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ボクらは危機一髪

作者:流鏑馬山雅
Scene1
教室

担任 えー、夏休みの自由課題でボウフラの観察日誌を出した奴がいる。が、ここは小学校じゃない。だからそれは却下だ。

 生徒たちがざわつく

健斗 えーっ、ダメなの? だって世の中じゃ蚊で大騒ぎだろ? テング熱とか騒いでいただろ。駆除する方法まで考えたのに?
龍一 おい、健斗のことかよ?
遥香 てんぐじゃなくてデング熱でしょ。幼いのよ、頭の作りが。
健斗 真面目に考えたんだぞ。銅イオンに防虫効果があるから、ペットボトルに水と十円玉を入れて、家の周りに並べて調べたんだからな。
遥香 そんなことまでしたの?
健斗 だから、効果あるんだって。
担任 たしかに健斗の言うことは間違いじゃない。だがな十円玉じゃ十分に銅イオンは溶け出さないし、分量に問題がある。いくら入れた?
健斗 五百ミリのペットボトルに十円玉一枚かな。
担任 うーん、足りないな。
健斗 だってたくさん入れたら誰かに持って行かれちゃうだろ?
遥香 何本並べたの?
健斗 二本ね。玄関の右と左に一本ずつ。
麗子 それじゃ猫も素通りだわ。
龍一 それにそれだけじゃ実験にならないだろ。
担任 銅イオンを沢山取り出したいなら銅線のように出来るだけ細く、そう繊維状のものなら効果は有るかも知れないがな。それじゃ蚊取り線香を焚いた方がよくないか?

 生徒たちの笑い声が響く

健斗 いいよ、次の授業で化学の藤井先生に聞いてみるからさ。
美沙 それより、蚊を撃退するスマホのアプリの方が効くわよ。

 美沙、アプリを起動させる
 生徒たちは耳をふさいで騒ぐ

龍一 おい、音量が大きすぎるぞ、美沙!
遥香 いやだ、気持ち悪い!
担任 何だ、みんなどうした?
龍一 そうか、先生には聴こえないんだ、このモスキートーンは!
健斗 そうだ中年には聴こえない周波数なんだよ。
担任 誰が中年だと?

 アプリを止める

麗子 でも先生、たしかに今はデング熱熱とか、蚊を媒介とする熱病が騒がれているんだから、健斗君の自由研究は意味があると思います。
担任 え? あ、ああ、まあ意味はなくもないな。
健斗 だって、十円玉を入れた瓶の中のボウフラは羽化せずにほとんど死んだんですよ。
麗子 ほら。
担任 ああ、わかった。まあそれじゃあ預かることにするか。
健斗 やったー!
龍一 よかったな、健斗。これも麗子のおかげだ。
遥香 麗子に感謝しなきゃね。
健斗 え? あ、ああ。

