Another Episode11 そーなんですよ……すまん
………白
どこまでも続く白
あたりを見渡しても、視界にはそれ以外には何も見えない
どこまでも続く限りない白……
吐き出す息も白く染め、白以外の色が消えてしまったような
そんな一色しかない世界に来てしまったような、そんな気さえして来る。
指先は凍えるように冷たく、だけど暖めるものなどなく
ただただその指を力強く握り締める。
握り締める力は徐々に強くなり、爪が皮膚に食い込んでいく。
しかし、それにすら気づかないほどの冷たさに、麻痺をしている自分に
自然の驚異を感じずにはいられない。
「……寒い、な」
そんな状況下の中……俺、伝馬和弥はそう独り言を洩らす。
短い、けれども切実な思い。
体はもう暖かさのみを求め、どれだけ人間と言うものは
自然界の中でちっぽけなモノであるかと、俺は改めて認識し
機械に頼らない人間など、ただの下等生物か……
そんな考えまで浮かんでくる。
とにかく、どんなに思考を巡らせても、思い浮かぶのは嫌な感情だけ
現実逃避と何の変わりもないことに俺は気づく。
今やるべきことはではない、俺に出来ることは
現在、置かれている状態をなんとかすること。
そう俺達は今………
「なんで男だけで遭難なんだよっ!普通、こういう時は気になる女の子と一緒に
苦難を乗り越え、親密になるイベントフラグなのにぃぃぃ!!」
「……まぁ、現実なんてこんなもんだぁ。諦めるんだな、佐藤っ!」
「いやぁぁあぁぁだぁぁぁぁ!!!」
男だらけで雪山遭難しているのだから……
冒頭のシリアスな展開から、真面目な話だと思った方はすまない。
この一面雪景色な状態が、俺の心にセンチメンタルな思いを高ぶらさせ
シリアスな気持ちにさせてしまったようだ。
……話は戻るが今、俺達は雪山遭難してしまっているようだ。
それも現在地はたまたま発見した洞穴の中
ここまで来れば、嫌でも遭難の必須条件は揃っている気さえする。
洞穴の中から、外の風景を眺めてみれば、吹雪が吹き荒れているようで
素人的な目で見ても、まず出れる状況ではないのが、すぐに分かる。
「この雪の中、帰るのは無理だぜ。ここで大人しくするのが得策かもな、伝馬」
「そうだなぁ。この状態で外に出れば、命はないだろうぅ」
佐藤、須藤も俺と同じ考えのようだ。
ここに暫くいることは決定のようで、俺は溜息を浮かべながら、ゆっくりと腰を下ろす。
それにしても、あれだけ頑張ってスキー旅行に出かけた言うのに遭難とは
運がないというか、何と言うか……
先ほどまでアゲアゲだったテンションは、直滑降でマイナスの域へ
天国から地獄へと落とされた気分である。
精神的にもダメージが大きかったのか、ドッと疲れが俺に襲い掛かり
頭の中に思い浮かぶことは、事の始まり、あの人物の顔が思い浮かび……
そうだ。こうなってしまったのも、すべてはアイツが原因な訳で
「なんで、こうなっちまったのかな〜」
まるで無関係かのように、他人事みたいに言葉を述べる佐藤の姿が視界に入る。
「何言ってんだおい、コラッ!佐藤……お前がこの状況の発端だってこと忘れたのかっ!」
「佐藤ぅ!お前がスキーやってる時に一人で俺のスキー技術は世界一ィィイィィィィィイ!!
とか言ってどっか行くから、俺達が追いかけることになってぇ遭難したんだろうがっ!」
ここぞとばかりに俺と須藤は、声を荒げて佐藤に向け文句の言葉を放つ。
「でっ、でもな二人とも!俺が原因だとしても、もう少し大きな声を出してくれれば―――」
「お前な……俺たちはな、大声で引きとめようとしたさ!でも、お前はなんていったと思う?
