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第48話尾行そして謎の女性
夏休みも終盤へと近づく、ある蒸し暑い日。
外では蝉の鳴き声も少なくなり、蒸し暑さの中にも
ちょっとした夏の終わりを感じさせる涼しい風が風鈴の音として表現される。
そんな中、今日も、今日とて俺の家にはもう毎度の事ながら
いつもの5人衆が全員集合しており、いや今日は用事があるとかで芹澤はいないか……
とは言え、今日も変わらずありきたりでワンパターンな一日を過ごす。
そうなるものだと思っていたのだが……

トゥルルルルルル!!!

俺の家に電話音が鳴り響く。
5人と雑談をしていた俺は、音に気づいて小走りになりながら
受話器の元へと急いだ。


「はい、伝馬ですけれど……」


その瞬間、信じられないほどの寒気が俺を襲った。


「誰と話してるだろう、カズちゃん」
「電話取ってから、もう30分……和弥にしては長いわね」


飛鳥と蓮の二人は電話の置いてある廊下から和弥に気づかれない位置で
電話から一向に帰ってこない和弥の様子を観察していた。


「皆さんダメですよ、盗み聞きなんて!そんなことはしてはいけません!!」
「まぁ、そう言っている奏が一番身を乗り出して、聞き耳を立てているのだがな……」


飛鳥と蓮を注意する奏に冷静なツッコミをいれる朝倉。
それを言い返そうとするものの朝倉の言ったことがあまりにも的確なため
下に視線を向けて顔を真っ赤にするしかできない奏。
結局のところ、4人とも和弥の様子が気になるのは確かな事実のようだ。
このような状況の中、当の本人である伝馬和弥はと言うと……


「カズちゃん……なんか尋常じゃない汗が出てるよぉ」
「確かに。顔も何か真っ青な表情しているし……」


飛鳥、蓮が指摘するとおり電話しながら和弥はこの蒸し暑い中とはいえ
信じられないほどの汗を出しており、顔も人生が終わってしまったような
絶望的な表情をしていて、明らかに様子がおかしい。
それから数分後……
やっとのことで和弥は受話器を置き、約40分と言う長い電話は終わりを告げる。
その後は今までに見た事のないスピードで外に出かけるであろう支度の準備をし
4人向けて、「ちょっと外に出てくる」と一言残し、外へと出て行った。
その場にいた4人は何を聞くわけでもなく、ただその様子を眺めることしかできず
和弥が外に出るまで一人も言葉を発することができなかった。
そして、家から和弥が出てきっちり3秒後……
家に残された4人全員、一寸の狂いもなく皆、こう叫んだ。


「「「「跡をつけよう!!!」」」」


……と


そうと決まれば行動は早いもので、すぐに準備を整えて和弥追跡のため外へ……
まだ和弥が外に出てから、あまり時間が経っていなかったのが
幸を奏し、簡単に発見することに成功する4人。


「それにしても和弥さん。妙におどおどしてるように見えます」
「何かに恐れているような感じにも見えるな」


和弥を発見し、ブロック塀の影から和弥の行動を眺めながら
そのような感想を述べる奏と朝倉。
確かに今の和弥はどよ〜んとした雰囲気が周りに感じられ、妙にダルさ気で
歩く足取りも何処となく……重い。


「こんなに暗いカズちゃん、めったに無いことだよぉ。そこまでして
何処へ行く必要があるのかなぁ……」
「あのめんどくさがり屋の和弥がこうまでして自分から動くくらいだから、重要なことだとは
思うけれど……この先は商店街よね?何か買うものでもあるのかしら」


その和弥の様子を見て、心配そうな視線を飛鳥が向ける中
冷静に和弥の様子を眺め、考察する蓮。
もう気分は完全に犯人を尾行する刑事や名探偵のような感じで
時々後ろに視線を向ける和弥に対しても、即座の対応で電柱などの物陰に
スピーディに隠れる様は本物顔負けである。
まぁ、傍から見ればストーカーとも取れそうな感じではあるが……
そのまま和弥は跡を付けられているとも知らず、ゆっくりと歩き続けて
蓮の予想通り商店街の中へと入っていく。
そして、キョロキョロと視線を左右に行き来させながら商店街の中を
ゆっくり進む和弥が突然、止まった……


