アストロノート・モンキーズ! #1(4/24)縦書き表示RDF


11/29 重大なミスを、二ヶ月ほったらかしてました。優策さんの台詞がごっそり一個抜けてました。ありえないミスです。
   修正しました。不快に思われた読者の皆様、本当に申し訳御座いませんでした。
 
アストロノート・モンキーズ! #1
作:雨寺かえる



Chapter2


 【上映開始ロードショー】 


 支度を終えて風安堂をでると、真っ青な空。

 風に乗って流れてくる、森のニオイが気持ちイイ。

 大きく深呼吸して、森の生気を、身体いっぱいに取りこむ。

 ふぅー、最高!

 ――ナオの殺気がなければね……。

 ナオは、ぶすっとした顔で、ぼくを凝視している。

 ぼくは、その視線から、なんとか逃げ出した。

 で、ぼくの前には、ぼくよりアタマひとつ大きいタクヤ。ぼくの目線は、ちょうどタクヤの胸の辺りにある。

「ほら、いこうぜ、ユヅキ」

 ぼくの肩をたたくタクヤ。肩には、水泳用の腰タオル。たすき掛けしているのは、小さめの青いスポーツバッグ。水泳用具入り。

「う〜ん、ほんとに気持ちイイな、今日は」

 タクヤが、おおきく伸びをする。

「ホント!プール掃除には最高だね。風もあるし、雲もあるし」

 ぼくもつられて深呼吸。

 からだの中に、心地いい空気が入ってくる。

 と、気づいた。

 なんか、黒い違うものを吸い込んだような……。

 そして――。

「ああ、プールの掃除なんて……」

 その声が聞こえた瞬間、ぼくはゴホッとむせかえっていた。どうもさっきの深呼吸のときに、ナオのオーラ(殺気かな?)を吸い込んでしまったのが原因らしい。

「なにやってんだよ? ――だいじょぶか?」

 タクヤが怪訝そうな顔をして、身体を折ってむせてるぼくをのぞきこむ。

「ごおっほ、だ、だいじょうごおっほえごっほごおっほ」

 ナオの声が聞こえないけど、へっ、ざまあみろ、って思ってんだろうな。見なくてもわかるよ。だって、背中にものすごいオーラ(殺気かな?)を感じるからね。

「ユヅキがじゃんけんに負けたこと、まだ怒ってんのか?」

 まだむせているぼくの代わりに、タクヤがナオに聞いた。タクヤも、ナオの発するオーラ(殺気かな?)に気づいたらしい。

掃除当番のじゃんけんに負けたことを、タクヤはあっさり許してくれた。「負けたときはそりゃ怒ってたけど、まあ負けちゃったモンはしょうがないよな」っていって、あの時ぼくらをバカにした、鳴沢に怒りの矛先をむけていた。そんなに根にもつタイプじゃないけど、タクヤ、プライド高いから。

 ぼくに救いの手をさしのべるように、タクヤがナオに聞く。

「ナオ、いい加減許してやったらどうなんだ?」

 そしたら、ナオはすごい眼でぼくを睨んできた。(聞いたの、ぼくじゃないのに……)

「ナ、ナオ、目がすわってるぞ」

 そういうタクヤの顔が引きつってる。

「あのさあ、なんでえ、俺ぇ、こんな夏休みにぃ、わざわざ学校にぃ、行かなきゃぁ〜ならんのですかねえ〜? ええ?!」

 ナオの、ベッタリまとわりつくような、ぼくへのあてつけ。コワい。コワすぎる。(ちなみに、ナオは自分のことを『俺』と呼ぶ。カンペキ男だよ、まったくもう)

 爽やかに吹き抜ける夏の風が、ナオの放つオーラ(以下略)に、どんどん汚染されていく。なんか、息苦しくなってきた……。

「いいじゃんか、今日は涼しいし、それでいて晴れてる。掃除には最高のコンディションだよ」

 ぼくも必死にナオの機嫌を取り戻そうとするけど、まったくのムダみたい。それどころか、『掃除』というワードが、ナオの神経を刺激しているようで、(おもに、怒りに通じる神経を)ナオは、ぼくを邪眼で睨むのをやめない。

「――ねえ、これ、どうしたらいいと思う?」

 ぼくはタクヤに聞いてみた。すると、

「知ってたらどうにかしてるよ」

 と、そっけない返事。ああ、どうすればいいんだ……。

 沈黙するぼくらの背後から、突然声がとんだ。

「おっ、ユヅキにタクヤ、それにナオか。そんなトコに突っ立って、なにしてんだ?」

 ふりむくと、背の高いひとりの男の人が、自転車にまたがっている。

 空手部男子主将OBで、大学2年の先パイ、木村きむら優策ゆうさくさんだ。長めの髪が、うっすら目にかかってる。空手のうでまえは、ナオを軽くしちゃうほど。

「やったあ、救世主!」

 思わず叫ぶ。これで、暴走状態のナオを止められる!

