Chapter8
「ふう、もうこんなカンジでよくない? お昼にしよう」
「そうだね」
ミキの提案に、ユウヒがゆっくりうなずいた。
「やった、飯だあ!」
その声を聴いて、飛び跳ねる鳴沢。
……ん? 鳴沢?
みんなの視線が、いっせいに鳴沢にむく。
「な、なんだよぉ、その眼は。おれ、(どっかの会員のせいで)からだじゅう傷だらけになったっていうのに、(どっかの会員の命令で)わざわざ手伝いに来たんだぞ」
ふたつのカッコのなかを(どっかの会員には)聞こえないようにいう鳴沢。
「ていうか、おれ掃除始まってすぐここにきたけど、誰も気づかなかったんだぞ。おれ、そんなに印象薄いのか?」
みんなの「いつからいたの?」という心の声が聞こえたのか、鳴沢のほっぺがむくっとむくれる。
「あれ? 鳴沢くん、なんでいるの?」
不思議そうなユウヒの声。あ、そうか、あの「鳴沢 准を抹殺する会」事件のとき、ユウヒは寝てたんだっけ。そりゃ、しらないよね。
「大丈夫、キミはしらないほうがいい」
ぼくは、ユウヒの肩にぽんと手をおく。首をかしげるユウヒ。
そのとき――。
「やっときたか」
そうやって声をかけたのは、思いもよらず、タクヤだった。口調は荒いけど、なんか、鳴沢を待ってた感じだった。
「こっちは人手不足で困ってたんだぞ」
つづいて、ナオまでもがいう。ど、どどどどうしちゃったんだ、このふたりは!
いつもなら、
「おらぁ、てめーくんの遅すぎんだよ! それとも×してほし(自主規制」
「怪我してるなんていいわけにはなんねえよそれとも×して(自主規制」
みたいな怒涛のラッシュが鳴沢を襲うのに! そんでまた鳴沢が保健室行って、帰ってきたらまた
「今までどこいってたんだこのドあ(自主規制」
「てめー逃げられると思って(自主規制」
とかいうすでに横車ないいがかりがきて、また鳴沢が保健室行って帰ってきたら以下略。
とにかくものすごい殺人ループが連鎖するはずなのに! 今日はなんなんだ?!
――なんて考えてたら、今度はぼくが保健室行きになりそうなので、ここらで止めておきます。後が怖い。真実の意味で。なんたってあいつらは、人の心が読めるんだから。しかも、自分に都合の悪いことばっかり。
たかがこんなことで、なんて思ったりするかもしれないけど、あのふたりは、たかがこんなことで、鬼になるやつらだ。
ましてや、長い付き合いのぼくだ。ナオとタクヤのことは、なんでもわかる。
そのうえで、こんな状況で、やつらが怒らないのは、世も末って感じがします。いや、大げさでなく――やっぱ大げさかな……?
「とーにーかーく!」
あ、鳴沢怒った。
「メシにしようぜ、メシ! おれ腹へって死にそうー!」
「そのまま×ね」
冷たく切り返すタクヤ。でも、その顔には、笑みが浮かんでいた。
ぞろぞろと、ならんで歩いて教室にもどる。なんで縦にならんでるかは……保留ってことにしとこ。ショージキ、ぼくにもワケわからん。
せりふの順にならんでます。以下、食い意地のランクと同じ。
「にしてもさ、松澤と花宮はさ、腹減ってねえの?」
これは鳴沢。こんなとこでも食い意地アピールか。
「ジュンとは違うんだよ、ジュンとは。何でも自分を基準に考えるなよ」
ショウヤのきびしいツッコミ。でもさ、自分もそういうけど、ならび順二番目ってコトは、食い意地も二番目ってことだよ。
「なあタクヤ、翁のつくってくれた弁当、おかず、何だろな? 卵焼き、はいってると嬉しいんだよな」
「翁、今日はきんぴらごぼうだっていってた」
「…………」
この会話を解説すると、最初がナオ、次の冷静なうけこたえはタクヤ、そのあとが黙ってしまったナオとミキ。
意外と子供っぽい食べ物が好きなんだよな、ナオ。これ、本人にいったら、「ガキあつかいするんじゃねえ!」って、怒られるけど。とりあえず、食い意地三番目。
「ぼくはきんぴらごぼう、好きだよ」
そういったら、タクヤもうなずいた。それをみて、むくっとふくれるナオ。
六番目を歩くぼくは、食い意地以下略。
「…………」
最後を歩くユウヒ。もともと口数が多いほうじゃないけど、さっきから声が聞こえない。
「おーい、どうしたー?」
「……zzz」
寝てる!? 寝てんの? 歩きながら!? すごいよ、ユウヒ! 寝ることに関しての執念は間違いなくあんたが一番だよ、ユウヒ!
とはいったものの、寝たまま歩くのは危ないので、ユウヒを軽くゆすって起こした。
「うあっ、き、きんぴらごぼう!」
それ寝言ですか? 夢の中で弁当の中身透視したの? ていうか何の夢をみればきんぴらごぼうが出演するの?
いろいろつっこみたいとこだったけど、寝起きのユウヒが、ものすごく幸せそうだったから、やめた。
教室に到着。
と同時に、鳴沢は弁当を広げる。
「抜け駆け禁止!」
とたんに、ナオにどつかれた。
「ごはんは、みんなで楽しく食べような」
タクヤの声からは、どす黒い何かが感じ取れる。
小さく縮こまった鳴沢を無視して、みんなランチの用意をしてる。あわれ、鳴沢……。
ぼくは鳴沢の肩を、ポンとたたいた。
「つらいよな、うんうん。わかるよ、鳴沢の気持ち」
「空石……いや、ユヅキ……」
涙目になって、ぼくの顔を見上げる鳴沢。ううん、これからはジュンって呼ぼう。
なんか、仲間意識が芽生えてきた。
ん? なんか、ぼくジュンにしなきゃいけないことがあったと思ったんだけど……なんだっけ。
ま、なにはともあれ――。
「いっただっきまーす!」
平穏無事なランチタイムが、ようやく訪れた。
みんなで、弁当のおかずを交換したり、ご飯を口いっぱいにほうばったり。
「ごっちそうさまでしたー!」
の後は、世間話とか、恋バナとか、教室を暗くしての怪談話とか。とにかく、無邪気に、楽しく、あごが疲れるほど話して、笑って、話して、笑った。
この後起こる、まったく現実離れした事件のことなど、露ほども、微塵も考えずに――。
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