Chapter10
「くそっ!」
真っ先に行動を起こしたのは、ナオ。さっきまでミノタウロスが立っていたフェンスの向こう側を、ぴょんとそのフェンスに飛びついて見た。
でも、すぐフェンスから飛び降りた。ガシャンと金属音がする。
ナオはこっちを振り向いて、ゆっくり首を横に振った。
「だめだ、逃げられた」
その報告に、この場の皆が言葉をなくした。
プールサイドにたたずむ、七つの影。
「――これから、どうするよ?」
冷静な声はタクヤ。モップを支えに、地面に座り込んでる。
「そんなこといっても……ねぇ?」
「動きようが無いしなぁ」
「ミノタウロスさん、かっこよかったね〜」
心配顔のミキと、余裕ちゃくちゃく、ミキとはまったく正反対な表情のショウヤ。そのとなりで、まったく関係ない話をしているユウヒ。
ショウヤといいユウヒといい、うちの男子はどうしてこうも緊張感がないんだろうね。(あ、ぼくもだけど)
「臨戦態勢――」
「え?」
ナオがとつぜん、謎の言葉をつぶやいた。
臨戦態勢って――?
問い返すと、誇らしげにナオが、
「どう動くかわからないなら、動かなきゃいいんだよ。ようは、防戦するの」
と胸を張った。
「いやあの、ぶっちゃけ作戦とかどうでもいいとおもう「ナオ、ナイスアイデア!」
ぼくの突っ込みは、タクヤに鮮やかに遮られて、ナオには届かなかった。
「だったら、教室にもどってよっか。その、何かが起こるまで、ね」
ミキはそういうと、すたすた昇降口に歩いていった。
「やっぱり! ミキはわかってくれるとおもってたぞ!」
そのあとを追う、ご機嫌なナオ。
ショウヤはため息をついて、
「さーて、姫さまがたについてくか。な、タクヤ殿」
「そうするか。浅木のおじぃ」
タクヤと一緒に、ゆっくり校舎に消えた。
プールサイドに取り残される、ぼくとジュン、ユウヒ。
ひゅうぅぅ……という虚しい風が、ぼくらの心のヤなとこを撫でていく。
もし、この風を吹かせているのがミノタウロスだったら、こんな惨めな気持ちにさせてくれたお礼を、たっぷりしてあげなくちゃ。
ほら、また、風がぎゅううぅ……って――。
……ん? 『ぎゅううぅ』?
明らかに風の音ではない擬音語に、ぼくは音源のほうに目線をやる。
そこには、バツの悪そうな顔で苦笑してる青ジャージ。
「――あのさ、きょ、教室もどんねぇ? おれ、腹減っちゃって……」
「…………」
「オヤツにポテチ持ってきてるんだ。一緒に食わね「いりません」
ジュンの寝言を、即刻斬り捨てる。
「おかしいだろ! まだ昼飯食って一時間経ってないんだぞ。そんな、ランチのおにぎりいっぱいたぷんたぷんの胃袋に、ぎっとぎとの脂っこいポテチなんて投入するなんぞ、消化に悪すぎる!」
少々生々しい擬音語がありましたことを、食事中の皆様にお詫び申し上げます。(食べながら読んでる人なんて、いないとはおもうけど……)
ぼくの健康講座に、唇を尖らせるジュン。
「何かたっくるしいこといってんだよぉ、ユヅキ! 大丈夫だって! おれの胃袋は鉄でできてるんだから」
ジュン……キミは知らないのかい? いくら強固な鉄だって、強い酸性にさらされ続ければ、溶けてしまうことを……。
ぼくは、ジュンがどうしてナオとタクヤに付け狙われるのか、少し理解した。
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