第47話20歳になってから……
無理矢理連れて来られたこの朝倉企画の夏休み海旅行。
最初こそ朝倉の嫌がらせなどにより精神的、物理的ダメージを受けたものの
その後は本当に典型的すぎる海での遊び……スイカ割り、砂を使ったお城作りなど
定番の遊びや、お金持ちらしく船を出して優雅に釣りを楽しんだりと
俺を含め全員が十分すぎるくらいにこの旅行を楽しんでいた。
しかし、楽しい時間という物ほど早く過ぎ去っていく物で……
気づいたときには旅行、最後の夜を迎えていた。
「はぁ〜……もう今日でこの旅行も最終日だよぉ。もう少し居たかったなぁ」
信じられないくらい広い客間で夕食の準備を待っている時
飛鳥がボソリと言葉を放つ。
「飛鳥。気持ちは分かるけれどね……もう十分楽しんだでしょ?もうこれっきりって訳ではないんだから落ち込まないの!」
「そうですよ、飛鳥さん。また……また来年にでも同じように旅行しましょうよ。だから元気出してください」
子供のように少しふてくされている顔の飛鳥を蓮と奏がなだめている。
その様子を眺めながら、俺は、まるで子供とお母さんのようだな……
そんな思いがふと頭からわいてくる。
「そうだよね……うん!じゃあまた一緒に行こうね、旅行!」
蓮と奏の説得が効いたのか、いつもの笑顔に戻る飛鳥。
俺はそんな機嫌の戻った飛鳥の姿を見て、ホッと一息……
するとその瞬間、客間の扉がおもむろに開き
「さぁ、夕食が完成したぞ!食堂の方に集まってくれ」
「今日は旅行最終日だから、私とシェフが協力して作った自信作だよ♪」
朝倉と夕食作りを手伝っていた芹澤が夕食の完成を俺たちに知らせる。
「わぁ〜い!!ご飯だよぉ、ご飯!お腹すいてたんだぁ。ねぇ、ねぇ早く行こうよぉ」
「ちょっ、ちょっと飛鳥!!そんなに急がなくても、料理は逃げないわよ!!」
「そっ、そんな飛鳥さん……強く腕を引っ張られると、私バランスがぁ!!」
朝倉と芹澤の声を聞いた途端、飛鳥は目を輝かせ、客間を走り抜けて食堂へ一直線
その際に飛鳥の両手には蓮と奏の手が握られており、引きずられるように
二人も一緒に客間を抜けていった。
「相変わらず飛鳥は元気というか世話しないというか……」
溜息混じりに朝倉が食堂へ走り抜けていった飛鳥たちの方を見て、一言。
それには俺も同意見です……
「ほら、ほら♪二人ともそんな所でボーッとしてないで早く行こう♪飛鳥ちゃん、あんな調子だったら早く行かないと料理なくなっちゃうよ?」
たしかに芹澤の言うとおり、早く行かないと悲惨な目に合いそうだ……
俺は椅子から立ち上がり、朝倉&芹澤と一緒に食堂へと向かう。
この夏旅行、最後の晩餐……
旅行中、俺はこれといったアクシデントにも遭うこともなく平和に
いや、珍しく幸せな日々を過ごしてきていた。
俺はてっきり自分の不幸体質のせいでドえらい目にあうものだと自分で勝手に思っていた
のだが、何も起こる気配が感じられない。
逆に正直、これでいいのか?オチもなく、何にもおいしくないんだが……
という思いすら沸いてきてしまうほどである。
やっ、ヤバイ……ヤバイぞ、俺
いつの間にか不幸にならないことを不安がっている自分がいる。
俺は頭をブンブンと振り、邪念を払い
そうだよ!いつも不幸にあっている分のお返しだと思えばいいんだ。不安がることはない。
と自分に無理矢理言い聞かせて、食堂へと向かった。
しかし、嫌な予感ほど良くあたるもので、この俺の予感は奇しくも
見事に的中することとなる。
「…………」
俺は目の前の光景を理解できず、固まった状態でその様子を眺めている。
いや、理解したくないだけなのだろう。
