Another Episode5 男だらけの晩餐会
――――冬の醍醐味
そう言われて、皆は何を思い浮かべるだろうか?
俺、伝馬和弥の考えではこたつでミカン、ウィンタースポーツ、ワカサギ釣りなど
人それぞれに冬ならではの、コレと言ったモノを持っていると思う。
中には学校行事内にスキー研修など、強制イベント的に冬を楽しむ人達も
少なからずいるかもしれない。
そんな中で俺、伝馬和弥は冬には絶対、いやこれを実行しなければ
冬など過ごしていられないぜコラッ!ってことが、実は一つだけあったりする。
それは日本人の大半、ほとんど人達が行なうであろうコレ……
伝統から家庭円満、開運招福の効果もあったような、なかったような
日本では定番であろうこたつを囲みながら食べるアレ!
そう、それは!!
――――鍋!
「……で、その己の本能に忠実に行動し、準備した鍋を食べようとしたこの場に
なぜ、お前達がいるんだ」
扇山高校、宿直室
俺はコタツの上に置かれている鍋を箸でつつきながら、目の前に見える
2人の生徒、見知った顔である男子生徒に向け言葉を掛ける。
「けち臭いこと言うんじゃねぇよ、伝馬。今日は一人で宿直だろう?
こんな鍋一人で食べてたって辛気臭いぜ、一緒に食べた方が楽しいじゃねぇかよ」
俺から見て右側、佐藤がそう言って嬉しそうな顔をし白滝を食べている。
……おい、何気に大好物の白滝を食べるんじゃありません!!
「俺はぁ、鍋の匂いに釣られてなぁ。やはり冬は鍋だなっ!食べているとぉ
無性に焼酎が飲みたくなって来るぞぉぉ」
そして俺から左側、須藤が風格十分な雰囲気でワイルドに湯豆腐に喰らいついている。
須藤、俺が教師だってこと完全に忘れてるだろう……
「確かに鍋は一人で食べるのは寂しいが、2人ともこんな時間まで
学校、残っていても良いのか?」
「大丈夫、大丈夫!うちは放任主義だし、学校に残るのは先生の許可が下りれば
朝までいてもOKなんだぜ。それよりも同じクラスの俺は別として、違うクラスの須藤が
ここにいることの方が問題だろうが」
「……ふぅぅ、名もなきキャラに言われる筋合いはないんだがなぁ」
「っ!おっ、俺の気にしている事をズバッと言うんじゃねぇよ!殺るかコラァ!」
コタツを巨○の星ばりに倒さんする勢いで立ち上がる佐藤
やはり名が未だに出てきていないのは、本人的にはかなり深刻な問題だったようだ。
「上等だぁぁ。この頃人外な人間としか戦った覚えがなくてなぁ、葉月先生とか葉月先生とか
久しぶりのマトモなケンカだぁ、かかってこぉぉぉおい!!」
自分のご飯茶碗が空となったと同時にスッと立ち上がり、佐藤へ向け突っ込んでいく須藤
ちゃっかり綺麗に食べている所が、妙にしっかりした須藤の性格を連想させる。
「おい、2人とも仮に先生である俺の前で……これは止めるのは無理、か」
遠巻きで眺めていた俺は、止めに入ろうとするも入り込める雰囲気ではないと
直感的に察知し、こたつへと体を戻す。
「ぐはっ!ちょっ、ちょっと無理!助けろいや、助けてください、伝馬さん!!」
何か男性の切羽詰った声が聞こえてくるが、気のせいだと信じ込みスルー
佐藤よ、この世は弱肉強食だぜ。強く生きろよ……
と、軽く願い再び鍋を食べ始める。
ふと時間を見ると夜の7時。一般的な家庭では家族、食卓を囲んで
夕食タイムな時間帯……そして普段の俺は一人はたまたは何時もの女性陣と食べるのが
デフォルト化しつつある今日この頃。
だけれど、今日は男としてはどうかと思うが、本当に稀である男だらけの夕食
自分でも気づかない、隠すことが出来る程度のことであるが
気分が高揚している俺がいた……
「……いってぇ、マジで殴るなんて。少しは加減しろよな、須藤」
「これでもぉ加減はしたつもりだぁぁ。佐藤が弱すぎるだけだぁ」
「あっ、あれ?もしかして、もしかしなくてもお前も佐藤って呼ぶのか!それとも何か?