 授業の終わりを告げるチャイム
 生徒たちのざわめき

龍一 遥香、午後は化学の実験だよな?
遥香 うん、お昼食べ終わったら、準備室へ行かなきゃ。
健斗 何すんの?
遥香 (教科書で頭をはたく)これで思い出しなさい。
健斗 いて、教科書は反則だぞ!
遥香 お弁当箱がよかった?
健斗 龍一、助けてくれよ!
龍一 遥香、やめとけよ。
遥香 龍一ったら、健斗に甘いんだから!
健斗 そりゃ俺たちは親友だぜ? 女にはわかりっこないのさ。
美沙 ねえ、それってBL?
健斗 アホか、美沙は。男同士の友情を言っているの!
美沙 でも、男同士の友情って、愛に変わることが多いんでしょ?
遥香 美沙、なに馬鹿なこと言っているの?
麗子 美沙は腐女子だから。
健斗 ええっ? そうだったの? 衝撃的告白だ!
遥香 健斗、うるさい。そんなの美沙の勝手じゃないの。
健斗 え、遥香も美沙の肩を持つのか?
遥香 肩を持つとか、そういうんじゃないの。私は女の味方よ!
健斗 なんだよGLかよ!(また教科書で頭をはたかれる)いて!
遥香 こんど言ったら本当に弁当箱でぶつからね!
健斗 ひでーよ!
龍一 なあ、今度の日曜日、みんなでUSJに行かないか?
美沙 行きます! ウィザーディング・オブ・ハリーポッターですね? ホグワーツ城へ行きたいです!
龍一 よし、決まりだな!
美沙 ホグワーツ特急に、ホグズミード村、私の憧れです、素敵です!
健斗 あれあれ、ファンタジーちゃんだよ。
遥香 うるさい!
健斗 (空のお弁当箱で頭をはたかれそうになる)あぶねえ! 俺だってそんなに鈍くはないぜ。全く、頭悪くなったら遥香のせいだぞ。
麗子 私も行く! 何だか冒険って憧れるわよね! バタービールに百味ビーンズ、食べてみたかったの!
龍一 よし、じゃあみんなで行こう。
健斗 あんなの冒険じゃないぜ、ただの作り物なんだから。冒険ってのはね、魔法なんかじゃなくて自分の力で困難を乗り越えてこそ本当の冒険なんだから……。

 弁当箱で何かを小突くゴンという音

遥香 今ここで乗り越えてみせなさいよ。

 コミカルな効果音


Scene2
職員室の外の廊下

 遠くで生徒たちの喧騒

藤井 ええ、あと少しで完成しそうなんです。もちろん例のモノの強度はバッチリ、あ、いやご希望通りです。え? 防虫効果ですね。ええ、実はそこはまだ実験段階です。そこさえクリア出来れば完成です。はい、はい。

 やや不気味な効果音

藤井 (小声で)大丈夫、私に任せてくだされば、必ず上手くいきます。実験方法? いやそれは企業秘密です。あ、いや企業ではありませんが。少しだけお話するとですね、実際に蚊を使って実証実験を進めています。もちろんその様子は録画するつもりです。必ず実証して見せますよ。(大きな声で)私も科学者の端くれですからね、ははは……失礼。上手くいった時は、よろしくお願いしますよ。



Scene3
化学準備室

遥香 じゃ、龍一は試験管を片付けてくれる? 
龍一 ああ、わかった。
遥香 麗子はアルコールランプをお願い。馬鹿に持たせたら大変だから。
麗子 了解。
健斗 面倒くさいな、実験の後片付け当番なんて。
遥香 うちの班の順番なんだから、文句言わないの!
健斗 いて、頭はやめろよ頭は! 馬鹿になっちまったらどうしてくれるんだよ?
遥香 反対に頭良くなるんじゃないの? とにかく黙ってリストにある薬品を集めて頂戴!
健斗 この班長ときたら暴君だよ、暴君! まるで魔女のマレフィセントだよ。
遥香 ブツブツうるさいわよ!
健斗 はいはい、やってますよちゃんと。
麗子 ねえ、田中君に薬品は触らせないほうがいいんじゃない?
龍一 俺もやめた方がいいと思うよ。
美沙 あ、じゃあ私が手伝います。

 複数の瓶が割れる音

龍一 ほらやった。
健斗 ごめん、でも俺のせいじゃないんだ。一番端の瓶を取ろうとしたら、ここに変な封筒があって、それが倒れてきたんだよ!
龍一 封筒? 貸してみろよ。宛先は香取製薬? これって蚊取り線香のメーカーか(袋からガサガサと書類を出す音)
遥香 しょうがないわね、全く。気をつけてよ。
麗子 ねえ、この水槽の中、空っぽなのかしら?
健斗 どれどれ。ああ、水が少ないな。それに水草と石ころばっかりだな。カエルでも飼っていたのか?
麗子 化学準備室にカエル?
健斗 何かの実験用じゃねーの?
龍一(書類を見ながら)これ、化学式かな。まるで何かの設計図みたいだな。おまけに蚊のイラストばっかり書いてある。殺虫剤の研究か?
美沙 それは銅イオンの生成過程の化学式ですね。こっちの数字は何かの直径を表しているようです。
龍一 美沙、詳しいんだな。
美沙 化学は少しだけ得意なんです。
龍一 へえ。
遥香 早く終わらせて帰ろうよ。もう皆んな下校しちゃってるよ。

 準備室の引き戸を開ける音

藤井 お前たち、まだ片付かないのか?


