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天空の その上で…
作:高村 恵美



旅立-02(64)


「行くのかい?」
 形だけの涙を浮かべる両親に何の未練もない。 何年間か滞在したこの村にも、何一つ。
 時に壊れそうになる精神を抱え、それでも俺は待った。 ただひたすらに自分より強い存在が現れる事を。

『黒き戦神(せんじん)
 気づけば俺の髪の色と、誰にも負けぬその神憑り的な強さから、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。
 俺の噂を聞き付けて勝負を挑む者、難癖をつける者、売られた喧嘩は(ことごと)く、躊躇(ためら)う事なく買い占めた。
 いいや。(むし)ろ強そうな相手を見つけては、積極的に此方から仕掛けたというのが正解か。

 ……けれど結局、誰一人として俺には敵わない。

 最早抑える事も出来ず、白日の下へと(さら)け出された感情。
 後押しする、桁外れの強さは周囲との疎外感を生じさせるばかりで、何の解決にも繋がらない。
「皓お前、本当は卵じゃないのか?」
 地面に這わせた相手から、必ずといって良いほど漏れ聞こえる、この台詞。
 卵とは何だと訊ねる俺に、酷く驚いた相手の表情が、時を過ぎた現在(いま)も、なお印象的で。

 この世界に暮していれば、赤子でさえ知っている伝承を、俺はどうしてもっと早くに、知り得なかったのだろう――



『あの子が、皓が卵だったら――』
「卵について、何を知っている?」
 両親が陰で頻繁に口にしていた言葉にも、確か同じ単語が含まれていたような気がする。
 既に会話すら交わさなくなった両親を問い詰め聞き出した、未来へ向かう唯一の希望。
「俺は遙の(もと)へ行く」


 この世界を治める二神のうちの一人、豊穣を予感させる碧の瞳をもつ遙。
 尋常ではない生命力と強さを兼ね備えた神である彼の周りには、この世界で『卵』と呼ばれる最強の眷属(けんぞく)が、常に沢山仕えている。
 遙は人間の願いを叶える為に度々地上へ降りてくる際に、この『卵』と呼ばれる存在を探し出し、屋敷へ連れ帰るのだ。

 ――そう『卵』とは、神と人間との間に誕生する奇跡の子供。

 生まれながらにして類稀(たぐいまれ)なる能力を持つ子らは、証として身体の何処かに必ず、神の子としての印が刻まれている。
 俺に印などなかったが、腕に覚えが有る者が二神の眼に止まれば、彼等との契約を持って永遠の命が貰え、その屋敷に住む事が許されると聞いた。
 永遠の命など別に欲しくも無いが、其処でならもしかしたら、俺のような異端者でも、居場所が見付かるかも知れない。



「本当に行ってしまうのかい?」
 背中越しに聞こえる、嘘と偽りで彩られた両親の問いかけに、俺はもう惑わされない。
 十四歳の今日。俺は旅立つ。本当の自分が生きていける場所を見つける為に。
 無限に広がる空の下。 必ず出会ってみせる、俺に残された、たった一つの最後の希望。
「遙待っていろ……必ずお前を探し出す!」







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