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fairy-tale
作:ドルフィン



第十九話「ステージ2(後編その6)」


 緑光の柱がトウオウとアヤセを飲み込み、部屋の一部を彩る。二十メートルは優に超えた天井にまで達する魂の波光は、強靭な意志と決意を露わに、空間に満ち満ちていた。

「――でけえな。トウオウの魂の波光」

 俺の言葉に、チトセは光の柱を眺めながら、声を返した。

「見ているだけで、暑苦しい波光です。アヤセもよくあんなのとシンクロしてられますね」

 天を衝く意志と決意が、やがて収まり収束する。魂の波光の中で二人の人影が徐々にはっきりと輪郭をかたどっていく。

「いよいよ、お披露目ですね」

「お前な」

 俺はその好奇心を理解しつつも、チトセに言った。

「写メ撮ってやんな……」

 ジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、カメラを構えるチトセ。その口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。







第十九話「ステージ2(後編その6)」







 ――空気が変わった。

 あまりにも、大胆に。あまりにも、繊細に。その漢が背にしたソウルインフは、その漢の象徴。その漢の生き様。

 誰も(声を出して)笑える者はいなかった。

 ――例え、それが丁髷ちょんまげのカツラであったとしても。

「……! ……!」

 込み上げる笑いが、折れた肋骨を容赦なくむち打ち、俺は激痛と呼吸困難に喘ぎながら、四つん這いになり、何度も額を地面に打ち付けた。その横ではパシャパシャとシャッター音が鳴り響く。

 が、笑激の光景には、まだ続きが用意されていた。

 トウオウの背に浮かぶ、幅、高さ、共に一メートルはあろうかという巨大な丁髷ちょんまげのカツラのソウルインフ。緑光の魂は、還るべき場所を求めていた。

「――!」

 激痛に苛まれながらも、俺は確かにその奇跡の光景を目撃した。

 肌身離さず身に着けられた丁髷ちょんまげのカツラを自ら剥ぎ取るトウオウ。そして、禿げあがったその頭にフィットする、緑光の魂。

 ベストサイズに縮まったソウルインフは、あるべき場所に還り、漢を照らす。

「……! ……!」

 俺は腹を押さえながら、何度も拳を地面に叩きつけた。笑い死にという言葉の意味を今の俺なら自信を持って言える。それは、丁髷ちょんまげのカツラだ――と(笑)。

 端で見ている俺がこの有様なのだ。当然、対峙するエレナは――。

「……! ……!」

 声も出せず、俺と同じ状態に陥っていた。

「……笑わば笑え」

「――!」

 十メートル以上あった距離を瞬きする間に潰し、トウオウがエレナの背後を取っていた。

「ならば、私は笑う者全てを斬って捨てるまで」

 遠目からでも分かる。確かにその一瞬、殺気のこもった眼光は俺にも向けられていた……。

 振り下ろされた刃は、防弾性の鏡を苦もなく斬り捨てた。

 一撃を終えたトウオウが舌打ちをして、顔を上げる。その視線の先には、上空に舞うエレナの姿があった。

 反転した体を、空中でしなやかに捻って着地を決めるエレナ。その様はまるで宙を舞う蝶のように鮮やかだったが、蝶はあえなく地に伏せた。

「……! ……!」

 たった今、一瞬にして背後を取られたばかりだというのに、またもや地べたにうずくまり、腹を押さえて爆笑(声が出せないほど)するエレナ。それを見て、トウオウは静かに呟いた。

「斬る……!」

 頭に乗せたソウルインフが、トウオウの闘志に呼応し、まばゆく輝く。本人が本気になればなるほど、笑いの神は降臨する。

「……! ……!」

 爆笑しながらも、トウオウの猛攻を器用にさばくエレナ。その動きはさらに加速し、もはや俺達の目には二人の残像とともに、オレンジと緑の光しか捉えることはできなかった。

「諦めろ。あの動きをカメラで捉えるのは無理だから」

 隙あらば、まだしつこく撮り溜めてやろうと、携帯電話のカメラを構えるチトセに、俺は呆れて声をかけた。

「――にしても、こんなに強かったのかよ、トウオウの奴。正直ここまでやるとは思わなかったぜ」

「そうですか? ステージ2のあなたの動きとさほど変わりませんよ」

「……遠回しに俺のこと大したことねえって言ってんのか?」

「あなたと同レベルとあっては、ハゲの敗北は火を見るより明らか」

「……せめて、遠回せよ」

 しかし、チトセの台詞を否定することはできなかった。確かに、トウオウがここまでやるとは思わなかったが、その強さは俺の予想を覆すまでには至らない。トウオウがエレナに勝つビジョンが、俺には全く思い描けなかった。それは、俺自身もそうだ、が。

「少しは回復したか?」

 精神力は体力とは違い、一休みすれば回復する、などという定義は当てはまらない。シンクロにより疲労した精神力――言い換えれば、魂の疲労を癒すのは、長い時間が必要だ。

 他人の魂に触れ、シンクロするという行為は、潜水することに似ている。

 深く潜れば潜るほど、己に負担がのしかかってくる。信頼と絆、それ以外の未知数の要素が酸素ボンベとなる。だからこそ、俺達は今以上深く潜ることは出来やしない。

 それでも、今回俺達は未知の領域へ潜り込んだ。その負担はおそらく俺などより、チトセの方がずっと上だろう。

 それを知りながら発した俺の言葉は、チトセへの信頼に他ならない。意地っ張りな俺の従魔師が、どう返事を返してくるかなんて、聞くまでもなく承知済みだ。

「当然です。あなたの方こそ、その様で使い物になるのですか」

「誰にもの言ってんだよ」

 口元に笑みを携え、俺はゆっくりと立ち上がる。目の覚める肋骨の軋む痛みは集中力でカバーする。ステージ2、もう一度あの状態まで持っていければ、痛みなど感じる暇も与えない。

「タイミング、間違えんなよ」

「あなたこそ、誰にものを言ってるのです」

 均衡が崩れだした。

 徐々に、オレンジの光が緑の光を押し出し、強烈な閃光が、緑の光を弾き飛ばす。吹っ飛ばされたトウオウが、地面を削り、壁に激突する。ようやく静まった動は、二人の優劣を分かりやすく表していた。

 今にも消え入りそうなほど弱まった、丁髷のカツラのソウルインフ。対峙する巨大な女王蜂のソウルインフは、二人の戦力差を残酷なほど明確に物語っていた。

「あんたの一発芸(ステージ2)、もう続きないの?」

 ゆらゆらと長い鞭を弄びながら、エレナが瀕死のトウオウに言葉を投げかける。重い体を起こしながら、トウオウは険しい顔でエレナを見据えながら、刀を握り直した。

「――残念ね。もう、飽きた」

 とどめの一撃がトウオウを襲う。その刹那、闇の波光が俺とチトセを覆った。























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