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Side001_羨望と提案

 思い立ったら吉日とばかりに、男はある場所へと向かった。そこは色とりどりの草花が茂り、多くの神が集う場所――神祇館じんぎかんと呼ばれる場所である。

 館に着いた男が目にしたのは、巨大なスクリーンを前に一人ポツンと映し出される光景を眺めていた男の子だった。

(あいつは……確か)

 その男の子については、男も見知っている神の一柱だった。

「確か――ディエヴス、だったか?」

「うん? ……やぁ、どうしたの?」

 ふと男が以前耳にした名を呟くと、その声に反応を示した男の子――ディエヴスは、声のした方へと振り返る。そこには自分よりも背が高い背年の神がいた。

「……楽しそうだな」

 ディエヴスに問いかけられたその神は、じっと彼の表情を見つめながらどこか羨ましそうにぽつりと発言した。

「あぁ、そうだね。こうして見ているだけだけど、面白いよ。特にこのスクリーンに映っている彼はね」

 そう言いながらつい、と指を目の前のスクリーンに向けて話すディエヴスはにっこりと微笑んだ。その指に釣られるように視線を動かした男はディエヴスの前に広がるスクリーンを見つめる。そこには黒髪黒眼、そして黒を基調とした衣服に身を包んだ少年が仲間らしき銀灰色の狼と共に敵である怪物モンスターと戦闘を繰り広げている映像が映し出されていた。

「なるほどな……」

 ディエヴスと共にスクリーンを前に眺めていた男の口からふと言葉が漏れる。男にとって、スクリーンの中に広がる光景は今までに何度も目にしたことがあるものだった。だが、今目の前に映る景色は、これまでに見てきたものよりも遥かに興味を掻き立てられるものがあった。隣の芝生は青く見える、というわけではないがこうして自分の管轄する世界とは別の世界に男は強く憧れた。

 だから、その言葉は自分でも驚くほど自然に発せられた。


「頼む。俺を――この世界に行かせてくれ」


「え゛っ!?」

 驚きのあまりディエヴスは目を見開き、何度もパチクリと瞬かせる。「ちょ、それ本気で言ってんの?」と疑念に満ちた空気が彼の周囲から発せられるも、男の決意は揺らがなかった。

「り、理由を聞いても?」

「飽きたからだよ。つーか、何なんだよ。毎日毎日目の前に広がる窓を眺めてるだけの繰り返しでやりがいも面白さもへったくれもないだろ」

「あぁ、まぁそうだよねぇ……」

 顔を顰め、嫌そうに語る男にディエヴスは理解を示したものの、次には「でもそれがボクたちの仕事じゃない?」と同意を求めた。

「ハッ! 確かに仕事と言われればそうかもしれないが、んなもん俺じゃなくてもできる問題だろう。神? 世界の管理者? 耳触りのいい言葉を並べても、結局おれたちには何にも出来ないんだよ。ただ与えられた役割をこなすだけの生活になんの面白味があるってんだ? なぁ、頼む! 頼むって! 俺をあそこに行かせてくれ。このままだと気が狂っちまう!」

 男はディエヴスの肩を掴むと、前へ後ろへと大きく揺らす。頭が揺さぶられることに耐えかねたディエヴスの口から「わ、わかったよお! お願いだから放してぇぇぇ」と発せられるのはその後すぐのことだった。


「えぇ~っと……それじゃあ始めるけどさ」

「おぅ、宜しく頼むわ」

 ニカッと笑って「いつでもドンと来い!」とサムズアップする男に対し、ディエヴスは恐る恐る訊ねる。

「……キミ、これまでしていた自分の仕事はどうするわけ?」

「心配すんな。部下に任せる! 余裕っしょ」

「いや、それって丸投げしてるだけだよね!? 部下の仕事が増えるだけだよね!?」

 ギョッと目を剥いて驚きつつも問題を指摘するディエヴスに、その神はあっけらかんと言い放った。

「問題ないだろ。ウチのは優秀だし」

「いやいやいや。部下だけで解決できない問題が出てきたらどうするのさ?」

「……俺は一切関知しない! 部下たちだけで解決してもらう!」

「ダメだこいつ! 誰だよコイツを神にしたのは!」

 頭を抱えて叫ぶディエヴスだったが、目の前の神は彼のお小言などもはや聞く耳持たずといった状態である。さらに付け加えればその目が血走っていたため、軽く引いたのはココだけの話である。


「あ~、うん。もうそれでいいならいいけどさ。どのみちボクには直接関係ない話だし……」

 大きくため息をついて呆れ気味に呟いたディエヴスは、「これ以上何を言っても無駄だ」と悟ると杖を出して小さなウインドウを男の前に立ち上げる。

「送る前に、必要最低限の説明だけはさせてくれない? キミだって何も知らないまま放り出される形で行きたくはないでしょ?」

「まぁそうだな。聞くのは面倒だけど仕方がないか」

 ディエヴスの言葉に理解を示した男は、眉間に皺を寄せながらも渋々彼の話に耳を傾ける。その上から目線の態度に「何言ってんだコイツ」と喉まで出かかったディエヴスだったが、無理やりその言葉を呑み込む代わりに淡々と説明を始めるのだった。

「それじゃ、一応簡単に説明しておくよ。これからキミが行こうとしているのは、ボクが管理する世界の一つだ。ここは『イグリア大陸』という大きな大陸があって、大陸中央には『カリギュア大森林』っていう大きな森林地帯が広がっている。その周辺には三つの国が存在していて、互いに覇権を競い合ってる状況だね」

「うん? 中央の森林地帯にはどの国も手を出していないのか?」

 ウインドウをディエヴスと共に眺めていた男から上がった質問に、彼は「あぁ、そこねぇ……」と前置きしつつ答える。

「この森林地帯には強力な怪物モンスターがウジャウジャいるからどの国も手を出していないんだよ。死にたくなかったらここには近づかない方が身のためだね」

 最後にディエヴスの口から発せられた言葉に、男は「あれっ?」と首を傾げながら訊ねた。

「おいおい……『死にたくなかったら』って物騒な言葉だな。仮にもこっちは神様なんだぞ? そうそう死ぬなんてことは起きないと思うが」

「あっはっはっ。何を言っとるんだねキミは。自分の仕事を放り投げるようなヤツに、神様としてここに送るワケがないでしょ」

「えっ……? 無理なの?」

 キョトンとした顔で呟く男に、ディエヴスはニタリと黒い笑みを浮かべて告げる。

「どう考えても無理だろ、この駄神だしんが! 当然制限かけるに決まってんだろ!」

 くわっと目を見開いて告げるディエヴスに、「えぇ~っ」とアテが外れたと言わんばかりに顔を顰める男だった。

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