健斗 うわあ、びっくりした!

瓶が割れる音

龍一 あ、藤井先生、すみません薬品の瓶を割ってしまいました。
遥香 またやっちゃった!
健斗 俺のせいじゃないぞ。
藤井 何だって? そ、それは! そこから離れるんだ!
健斗 ごめんなさい、その、僕が……。

 ガタンと椅子が倒れる音
 藤井が倒れる

龍一 先生? 藤井先生!
遥香 どうしたの? え? 何だか気分が悪い。
龍一 遥香、遥香! 何だこの匂いは?
麗子 私、もうだめみたいです……
健斗 ポカリ飲むか? ほら……

 ペットボトルを落とす

美沙 私も……目が回る……

ドスンと床に尻餅をつく音

龍一 窓を、窓を開けなきゃ……



Scene4
 同、化学準備室

美沙 メガネが、メガネが……
健斗 うーっ、何か吐きそう。
遥香 汚いわね、あっちへ行って吐いてよね。
健斗 あっちってどっちだよ。あれ?なんかここ準備室じゃないみたいだな。
麗子 あれ、あたしたちどうしたの?
遥香 みんな気を失っていたみたいなの。
美沙 おそらく薬品が混合して化学反応を起こしたんですね。
健斗 あれ? 藤井先生と龍一がいないぞ。
龍一 おーい、みんな目が覚めたか?
遥香 龍一、どこに行っていたの?
龍一 藤井先生と周りを調べていたんだ。
健斗 ここ化学準備室じゃないの?
藤井 いや、間違いなく化学準備室だ。
龍一 ああ。
遥香 待ってよ。何でこんなに広いの? 校庭じゃないの?
龍一 いや、間違いなくここは室内なんだ。問題はそういうことじゃないんだ。
藤井 ああ、どうやら我々はかなり深刻な問題に直面してしまったようだ。
麗子 どういうことですか、先生?
美沙 メガネ、メガネ……

 足元をコンコンと蹴る音

健斗 この地面、何か変じゃないか? これって、準備室の床?
龍一 ああ。
藤井 どうも我々は極小化してしまったらしい。
健斗 ゴクショーカ?
遥香 馬鹿ね、小さくなっちゃったってことよ。え? 藤井先生、本当ですか?
藤井 いや、もしかしたら薬品のせいで集団幻覚を見ているのかも知れない。
健斗 先生、危険ハーブ栽培してたの?

 ゴツンという音

健斗 いってええ!
龍一 藤井先生、だとしたら時間が経てば覚めるんですよね?
麗子 これ……幻覚なの?
美沙 メガネ、メガネ……あら、これは何?
麗子 きゃーっ!
龍一 美沙! そこから離れるんだ!
美沙 でもメガネが。
健斗 うわーっ、バケモノだ!
龍一 美沙、こっちへ来るんだ!
遥香 何よそれ、何なの?
藤井 落ち着くんだ、みんな落ち着くんだ!
龍一 先生、そいつ生きているんですか?
藤井 いや、死骸みたいだ。
健斗 何、何の死骸なの!
藤井 ダニの一種だな。
龍一 ダニ? ダニがこんなにでっかいんですか?
美沙 あ、メガネがあった! 何てこと! これってまるでオームだわ。ナウシカの世界だわ、素敵!
健斗 誰かこいつを黙らせろよ。
藤井 さっきも言ったように、我々が小さくなったんだ。こいつらは当たり前のサイズなんだ。
龍一 先生、僕たちはここにいても大丈夫なんですか? どこか安全な場所を探した方がいいんじゃないですか?
麗子 龍一君の言う通りだわ。
美沙 オームが一頭だけなんて有り得ないわ。きっと仲間を探してやってくるわ。
健斗 黙れよ、ファンタジー馬鹿!
麗子 あら、馬鹿はないんじゃない? 言い過ぎよ!
健斗 いて! 何だよ麗子まで遥香みたいに……あれ? 遥香?
龍一 遥香、どうした?
遥香 きっと夢よ、夢だわ……こんなの夢よ!
龍一 遥香、しっかりしろ。大丈夫だ。俺たちが一緒にいるじゃないか。
遥香 あっちへ行って! 誰も私のそばに来ないで!
龍一 遥香?
麗子 私がそばにいるから。みんな少しそっとしておいて。
藤井 無理もない。こんな奇妙な状況を受け入れろと言う方が無理だ。
美沙 来るわ。向こうから何かが来る。