遠まわしのフルネームある自慢ですかコノヤロぉぉおぉ!!」
「静かにしろ、佐藤。食事中には叫ばない、これ基本だろ」
軽く叩いて、年中ギア全快の佐藤をクールダウンさせていく。
基本モノに弱い男だ。器に具を載せれば、瞬間冷凍のごとく冷めていく佐藤
ある意味扱いやすい男ではある。
現在、喧嘩開始から数十分後
結果は誰もが予想できる須藤の勝利により幕は閉じ、今は三人仲良く
コタツを囲み、鍋を再開し味わっている所であった。
鍋はキムチ鍋でほどよいとろみと、見ているだけで温まりそうな真っ赤な汁
その中には白菜やらきのこ類が浸されて、美味そうな湯気を立ち上らせている。
俺は基本鍋の番をしながら、佐藤は学校の勢いそのままに途絶えることなく話題を
俺達に向け提供、それを冷静に須藤が突っ込む。
そんな時間が過ぎていく、他愛もないけれどなぜか、心地のよい時間
ふと、熱すぎる白菜を口にいれ悪戦苦闘している佐藤がポツリと言葉を洩らす。
「……今思えば、よくよく考えると凄いメンバーで飯食ってるよな俺達。
まぁ17歳先生である伝馬は良いとして、須藤なんかとこうやって飯食う事になるとは
思いもしなかったな」
「それはこっちの台詞だぁぁ。佐藤は偶然と考えたとしてもぉ、天敵であるぅ伝馬とは
同じ釜の飯を食う事になるとは、思いもよらないぃ出来事だぁ」
「言われてみれば、そうだよな……」
俺達三人は昔を思い返すように一人、一人言葉を述べていく。
出会いとはきっかけ……
そんな単純なものから始まると誰かが言ったもので、俺たちの出会いは
正にそんな感じだったのだろう。
飛鳥の親衛隊に入っている須藤はあの事件以来から大分状況が変わったのだが
その後の俺、佐藤、須藤の三人がこんな風に一緒に飯を食べるくらいの仲になったのは
偶然、いつの間にかそうなっていたとしか言いようがない状態であった。
先生だけれど、同じ年である俺、伝馬和弥
フルネーム不詳、地味キャラ一直線。ツッコミが唯一の武器だけれど
なぜか俺達と話が合う佐藤(仮名)
飛鳥親衛隊会長、未だに飛鳥関係ではライバル視されてはいるが
中々気さくな、力持ち須藤太郎
あからさまにでこぼこな三人組、例えるならズッ○ケ三人組のような
一緒にいることが自分たちでもあまりにも可笑しい集団
でもこれが俺達のペース、誰にも分かることのない
俺達にしか理解することの出来ない独特な波長……
目に見えない何かがこの三人を引き合わせてくれたのだろう。
アメリカに行った後の俺は男性の友と呼べる人間は2人、蓮と恭介しかいなかった。
狭い視界。建前ではない人との付き合い、特に同年代の人間との付き合い
慣れていなかった、踏み込めなかった俺を自然に引き込んでくれた佐藤、須藤
俺は大事にしなくてはならないと思う。こいつ達を、こいつ達と過ごす時間を
何もしない、流れ行くだけの時間。昔は無駄だと感じていたこの時
これは今の俺にとっては、かけがえのない宝石なのだから……
……しかし、こんな俺達でも
「次はお待ちかねの豚肉いれるぞ」
「おっ!」
「何ぃ!」
闘うべき時は来る
「………」
豚肉が鍋の中に投入され、蓋が閉じられた瞬間
さっきまでやかましく喋っていたこの空間が、誰も人がいないかのごとく静かになる。
理由は単純、年頃の飢えている男達が一番求めるもの
それはたんぱく質、いわゆる肉!この場では豚肉!
数少ない豚肉は貴重な栄養源、つうか男性である俺から言わせて見れば
嫌いな人は希少価値の最重要物資。
特にこの場にいる佐藤、須藤はスポーツ系の部活に入っているゆえ
喉から出るほど欲しいものに決まっているだろう。
「豚、豚、豚、豚、ぶた、ぶた、ぶた、ブタ、ブタ、ブタ……」
「肉、肉、肉、肉、肉、にく、にく、にく、ニク、ニク、ニク……」
視線を向けるとそこには、呪詛のごとく呟く2人の姿が……
途中からカタコトになっていき、怖い事この上ない。
「伝馬、この豚肉は早い者勝ちだよな?取った分だけ食える、平等に分けるなんて
そんな女々しいこと考えてないよなっ!」
「当たり前だろうぅぅ、佐藤!この世は弱肉強食っ!欲しかったら、意地でもぉ
奪い取るっ!そうだよなぁぁ」
血走った目でこちらに目線を向けられる佐藤&須藤
物事が一致するとシンクロ率120%越えなど遥かに上回る連携を見せる2人
他の物事にこれを生かせないものかと、教師なりに心で思うも
このままでは、間違いなくこの場は血の色で染まると判断した俺は
クールに物事を解決するため、口を開き
「おい、おい落ち着け2人とも、完全に舞い上がりすぎだ。感情に任せて行動しても
いいことばかりじゃない。テンションに流されず、クールに……」
そこまで言った所で、ふと変な視線を感じたので
2人の方向へと視線を向ける。
そこには飽きれた顔をした佐藤と須藤の姿が……
「何を学校だからって先生みたいなことを……それにその台詞、つよ○すですか?
どこの対馬○オですか、ギャルゲーの主人公ですか!ヘタレモード全開じゃねぇか」
「まぁ、伝馬は敵前逃亡ってことでぇ良いんじゃないかぁぁ?ヘタレは置いといてぇぇ」
あからさまな挑発……
明らかに乗って来いと言わんばかりの言葉
学校だと思って少し先生モードになっていたが、それはこいつらの前では
通用しないらしい。とは言え、何か来るものが無かったといえば嘘にはなる。
負けず嫌いなのは、目の前に2人だけではないのだ。
「……乗ってやるぜ。俺をギャルゲーの主人公と言ったこと後悔させてやる」
「おぉ、早くも熱血モードかっ!でも、ギャルゲーの主人公ってのは否定しないぜ!」
「それはぁぁ、俺も同意だっ!」
三人の体がコタツから少し離れる、もう全員が臨戦態勢に入った証拠だ。
皆の右手には割り箸は握られ、お互いに視線を送る。
時計が長針がてっぺんを指し、予定された時間が指し示される。
「いくぞ……」
「おうよ、いつでも来いよ。そこにある豚肉、俺の腹の中におさめてやんよ!」
「豚肉ぅぅ……逃しはしないっ!」
俺の鍋つかみに包まれた左手が鍋のへと持っていかれる。
戦いの始まりまで、後5、4、3、2、1……
「「「せぇ〜のっ!!」」」
戦いの火蓋が切って落とされた
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