 Q.それはなぜか――。

 A.優策さんはナオにとって、あこがれの人だから。

 優策さんの説得なら、ナオは機嫌を直すはず!

「え? なに? 救世主って……」

 優策さんの背中を押し、ナオの前に立たせる。そして、小声で耳打ち。

「いいから、ナオにひとこと『機嫌直せ』って、いってやってくださいよ」

 そうだ。優策さんがひとことそういうだけで、ナオの機嫌は直るはず。(できれば、ちょっとキツめにお願いします)

「え? ああそうか。――OK、わかった。――まあ、こういうことは、女同士、志乃しののほうがうまくやれそうなんだけどな」

 優策さんも、ぼくらが何を頼んでるのかすぐわかってくれたみたいだ。こっちにむかって、親指をつきだした。

 ちなみに、さっきの優策さんのせりふのなかの「志乃」っていうのは、優策さんの双子のお姉さんの、木村志乃さんのこと。合気道の達人で、優策さんといっしょに、大学の武道サークルに所属してる。細目で、おっとりしたおとしやかな人なのに、人は見かけによらないよね。

「いつも悪いですね、優策さん」

 タクヤが顔の前で手を合わせる。優策さんは軽く笑って、こたえにかえた。そして、ナオに向き直る。

「やあ、ナオ」

「むおっ。……ゆ、優策さん……」

 優策さんに話しかけられて、ナオがオーラを放つのをやめた。やった、第一ステージ、クリアだ!

「偉いなあ、プール掃除、するんだって?」

「は、はい……」

 しどろもどろにこたえるナオ。いきなりの優策さんの登場に、少なからず驚いてるみたい。(ここで初々しくて可愛い、と思ったヤツは、女の子を見る目がないね)

 優策さんが続ける。

「しかも、自分から立候補したんだろ?『やります!』って」

「――え? そ、それは……」

 ナオの顔が凍った。いきなり覚えのないことをいわれて、さっき以上に驚いてる。

「えらいなあ、ナオ。俺、感心したよ」

 さらに、優策さんの演技力溢れることば。ナオは完全にパニクってる。これだけ良くいわれてるのに、自分でその高評価をくずすのか?

 どうするよ、ナオ。否定するか? 肯定するか?

「――それ、誰から聞いたんですか?」

 そうきたか。しかし、そこは臨機応変に強い優策さん。さらりと受け流してみせる。

「ナベさん。昨日学校に顔出しにいったら、教えてくれた」

「…………」

 よし、ナオが黙ったぞ。そのままいけ、優策さん!

「じゃ、がんばれよ。俺、応援してるからさ」

「……ハイ」

 カンカンカン! 勝負あった! 勝者、木村優策!(KO勝ち)

 優策さんが、ナオに気づかれないように、ぼくらに報告してくれる。

「――こんな感じで、よかったかな?」 

 ええ、もう最高です。ありがとうございました。いやあ、ホントに尊敬しちゃいますよ。

「そりゃよかった。じゃ、俺はこの辺でいいかな? ――じゃな」

「さよなら」

 優策さんにお礼をして、一息つく。

「――そろそろ、プール掃除、行こうか」

 無理に作ったとみられる引きつり笑顔で、ナオがぼくらにいった。

 ぼくとタクヤは、顔を見合わせて笑う。そして、もう一度、思いっきり森の生気と夏の匂いを吸い込んだ。

 うーん、ホントに気持ちイイ!

 見上げれば、まぶしいくらいに輝く、果てしなく広い蒼い空。ああ、晴れてよかった!

 大きく背伸び。たっぷりのきいろい元気が、コップにそそぎすぎたオレンジジュースみたいに、身体中からあふれ出す。

 この太陽、いつまでも続け!

 だけど、ぼくのこの切なる願いは、天の神サマには、届かなかった……。












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