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うろな駅係員の先の見えない日常 作者:おじぃ

新入社員研修

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高原を目指す少女たち

 山から吹き下ろされるクールな風が爽やかな中央公園からうろな高原間の往復ハイキング。私たちうろな支社は新入社員は総勢百人の大所帯のため、三人一組、または四人一組になって行動する。地下鉄チームは私たちより一足先に十人くらいの新入社員がまとまってぞろぞろ歩き出した。私たちは同い年の女子三人でチームを組まされた。

 各々おのおの自己紹介をして、車に気を付けながら高原へ続く道路を少しゆっくり歩く。駅前はそれなりに建物があったけど、少し離れると草むらや田畑、遠くに工場地帯が見え、人気ひとけは一気になくなった。物陰から野生動物とか妖怪とかが出没しそう。町には天狗が住んでるって噂があるけど、暇なときに虫取り網でも持って散歩してみような。

「ねぇねぇ、イケメン汐入さんさ、電車とバスには乗るなって言ってたけど、タクシーに乗るなとは言ってなかったよね?」

 1キロメートルくらい歩き、先のことを考えたら気が遠くなってきたので提案してみた。言葉の抜け穴を突く私は、つくづく頭が冴えてると思う。

「だっ、ダメだよぉ。きっと歩くことに意義があるんだよ?」

 か細い声で反論したのは田浦たうら灯里あかり。身長150センチくらいで髪はツインテール。なんとなく小動物っぽい雰囲気を漂わせている。文章を書いたり読んだりするのが好きで、入社前の作文課題は前向きで希望を感じられる感動モノだったとイケメンから聞いた。

「ていうかさ、さっきからタクシーどころか自家用車も殆ど通ってなくない?」

 冷静なツッコミを入れてきたのは歌とダンスが得意という朝比奈あさひなみやこ。髪型はセミロングで、クールな印象を受ける顔立ち。

「なら呼べばいいよ」

「ケータイの電波は?」

「圏外」

 そんなこんなでやむ無く徒歩で高原を目指す私たち一行。時間までに支社に戻ればコースは自由なので、食べ歩きをしようという話になったけど、店がない。味わえるのは手持ちのドリンクと美味しい空気だけ。

「ねぇこれヤバくない? うちら餓死しちゃうんじゃない?」

 こんな田舎の山道を長時間歩くのは人生初。地元ならタクシーは大通りを歩いていればすぐ捕まるし、食べ物屋さんもあちこちにある。

「と、とりあえず、なるべく線路沿いを歩いて、駅の売店で何か買えばいいんじゃないかな」

「灯里さすがだよ! なんだかよくわかんないけど凄いよ! 私その辺のキノコとかヨモギとか食べようとしてたよ! ご褒美に頭撫でてあげる!」

 頭をわしわし撫でると、灯里は困ったように笑いながらも、お互いに目と目が合って、一気に距離が縮まった気がした。

 私たちは中間地点の新うろな駅でスナック菓子を買い込み、チョコレートがコーティングされたプレッツェルを咥えながら歩きを始めた。駅前に停まっていたタクシーに目を奪われながら……。

「ねぇねぇ、二人とも、将来の目標とかやりたいことってある? 私は運転士なんだけどさ」

「アタシはまだ決めてない。メンテ志望だから、とりあえず電車の構造覚えるとか?」

「私は企画、かな? イベントとかの。電車好きだから運転士にもなりたいけど」

「へぇ、女の子で電車好きって珍しいね。都も電車好きなの?」

「ううん、全然。通学で電車に乗ってて、レールの継ぎ目を踏むときのリズムが良かったからインスピレーションを刺激されて、ノリと勢いで試験受けていまここにいるだけだし」

「えっ、なにそれ意味わからんし」

 都の意味不明な入社動機に作り苦笑い。なんか鯨が可哀想になってきた。だけどメンテナンス部門は急速な世代交代で人手が不足してるから、定年退職者の穴埋めで多めに新規採用してるんだっけ。いやいやでもだからってそんな動機で入社試験パスしてるわけないだろうし。やっぱ謎だわこの子。

「そうだなぁ、強いて言えば、クラスの鉄道マニアが言ってた『シールドビーム』ってのが気に入った。それがどんなのだかわかんないけど」

「シールドビーム!! ビビビビビー!! って感じ? 灯里は知ってる?」

「うん。簡単に言えば電車の前照灯とか尾灯に使われてる電球だよ。うろな町の電車にも使われてるけど、何年かしたらLEDの新しい電車になっちゃうと思う」

「そっかぁ。うろな町って古い電車バンバン走ってるけど、やっぱ時代の流れが押し寄せて来るんだね」

「でもさぁ、それってアタシら時代の境目に立ち会ってるってことじゃない?」

「おお! なんかいいこと言うね!」

「その代わり色んな車種の構造覚えなきゃいけないけど。運転士だって構造知らなきゃダメなんだよ?」

「ははは、せっかくいいこと言ったのに自分でぶち壊さなくても……」

「そうだぞ! 灯里の言う通り!」

 こうして親睦を深めているうちに、気が付けば街並みはかなり小さくなっていて、家がゴミのよう。もうすぐチェックポイントに到着だ。そっか、身体を鍛えながら、コミュニケーション能力を身に付けるのが今回の目的なのかもしれない。

 さあ、新しい仲間と一緒にがんばるぞー! おー!  
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