Chapter14
「雲散鳥没」。
意味は、「雲が散り鳥が飛び去るように、跡形もなく消え去ること」。
「東西を失う」。
意味は、「取るべき方法が見つからず、途方に暮れること」。
なんで、いきなりこんな国語講座を開いたかというと……。
プールサイドで、諦めともなんともつかない呻きをあげるぼく。
「ああ……」
……というわけです。途方に暮れているんです。黒くて耳の丸いネズミがいるテーマパークでひとりはぐれた二歳児ばりに困っているんです。
これぞまさしく『東西を失う』、ユヅキです。こんにちは。
――だめだだめだ、ぼくは誰に挨拶してるんだ。もー、かなり錯乱してる。いまのぼくには、ぼくらをどこか高いところから見て下さっている誰かが見える……。
「……ああ」
何も考えていなくても、自然にため息が出てしまう。この場に翁がいたら、「ため息つくと、幸せが逃げる」っていわれてるだろうな……。
「……ふぅ」
…………。
気を取り直してミノタウロスの使ったトリックを考えようとしたら、またため息が出た。どうも、考えてようがいまいが、ため息は出るらしい。
「……はあ」
……イラッ。
先が見えない……。青い猫型ロボットご一行様が「タイムをスリップできるマシン」で旅行にいった先で「タイムをスリップできるマシン」が壊れておまけに「どこにでもいけちゃうトビラ」も置いてきちゃってもとの世界に戻れなくなったときぐらい不安だ……。
「……ふぇ」
「もっかいため息ついたらコロス」
ああ、ナオの声が遠くに聞こえる……。いっきに耳が遠くなった気分だ……。
「……ナ「コロス!!」「ごぶぅっは!!?」
機械的な音声で、ぼくの顔面に怒りの鉄拳ナオスペシャルが飛んだ。
真っ赤な鮮血を吹き散らしてぶっ飛ぶぼく。
「おおー」
「今日は一段と飛んだな」
「大丈夫ー、ゆっちゃーん?」
ギャラリーから、そんな冷静な声が飛ぶ。最初の拍手はミキ、次が額に手をかざしたショウヤ、最後がユウヒ。
だから、そんな冷静に人間観察してないで、助けなさいっちゅーの。
ドサァ……ゴロゴロ……
ぼくの身体が、ゴロゴロとプールサイドに転がる。ぼくの血に塗れた世界もゴロゴロ転がる。
嗚呼……。
「ナオ……? いまのため息だったか……?」
「知らん!」
タクヤの引きつった問いに、ナオは胸を張っていい切った。
「ぐじぐじぐじぐじなにさっきからため息ばっかついてんだよ! ユヅキはいつもどおり俺に殴られてタクヤに蹴られて笑ってろよ!」
これは、日本語訳すれば「うじうじ悩んでないで行動しろ」「元気出せ」ってことなのか……?
うんゴメン、後半部分に危険な表現が多すぎる。それじゃぼくの疑惑がますます現実味を帯びるじゃないか。ぼくは殴られてへらへら笑ってるようなMじゃない。
もう……そろそろ……反撃してもいいよね?
「……よし!」
立ち上がったぼくを見下ろして、ナオはフンと鼻を鳴らした。
「それでいいんだよ、それで」
「ああ。おかげで目が覚めた」
「――ったく……」
「目が覚めたから一発殴らせろ☆」
「……は?」
「うんだから一発殴らせて「却下「問答無用ォオオオ!!」「むぎゃっっ!」
ぼくの日ごろの恨み返すぞスペシャルリベンジナックルが、ナオを捉えて吹っ飛ばした。
「――!?」
「な――?」
「ちょwwwおまwww」
突然のぼくの(まさかの)反撃。これには、まわりのみんなも呆然。ジュンなんて、もうわけのわからないことを口走っている。
タクヤが、かすれ声をあげる。
「ウソだろ……? Mのくせに……」
タクヤも、殴っておいた。
「えー、さて!」
視界のすみで転がってる二つの何かを無視して、ぼくはいう。
「ぼくたちは完全に、ゲームの攻略につまってしまった。このゲームに、攻略本は存在しない。とすると、どうするか?」
「どうするのー?」
視界のすみで転がってる二つの何かを無視して、ユウヒが聞き返す。
「それは――はがきだ☆」
危うく、ぼくまでボコられるとこだった。
―事情説明中―
「だから、ミノタウロスが残してるはずのはがきを見つけるの!」
「あ、そっか。ミノタウロス様が、『道しるべになる』っていってたもんね!」
ナットクしたミキに、ナットクできないぼく。
「あの、その『ミノタウロス"様"』っていうのは?」
「だってヤバいぐらいイケメンだったじゃん」
顔見えたの?!
「やだ、想像よ、そうぞう。でも、あのスラッとした長身とか、ちょーダンディーな声とかー! 絶対ジャ×ーズ系よー!」
はいはいどうぞお好きなように言ってて下さいませ。
「まあ、そんなことはいいとして……。絶対、近くにミノタウロスからのはがきがあるはずなんだよ。だってぼくらは迷ってるんだから。便利な道具が、用意されてるはずさ」
でも、さっきここに着いたときは、そんなもの見当たらなかったのにな……。
見つからなかったりし「あったよ」
「ウソ!」
功労者ユウヒが、薄山吹色のはがきをみせる。
「ホントだ……」
「とりあえず、早く読んで」
「ん。えっと……
『ヒント其の壱
自分が消えてから、水消しの準備をしました。
ヒント其の弐
赤子の必需品』」
ヒントになってねー!!
「わかるかぁ! こんなん!!」
(黄泉の世界から)復活したタクヤが、はがきを引き裂きそうな勢いで叫んだ。(「破る」じゃなくて「引き裂く」という表現から、どれぐらいの勢いだったか、察してください)
「なにが『道標』だバーカ! おもっきしクイズじゃんかよバーカ!」
(冥界から)蘇生したナオも、おもわず悪態をつく。ああ、耳障りだ。
「あのな、これはあくまでもゲーム。わからなかったらリタイアすればいいんだから。それに、プールの水なんてまた溜めればいいんだから」
「明日プール出校日なのにか?」
……え?
「あーっ!! 忘れてたっっ!」
ナオがぼくを調子こいて殴り飛ばすから、ぼくの記憶は欠落してたじゃないか!
「どうすんだよ! タイムオーバーまであと3時間だぞ!」
あせった声のタクヤ。珍しいな。
……じゃなくて。
「どうするこうするっていったってしょうがないだろ! はがきはあてにならないんだし!」
「お、裏になんか書いてある」
「ウソ」
早く言えよショウヤ。
「ホント。
『裏ヒント其の壱
擦り傷打ち身、その他校内の諸々のお怪我を治します
Q,さあ、どこでしょう?』
――どこでしょう?」
ショウヤの不敵な笑みに、ぼくらはいっせいにハモった。
「「保健室だ〜!!」」
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