先生は17歳!?(73/100)縦書き表示RDF


彼女との出会い……
彼女の演奏は俺を魅了し、失った大事な何かを思いだせる
俺は話し掛けることすら出来ない存在……
そんなある日、ついに俺と彼女は交錯する……

先生は17歳!?
作:takuto



第72話取り戻した感情、生まれたこの思い


ピアノを奏でる彼女と出会ったあの日……
あの日から僕の日常は少しずつではあるが、変化し始めていたのかもしれない

その日から毎日のように俺はピアノの旋律に誘われて、音楽室へ赴く日々が続いた。
音も立てることもなく、彼女に話し掛ける訳もなく
ただ呆然と立ち尽くして、ピアノの音色に耳の傾けるそんな時間。
これだけ聞けば、変な人物……はたまたストーカと思われても仕方が無い行動を
今思えば、俺は取っていた。それにも関わらず、なぜかピアノを奏でる彼女は
俺の存在を気づいていないのか、一瞬すらも視線を合わせる事もないまま
ピアノを一心不乱に彼女は弾き続けていた。

目を奪われる……その言葉通りに、俺は気づかない内に彼女の演奏に魅了されていた。
別段、ピアノ演奏を見たのが始めて言う訳ではない。
この時の俺は、上の業界での付き合いの関係でピアノコンクール、オーケストラなど
その手のものは飽きるほど見せられていた筈だった。
しかし、彼女の演奏はピアノを弾いたこともない俺から見ても
かなりのレベルではあったと言え、金を払って見せられたトッププロと比べれば
明らかに拙い……それなのに、彼女の演奏は俺の心を捕らえて離さなかった。

何が……何が違う?

この疑問が毎日のように音楽室に足を運ぶ、大きな原因になっていたのだろう。
プロと彼女の違い……それを追い求めるように俺は毎日、演奏を聞き続けていた。
それにもかかわらず、疑問は日に日に深まっていくばかり……
まるで麻薬のように彼女の演奏を欲し、見えない何かを求め続ける自分がそこにはいた。
いつの間にか俺の日常の中に、彼女の存在は日を追うごとに大きくなっていく。
彼女に会いたい、話をしてみたい……
今思えば、そんな感情までもが己の心の内に、生まれていたのかもしれなかった。

しかし、その時の俺はその感情を認める事はできなかった。
そんな感情が生まれることすら、俺には許されてはいなかった。
俺にはそんな資格すらない存在……俺は感情を持たない、嫌われた存在だったから
だから、自分から話しかけることなど、することもできずに
ただその姿を眺めることしか、俺には出来なかったのだ。
プロにすらない、この演奏の魅力の理由を追い求めることによって
その先に見える何かを、俺にとって失ってしまった、大事な何かを取り戻せる……
そう分かっていたとしても、俺は何も自分から行動を起す事はなかった。
出来る訳がなかったのだ……

だから俺はこの後起きる、己の……周りの人達の運命すらも変えてしまった
この重要な変換点となる出会いがあることなど、気づいているはずもなかったのだった。


それは、俺が昼休憩中いつものように一人、カフェテリアで昼食を取っている時の事
俺の周辺数メートルのテーブルは誰も人など居らず、ぽっかりと空いた空間のように
穴が開き、周りからは「サイボーグ」「アンドロイド」など
俺を非難する言葉が聞こえていた。そう、その当時の俺にしてはいつも通りの日常……
今日も研究室で課題に追われ、途中にまたあのピアノを聴きに行く。
そんな変わり映えのない風景が描かれるのだろう、そう思っていた、その時……


「すいません〜。隣、座ってもいいですか?」


俺の耳元に女性の声が聞こえてきた。
最初は信じられなかった。俺はこの学園では有名すぎるくらいの嫌われ者
いつも汚いものでも見るような視線、言葉を浴び続け
話しかけてくることなど皆無に等しい出来事であった。
だけれど、この声は間違いなく俺に向けられた言葉……
俺はおそるおそる、それでいてゆっくりと視線を声の聞こえた方向へと顔を向ける。


「……あっ、こんにちわ♪」


そこにいたのは、美人と言う言葉では片付けられないほどの綺麗な女性。
今一度、俺に話しかけたのが間違えなのでは?と思うくらいの信じられないほどの美人。
でも、俺はその人の顔を見た事があった。いや、見た事があったと言う言葉では
済まされない……なぜなら、この女性は間違えようの無い、毎日のように眺めていた横顔


