★黒禽編★ 【第一部】 旅立-01(63)
いつからだろう。気付けば、自らの居場所を俺は必死で探し求めていた――
幼い時から身体能力がずば抜けて高かった俺は、なかなか周囲の人達と上手く馴染む事が出来なかった。
皆が俺の力を恐れて遠巻きに様子を伺い、実の両親でさえ、時に腫れ物に触れるように俺を扱った。
歳がやっと十を過ぎた頃だったろうか。 助けてくれという声に反応した、咄嗟の出来事。
自分より遥かに大きい暴走した魔物を、素手で引き倒した俺を待っていたものは、賞賛の眼差しではなくて。
「あの子が、皓が卵だったら、遙様に引き取って頂けるものを」
畏怖なる者を監視する視線を避け、帰宅した扉越しに、密かに漏れ聞いた両親の会話。
「……」
人助けをしたところで、所詮両親の俺に対する扱いが変わる訳もないのに。
俺はこの期に及んで彼等に一体何を期待していたのだろう。
「明日からまた居住地を探さなくてはいけないな」
父親の呟いた言葉に俺は眼を閉じる。いつもそうだ。
俺が何か仕出かす度に、人目を異様に気にする両親は、慌てて移住を繰り返す。
「またそうやって逃げるのか。俺の力はそんなに隠さなければいけないほど、お前らにとって都合の悪い物なのか!?」
そう叫び出したい気持ちを、俺は奥歯を強く噛み締める事で遣り過ごす。
例え口に出したところで彼等には何も答えられないし、自分が彼等にとって忌み嫌う存在である事を、わざわざ再確認する必要もない。
「あの子が、皓が卵だったら――」
無意識だろう。 繰り返される母親の言葉に、俺はその場から音も立てずに移動する。
……本当は誰よりも解っていた。 俺の居場所など、最早家族内の何処にも無い事を。
ただ家族に愛されたいと願う感情が、どうしてもそれを認めたくなかっただけの事だ。
けれど今更眼を逸らしたところで、眼の前に横たわる真実の、一体何が変わると言うのだろうか。
『どうすれば俺を必要としてくれる?』
直ぐ傍らに大勢の人間が溢れて居ても、誰一人として本当の俺を知りはしない。
自らを偽り、硝子越しに生きる脆弱な世界は、他人の事など気にも留めてはくれなくて。
それでも幼い弟妹は純粋に俺を慕い、両親は世間体を楯に未成年の俺を外界へ離せない。
『俺はいつまでこの地に囚われれば良い?』
雁字搦めのこの世界から、逃れられる術はその欠片すら模らず、俺を追い詰めていく。
『……もう、沢山だ』
この世界で生きて行く為に、誰か一人でもいいから俺を必要としてくれないだろうか。
人が無理ならば、せめて俺を恐れず、有りのまま受け入れてくれる場所、だけでもいい。
頼むから、何処か、誰か、俺を――救ってくれ。 |