「ここに何かあるんでしょうか……」


周りの景色を眺めながら、奏は言うもののこれと言ったものは……ない。
あるのは果物屋と服屋とコンビニのみ。
なぜこんなところで?そんな疑問が浮かび上がる中


「あっ、誰かと話をしている」


そんな朝倉の言葉により、一斉に皆が和弥のほうに視線を向ける。
全員、目を凝らしながらジッと見ると、そこには……


俺は商店街のど真ん中で立ち止まりながら、己の選択が間違っていることを
まるっきり逆であったことを思い知らされていた。
駅に向かういつもとは違う道を使って、あえて時間をかけて行こうなどと
考えたのが馬鹿であった。
少しでもあの人に逆らおうなどと思ったのがいけなかった……
だが、今頃後悔してもすべてがもう遅い。
どうにかして言い訳を考えるものの、頭の中には違うことがたくさん溢れてきて
マトモな思考状態にならない。
あたりは商店街というのに妙に静かで、人の気配がない。
寒気すら感じられ、風に乗って妙な物音(飛鳥たちの話し声)まで聞こえてくる。


「……和弥」
「はっ、はいぃ!!」


名前を呼ばれただけで声が裏返る俺。超なさけない……
でも、仕方が無いのだ。これはどうにもならない宿命みたいなものなのだから。


「私に逆らおうなんて、よく考えたわね」
「そっ、そんな……めっそうもないことは―――」
「黙りなさい。言い訳はいらないわ」


あっさりとなんとかして言い訳を言おうとする俺の考えを切り捨てられ
どうすることも出来ず、ただ沈黙し待つことしか出来ない俺。
何もすることなく数秒の時が過ぎる。
そして、ゆっくりとあの人が口を開き……


「……デート。私とデートをしてくれたら許してあげる」


と俺に向かって言った。

………えっ?どういうこと?

頭がうまく状況を理解することができない。
いや、分かってはいるんだが、さっき言った事を脳内があった事として認めない
認めようとしない。正直な話、それは遠慮願いたいと言ういうか、絶対嫌なお願いである。
しかし、正面から向けられるすさまじいオーラが俺の意思をグラつかせ
口を開き、OKの二文字を発しそうになる。
ここは一時の恥かそれともコンマ何パーセントの可能性で信じて立ち向かうか……
今、俺はそんな選択を迫られているようだ。数秒間の思考……
そして、俺は当然のごとく……生きるほうを選んだ。


「なっ……なんなのかなぁ!あれは!?」


飛鳥は和弥の様子を眺めながら、握りこぶしでブロック塀を叩く。


「どういうことなのかなぁ!?なんでカズちゃん手なんか握ってるのかなぁ!!」
「ちょっと落ち着きなさい、飛鳥。気持ちは分かるけれど今は落ち着いて!」
「蓮さんの言うとおりですよ。和弥さんに気づかれてしまいます!」
「……二人とも飛鳥を抑えるのはいいが、顔……怖いぞ」


暴れる飛鳥をなんとか二人掛りで抑える蓮と奏。
とは言え、朝倉の指摘どおり二人も大分頭にきているのか
普段は見せることの出来ない般若のような顔をしていて、マトモに直視できない。
そんな中、なんとか冷静さを保っている朝倉が一人
和弥の様子を眺めていた。
今、和弥は飛鳥達が言っている通り女性と手を繋いで商店街を歩いている。
その前に何かを話している様だったが、遠いため何も聞こえはせず
気づいたら、このような状態となっていたのだった。
女性の顔はよく見えないが、雰囲気はそれなりに若そうな感じで
とても嬉しそうな様子で和弥と歩いている。
傍から見ればカップルが仲良く手を繋いでるようにも見えなくないが……


