先生は17歳!?(72/100)縦書き表示RDF



恭介は願う、そして真実を伝える
彼女達が彼を支える存在になってくれることを
彼の力になってくれることを信じて……
和弥は夢の中であの時の情景を思い出す
あの人との出会い、彼女との初めて出会った日のことを……

先生は17歳!?
作:takuto



第71話彼女との出会い


雨……

ある病院の一室、聞こえてくる雨音、鳴り響く雷音にあの事件を思わせるような
天候を背に感じながらも僕、東恭介はベットで眠る、我が親友である
伝馬和弥に視線を向けていた。


「……あれだけ無理はするなと忠告したはずなんですがね」


眠る和弥に向け、聞こえるはずもない愚痴がこぼれ出してくる。
ほんの数時間前の扇山高校学園祭……
彼は僕の目の前で宣言通り、まさに奇跡のようなピアノ演奏をやってのけた。
しかし、予想通りではあったが、体にガタが来ていた彼は最後まで持つことはなく
演奏終了とともに、体育館の床へと体を倒した。


「僕が運良く、医療関係に知り合いが多いから迅速な行動が取れましたが……もし、何か
遭ったらどうするつもりだったのですかね、和弥くんは……」


再び洩れてくる半場文句のような愚痴
自分の中でこうなってしまうことは予測の段階で気付いていたのに
彼に愚痴を溢さずにはいられない僕がそこにいた。
現在、僕達2人がいる場所は近辺で最も有名な私立病院の一室
この業界で少しは名の知れた人物だからこそ用意できた病室。
この時ほど、自分が医療関係の仕事に関わっていた事に喜びを感じた事はない。


「それにしても、和弥くん。あなたは罪作りな人だ。あれだけの人々に愛されている
なんて……一種の羨望と言ってもいいのかも知れない」


そう言って僕が視線を向けた先は病室の扉……その先に待っている人達
僕に病院への同行を頼み込んだ少女達、先生達の姿が思い浮かぶ。
実の所、和弥の病状は命に関わるほど危ない状態ではない。僕が大事を取って
救急車を呼んだだけであって、それほど心配する状態ではないのだ。
それを僕は彼女達に説明はしたのだが……


「まさかあそこまで頑なに、誰一人として帰ろうとしないとは思いませんでしたよ」


そう、彼女達は何を言ったとしてもその場から離れようとはしなかった。
和弥の姿が目を覚ますまで、そう言って誰一人として僕の言う事など聞きはしない。
それほどまで和弥という人物は皆に愛され、心配される対象
でもそれだけではなく、もう一つの要因が彼女達をここに留めている理由になっていることも
僕は推測ながらわかってはいた。それは数年間止まってしまった時
忘れ去られたはずの和弥の……


「和弥くんの……記憶」


それを彼女達、そして僕までもが気になっている大きな一つの要因。
和弥がピアノを弾いた、その行為は僕達からすれば劇的過ぎる変化だった。
彼が記憶を取り戻している?……その可能性はとても高い。
しかし、それは予想の段階であって、未だ目を閉じている和弥から発せられた言葉は
何一つ聞いてはいない。今、僕に出来ることは和弥の目覚めを待つ。
それとももう一つ、やらなければいけない事があった。


「それじゃあ、和弥くん。ちょっと一仕事終わらせてきますよ」


僕は椅子から立ち上がり、病室の扉へと歩を進める。
今、僕の出来ること……それは扉の向こうで待っている彼女達
少なからずも、和弥の過去に関して知っているであろう彼女達に向けて
僕が知っているかぎりの彼の過去についての情報を伝えること。


