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天空の その上で…
作:高村 恵美



豊穣祭-02(68)


 祭りの最中に何事か、と訝しげな表情を浮かべる人々に、町長は更に低い声を張り上げる。
「黒禽が先程巣を旅立ち、こちらに向かったそうじゃ」
「黒禽が……」
 不吉なその忌み名は、まるで細波のようにその場にいた全員に瞬く間に伝えられていく。
 聴覚が格別優れた黒禽は、主に音を頼りに餌場まで飛来してくると推測されている。
 黒禽は他の魔物と比べ知力が非常に高いため、狩場に着いても直ぐに獲物を狩るような行動は取らない。
 奴等は近場の闇に紛れ込むと巧妙にその身を隠し、じっくりと襲い易い獲物を選別するのだと言う。
 人間の手で四方の森を断ち切り、突然ぽかりと芽生えるこの広場には、当然だが上空を遮る物など何一つない。

「良いか! これから皆を数名ごとの班に分ける。各々定められた掟に従って、迅速に避難するのだ!」
 酒の勢いで騒いでいた連中も正気に返ったのだろう。
 自分達の置かれている状況を次第に理解するにつれ、皆の顔から笑顔が失せる。
 もしかしたら既に黒禽は周囲のどこかの闇に潜んで、人間達の様子を(うかが)っているかも知れないのだ。
 誰もがその不吉な予感に息を潜め、互いの身を知らず寄せ合う。
 喧騒は遠のき、静寂が漂うこの場所で、時折薪が爆ぜる小さな音は最早、皆の恐怖を(あお)る代物でしかなくて。

 町長の指示により小分けにされた松明(たいまつ)に次々と火が点され、男達の手に分配されていく。
「大人は子供を全力で護るのじゃ! 子供達よ、大人から勝手に離れるでないぞ!」
 呼びかける町長の声は重く、その場に集った人々は黙々とその指示に従う以外道はない。
 だが折悪く、豊穣祭で配られるお菓子目当てに集まった子供達の数は、並ではなかった。



「まずいな……」
 異様な緊張感が高まる中、皓は少年には不釣合いな冷静さで考える。
 この場合考えるまでもなく、黒禽に襲われる確率が最も高いのは子供達だろう。
 仮に前後左右で子供達を囲っても、真上から襲われたら一溜りもないのが現状だ。
 既に泣き出し始めた子供も現れ出した中、町民は少しずつ、けれど迅速に脱出を試みる。
「兄ちゃん」
 不安を隠せない末弟の笙は、先刻から兄である皓にずっと纏わりついて離れようとしない。
 年端のいかぬ子供とはいえ、もしも黒禽に自分が攫われた場合、辿るべき運命は容易に想像がつくからだ。
「大丈夫だ。大人も沢山いる」
 そう答えながら実のところ、皓は果たして黒禽相手に大人達はどこまで役に立つか、疑問に感じていた。
 黒禽の力は凄まじいものだと聞く。
 けれど防御を固める大人達の中には、子供の皓にさえ負ける弱い奴が沢山混じっていたからだ。

「皓、お前も輪の中に入れ」
「?」
 子供達を先導するには余りに少ない大人の数。
 皓に声をかけてきた人物は、まだ青年とも呼べる、歳若い男だった。
「俺は大丈夫だ」
「いいから子供は大人しく中に入れ」
 怯え震える子供達を規則正しく並ばせ、その周囲を大人達の手で繋いだだけの簡易の護り。
 その輪の中に早く入れと(うなが)す青年の顔を、皓はじっと見詰めた。







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