 ゴーっという水のような音
 地響き

美沙 水よ、津波だわ!
健斗 何で準備室の中で津波が来るんだよ!
龍一 とにかく逃げるんだ!
美沙 来たわ!

 ザバッと水が迫る音
 数名の悲鳴
 水をかぶる

龍一 あそこに高いところがある、そこまで走るんだ!

 全員で駆け出す

藤井 登るんだ!
麗子 だれか手を貸して、遥香が走れない!
龍一 俺が遥香を背負う!
美沙 ああ、オームが流されていく!
健斗 馬鹿なこと言ってないで走れ!

藤井 ここまで来れば大丈夫だ。津波も少し逸れたみたいだし。そうか、床の凹凸に沿って流れているんだ。
美沙 ずぶ濡れだわ。あら、何だかとっても甘い香りがするわ。
麗子 これって、ポカリの匂い?
健斗 あ! 俺が持っていたポカリか?
藤井 少しづつ流れ出してきたんだな、おそらく。
美沙 見渡す限り、酸の海だわ。
健斗 バーカ!
麗子 馬鹿はないでしょう、あんたの責任なんだから!
健斗 俺はただ具合が悪い麗子に飲ませようと思って……
麗子 えっ……馬鹿……。
龍一 藤井先生、これって椅子の脚ですよね?
藤井 ああ、ああそうだ。椅子だ。
健斗 でっけえ!
美沙 見て、向こうに腐海の森があるわ。
藤井 ああ、机の下の方だな。おそらく日が当たらないのと、湿気のせいで床にカビが生えているんだ。
健斗 あれ、カビなの? ジャングルみたいに見えるぜ?
龍一 俺たちのサイズを考えてみろ。ホコリの塊だってジャングルに見えるさ。
健斗 なるほど。
龍一 それより麗子、遥香の具合は?
麗子 うん、すこし落ち着いたみたい。
龍一 遥香、大丈夫か?
遥香 いやよ、こんなの! 早く家に帰りたい!
健斗 なんだよ、一番強い女だと思っていたのに。
麗子 張り詰めていたものが切れただけよ。女が強いなんて本気で思っていたの? 馬鹿ね。
健斗 また言った!
藤井 おい、誰かあの棚にあった水槽の蓋を開けたのか?
健斗 えっと、確か中を調べた時に開けてから……閉めた記憶ないや。
麗子 水槽の蓋……カエルを飼っていた水槽ですか?
藤井 いや、カエルなんかじゃない、もっと厄介な奴だ……。
龍一 先生、一体何を飼っていたんですか?
藤井 ボウフラだ。
健斗 ボウフラ? そんなら大したことないじゃないですか。近寄らなければいいんだから。
藤井 ボウフラは羽化する。
健斗 羽化?
龍一 成虫に、蚊になるってことだよ。
健斗 蚊?
龍一 俺たちにのサイズでは蚊だって脅威になる。
藤井 奴らは二酸化炭素に引き寄せられる。もしかすると我々を襲って来るかも知れない。
美沙 巨大な空飛ぶ吸血鬼ね。
健斗 先生、何でボウフラなんか飼ってんの!
藤井 実験のためだったんだ。
龍一 実験? 先生は何を実験していたんですか。僕は見たんです。香取製薬の封筒を。あの化学式はその実験とどんな関係があるんですか?
藤井 俺は学校を辞めようと思っていたんだ。俺は化学の研究を極めて香取製薬に行くつもりだった。この実験さえ上手くいけばそうなるはずだった。
龍一(藤井に掴みかかる)どういうことだよ? こんな危険な実験をして、俺たち生徒を裏切るようなことをしていたのか?
健斗 龍一、よせ! 先生を殴ってどうなるっていうんだ?
遥香 龍一、やめて! 
龍一 遥香。
