Side000_とある神様の現状と思いつき
さて、始まりました「黒の創造召喚師 The Change Side Story」!
こちらは本編の外伝話となります。
本編を知らない方でも楽しめるように構成していますので、ご安心ください。
なお、Side000~Side004までは時間を置いて随時更新いたします。
「う゜あ゜あ゜あ゜あ゜ぁぁぁ……退屈だぁ~」
だだ広い部屋で一人ソファの上でごろりと横になりながら、視界を埋め尽くすほどの窓を眺めていたその男は誰に聞かせるわけもなくそんな言葉を繰り返しぼやいていた。
薄紫色の髪を耳までかかる程度まで伸ばす、その男の焦茶色の瞳に生気はまるでない。すらりと痩せた体格とその顔立ちは黙っていれば女性ウケも良さそうなものだろうが、いかんせんその死んだ魚のような虚ろな瞳で折角のルックスも大幅なマイナスへと振り切っていた。
そんな男の目の前に広がる幾十、幾百とも思えるウインドウの数々は、不思議なことにその中に広がる光景はそのどれもが全く異なっていた。例えば、春のうららかな陽気と緑豊かな草原ではしゃぎまわる小さな子供が映し出されている隣のウインドウでは、大勢の人間がそれぞれの手に剣や槍を持ち、大規模な戦争を行おうとする張り詰めた様子が映っている。
このことからもわかるように、男の前に広がるウインドウは、その一つ一つが全く異なる「世界」だった。一つ一つのウインドウの中には、時代背景や環境、そして生きる種族ですら異なる世界である。男の目の前に映る「世界」の中には巨大なドラゴンが自分と同程度の体格を持つ化け物と仲よさそうに会話しているものもあるほどだ。
一見すれば多種多様な世界を垣間見ることのできるこの男の存在は、羨ましいと思えるかもしれない。しかし、男はそうした状況を前にしても「退屈だ」という感情に変化はなかった。
「あぁ……やっぱ『神様』なんて、つくづく面白くも何ともないクソつまらん仕事だな」
――そう。横になりながら気だるそうに呟くこの男は、俗に「神様」と呼ばれる存在の一人だった。
「神」たる彼らに固有の名前はない。それは「世界の管理者」として日々受け持つ世界を調整するだけの存在であるためだ。だが、名前は大層なものでも、実際は単に管理者として担当する世界を見ているに過ぎない。今こうしてソファの上で横になりながらボケッと見ているこの男のように。
神様は人間たちから崇拝されるものの、自ら働きかけるということは基本的にはしない。あくまでも彼らは管理者であるため、その世界で生きる者たちが予め定められた運命というレールに乗り、決められた終着点まで辿り着くようにすることしかできない。手を入れ過ぎるとそれは単に世界への干渉となるだけだからだ。
「基本見てるだけってどんだけヒマなんだっての。つーか、コイツらのリア充っぷりを強制的に見せつけられてると気が狂いそうだ……」
辺り一面を覆い尽くす窓の外に映る様々な光景を前に、男は辟易した顔で呻いた。神は不死の存在である。だが、裏を返せば無限の時間があるということに他ならない。
何かをするわけでもなく、単に窓の外に映る光景を気が遠くなるほどの時間に渡り見ているだけという仕事にやりがいなどあるはずもない。これを例えるなら、対して興味のない映画を、数百本同時並行で強制的に延々と見続けさせられる気分とも言えるだろうか。
そんな状況に陥れば、誰しもこの男のように「退屈だ」と音を上げてしまうだろう。
そうしたフラストレーションがついに限界を迎えたある日。男はついに行動を起こす。
「――そうだ。下界に行こう」
この思いつきから生まれた彼の行動が、やがていくつかの事件と騒動を巻き起こすとも知らずに。