お前は、俺の前は何人たりとも走らせない!とか馬鹿な台詞放って、止まらなかった
だろうがっ!」
佐藤が反論の意を示そうとするも、それを俺は一蹴。
相手に余地など与えない……つうかどう考えたってこの状況は
このバカ、佐藤の原因なのは明らかな話である。
先生と言う立場ではあるが、一発殴りたい衝動に異様に駆られる。
須藤なんか、一発殺っちゃいますか?兄貴と言いそうな雰囲気で
拳を佐藤に向け、ロックオンしている。
佐藤……誰が見ても、圧倒的劣勢
そして、数秒の沈黙の後
さすがに言い訳をするのにも、懲りたのか佐藤は口を開け
謝罪の言葉を……
「……すまん。でも、変なシンパシーを俺は感じたんだ!これって間違いなく作者が
スキー描写メンドイっていう嘆きの叫びが俺たちを遭難に―――」
全然懲りてなどいなかった。
「んな訳ないだろうがっ!作者はそんな人じゃない!適当な事言うんじゃねぇよ!」
「何なんだっ、佐藤ぅ!お前に作者の何が分かるっていうんだぁぁ!!」
「いっ、痛いっ!寒いときは通常の三倍くらい痛くなるんだって!最低でも俺の美しい
顔だけは……ごめん、ゴメンなさいっ!調子に乗ってすんません!」
吹雪の中、佐藤の叫び声が空しく響いた……
「まぁ、いつまでも佐藤を殴ってたって物事は解決しない。まずはこの状況をどうにかするか
だが……やはり一番の問題点は寒さと言うことになるかな」
俺、伝馬和弥は満足げな表情を浮かべて、須藤に向け自分の考えを述べる。
「そうだなぁ。最低でも今日一日はここで過ごさないと行けない……この寒さは
生と死に関わるほど、重要な問題だろうぅ」
同じく満足げに自分の意見を言う須藤。
佐藤と言えば、洞穴の隅っこでボロ雑巾のごとく無残に倒れながら
生存反応を示すように手を挙げ、俺達の意見に賛成と言う意を示している。
「……と、言う訳で皆が懸念している寒さだが、どうすれば良いと思う?
意見を聞きたいのだが……」
「はいっ!伝馬、俺に良い考えがある。是非とも俺に信頼回復のチャンスをっ!」
先ほどまで屍のようだった佐藤が唐突に立ち上がり
幼稚園児レベルに勢い良く手を挙げ、自分の存在をアピールしている。
雰囲気だけは余程自信がある……そんな感じ。
「……最初は須藤って言おうと思ったが、仕方が無い」
「おっ、さすが伝馬!話が分かる男だよ!それじゃあ俺の意見は―――」
「そういうことで須藤、お前の意見を聞かせてくれ」
「って俺じゃないのかよっ!?どう見たってあの流れは俺の番、俺のターンでしょ!
だったら何、何が仕方が無いって言うのっ!意味分かんないよ!」
「それじゃあ、俺の意見だがぁ」
「須藤も何事無かったかのように、話初めてんのっ!もしかして、俺スルーされるぅ!?」
相変わらずの佐藤の神懸り的なツッコミに惚れ惚れもするも
今は緊急事態だ。Good LuckをGood Lockなんて言う
バカには頼ってはいられない。
「俺の意見はぁ、やはり寒さを凌ぐには運動が一番……そう思うんだがぁ」
須藤はそう言い、俺へと視線を向ける。
運動……体育会系である須藤らしい意見であるが、確かに最もな考えであった。
昔の人だって、寒い日こそ運動しろと良く言われたものである。
「良い意見だな、須藤。だが、運動となると……」
「やはり気づいたかぁ、伝馬。この狭い洞穴で何をするかが、一番の問題なんだぁ」
悩んだ顔をこちらに向け、須藤は言葉を洩らす。
……そうなのだ。須藤の言うとおり、洞穴は距離にして数メートルの小さな穴
高さがある訳でもなく、俺達三人で良い感じにいっぱい、いっぱいになってしまう。
それに外に出ようとするならば、信じられないほどの吹雪に
間違いなく死という最悪の結末が待っていることであろう。
とは言え、ここで出来る運動、屈伸運動レベルでは体は暖まることもなく
この寒さを凌げるとは、到底思えはしない。
「……どうするかな〜」
「道具といってもぉスキー道具のみで何か持ってるわけでもぉ」
周りに視線を巡らせる。
あるものは須藤の言うとおり、スキー道具以外には
佐藤がふて腐るように外に視線を向けているだけで……ぅん、佐藤?