遥香 そんなことをしても意味ないわ。健斗の言う通りよ。
龍一 くそ!(藤井を掴んでいた手を離す)
遥香 藤井先生、さっき言いましたよね? 蚊が脅威になるって。何かそれを防ぐ方法はないんですか?
龍一 そんな奴に聞いても無駄さ!
遥香 龍一は黙っていて。先生、私たちが助かる方法はないんですか?
藤井 私は防虫効果の強い化学繊維の開発に取り組んでいたんだ。昨今の蚊のもたらす熱病から身を守るための化学繊維を。
遥香 じゃあその繊維があれば蚊の脅威から自分たちを守れるんでしょう?
藤井 いや……それはまだ開発段階なんだ。それにここにはその繊維はない……いや、宮本、さっき化学式の入った封筒を開けたと言ったな? それは今どこにあるんだ?
龍一 確か、向こうの薬瓶が並んだ棚のそばです。
藤井 その中に試作品が入っているはずなんだ!
龍一 え? そういえば何かの繊維みたいなものがあったような……
藤井 探しに行こう! その繊維が役に立つかも知れない!
遥香 探すって、どうやって?
藤井 とにかくあの棚の傍まで行こう。
遥香 あんなに遠いのに? 歩いていくんですか?
龍一 それしか方法がないなら、行きましょう、先生。
藤井 よし、まず武器を作ろう。何があるかわからない。途中で奴らに出くわす危険もある。
龍一 武器?
藤井 この椅子の古くなった所から錐針を作る。よし、探すんだ!
龍一 麗子、遥香を頼む。美沙、オームや虫たちが来ないか見張っていてくれ。
美沙 わかったわ。盲しいた目でも心の目さえあればきっと見えるわ。
健斗 こいつ、役に立つのか?
麗子 健斗、手伝って。遥香をもっと安全な場所に連れて行きたいの。
健斗 安全な場所?
麗子 あそこよ。椅子の脚の付け根。あの布張りのところまで行けば、ここよりは安全でしょ?
龍一 そうだな、麗子の言う通りだ。
藤井 何か刃物の代わりになるものがあれば、あの裏地を割いて中に隠れることが出来るかも知れん。そこなら安全だ。
龍一 健斗、頼んだぞ!
健斗 わかった! さあ遥香、今度は俺がおんぶしてやる!
遥香 健斗……ありがとう。
健斗 いいってことよ。
美沙 見つけたわ、賢者の石を!
健斗 またこいつ!
美沙 ほら、あそこに光ってる。
藤井 割れた瓶のかけらか。少し危険だが使えるものがあるかもしれないな。
龍一 よし、先生行きましょう。
美沙 待って、勇者たちよ。これを。
龍一 これは、爪切り?
藤井 そうか、そのヤスリの部分で硝子のかけらを少しは削れるかも知れないな。
麗子 そんなもの持ってたの?
美沙 女のたしなみよ。
龍一 よし、確かに預かった。
美沙 待って、二人共。(二人にスプレーをかける音)
龍一 うわ、何だよこれ?
美沙 効き目があるかはわからないけど、虫除けスプレーよ。
龍一 ありがとう!
麗子 美沙、あなたも向こうに行きましょう。
美沙 いいえ。私はここで腐海の虫たちを見張っているわ。
健斗 どうでもいいけど、その例えどうにかならないか? イラつくんだけど。
麗子(健斗の頭を叩く)おだまり!
健斗 いってえ! わかったよ。
遥香 龍一、気をつけてね。
龍一 ああ遥香、必ず戻って来る。
藤井 なあ、聞いてみるんだが、ハサミはないよな?
美沙 あるわ、ここに。
健斗 デキる女だな、こいつ。



