人も俺の後に続き職員室から逃げ出し、ドアを閉める。と、ほぼ同時に職員室の中で派手な爆発音が鳴り響き、振動で職員室のドアがガタガタと音を立てた。マジギレしたふっさん相手では命がいくらあっても足りない。俺たちは、腹を抱えながらその場から逃げ出した。

「いや、マジでふっさん最高。犬にしとくのもったいねえぜ。なあ?」

「馬鹿なことを言うんじゃありません。あなたのせいで危うく私たち全員滅殺されるところだったではないですか」

「あっはは。でも、ふっさんの人間バージョンってのも見てみたいな」

「貴様ら二人は、もっと目上の人間を敬うべきだ」

 職員室から逃げ出した俺たちは、四人でただっ広い廊下を並んで歩いていた。先ほどの先客の二人は俺たちの知り合いだったのだ。どうやら、アヤセも昨日付けで王の認可が下り、晴れて従魔師となったらしい。従魔師アヤセ。従魔トウオウ。この二人は、俺たちと同期ってワケだ。

 ちなみに、アヤセは少し天然が入っちゃいるが、至って正常だ。そして、トウオウ。こいつは見るからに只者じゃない。ガクランに黒ズボンという硬派な格好を常としているこいつの魂は、頭に乗ったちょんまげだ。もちろん、この男本気だ。二十歳(生前年齢)の実直な男が冗談でちょんまげのカツラを被るわけがない。そう、若ハゲのこいつは自前でまげが結えないのだ。しつこいが、至って真面目だ。

「ねえねえ、二人ともテレビ見た? 今すっごいことになってるよねぇ。王の正体騒動。あれってほんとなのかな」

 アヤセの悪気のない弾んだ声に、アヤセの隣を歩くチトセの眉がピクンと反応した。ちなみに、アヤセは生前年齢十六歳だ。俺とタメだが、性格が子供じみている分、チトセの方が大人に見える。

「ねえねえ、チトセちゃんはどう思う? 私は信じらんないんだけどね。王が猿でしたーなんて。あの猿ブサイクだしねえ」

「言葉を慎め、アヤセ。お前は仮にも従魔師だろう」

「えー、だって、気になるじゃん。トウオウだってほんとは興味津々のくせに」

「ぬかせ。武士は黙って主君の命に従うだけだ。その正体を知ろうなど、愚劣な下衆のすることだ。なにやら、あの写真は何者かがリークしたようだが、そんな奴の気がしれん。己の立場も分からぬ愚物。見つけ出して私が刀の錆にしてくれるわ」

 トウオウの言葉に、チトセの眉がピクピクピクと痙攣する。なにやら、きな臭い空気になってきた。俺はすかさず二人の会話の中に飛び込み、フォローに回った。

「つーか、あの猿が王ってのはねーだろ。冗談きつすぎだぜ」

 俺の言葉に、アヤセが嬉々として乗っかってきた。

「あっは。だよね。あんなのが王なら私従魔師なんて辞めちゃうよぉ。でも、あの写真合成じゃないんでしょ? あの写真正面から撮られてるし、もし本物だったら、撮った人すごいよね。私だったら、王を前にしてとても写真なんて撮れないもん」

 アヤセの言葉に、チトセの眉の痙攣が止んだ。しかし、すかさずトウオウが反論する。

「なにが凄いものか。写真週刊誌に情報を売るような下衆だぞ。忠誠心のカケラも持ち合わせないクズだ。存在自体が許せん。いつかこの私が見つけ出して刻んでやる」

「――ふふ。さっきから笑わせてくれますね、まげヅラ」

「……なに?」

 ついに我慢しきれず言葉を発したチトセの発言は、その場の空気をたちまち険悪にした。チトセの言葉にその場にいる全員はピタリと足を止め、己の魂を侮辱されたトウオウは、怒り心頭な形相でチトセを睨みつけている。

「従魔師チトセ。今……なにか言ったか?」

「あら。聞き取れませんでした? では、もう一度言ってあげましょう。笑わせないでくださいよ。マ・ゲ・ヅ・ラ」

 あえてヅラを強調して声を出すチトセ。ただでさえ濃いトウオウの顔が、さらに険しさを増していく。殺気立ち睨み合う二人を前に、アヤセはおろおろとするばかりだ。俺はため息を吐き、もう傍観を決め込んだ。

「貴様……私の魂を愚弄する気か? 例え友人でも、従魔師でもただでは済まさんぞ。今すぐ訂正しろ」

「あなたのような若ハゲを友人に持った憶えはありませんが? そもそも従魔の分際で従魔師と対等な顔しないでもらえます?」

「貴様……刻むぞ?」

「お好きにどうぞ。猿のお使いさん」

 ヒートアップした二人は、もはや言葉では止まるはずもなく。

「表に出ろ。――決闘だ」

「望むところです」

 すたすたと校庭に向かい歩いていく二人をよそに、取り残された俺とアヤセは、なんとも言えない空気の中で顔を見合わせた。

「えっと……なんでこうなっちゃうの?」

「……あいつらの相性が最悪ってことじゃね?」

「そうかなあ。チトセちゃんもトウオウも、性格似てると思うんだけどなあ。真面目で責任感あるとことか」

「あー……王の正体騒動で、二人とも気が立ってんじゃねえの?」

 俺の適当な言葉に、アヤセは申し訳なさそうに顔を伏せた。

「そっか。こんなことになるなら、こんな話切り出すんじゃなかったなぁ……」

「――ま、気にすんな。なるようになるさ」

 そう言って俺はポンとアヤセの頭に手を置いた。そんな俺に、アヤセは顔を上げて「へへ」と嬉しそうに笑った。

「ありがと。Pちゃん」

「……その呼び方は止めろ」

 俺は深くため息を吐いた。






















ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう