Another Episode18 Short Stoys 弐
Story3 奏の実力
水城奏は世間一般に知られている天才ソリストである。
「天使の歌声を持つ少女」という異名を持ち、この業界だけではなく
ちょっとした有名雑誌にも顔を出す有名人。
経歴も華やかなもので、本格的に合唱に関わり始めてから
コンクールでは毎回のごとく賞賛の嵐
一時期、スランプに陥ったもののそれを見事に乗り越え
この世界に水城奏あり、そう言わしめるほどの才能であったりする。
だけど、言葉だけではその才能はどれだけ凄いのか計り知れない。
なので俺は、こんな問いかけを奏に向け、述べてみた。
「そう言えば、奏。奏って歌うの上手いけど、どんなジャンルでも上手く歌えるのか?」
昼休憩、屋上
何時ものように、屋上で練習する奏に向け
俺は自然にその言葉を口にしていた。
「……えっ?どんなジャンルも、ですか?」
そして、当然のごとく戸惑いを見せる奏。
自分で言うのもどうかと思うが、あまりにも脈絡のない流れ
奏が困惑するのも無理はない。
でも、気になってしまったのだ。思ったら即行動の俺なのだ。
だけれど、そんな無理がありすぎる質問にもさすがは完璧少女
数秒の思案気な表情を浮かべた後
「多分ですけど、大丈夫だとは……思います。基本は歌であることには変わりはないので」
少し顕著な言葉ではあるが、自分の歌に対してのプライドか
いつも引け目な奏らしくない自信のある表情で、俺の方へと視線を見据える。
ほうぅ、そうか……そうなのか
それならば確かめたくなるのが、人間の心理
生まれ持った欲求、感情である。
「それなら、奏。歌ってもらおうか、本当にどのジャンルでも上手く歌えるか!」
「多分、この流れ来ると思っていましたけれど……意外に暇なんですね、教職って。
それとも単に和弥さんだけが暇なんじゃ―――」
「ストレート言うなっ!傷付くだろうが!」
何気に暇なのが、バレていた様子
とは言え、そんなことではへこたれない伝馬和弥、17歳。
奏に向け、アタックを開始し始める。
「それじゃ、まずはJ-POP。歌ってもらうのは……」
頭の中に様々な有名バンド達が、渦巻いていって
とにかく自分なりに難解、かつ特徴のあるものを選りすぐり、俺は……
「これ、今流行の千の○になってだっ!」
「………それ、最近良く合唱曲で歌われる曲ですし、それに流行ったのはちょっと前
なんですけれど」
「…………マジ?」
過度の流行遅れを露見させながら、不安を感じるスタートとなったのだった。
その後、分かりきっている事ながらも完璧に千の○になってを
奏は歌いきり、言葉通りの圧倒的歌唱力とずば抜けた音楽センスを見せ付ける。
その後も……
「じゃあ洋楽。セリーヌ・○ィオンのMy Heart Will Go Onだ!タイ○ニックの主題歌の奴」
「次はRockだ、ROCK!オ○シスのDon't Look Back In Anger」
「こうなったら、演歌だ、演歌!何でも良いから演歌を歌ってくれっ!」
俺の無理難題に奏は表情を歪めることなく、完璧に歌いきった。
演歌で飛鳥の影響か、三○路岬を奏が歌い、あれは演歌なのかどうか判断に迷ったが
三十路の哀愁を上手く歌いきっており、NOとは俺の口から言う事はできなかった。
「どうですか、和弥さん。ここら辺でもう、良いんじゃないでしょうか」
不適な笑みを浮かべ、余裕の言葉を俺に向けて投げかける奏
ここまで、完璧に奏の歌唱力の圧勝であった。
やはり天才は伊達ではなかったことが現時点で、十分すぎるくらい照明されており
立証は得られたのだが……
どうせなら、一回で良いから奏の困る顔が見てみたい
そう心の底から思う、俺
根っからの負けず嫌いだと認めざるを得ないであろう。
なにか、なにか……
俺は考える、超考える、めがっさ考えた。
こんなちっぽけなことであるが、執念が感じられるほど必死に
そして、ついに俺はある一つの案を導き出し
「……あっ、ヒップホップだ!」
奏に向け、言い放った。
「へぇ?ひっ、ヒップホップですかぁ!?」
ここまで余裕の笑顔を浮かべていた奏が初めて、うろたえた表情を示す。
……よしっ!ガッツポーズせずにはいられない。
先ほどまで楽観した姿勢はどこへいったのか、アタフタした様子で
ちょこちょこと可愛らしく、動き回った後
「うっ、うんと……へぇい、よぉ。チェケラッチョ?」
…………見てはいけないものを見てしまった気がする
俺は何も見なかったかのように、回れ右をし
「………じゃあ!俺、次の授業の準備に―――」
「待ちなさい」
今日の教訓
何事も適度が一番、やりすぎは命に関わる
そのことを身にしみて学んだのであった
Story4 朝倉家訪問
そうだ、沙希の家に遊びに行こう……
そんな京都へ行こう的なノリで、マジで朝倉へと突撃した
アメリカ時代の和弥のお話
「……って訳で、どこからか神のお声が聞こえたから遊びに来たぜっ!」
「それを俗に馬鹿と言う事をカズは知っているか?」
出会いがしらで早速、グサリと刺さる一言を言われながらも
たまたま沙希も暇だったらしく、なんとか家の中へと入る事に成功する俺。
良く考えると、沙希の家にお邪魔するのは初めてだったことを思い出し
子供ながらに緊張しながら中へと足を踏み込んでいくと
「……今の世の中って、どっちかと言うと不景気な社会だよな」
「カズにしては珍しい。そんな政治のことは詳しいと思っていたはずだが?」
「当たり前だ、これでも中学生の年齢で大学通っているんだ。株の知識から絵画の知識まで
はたまたアニメ、ゲーム製作の知識までオールラウンドに行けるわ。そういうことじゃなくて!」
「そうじゃ……なくて?何が言いたいんだ、和弥?はっきり言ってもらわないと
私には何のことやら良く……」
「そうか、なら言わせて貰う。お前の家……どこのお城ですか、コノヤロォ!!」
俺は高らかに叫んだ。これが家の中かと思うほどやまびこのように広がる俺のボイス。
目の前に広がるのは、まるでどこぞのお城に迷い込んだかと思うほどの
開放的すぎるくらい広がる風景。
周りに視線を向ければ、甲冑や絵画、剥製などテレビやアニメの中しか見たことのない
非現実的な光景が所狭しと瞳の中に映りこむ。
こんな俺の妬み満載の姿を見て、沙希は
「普通だろう」
「すまんが、一発殴っていいか?」
なんともない様な変化のない顔を俺へと見せ付ける。
女性だとは言え、こんな気持ちが沸いた俺の心境分かっていただけるだろうか
「この世は皆、平等に出来ているってどっかの偉い人が言っていたけれど絶対嘘だな」
古代の貴族の制度のように、現代だって格差があることを身を持って知った瞬間であった。
そんな感情を持ちながら、朝倉家を見て回るように歩き続けた俺達。
一歩、一歩歩き進めるたびにカルチャーショックと言うのか、持つものと持たざるものの
圧倒的な壁にぶち当たると言うべきか、そんな現実を目の当たりにしながら
俺達にとっては居間?的な広範囲な空間へと到着した。
「……で、一通り家の中を案内した訳だが、どうだった?カズ」
高級すぎる椅子とテーブル、真上にはお約束どおりのシャンデリアに包まれながら
用意された紅茶に口を付けつつ、沙希が感想を求めてきた。
俺は何も考えることなく、正直に
「なんか火がつけたくなるような家だな」
「そんな放火魔的な感想は求めてないんだけど」
華麗にツッコミを入れられる。
さすがは朝倉家のご令嬢。どんな些細なボケすらも容赦はない。
「もっと何かないのか?こんな家が良いなとか、ここに住んでみたいとか」
感想にケチすらもつけてくる始末
余程俺の感想が気に入らなかったようである。
とは言っても……見たことのない世界に足突っ込んで、どうすれば良いか分からない
助けて、助けてくださぁぁぁぁぁああああい!!