「なぜあんなに伝馬氏はテンションが低いのだろうか?」


そんな疑問を朝倉は持たずにはいられなかった。
まるで、今の和弥と謎の女性は陰と陽、黒と白と言った
誰が見てもハッキリとわかる鮮やかな感情のコントラストをなしていた。
このことが頭に引っかかって、朝倉自身なんとか冷静さを保っていると言ってもいいだろう。
この疑問を伝えるため後ろにいる3人の方へ体を向けるものの


「ふふふっ……ちょっと調子に乗ってるカズちゃんには少し痛い目に遭ってもらわないと
いけないよねぇ。どんなのがいいかなぁ?かなぁ?」
「飛鳥、そんな生ぬるいことじゃダメよ。もう、そんなことを考えさせないほどの
強力な衝撃を与えないと……こんな馬鹿なことをしないためにも」
「二人ともそんなことしちゃいけませんよ。仮にも先生ですよ?ここは我慢して
軽めに屋上に一日はりつけとかにしておきましょうよ」


可愛い顔して、真顔で和弥を痛めつける計画を練っている3人
すまないが奏……それは軽くないよ。
どうにかしてこのことを3人に伝えたいものの、話しかけるきっかけを
つかめずに朝倉が途方に暮れていると……


「……あっ!伝馬氏が店の中に入っていった」
「「「……えっ!!」」」


さっきまで作戦会議をしていた3人が朝倉の声に反応して
立ち上がり、視線を和弥の方向へと向ける。
朝倉の言うとおり、和弥はその手を繋いでる女性と一緒に店の中へと入っていく姿が……
数秒後、小走りになりながら二人も入った店の前に立つ
そして看板見るとそこには……『百華屋』と見慣れた文字が書いてあった。


「……はぁ」
「んっ?何よ、和弥。疲れた顔しちゃって、相変わらず体力ないわね」


水を飲みながら、上機嫌で俺に向けて説教してくる。
疲れているのはあなたのせいだ!と言いそうになるが、なんとかその思いを飲み込む。
デートを承諾して、手を繋ぎ、談笑しながら向かった場所はこの辺で一番有名な
飛鳥のママが経営している百華屋へと足を運んでいた。
ここに来ることは予想していたので、早々に飛鳥ママにあいさつをすませ
席に座り、注文したものをを待っているところである。


「そういえば一つ聞きたいことがあるんだが……いい?」
「どうしたのよ、いきなりかしこまっちゃって……何か聞きたいことでも?」


周りを世話しなく眺めながら、俺の言葉に応える。
相変わらず歳に合わず、好奇心旺盛なのか、店内にあるものをキョロキョロと眺めては
さわったり、手に持ったりと忙しいご様子だ。
そんなことは日常茶飯事なので俺はそのまま話し続ける。


「どうして今頃になってこっちに?それに一人で来たのか?」
「こっちには一人で来たわよ。あの人は忙しいって言っていたし……ここに来た理由?
和弥……そんなの理由があるわけないじゃない。なんたって私は―――」


そこで会話を突然、止める。
何かと思い、周りを眺めてみると、そこにはオレンジを基調とした制服を着た
ウェイトレスの姿が……


「お待たせいたしました。カップルイチゴサンデーです」


いつものイチゴサンデーよりも2倍は大きいイチゴサンデーが
俺たちの目の前に姿を現す。これが噂に聞くカップル限定のイチゴサンデーか……

…………んっ!?

