Chapter3
ぼくらの通う、県立、樹伍条町第一中学校は、風安堂から歩いて三十分くらいのところにある。バックに見える、浅茅山の緑に映える、薄いクリーム色の校舎が特徴だ。
風安堂から十五分。いつもの通学路から少し外れた、小高い丘。ぼくらはここを、「風見鶏の丘」と呼んでいる。名前の由来は、ここからだと、屋根の上に立ってる風見鶏のように、町の全体を見下ろせるから。
樹伍条町は、この丘を境に西側から、深くえぐれてる形になるんだ。風安堂は、この丘より東にある。だから、風見鶏の丘をちょっと登るだけで、町のほとんどを見渡せる。
この「風見鶏の丘」を登ると、学校の校舎が顔をのぞかせた。ここからだと、ちょうど校舎を見下ろす形になる。
あとはここから、学校に向かって駆け下りるだけ。本気で走れば五分もかからないから、いつもより、十分は短縮できる。(まあ、転ばなければの話だけど。スピードがついて危ないから、しょっちゅう転ぶ。んで、そのままゴロゴロ学校まで転がってく。これ、めちゃめちゃ痛いんだよね……)
遅刻しそうなときは、風見鶏の丘経由で、学校に向かう。おかげで、ここ数ヶ月、遅刻はしていない。いつもお世話になってます。
「タクヤ、今何時?」
隣を歩くタクヤに聞く。
タクヤは自分の右腕にした(タクヤは左利きなんだ)腕時計を見る。その顔が、スッと青ざめていく。
「おい、ヤバいぞ。寄り道のしすぎだぜ」
「どれどれ? ――!!!」
時計を覗き込んだぼくとナオ。そして、ぼくらの顔もタクヤと同じく、真っ青になった。
「十時、五十八分……」
「…………」
「……走れぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
風見鶏の丘を疾走するぼくら。その速さは、並みのサルをゆうに超し、もはや飛ぶように緑の急斜面を疾駆する。
「うおおおおおおおおおおお〜〜〜っ!」
「うりゃあああああああああ〜〜〜っ!」
「うわああああああああああ〜〜〜っ!」
そして、あまりに早く駆けおりようとするあまりに――。
風の速さで動こうとする身体に、足がついていけなくなった。
身体が先へ先へと動き、足が遅れる。
ゆえに、最後尾を走るぼくの身体は、どんどん前かがみになっていく。
結果――。
ぼくの身体は、上半身を支えきれなくなり、前に思い切りつんのめって飛んだ。
それからは、まるで誤って倒したドミノのよう。
前を走るタクヤの背中に、ぼくの身体がクリーンヒット。
「おがあっっっ!!?」
突然、しかも想像しない(できない)方向からの攻撃に、タクヤは奇声をあげた。タクヤの背中は、まっすぐだったのがいっきに反り返り、足ももつれる。
「ちょ……おおっ……と、貴様……ああ!」
「黙れタクヤぁ!! 舌を噛むぞお!」
巨大なひとつの塊となって、ゴロゴロゴロゴロ丘を疾走するぼくとタクヤ。
後ろを走っているはずのぼくらの異変に気付いたか、ナオが止まろうとする。
「え?なに?おおい、だいじょぶかよ?」
や……やめろ、止まるんじゃない!巻き込まれるぞ!ていうか、タスケテ〜〜。
バシッ。
ゴロンドカッ!
「うやあああ……」
ナオの奇声が聞こえる。ああ、これで、坂を転がるぼくらを止められるものは、いなくなったな……。
「オマエがこけるからいけないんだろお!?」
「だからしゃべるな、タクヤ!」
「るっせえ! だいたい、二人がとつぜん俺にぶつかってきたんだ! オトシマエ、つけてくれんだろうな!」
ナオ、口調がヤ×ザみたいだ。
「責任つったってこんな状況でとれるか――うぎゃあ!!」
上の歯と下の歯が、ベロをはさんでがちんと鳴った。ぐわあ、マジで痛い。
「へっ、自業自得だ! ざまあみろっ!」
「俺の反り返った背中も責任取れ、ユヅキ」
「ええい、オマエらもいい加減黙れ! 口が血まみれなんだよ!」
「だいたいナオがいけないんだろうが! 俺やユヅキがオマエをなだめてるのに、オマエちっとも聞こうとしないから!」
「それはユヅキが悪い! あそこでじゃんけんに負けてなければよかったんだろ!」
「ぼくは負けてもしらないぞっていっただろっ――ぐはっ!」
ゴロゴロゴロゴロ……。
ぼくらは仲良く、風見鶏の丘を転がっていくのでした。
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