「伝馬、和弥……くんだよね?やっと見つけたよ、お話したかったんだ♪」


ピアノを奏でる彼女、その人が目の前に立っていたのだから……


周りの空気が、視線が変わった……
人々の視線がほとんどといって良いほど、こちらに向かってきているのが分かる。
一瞬、自分の中で懐かしささえ憶える、喜という感情を感じながらも
それを俺は瞬間的に切り捨てた。なぜ俺に話しかけてきたのか、そんな疑問が頭の中に
浮かぶも、誰とは言え、伝馬和弥という人物に関わる事は
どんな事情があったとしても、この学園内では良い事ではない。
それは周りの人々よりも俺自身、それを身を持ってよく知っているから……
だから、この地で初めて出来た友達も俺は突き放し、俺から遠ざけた。
彼女に迷惑を、俺の所為で無限にある可能性を失わないためにも……
それだからこそ、この後に俺が取る行動は一つ……


「何かは知らないが、あんたなんかと話す事はない」


相手に嫌われるくらいに冷たく、蔑んだ言葉を発すること
もう、俺に近づかないようにするために、嫌な思いをするのは俺一人で十分だから
周りに影響を与えないために、俺は名も知らぬ女性に向け言葉を放つ。
だけれど、彼女はその場から逃げる事などなく、フッと笑いを浮かべて


「どうしたの?顔が引きつってるよ……伝馬和弥くんは悪口は慣れてないのかな」
「……えっ?」


信じられない、予想外すぎる言葉が彼女から俺に向け、返された。
俺はその言葉に一瞬、冷静に保っていた顔が崩れる。


「そっ、そんなことは―――」
「嘘。私にはわかるよ、和弥くん。私のために無理してる。私を守るために、傷付けない
ようにするために、憎まれ役をわざと演じてる。すべて自分ひとりで抱え込んでいる」


俺の言葉を遮るように、間髪なく放たれた彼女の言葉に
頭の中は一瞬でパニック状態へと陥っていった。
……心の内が読まれている?
今までにない事態が、対処仕様のない状況が更に俺の混乱を加速させた。


「ちっ、違う!俺はそんな人間じゃない!」


子供のように、冷静さなどまったくない、感情に任せて放たれた言葉
その場から立ち上がり、俺は睨むような視線を彼女へと向ける。
今まで作り上げてきた伝馬和弥という仮面が、ゆっくりと剥がされていくような
そんな妙な感覚が俺を襲う。


「なんで俺に関わろうとする?俺に関わった所でいい事なんて何もないのに!
あんたは分かっているのか?俺と関われば、同じ目に……無視や非難の視線を
辛い目に遭うかもしれないんだぞ!」


心の内、本音の思いが言葉として洩れてくる。
彼女が俺に関わる事で、メリットなど何一つとして無いはずなのに
なぜ、俺なんかと関わりを持とうとするのか、訳が分からなかった。
自分に近づいてくる人間はすべて、俺の持つ頭脳にしか興味がなかった。
俺の持つ才能にしか、目を向けてくれることはなく
誰一人として俺を、伝馬和弥個人を見てくれる人などいなかった。
それだけにしか俺の価値はないのだと、俺は一人、思い込んでいた。
だからなのだろうか……こんな環境に慣れてしまった自分だからこそ


「単純だよ。私は和弥くん自身に興味があったから、和弥くんとお話がして見たかったから♪
和弥くんが私のピアノの演奏を初めて聞いてくれたあの時から、ずっと思ってた……
それだけの理由じゃ、ダメかな?」


そんなあまりにも単純な、理論も何もない彼女の言葉に
俺は脳内でがんじがらめになっていた、思考と言う名の糸が
いとも簡単に解けていくのを、俺は実感していた。

……俺は今まで何をそんなに悩んでいたのだろうか

彼女は俺に関わりを持つことを単純に己の本能のまま
何も後先など考える事もなく、自分が良いと思うことを忠実に行っていた。
それを俺は一瞬、あまりにも無謀……言葉は悪いが馬鹿な行動なのだと
反射的に頭の中に思い込んでしまっている自分がいた。
でも、昔の自分を思い出す……
昔の俺は、親友である蓮と初めて会ったときや、いじめを解決しようとした時
はたまた妹の泉が病気で倒れたと電話を受けたとき……
それ以外にも数えられないほどの、俺は馬鹿な、無茶な行動を取り続けていた。
まさしく目の前いる彼女のように、昔の俺は己の本能に、自分の正直な気持ちに
応える様にして、生きてきたはずだった。
それが俺の持つ、一つの持ち味でもあったはずなのに……

……俺はいつの間にか変わってしまったんだ?