テーブルに置かれてから数秒後、やっとのことで俺はこの事態の異変に気づく。


「おい!これって恋人同士限定の特別商品じゃないか!?」
「………それが?」


何も疑問に感じていないのか、それがどうしたのって感じで俺の言葉に応える。


「それが?じゃないでしょ!!俺たち恋人同士じゃないだろうが!!」
「でも、こうやって目の前にこれが存在している訳だけれど……だから無問題!」
「無問題じゃねぇぇぇ!!!」


笑顔で目の前のイチゴサンデーに感動しているのとは逆に、俺は今、この起きている
状況の異変に頭が混乱状態に陥っていた。
おかしい……他の店ならまだしも、この店にいる場合は絶対に恋人には
間違えられないはずなのに……
俺はふいに視線を厨房へと向ける。
すると厨房から飛鳥ママの姿が見え、不適に……笑った。

はっ、ハメラレタ……

視線を正面に向けると満面の笑顔がそこに……


「あれぇ〜?スプーンが一個しかないわ。和弥、これは二人で仲良く食べるしかないわね!」


これ以上俺を追い詰めるつもりかぁぁぁ!!
逃げようとするものの、もう目の前にはイチゴサンデーが乗ったスプーンが
俺の口元へと近づけられる。


「はいっ、和弥。あ〜ん」


可愛い声で言ってはいるが、明らかに食べろと言わんばかりのオーラが
俺にビシバシと伝わってくる。
ダメだ!食べてはダメだ!!と自分の中で念じるも、迫力のあるオーラと
今日一日の疲労感が襲い、口がゆっくりと開きイチゴサンデーが……

ガタン

椅子の倒れる音が俺の耳に響く。
それまで金縛りのように動けなかった体が突然に動き始め、寸での所で
イチゴサンデーを食べずにすんだ。
ナイス!椅子を倒した人!!
俺は頭の中でそう思いながら、その人物の方向へ視線を向けると……
なぜか、家で待っているはずの4人がそこに……それも般若のような顔で。


「かっ、カズちゃん……ちょっと調子に乗りすぎかなぁ?かなぁ?」
「和弥……ちょっとこっち来なさい。いいから早く」
「和弥さん。私だってこんなことしたくないんです。でも、でも……」
「伝馬氏……少しは私達の気持ち分かってもらわないとな」


こっ、怖い……マジで怖い!!
変なお化け屋敷やホラー映画なんかよりも怖い恐怖心が俺を襲ってくる。


「ちょっ……ちょっと!!何か勘違いしてるだろう、4人とも!!いいから俺の話を
聞いてくれって!この人はな……」


俺がこの現状を説明するために話しかけるものの、ジリジリと俺の距離を
狭めるだけで一切耳を傾けてはくれない。
ヤバイ……これはかなりヤバイ状況だ。
今までで間違いなく一番危険な立場に立たされているといっても過言ではないかもしれない。
背中が壁へとついた。もう逃げ場は……ない。
もう……ダメか!?
俺が諦めて目を閉じた、その瞬間


「ふふふふっ……アハハハハッ!!!」


子供ような愉快な笑い声が突然、店の中全体を包む。
あまりの大きな声のため、さっきまで戦闘モードだった4人も
何事かといつもの状況に戻っていた。


「ふふふっ……本当に面白そうな生活してるみたいね、和弥」


笑っていた人物は手で涙を拭き取りながら、俺に向けて言う。


「笑ってないで、俺の誤解を解いてくれ!!」


俺はこの状態をなんとかするために応援を要請する。


「わかったわよ、和弥。面白いもの見られたしね。ここら辺で終わりにしておきましょうか」


足を組みながら座っていた椅子から立ち上がり、俺たちのいる方向へと向かってくる。
その時、飛鳥と蓮は「……あっ」と何かに気づいたようなそんな言葉を発する。


「飛鳥ちゃんと蓮くん……今は蓮ちゃんかな?この二人は気づいたみたいだけど
自己紹介するわ。私の名前は伝馬百合てんまゆり。和弥の母やってるわ。よろしくね!」


歳相応とは言えないが子供っぽい満面の笑顔で
我が母は4人向けて、あいさつをしたのだった。
夏休み明けテスト、模試などいろいろと勉強が重なりへばっているtakutoです。なんとか書けました……そして、やっとのことで登場させることが出来ました。伝馬母!!これは次へと続いていきます。感想、評価お待ちしております!ちょっとしたことでもいいのでお願いします!!


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