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天空の その上で…
作:高村 恵美



現在-01(65)


「甘かったか……」
 何年もかけて、やっと遙が住む場所を探し出したのに。
 一つ目の山を乗り越えた矢先、再び目の前に現れた険しい山脈を前に、思わず皓の口から、掠れた言葉が漏れる。
「際限がねぇな」
 その吐き棄てるような皓の物言いに、隣で新たな山脈を観察していた恭が、背中に負った食糧袋を顧みて、ぽつりと呟く。
「一旦近くの村まで戻るしかないねー」
 一体幾つ山を越えれば良いのか見当も付かない上に、立ち塞がる岩山は、一つ一つが途方も無く険しく高い。
「イシェフ……だったか」
 遙の居場所に一番近い麓の小さな村。
 三方を山に囲まれた辺鄙(へんぴ)な村で、出来る限りの準備はしたつもりだった。
 けれど最後の身支度を整えて、山へ向う俺達にかけられた一言。
「あんた達そんな格好で山に登るのか?」
 ……村人に驚かれた理由が今頃解った気がする。
 
 酸素が薄い為だろう、先程から無駄に浅い呼吸を繰り返しながら、皓は独り自嘲する。
「今更だけど、麓の人の意見はちゃんと聞くべきだったねー」
 同じ思いの恭が返す言葉は普段通り暢気だが、良く聞けばその息遣いは相応に荒い。
「……仕方ねぇか」
 引き返すのも相当の距離だが、この先の移動距離が判らない分、下手に無茶は出来ない。
 皓は迷った末、止むを得ず引き返す方を選択する。
 この山には水分の代わりの果物や、小腹を満たしてくれる動物も一切存在しない。
 面倒でも一度麓へ引き返し、準備を整えて来なければ遭難は必然的な物になるだろう。
「当たり前だけど、また迷いの森抜けるんだよねー?」

 イシェフを抜けて暫く歩くと、山裾を緩やかに侵食する、広大で鬱蒼(うっそう)とした森に行き当たる。
 村人が『迷いの森』と呼んでいるこの場所は、遠い昔に大山が火を噴いた際に、
元々其処に有った燃え残りの木々が、長い時間をかけて現在のような状態に変化したそうだ。

 所々奇妙な形に隆起した硬い地面と、異様な形の樹木が群生するこの森は、迂闊(うかつ)に足を踏み入れると方向感覚を無くし、
現在自分がどの場所に居るのか、正確な位置が判別し難くなる。
 事前に情報収集を終え、万全の体制で挑んだ俺達には『迷いの森』など何ら問題ないはずだった。
 だが天然の惑わしに加えて、更に何か人為的な仕掛けが施されていたこの森に、俺達はご多分に漏れず、散々翻弄(さんざんほんろう)されたのだ。
「じゃあ何か他に方法でも有るのか?」
 恭の答えは半ば以上想像出来ているが、一応念の為に聞いてみる。
「いやーない」
「……」
 万が一の失敗を踏まえて、森には印をつけて来たから、帰りに迷う事は無いだろう。
  


「あっ! 皓!」
 突然恭が空を指差し、声を上げる。
 驚嘆が混じった真剣な響きに、反射的に振り仰いだ、太陽を突き抜けるような眩い、青。
 が、恭が指し示す場所には雲影(うんえい)一つ無く、皓は黙って恭を見詰めながら、(おもむろ)にボキボキと指の関節を大きく鳴らした。
「違っ! 冗談じゃないって」
「?!」







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