Scene5
 椅子の座板の裏

麗子 これ、やっぱり布地だわ。
健斗 麗子、何それ?
麗子 眉剃りよ。
健斗 え?
麗子 布なら上手くいくかも知れないわ。

 遠くで低い羽音が聞こえる

美沙(三人に向かって走ってくる)虫よ!虫が来たわ!
健斗 ええっ、もう来たのか?
麗子 遥香、手伝って。
遥香 ええ。

 布を裂く音

健斗 よし、この勇者の剣で……。
麗子 死にたくなかったらその棒切れを捨ててこっちを手伝って!
健斗 わかった!
美沙 虫が怒っている。
健斗 腹がへっているんだろ?
麗子 皆んな、ここから中に入って!
健斗 来たぞ! 何だよ大群じゃないか!

 スプレーを吹き付ける音

美沙 効き目はわからないけど。でもこれで最後だわ。
麗子 早く入りなさい!
健斗 何か臭うぞ、ここ。
美沙 黙らっしゃい!
健斗 何者だよ?

 大きな羽音
 蚊の大群

麗子 真っ暗ね。
遥香 龍一、大丈夫かしら?
美沙 大丈夫よ、きっと。
健斗 何か説得力あるな、お前。

 羽音が大きくなる
 布を突き刺す音

健斗 痛て!
麗子 なによ、今度はどうしたの?
健斗 何かが足に刺さった……。
麗子 健斗? 健斗大丈夫?

 再び布を突き刺す音

麗子 みんな、後ろへ下がって! 蚊が攻撃してきたわ!
遥香 健斗、しっかりして!
健斗 かゆいなんてもんじゃないぜ。マジ痛てーよ……。
麗子 健斗!



Scene6
 荒野の中(準備室)

龍一 先生、本当に学校を辞めるつもりなんですか?
藤井 こんな騒ぎを起こしたのは俺の責任だ。いずれにしても学校にはいられないだろうな。
龍一 でも俺たちが無事に帰って、それを誰にも話さなければわからないでしょう?
藤井 そんな風に考えてくれていたのか。だが正直、本当に元に戻れるかさえ今はわからないんだ。
龍一 絶対に戻ります! 絶対に!
藤井 宮本……そうだな、きっと戻ろう。
龍一 先生、多分このあたりだと思います。あ、あった!
藤井 これだ!

 ガサガサと紙が擦れる大きな音

藤井 あったぞ!
龍一 先生!

 不気味な羽音が近づいてくる

藤井 やはり二酸化炭素を嗅ぎつけたか。
龍一 先生!
藤井 いいか、一枚を体に巻きつけて、もう一枚の布で奴らに向かって仰ぐんだ、宮本! 防虫効果が確かなら効き目があるはずだ!
龍一 ようし、来るなら来い! ほら、こっちだ!

 バサバサと布を煽る音

藤井 やった、いけるぞ、宮本! 効果があるぞ!
龍一 先生、後ろ!
藤井 ほら、こうしてやる!
龍一 先生!

 ブツリと肉を突き刺す音
 苦しそうな呻き

龍一 先生!



Scene7
 椅子の座板の裏

遥香 健斗、大丈夫? 健斗!
健斗 大丈夫さ、これくらい。カスリ傷だ! うっ、か、痒い!
美沙 はっ! また違う虫が来た!

 重低音を響かせる羽音
 バリバリと何かが裂けるような音

美沙 上位種の虫が来たのよ。これで蚊は一巻の終わりだわ。
麗子 美沙、上位種って何、何が来たの?
健斗 俺が確かめてやる。
麗子 健斗、気をつけて!