周りの目を気にしすぎて、結果だけを追い求めて
自分の事など度外視にして、一番大事な何かを俺はいつの間にか
どっかに投げ捨ててしまっていた、忘れ去ってしまっていたのだ。

……だからこそ、彼女のピアノに魅力を感じていたのは必然

彼女の演奏には、俺の失ってしまった大切な何かが沢山含まれているのだから。
彼女はいつも本当に楽しいそうに笑顔でピアノを弾いている。
それは決して俺のように結果や周りの人間に左右されるものには与えられない
純粋なこの思い……今から、俺がそれを取り戻す事が出来るのか、分からない
それでも、俺は昔感じたあの時の思いを感じたい、忘れたくはない。
失ってしまったもの、それは……


―――何事にも楽しむと言う純粋な思い、好奇心


それを彼女は、昔の俺は持っていた。目に見えない、それだけれど大切な気持ち。
決して現在の俺や結果に、金に固着する人間には持つことの出来ない純粋な気持ち。
そして、その事に気づいた俺は何か、何かせずにはいられなかった。
今の自分から、少しでも……半歩でもいいから、自分を変えたかった。
だから、俺はあの時には遠くで眺める事しか出なかった、ピアノを奏でる彼女との
近くて、遠いこの距離を一歩でも俺は近づけたかった。
視線を正面に向けると、視界に映るのは彼女の姿
頭の中に浮かび上がるのは、一つの楽器……


「……そう言えば、自己紹介してなかったよな。一応、俺の名前は伝馬和弥」


何の脈絡もない、唐突に俺は腕を伸ばし、手を差し出した。
コミニュケーション……まずは簡単なことから、俺は取り戻していく。
ただ、彼女に向けて言葉を送るだけで、ドキドキしている自分。
久しぶり事か、手が震えていた。情けない……
そんないきなりの自己紹介に、最初彼女は驚いた顔を浮かべてはいたが


「いきなりの自己紹介、それに先とは打って変わっての笑顔……和弥くんって面白いね♪
それじゃあ、私の名前は一条麻衣、よろしくね♪」


麻衣も自分の片手を俺の手に重ね合わせるように伸ばし、軽い握手を交わす。
久しぶりの、人と言葉を送り合うコミニュケーション
しかし、これだけではまだ半歩すら届いてはいない……
もっと麻衣さんと関わる何かが欲しかった、一歩でも、半歩でも近づく何かが
そして、俺は……


「それと唐突だけれど、俺に……俺にピアノを教えてくれないか?」


麻衣さんに向け、俺はめずらしく真剣な面持ちで言葉を放った。

楽しむという失ってしまった大事な感情を俺は取り戻し
俺は、この時から生まれていたまだ小さな、本人すら気づかない気持ちが生まれていた。

……それは、愛情

初めて生まれた、一条麻衣に対するまだ小さな恋心であった。

この出来事は、一条麻衣と初めて出会ったあの日から
自分でも気づかないほど、少しずつ変わっていた俺の日常を大きく変換する出来事。
間違いなく俺はこの時、先に見える未来に一寸の曇りすら
見えるわけがない、そう思っていたはずなのに……


研究室
その部屋の奥に置かれた高級そうなイスに座りながら
マーティン教授は、ある一枚の写真をジッと一言も喋る事もなく眺めていた。
写真に写る人物はピアノを弾く可憐な女性……


『……残念だよ、伝馬くん。君なら私の思うがままに動く、最高の操り人形となっていた
はずなのに……感情は必要のないものだと教えたはずなのに……変わってしまったね。
この女と出会ってしまって……』


運命のあの日へと確実に歯車は止まることなく、回っていたのだった





なんとか、完了……あと少しだ!がんばれ俺!






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