Chapter6
場所は変わって、2‐A教室。
みごと目的を達成して、満面の笑みで教室にはいってくる元『鳴沢 准を抹殺する会』のふたり。制服に、ところどころ赤い液体が飛び散ってるけど……見なかったことにしよう。
ナオに至っては、
「無事帰還しました!」
なんて敬礼までした、ごきげんっぷり。
人をあれだけ痛めつけておいて(見てないけど)、まさかここまで笑顔でいられるとは……。
そんなブリザードが吹き荒れるなか、ユウヒだけが、やわらかい笑顔でふたりを迎え入れた。
「あれ? どこいってたの、タクちゃん、ナオちゃん。おかえり〜」
ぼくらは、そんなユウヒを見て再び凍った。
こんなブリザードのなかで、これだけノーダメージでいられるなんて……。天然はコワいよ、神サマ。(ちなみに、タクちゃんナオちゃんていうのは、元『鳴沢 准を抹殺する会』のふたりの、昔のあだ名だ)
帰ってきたタクヤとナオも、ユウヒの笑顔に、引きつった笑顔で返す。
「え……? ああ、いっや別に……なあ?」
「あ、ああ……。あれは……」
あんな非人道的なことをして帰ってきたんだから、こんな無垢で無知なやつに事情をいえるわけがない。この恐ろしき調子ハズレに、どうやって答えようか迷っている。
「どうでもいいけど、もうそろそろ着替えない? もう十一時十二分だし」
立ち尽くす三人に、セキから復活したミキが口をはさんだ。
タクヤも腕の時計を見た。けど、その顔が再び青ざめていく、
「どうかした?」
「いま、十一時ジャストだ」
「は?」
なにをいってるんだろう……。眼がイカれちゃったのかな? いま、ミキが十一時十二分っていっただろ?
聞き返すと、タクヤの声にまた殺気が宿った。
「――止まってるんだよ、この時計。誰かさんが風見鶏の丘ですっ転ばすから!」
「は……はひ」
形のいい切れ長の眼で睨まれて、誰かさんは押し黙る。
タクヤは、ぼくから目をそらして、突然ぼくに時計を放る。
「ちょ、これ……なに……?」
「――ったく、どうしてくれんだ、この時計。ユヅキ、おまえ、直せ」
「ええっ? ――い、いや、無理、無理。そんなさあ、時計職人じゃないんだから、ぼくに直せるわけが……」
ぼくの必死な弁明は、タクヤのものすごい視線(死線かな?)に阻まれ、儚く消えた。
「じゃ、職員室にいくか」
「え? なして?」
ただ単にわからないから聞いただけなのに、ぼくはナオに思いっきり殴られ……いや、もとい、思いっきり小突かれた。ヒドいよ、コイツ……。
「おまえ、あの時ナベさんのいってたこと、もう忘れたのかよ」
「そんな昔のこと、とっくにわすれたけど?」
そうやってつぶやいたら、また殴られ……もとい、たたかれた。もうヤダ……。
でも、そのショックで、頭の中の記憶の引き出しから、ナベさんがあらわれた。
「プール掃除始める前に、連絡しに来いよ」
夏休みにはいる前の、「あの日」のナベさんのことばが、思い出される。
そうだった。
ナベさんの命令で、ぼくとタクヤとナオは、職員室に連絡しに行かないといけないんだった。
「さっさとすまして、掃除始めないと」
そういうナオに逆らう気力は、もうぼくには残ってない……。
「お、おまえら、ようやく来たか。おせえな」
職員室にあらわれたぼくらをみて、なべさんは舌打ちした。おい、それでも教師かあんたは。
「すみませんね、ちょっとどっかのバカが足引っ張っちゃって」
「どっかのバカ」のところで、ナオはぼくを睨んだ。はいはい、ごめんっていってるだろ。
「じゃ、もう始めてもいいっすよね、掃除」
「ああ、いいぞ。けどな」
ナベさんは声を低めて、ぼくらの前にぶっとい書類の束を見せた。
「わあ、なんですかこれ」
「今日の出張の資料だよ。これだけ片付けにゃならんから、四時ごろにしか戻ってこれそうにないんだわ」
「はあ……」
「というわけで、四時には終わらせておいてくれよ。俺は出張だから。終わっても勝手に帰るな、迷子になっても知らんぞ。特に、おまえら」
ナベさんは書類の束でタクヤとナオの頭を、バサ、ボサとはたいた。やーい、ざまみろ。
――とおもったら、ぼくの頭にひときわ大きい資料の束が落ちてきた。例えるなら、三省堂広辞苑第六版ぐらいの厚さだ。(参考計測値:約七十三ミリ)
「――のなかでも、特に、オマエ」
ニヤついて、ぼくを見下ろすナベさん。と同時に、頭を襲うものすごい衝撃。これも、例えるなら、さっきの三省堂広辞苑第六版のカドが、まっさかさまに落ちてきたカンジ。
「じゃ、渡辺先生、行きましょうか」
「あ、ああ、今すぐ。――というわけだ。たのむぞ、少年たち」
さっきのぼくらへの制裁なんか忘れたように、あっさりナベさんは職員室を出て行った。
ナベさんと、さっきナベさんに声をかけた大林先生がいなくなって、無人になった職員室。
取り残されて立ち尽くすぼくら。
「……さて……着替えるか」
いち早く動きを取り戻したタクヤが、教室に向かってすたすた歩き出した。その足取りが、やたら速い。
「え、ちょっと、まてまてって。足速いよ。なんか怒ってる? ねえ?」
ぼくとナオは必死でそのあとを追いかけた。
久々にナオと意見があって、ぼくとナオは顔を見合わせて笑いあう。
なんだか、昔に戻れた気がして、うれしかった。
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