俺の視線が、横を見れば須藤の視線までもが佐藤に向け、止まっている。
………考えることは一緒という訳か
俺達二人は無言のまま、合図するわけも無く、同時に佐藤に向け近づき始める。
一歩、一歩確実に、足音を立てることもなく静かに
しかし、距離にしてあと少しの所、何かに気づいたかのように
佐藤が飛び上がらんばかりに起き上がり、視線をこちらへと向けて来る。
「さっ、殺気が!嫌な予感が……二人とも何か俺にしようとしていただろうっ!」
第六感が働いたのか、先ほどまでとは違い警戒心を強め始める佐藤
……勘の良い奴め
さすがは地味男。周りの変化には気づきやすいといった所なのだろうか
とは言え、俺達が疑われていることには変わりがない。
何とか弁解の言葉を述べるため、俺達は口を開き
「いっ、いやぁ寒いからシャドーボクシングでもしようかと思ってな。良いサンドバックは
ないかなって探していただけだよっ!」
「そっ、そうだぞぉ!そしたら良い感じのサンドバックがそんな所に……」
「完璧に俺をサンドバックする気満々!?潔すぎて、妙な清々しささえ感じるじゃねぇか!」
見事にツッコまれてしまう俺達
さすがはツッコミの佐藤……プロにも負けないツッコミ方
小さなボケも見逃さないぜっ!
「それに俺がもしサンドバックになったりしたら、間違いなく病院送りだろうが!
遭難とか以前に、撲殺フラグ立っちゃうじゃん!」
「大丈夫だ、佐藤。お前のために後からキノコとか、トマト的な1UPアイテム用意するからさ
協力してくれよっ!」
「いや、俺はマ○オでも、カー○ィでもないからっ!」
「だったら佐藤ぅには元気のか○らを……」
「ポ○モンでもないぃぃぃぃぃいぃぃ!!」
結局の所、話は逸れ、ボケツッコミ合戦になっていることに気づいたのは
それから数十分経った後の事であった。
「……で、話は戻すが寒さについての対策で、須藤の意見は失敗、と」
佐藤の激しい呼吸音が聞こえる中
俺は冷静に事態を把握し、皆に向け言葉を送る。
「はぁはぁはぁ……絶対、これは伝馬の罠だろ」
そんな仮名しかない男の戯言が聞こえてくるが
基本スルーの方向で、物事は進んでいく。
ツッコミの鬼もさすがに疲れたのか、何にも反応は示しはしない。
「では、他の人の意見だが……」
周りを見渡すと、一人まだ呼吸が整わないのか
荒い呼吸のままで、目を輝かせている人物が一人、視界に入る。
「大丈夫……何だろうな?ただの時間の無駄になるのなら、一発殴るくらい覚悟は
してもらいたいのだが」
「任せておけって、伝馬!この俺の案は統計学上でもかなりの確率で信頼できるからっ!」
やけに自信満々な佐藤の言葉が聞こえてくる。
正直、何の統計学を基づいて信頼できるのか、甚だ疑問ではあるが
ここまで来れば、三人寄れば文殊の知恵原理だ。
もうなりふり構っていられない状況に、俺は佐藤へと視線を向ける。
須藤も仕方がないと思ったのか、同じように視線を向ける。
「……よし、二人ともこっち向いてくれたな」
俺達二人が佐藤に視線を向けたことを確認する。
「俺の意見だが……俺の意見は……」
何ともタメの長い、ミリ○ネアのみの○んた張りに
焦らすように言葉を紡いでいく佐藤。
寒さが俺をキレやすくさせているのか、再び殴りたい衝動に駆られるも
グッと堪え、佐藤の話に耳を傾ける。
そして、ついに佐藤は口を開き……
「俺は……寒いと思うから、寒い!だから俺達も熱い心、燃え盛るような魂さえ
持てば寒くない!そう思うんだっ!」
とんでもないこと言い放った……
「………はい?」
予想外の言葉に疑問符を浮かべざるを得ない俺
まさか、今のこの状態で根性論、気合論を述べる猛者がいるとは
怒り、呆れるを通り越して呆然としてしまう。
この言葉には、あの須藤も俺と同じように呆然とした表情を
「それだっ!正しく完璧な考え、まさか佐藤がこんな名案を思いつくとはぁぁ」
「そうだろう、須藤!」
なぜか意気投合している二人
俺を無視し、二人だけの空間が作られているような感じさえする。
「ちょっ、ちょっと待て!二人とも根本的に考え方が―――」
「よし、これで行こう!」
「さっそくぅ、実行だっ!」
声を掛けるも、またもや無視
今、この空間には須藤、佐藤の二人しかしないと思ってしまうくらい
俺の存在感は薄くなっている。微妙に佐藤の感じている地味という劣等感を
こんな所で感じることになろうとは……
妙に負けたような、悔しく、それでいて切ない思いが俺を襲う。
「うぉぉぉぉおぉぉおおぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおお!!!」
「そいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああ!!」
奇妙な劣等感に苛まれている中
雪山には似合わない、二人の熱き叫びが響き渡る。
二人ともドラ○ンボールよろしく、スーパーサ○ヤ人のごとく
気合を入れ、髪の毛が針のように立ち、黄金に輝いているように見えなくもない。
とにかく何とも説明しがたいが、気合だけは伝わる、そんな雰囲気。
「ぬぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおお!!」
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁああ!!」
まだまだ叫び声は止まらない
凄まじいほどの気迫が、まったく成功するとは一切思えんが、否応にでも伝わってくる。
「せいやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ………」
「そりゃぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ………」
そして飽きてきたのか、はたまた自棄になってきたのか
先ほどまで気合の入った言葉とは違い、徐々に小さくなっていき
最終的にはフェードアウトするかのように、二人とも口を………閉じた。
「……だめだ、実質温度が変化するわけじゃないんだ」
当たり前であった
気合でどうにかなるほど雪山は甘くなど無い
「くそっ!八方塞がりかよっ!」
「どうすればいいって言うんだぁぁ!」
悔しそうに二人は言葉を洩らす。
正直、笑い転げるくらいコントのような状況であったが
本人達はいたって真面目のようだ。
その状況がまた、俺の笑いを誘うのだが
なんとか我慢して、言葉を掛けようとするも
―――ドドドドドドドドドドドドドッッッ
「……うん?」
「……えっ?」
「……おぅ?」
嫌な音が俺達の耳元に響き渡る。
何かが滑り落ちてくるような、不吉な音
この瞬間、俺の頭の中にはある一つの可能性が導き出せてはいた。
しかし、己の思考が認めない、認めさせたくない。
なにしろ俺の予想があたっているのなら……
この場では、このシチューエーションではもっとも聞きたくなかった音なのだから
でも、現実は待ってなどくれない。音は更に勢いを、大きさを増していく。
「これって、まさか……」
佐藤もいくらバカと言えども、アレのことに気づいている様子
俺はゆっくりと洞穴から外の景色を見……
―――こちらに流れてくる雪崩の様子が目に映った
「それしても、あれだけの大惨事だったのにぃ皆打撲だけなんて……運が良いんだか
悪いんだかぁ……」
「まさしく不幸中の幸い。これ以上、この言葉に当てはまる状況はないな」
扇山病院、6階607号室
俺は口を開く事が出来ないほどの体の痛みに襲われながら
飛鳥、沙希の同情の念が入った言葉に耳を傾けていた。
足はギプス的なモノに巻かれ、体中はピクリとも動きはしない。
横に視線を向けてみるも、佐藤&須藤も同じようにベットに横になっていた。
「心配しましたよ、和弥さんと須藤さん。皆さんが雪崩に遭ったと聞いた時は……」
「確かにね、心臓が飛び出るかと思ったわよ」
フッと溜息を洩らし、その時の心情を語る蓮と奏
横で佐藤が無言の抗議を繰り返しているようだが、蓮と奏は反応を示しはしない。
何と言うか……哀れである
佐藤に同情する気持ちを感じなくもないが、これがキャラ位置だと思って
諦めるほかなさそうである。
すると、先ほどまでこの場にいなかった我が妹、泉が心配そうな顔をして
こちらへと近づいてくる。
やはり幾らイジメ気質の妹であろうとも、兄の一大事には心配してくれる
さすがは我が妹……そんな風に思っていると、唇がニヤリと歪み
「でも、私達のこと無視したんだから自業自得だね、カズくん♪」
笑顔でいつもの毒舌吐く、我が妹泉
……あぁ、やっぱり俺は不幸体質な男
世の不幸な漫画主人公達に共感せざるを得ない
そう思わずにはいられない、今日この頃であった
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