が本音であり、感想も何もないのが正直な所なのだが
「あえて言うなら……」
「おっ、あえて言うなら何なんだ、カズ」
椅子から立ち上がり、こちらへと顔を近づけてくる沙希
「一つ、気になる事が……さっきメイドさんから貰った見取り図にあるKAZUYAの部屋って
書いてあるのは何―――」
「さぁ、おやつの時間だ。カズは何が食べたい、ここなら和洋中なんでもあるぞ!」
「でっ、でもなぁ沙希。それもこのKAZUYAって部屋、一個ではなく二個も―――」
そこで誰がテーブルを叩く音が聞こえる。
中々の大きな音が、この部屋全体に広がっていく。
突然のことでビビリまくる俺、なぜか黒く揺らめく沙希
そして、後ろから誰か近づいてくるようなそんな気配を感じ始めたその瞬間
俺の肩へとポンと誰かが叩いた。
「……和弥様、女子とは誰もが触れられたくない秘密を持っているものでございます。
余計な詮索は野暮であることを、重々承知なさっていただきたい」
聞こえてくる渋みのあるダンディーなお声
俺は恐怖に怯え、ただ
「はっ、はい……」
そうとしか言う事はできなかった。
その後、先ほどと似たような声の人物である沙希の専属執事セバスチャンを
紹介してもらい、楽しいお茶会を楽しんだ。
そのお茶会を楽しみながら、一つ思った。
金持ちって、怖い……
と、心の底から……
Story5 黒い日記
○月○日
今日も病院で一人っきり。体は凄く元気なのに、一歩に外に出れないのは辛いよぉ
でも、今日もお兄ちゃんが来てくれた!
ちゃんと私が頼んだ、お本を持って!
やっぱりお兄ちゃんは私の頼みなら何でも聞いてくれる。
少し涙を流した振りしちゃえば、イチコロ♪
お母さんの言っていた通りだぁ!
こういう人ってしすこん?っていうんだっけ
大好きなお兄ちゃんと一緒に、お本読んで楽しかったな〜
×月×日
最近、お兄ちゃんの周りにおんなの影がちらつく
小学校に行ってみたら、周りの女子がお兄ちゃんのこと噂していたっ!
このままじゃ……お兄ちゃんが……取られちゃう……
な・の・でっ!作戦通り飛鳥ちゃんと駆除?作戦に出る事にした
一人、一人お兄ちゃんに近づかせないように……
お兄ちゃんは私達だけ、見てれば良いからねっ♪
□月□日
お兄ちゃんのお友達、蓮くんが今日遊びに来た
二人ともとっても仲良しで、妹の私ですらむぅって思っちゃうくらいの仲良しさん!
お兄ちゃんも良く蓮くんことばっかり話すから、ちょっぴりライバルさん?
でもぉ、男の子だから……
そう思っていたんだけど、今日の蓮くん何時もと違った
そうじゃなくて、小学校4年生くらいからお兄ちゃんを見る目線が違う気がする
気のせい?そう思うけど、乙女の感?がなんかビンビン反応してる!
どうしてなのかな?
でも、注意しておこう
最後のページ
今日でこの日記も最後……
理由はアメリカに行ったお兄ちゃんの下に行くため
勉強三昧になるから、日記なんて付けている時間はない
だから、今日でおしまい
今の私じゃ、すっごく難しい事かもしれないけれど
お兄ちゃんに会えないよりはずっとマシ……
なんとかお父さんを私の嘘泣きで、金銭面の問題はなくなった訳だし!
おまけに家庭教師まで頼んでもらったから、頑張ろうと思う
次はお兄ちゃんに会う、その時まで
俺は妹である泉に呼び出されて、部屋の物置の片付けをさせられていた。
その際、たまたま見つけたこの黒い日記帳……
「カズくん♪片付け終わった?終わらせないと、さっき買ったガン○ムのプラモは返さないよぉ」
顔を見せる、泉
俺は隠すようにその日記帳を隅へと置いた。
「なぁ、泉」
「……ぅん、どうしたのカズくん?」
「お前って、生まれた時は純真だなとか思ってたんだが、やっぱり最初から小悪魔だったんだな」
「えっ?それはどういう意味なの!カズく―――」
心の中で少し涙した和弥なのだった。
あの時の思い出よ、グッバイ……
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