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ヴェアリアス・アームズ
作:シェイド



キングカウ



 翌日、アスレイはフィアスの執務室に呼び出された。

「よく来たな。まあ掛けろ」
 明らかに必要な物以外を排除してある部屋に、アスレイは居心地の悪さを感じた。

「で? 修行でも施してくれるのかよ」
 些か柔らかすぎるソファに浅く腰掛けたアスレイの瞳は、らんらんと輝いていた。

「馬鹿を言うな、そんな暇が私にあるものか。暫くは私の任務遂行の補佐を務めてもらうぞ」
 への字口と眼力でアスレイを制する。額のバンドで眉も隠れているためか、威圧感がある。

「ちっ、わかったよ」
 アスレイは口をとんがらせ、不満の意を提示した。
「その代わり、これをやろう」担いでいた筒を手渡す。
「ケイローンの短弓だ。お前専用のバルエだよ」

「短弓って。矢はないのか?」
 素早く弓を取り出してまじまじと眺める。それは三十センチ程の小さな弓だった。

「矢など必要無い。弦を引けば出てくる。お前の精神力を糧にしてな」

「ふぅん。俺は弓嫌いなんだけどな」
 弦をピィン、と弾きアスレイは一つ息を吐いた。

 フィアスはアスレイのその仕草を見ず、立ち上がる。
「そういうな。その辺のバルエに比ぶれば、威力は比類無いものだぞ」
 アスレイに背を向け、自分の長弓を担ぐ。
「出立だ。アスレイ、着いてこい」

「へいへい、わかったよ」 渋々、といった様子でアスレイは立ち上がった。



 同日、日の落ちかけた夕刻に、二人は目的地にたどり着いた。

「はあ、疲れた。こんなだだっ広い森に何があるんだよ」
 ゼネマン南方に広がる森林地帯。深くまで潜り込まない限り、大した危険も無いこの場所に二人は足を踏み入れていた。

「最近、魔獣に依る被害が増えているらしくてな。それも、キングカウの亜種がこの浅い位置に出没するらしい」
 キングカウ、それは王牛とも呼ばれ、人間の何倍もの体躯を持つ肉食の牛だ。一般人が襲われれば、命は無い。

「キングカウだって! ランクAの特指魔獣じゃねえか。森のこんな浅い場所に出るはずねえよ」
 信じられない、といった面持ちで、アスレイは声を荒げる。

「あまり大きな声を出すな。余計な獣まで相手にしなければならなくなる」
 フィアスは小声でアスレイを諭し、屈んで地面の土を凝視した。
「近いな。アスレイ、気を張れ。もう相手はこちらを見つけているやもしれん」 アポロンの長弓を握り、フィアスは構えを取る。異様な空気を感じ、無言でアスレイも追うように構えた。


 数分、時が流れただろう。木の葉の擦れる音だけが聞こえた。

「来ないな。フィアス、本当にいるのか?」
「ばっ! アスレイ、後ろだ!」
 アスレイが弓の弦を手から離した瞬間、死角から極大の毛玉が弾丸の如く飛んできた。



 アスレイには、振り返る間すらなかった。が、フィアスはそうではない。最悪、アスレイごと撃ち抜く危険性もあったが、フィアスには相応の覚悟もあり、アスレイにもあるものとした。


 小さな破裂音とともに、キングカウの奇声が響く。














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