Chapter17
「…………」
場は、静寂に包まれた。
ただ、短い命を繋ごうと、必死で鳴くアブラゼミのジジジジジ……という声が聞こえるだけ。
いつもは当然のように流れるBGMだと思って、気にも留めてなかったけど、改めて聞くとやっぱりすごい声だ。
さて――。
「もう一回いいましょう。お話、聞かせてくださいませんか? ミノタウロスさん」
静寂を突き破るぼくのことばにも、河和先生は不敵な笑みを浮かべているだけ。
なにもいわないつもりか、否定も肯定もしない。
「なにいってんだ、ユヅキっ」
ナオがとなりでどやす。
「センセはさっき、その……美濃田売るっス……だっけ?」
「ミノタウロスね」
なんだその岐阜県の田んぼを売り飛ばすみたいなの。
「そうそう、ミノタウロス……を、プールで見たっていってたじゃんか。だから、センセとミノタウロスは別人だろ?」
ナオの愚問を、ため息で吹き飛ばす。
「あのね、そんなんが推理っていうのなら、幼稚園児でも名探偵になれるよ」
「むぐ……っ」
何かいいたげだったけど、今のぼくには敵わないと思ったのか、ちょっと呻いただけでおとなしく黙った。
それでいいのさ。キミには、キミの出番がある。
「――では、その変装、解いていただけますか?」
「…………」
また、だんまり。思ったより、往生際が悪いよ。紳士的じゃないな。
「やっぱり、ミノタウロスじゃないじゃんか」
タクヤが口を挟む。
「ミノタウロスは、もっと紳士だろ?」
「そうですね……。『紳士的じゃない』とは、聞き捨てなりませんね」
「ほら、ミノタウロスもそういってるよ――」
…………。
「――え!?」
河和先生が突然立ち上がり、盛大に拍手した。
「見事! ――結槻様、よくぞ見破られた! なかなかおやりになりますね」
その声は、ほかの誰でもない。
ミノタウロスのものだった。
やっぱりね――。
そのときのみんなの反応といったら、実に多種多様だった。
タクヤは、驚いて口をパクパクさせてる。ナオは、マンガのひとコマみたいに大げさにずっこけている。
キャーキャー黄色い声を上げてるのは、ミキ。そのとなりで、わーおとつぶやいて、眼を見開いたユウヒ。
ショウヤの無表情にも、多少の引きつりが。
ジュンは、驚きすぎて凍ってる。完全、凍結。
「それでは、お話を――」
ぼくのことばを、ミノタウロスが遮る。
「お待ち下さいませ、結槻様。なぜ、結槻様が私の変装を見破ったのか、まだ、ほかの皆様方がご理解なさっておりませんよ。ここはひとつ、説明していただけますか?」
それもそうだ。ぼくはうなずく。
「いいですよ」
「承知致しました。では皆様方、何か質問はございますでしょうか? 結槻様が説明して下さいますよ」
ぼくが説明すんのかよ! (あ、当たり前か)
「ハイ」
真っ先に手を挙げたのは、ジュン。
「なんでしょうか、准様」
「とりあえずその格好でミノタウロスさんの声を出さないで下さい。夢が壊れます」
「では改めまして――。なにか、ご質問は?」
ブレザーとチノパン姿に戻ったミノタウロスが、この場を仕切る。
どうやって変装をとくのかなーと期待してたら、ベッドのカーテンを一瞬シャーと閉めて隠れただけで、河和先生はミノタウロスに戻っていた。(しかも、顔が見えない、絶妙な身のこなし)
「ハイ」
ナオだ。
「なんでしょうか、柔巳様」
「いやあの、ユヅキに聞いてるんで……」
「失礼致しました」
ひどいなナオ。ていうかもっと食い下がれよミノタウロス。
「いきなり核心の質問で悪いけどさ、なんでわかったんだ? センセがミノタウロスだって」
ナオの質問に、ぼくは大学教授の気分で答える。
「先生の台詞に、いっこ決定的におかしいところがあったんだ」
0.67秒後、ナオはこたえた。
「どこだよ」
もっと自分で考えろよ。てか0.67秒っていくらなんでもあきらめんの早すぎだろ。
「人に頼るんじゃない!」
「ユヅキのケチ」
「うっせー!」
「…………」
言い争うぼくらを見るみんなの視線が、若干蔑みを含んでいるっぽいのは、気のせいかな?
「でも、それ、ぼくも気になる」
ユウヒが口を開く。それを追うように、みんな一斉にうなずいた。
「ねー、探偵さん、もったいぶらないで教えてよー」
「ほんとだよね。早くー」
「…………」
ぼくは、小学校の先生の気分になった。
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