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天空の その上で…
作:高村 恵美



豊穣祭-01(67)


 小さな町での夏祭り。 町の背後には山。 正面には入り江。
 貿易を収入の主とする割りに人口の少なかったその町で、事件は起こった。

(つがい)黒禽(こっきん)()みついたらしいぞ」
 大人達の口から聞かされた忌まわしい名。
 大型の肉食猛禽類の一種である黒禽は、現在(いま)の季節が一年を通して最も巣作りの盛んな時期だ。
 体長が優に二メートルを超す黒禽にとって巣作りはかなりの大仕事の上、大切な子孫を守る現場でもある。
 普段は滅多に人間を襲うことの無い黒禽だが、この時期だけは例外で、雌は特に気性が荒くなり、巣に近付く全てのものに対し積極的に攻撃を仕掛けてくる。
 更に厄介な事に肉食である黒禽は、周囲に適度な大きさの動物が見当たらない場合、時として頑丈なその一本足で人間の子供を(さら)い、食す習性が有る事だ。

「どうして山に巣を作らない?」
 誰も感じた疑問。 人里近くに巣を作れば、自ずと危険も増え、自滅するようなものだ。
 今年は雨も多く、森に入れば餌となる動物に困る必要はないはずなのに。
 町中には当然だが、黒禽の餌となる動物は家畜くらいしか存在しない。
 にも関わらず敢えて番の黒禽が巣作りを開始したと言う事は、それは即ち黒禽がこの町を餌場と見做(みな)した事を意味するも、同然で。
「酷く嫌な予感がする」
 監視小屋から覗く、不吉な黒い翼に内心は酷く怯えながら。
 それでも忙しく訪れる毎日を皆は必死で送っていた。



「大変だ! 黒禽がこっちへ向っているぞ!」
 町外れの見張り小屋から緊急で連絡が入ったのは、よりによって豊穣祭の真っ只中だった。
 豊穣祭とは、町から少し離れた森の中に有る人工的に造られた広場で、実りの神に感謝の意を込めて年二回だけ催される、大事な大祭だ。
 町を挙げてのお祭り騒ぎには、町民のみならず、近隣の村からも沢山の人が集る。
 神への祭りにおいて中止なぞ、本来あってはならない事だが、黒禽の残忍な習性を知り尽くしている町長の決断は早かった。
「祭りは中止じゃ!」
 突然告げられた祭りの中止に、節度を知らぬ傍若無人共が一斉に大きな声で暴れ騒ぎ出す。
「静かに! 皆騒ぐんじゃない!」
 負けじと声を張り上げた町長の異様なまでの緊迫感は、祭りに浮かれた人々を一瞬で我に返らすには、充分過ぎる効果があった。
 祭りの囃子(はやし)に負けず劣らず賑やかな笑い声が響く中、華やかに飾り付けられた灯篭(とうろう)が幻想的な色彩を放ち、夏の夜空を染め上げる。
 中央の壇上に組まれた祭壇では、紅蓮の焔が勇ましい音を立て、天空を焼き尽くす勢いで燃え盛る。
 大勢の人間の熱気と、それ以上に溢れかえる酒や食べ物の匂い。
 ……沢山の人間がここにいるのだと、自ら主張するこれら数々の情景を、賢く残忍な黒禽が見逃すはずは無い。







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