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天空の その上で…
作:高村 恵美



自明(59)


 或いは皓が遙への気持ちを否定してくれる事を、自分は望んで口にしたのかも知れない。
 然し傍らで大きく頷く皓に、自分で言っておきながら、恭は内心舌打ちしたい気分に駆られる。
 皓が遙に抱く気持ちは、鈍感な皓本人が自覚していないだけで結局、自分と同じ想いだ。
 この先わざわざ教えてやる義理もつもりもないが、鬱陶(うっとう)しい事この上ない野郎だな、と密かに思う。

「だから俺達が大切な人と過ごす時間は、少しも減ってはいない。
……そんな風に自分を責めなくても大丈夫なんだよ、遙ちゃん」
「恭……」
「俺もだ」
 恭だけを真っ直ぐに見詰める遙に、自分の存在が忘れ去られそうで、思わず皓は横から口を挟む。
「俺達はずっと此処に居る。……他の人間と暮らす事は有り得ない」
 遙は居場所のない俺達に居場所をくれた。
 卵でもないのに、余りに強すぎて、異端視されていた俺に、遙は手を差し伸べてくれた。

『それならば、私の屋敷で暮らせば良い』
 そう告げて、鮮やかに微笑んで差し出した遙の掌を、あの日、皓は迷わず選び取った。
 あの時遙が拾ってくれなければ、俺は並外れた強さ故の孤独に、生きる場所を見失い、自分を追い詰め、
やがては壊れていたかも知れない。

 ……俺は遙を必要とし、遙もまた俺を必要としてくれた。だから俺は此処に、遙の傍に居る。
 それは上手く言葉に出来ない、けれど皓の心の底に絶えず存在する、遙への強い想い。

 不器用に黙り込んだ親友の、後を引き取るように恭が軽快に言葉を繋ぐ。
「要するに、二人とも遙ちゃんが大好きなんだよ」
「そう……か。皓と恭に囲まれて、私は幸せ……だな」
 息を付くように囁く遙の声が、照れたように笑う遙が、――どうしようもなく愛しくて。

 目配せの上、二人で一斉に、左右から挟んで抱き締めた。
 俺達の腕の中で一瞬驚いて眼を(みは)った遙は、次の瞬間弾かれたように笑い声を上げて。
 心の中で、誰知らず誓い合った言葉。三人一緒なら、どんな時でも必ず道は開けるだろう。

 ――俺達はこの先、例え何が有ろうとも、必ず三人で一緒に乗り越えて行く――

 ……だから遙の為なら、遙を助ける為ならば、どんな手段を用いても俺と恭は(いと)わない。
 遙が助かるのならば、何を犠牲にしてでも、俺達は必ず遙を護り貫く。
 それが時に遙の意思を無視する形になっても、俺と恭は何一つ迷うことなく、遙を救う道を選択するだろう。

 ――――きっと、何度でも――――



 遙は人から抱き締められた経験が無いらしく、かなり俺達の行動がお気に召したらしい。
 散々笑いあって暫くお互いを抱き締め合った後、余程機嫌が良くなったのだろう、失った寿命はもうどうにもならないのか、
と訊ねた俺達に、遙は隠す事なく、こう告げた。
「お前達の中で私の力は育つ。お前達が生を終えた時に回収させて貰うから」と。
 溶け込んだ遙の命は、完全に消費される訳ではなく、いつもほんの僅かな欠片を、俺達の体内に残すそうだ。

 注ぎ込まれた『力』の欠片は、俺達の内部で長い時間をかけながら、少しずつ成育し、成長した『それ』は再び遙の身体へ還る事で、
彼女の命となり、新たな源となる――
「だから、それ程心配する事ではない。だろう?」
 それは裏を返せば、ある程度長生きしていれば、微弱ながらでも、遙に『力』を還せると言う事に繋がる。
 俺と恭はこの事に気付いて以来、遙の意思を無視して、時々こうして遙に己の『力』を還す。
 ……遙がどんなに嫌がろうと、俺達のこの身体は魂ごと全て、余す事なく遙の物だから。

 

「瞭、大きくなったら、お前も選べ」
 小さくても、遙を護ると言い切ったお前だから。
 何も求める事は叶わない遙の為に、それでも己の全てを失う覚悟が有るのか、否か。
 遙に対して想いを抱える以上、選ぶ時期は、必ず来る。
「師匠……?!」







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