「もう、隠す必要はないですよね……もう、留めておく必要はないですよね」


彼女達は彼を軽蔑などはしない。彼女達は彼を拒んだりなどしない。
僕は彼女達を信頼しているからこそ、和弥の力となってくれるからこそ
この事実を打ち明ける。

彼の傷跡を包み込んでくれる存在となってくれると信じているから……

扉に手が掛かり、一度振り返るように和弥が眠る方向へと視線を向ける。
そこにはまだ辛そうではあるが、少し穏やかな顔をした和弥の姿が見て取れる。


「本当にどんな夢を見ているんだか……」


最後まで愚痴のような独り言を洩らしながら、僕は病室の扉を開き、一歩を踏み出した。
この一歩が数年間呪縛を取り払う、大いなる一歩である事を切に願いながら……



………彼女との、一条麻衣との出会いを語り始めるには
俺、伝馬和弥がアメリカ留学することになった所から、物語は始まる。

小学5年生の時。俺はマーティン教授にその才能を見出されて
この年齢でありながら、異国の地アメリカへと一人旅立つ事になった。
家族、そして友達を日本という地に残して……
正直な話、日本から離れる事なんて、いくらあの時の年齢が幼かったとは言え
思い切った行動に出たものだと、昔の自分に感心する。
この日本という地に未練などがなかったという訳ではなく、飛び立つ最後の日まで
悩んでいた事は変えようのない事実であった。
しかし、俺は自分の可能性を追求する、周りの期待に応えるほうを選んだ。
自分の持つ才能、限界を知るために……それが人のために、周りのためになると思い
それを叶える事ができるのが、アメリカと言う地であると俺は信じて
求めるものがそこにあると期待に胸を膨らませ、異国へと足を踏み入れた。

………そして、俺は現実を知った

学園には最新鋭の機器、場所、機会が取り揃えてあり
まさしく俺の求めたものがそこにはあった。
何不自由する事ない、理想的な空間……結果さえ出し続ければ俺には無限の可能性がある。
そう思っていた、思わずにはいられなかった。
でも、俺は時が経つにつれ、人間の持つ黒く、それでいて重い感情が
見え隠れするようになっていった。
結果を、名を上げるごとに徐々に感じつつある妬みと言う名の
周りから浴びせられる耐え切れないほどの負の感情……
期待通りに活躍する事で留まる事の知らない、期待と言う名の大きすぎる
それでいて、周りの人間から感じる黒く、重い感情……
俺が見据えた先には、自分の予想を裏切る世界しか広がってはいなかった。
生まれる感情は失望という先の見えない空っぽな思い。
追い討ちを掛けるかのごとく、はたまた考えさせる時間を取らせない様にするかのように
課題を教授は俺に与え続け、人との関わりを、接触を完全に俺は失い……

―――サイボーグ、アンドロイド

そう周りから呼ばれるようになっていた。感情のない、人形のような人間……
まるで、マーティン教授と言う人間に操作させられている操り人形のような
感情を表す事ない世界的に天才と呼ばれるほどの頭脳を持った
人間へと変わっていったのだった。


そんな日々が数年と言う時が過ぎ去っていき
今日も、今日とて与えられた課題を片手に研究室で
数式と対峙していたある日……


「……っん?」


耳元にピアノの旋律が聞こえてきた。
流れるような、それでいて落ち着くような音……
ピアノの音が聞こえてくると言う事は、この近くに音楽室があるため
別段不思議な事ではなく、気にする事でもないのだが……
俺の足はいつの間にか研究室から外を向いており
音の聞こえる方向へと歩を進めている自分がいた。
今までに感じた事のない感情……いや、忘れ去っていたこの思い
それは好奇心と言う、忘れ去られていた感情。
それに赴くままに、俺は足を一歩、一歩音の聞こえる方へと進めていく。
音は徐々に大きくなっていき、目の前には音楽室の扉が……
俺はその扉を音も立てることもなく開き、中をゆっくりと覗いた。
そこには少し自分より年上気味の女性が一人、ガラス窓から洩れる太陽の光を浴びせられて
神々しさを感じる女性が一人、静かにピアノを奏でていた。

俺は動く事すら出来ず、その場で一言も言葉を発することなく佇んでいる。
感じた事ない、どう表現したらいいのか分からない感情……
ただ呆然と俺はピアノを弾く女性に目を奪われていたのだった。


……これが始めて出会い、俺の運命を変えた一条麻衣との出会いであった





更新……完了
なんとか年末更新できました。めっちゃ短いけれど……和弥の過去編へと続いていきます。年内完結目標だったのにな……感想、評価お待ちしております!ちょっとしたことでもいいのでよろしくお願いします!!






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