 布をめくり、様子を見る健斗

健斗 トンボだ! でっかいトンボが蚊を食っている!
美沙 自然界の摂理よ。
遥香 でも私たちもトンボに襲われるんじゃないの?
美沙 それもまた自然界の摂理よ。




Scene8
 荒野(準備室)

龍一 先生、大丈夫ですか?
藤井 は、腹を刺された。俺はもうだめだ。宮本、俺に構わずみんなの所へ行くんだ!
龍一 嫌です! 先生をここに残して行けません!
藤井 宮本、行くんだ!

 重低音を響かせた羽音が複数聞こえる

龍一 暗くなった……え?
藤井 もうだめだ、目の前が暗くなってきた。
龍一 せ、先生、あれは……?
藤井 んん? おおう、あれは多分、トンボだ。そうか、トンボは蚊の天敵だ! 
龍一 そうか、俺……気を失う前に窓を開けたんだ!
藤井 天の助けか、はたまた新たなる脅威の出現か。うう、痒い!
龍一(怪訝そうに)先生? 大丈夫なんですか?
藤井(大声で)か、痒い!

 藤井の叫び声が余韻を長く残す



Scene9
 教室
 チャイムの音
 生徒たちの喧騒

遥香 ねえ、龍一。やっぱり化学準備室に行かないとだめ?
龍一 ああ。
健斗(小声で)しーっ! 誰かに聞かれるとまずいぞ!
麗子 あんたね、口にしちゃだめでしょ!
健斗(頭を叩かれて)痛え! 麗子まで男の頭に手を上げるようになっちまいやがった。
麗子 何が男よ。ギャーギャー騒いでたくせに。
健斗 あれはだな、しょうがないだろう?
美沙 遥香、腐海の怒りは収まったのよ。もう大丈夫。
龍一 全く、いい加減だけどその言い方なら誰も気づかないな。
麗子 本当ね。
健斗 まあ、美沙が持っていたアイテムに随分と助けられたからな。
美沙 備えあれば憂いなし。
遥香 なんだか美沙、人が変わったみたい。
龍一 悟りを開いたって感じだな。
健斗 つけ上がるぜ?
麗子 いい加減にしろって言ってるでしょ!
健斗 もう勘弁してくれよ!

 椅子を倒し、教室を飛び出す健斗

麗子 待ちなさい!

 後を追うように飛び出す麗子

美沙 助っ人いたします!

 後を追うように出て行く美沙

遥香 何かいい感じになっちゃったわね、健斗と麗子。
龍一 そうだな。
遥香 ねえ龍一、あれは本当に現実に起こったことなの?
龍一 さあな。藤井先生は集団幻覚だって言うしさ。
遥香 いいえ、あれは現実よ。現実に起こった事なのよ!
龍一 大きな声を出すなよ。
遥香 もう教室には私たちだけよ。
龍一 あ、本当だ。
遥香 でも健斗が蚊に刺されたのは本当だったし、先生だってお腹に真っ赤な跡がついていたわ。
龍一 うん、蚊に刺されたのは間違いないな。だけど、それだけじゃ何も証明できないしな。
遥香 誰が聞いても信じてはもらえないか。
龍一 そうだよ。
遥香 藤井先生、学校を辞めちゃうの?
龍一 いや、教師を続けるって言ってた。先生の作った化学繊維だけど、確かに防虫効果は認められたんだけど、材質が銅だから、重くて製品化は出来ないらしいよ。
遥香 そうなの?
龍一 先生、そうとう落ち込んでいたけどな。
遥香 そうでしょうね。だけど先生の発明で助かったんだものね。
龍一 そうだな。
遥香 悪く言っちゃ可哀想よね。
龍一 ああ。
遥香 でも本当に怖かったわ。
龍一 危機一髪だったよな。

健斗 龍一、遥香、藤井先生が呼んでるぞ。早く来てくれって。何だかまた新しい研究を始めるから、俺たちに協力して欲しいんだって。
遥香 ええ?
健斗 今度はトンボを使って蚊を撃退する研究らしいぞ。準備室はヤゴがいっぱいだよ、ヤゴが!
龍一 もう勘弁してくれよ!




            完



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