「ねぇ!カズちゃん、私の話聞いてるのぉ〜!無視するなぁ〜」
今、俺に抱きついて胸元でグリグリしている飛鳥らしき物体もいないことにして欲しい。
つうか今見ている光景、全部なしってことにはならないだろうか……
ちょっと前まで不幸にならない自分が不安とか思っていた、自分を俺は殴りたい。
気づいたときにはもう手遅れ、不幸体質は健在のようだ。
「和弥!そんな飛鳥ばっかりズルイ!こっち来て!」
「何言ってるんれすか!和弥さんは私のところに来るんです!どうぞ遠慮せずにこちらに!」
「二人とも好き勝手いうんじゃない!!それにしてもこのワインはうまい……」
「あはは〜♪なんか目の前がぐるぐる回ってるよぉ〜」
それ以外も四人もまともな状況ではなさそうだ。
芹澤が特に壊れ具合が激しい……他の人には絶対見せられない状況だ。
ここまでの現状説明で、感のいい方は現状を飲み込めている人もいることだろう。
そう今、俺はこの5人の酔っ払い人間を目の前にして途方にくれていた。
なぜこのような事態になってしまったのか?
それは俺もいまだ分かっておらず、夕食後トイレに行き
帰ってきたらこの有様だったのである。
「とにかく……だ。執事の人を探さないと」
俺は目の前を見渡し、さっきまでそこにいたメイドさんや執事を探す……が
人っ子一人にいない……食堂には俺を含め酔っ払い5人しかこの場にいない。
どうした?何が起こっているんだ?
摩訶不思議なこの状況に頭を悩ませる俺。
すると、さっきまで慌てていて気づかなかったのか、テーブルの端に
なにか二つ折りにされた白い紙が一つ……俺はおそる、おそる
その折られた白い紙に近づき、ゆっくりと手に取り、開ける。
中には達筆な文字でこう書かれていた。
『景気づけにと思い、ワインをお出したのですがこれほど弱いものだと知らず
申し訳ありません。私達は緊急の用事が入ったため、この場から離れます。
後の処理は和弥様、お願いいたします。 セバスチャン』
セバスチャ――――――ン!!!
あなたはなんてことを……
とは言え、なんとか事情は飲み込めた。
孤立無援。この事態は一人で何とかしなければならないらしい。
とにかくどうにかして5人をベットヘと連れて行かないといけないのだが
こんな酔っ払い、どうやって操るのか……
「か〜ずちゃん!!つかまえたぁ〜」
「飛鳥またくっ付いて!!なら私も和弥に向かって〜、だ〜いぶ♪」
「二人ともズルイれす!私も和弥さんといちゃいちゃするぅ〜」
その声とともに、思考めぐらせている状態の俺の背中に
そして、右腕と左腕の両腕に何者かが乗りかかってくる。
おっ、重い……そんなこと死んでも言えんが
俺は視線を周囲に向けるとそこには真っ赤な顔をした飛鳥、蓮、奏の姿が……
芹澤はと言うとよほど酒に弱いのか、地べたで寝言を呟きながら
熟睡しておられる。
「おい、3人とも。人の体の上に乗りかかるのはどうかと―――」
「何?和弥。飛鳥が良くて私はダメだっていうの!!」
「イジメ……イジメなのれすか!和弥さん。泣いちゃいますよ……泣いてやるぅ!!」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるちゃい、うるちゃい、うるちゃい!!」
駄々をこねるように俺の背中、両腕の周りで、暴れる飛鳥、蓮、奏。
俺の話に聞く耳なしのご様子……
酔っ払いと言うものはいつも思うことなのだが、これほど厄介なものはない。
常に冷静沈着な蓮、奏コンビもお酒となれば、冷静さを失い
ただの駄々っ子と化してしまう。
飛鳥は……なぜかメロンパン大好き少女の怒り方に似ていたのは……気のせい?
「いつも、いつも文句ばっかり言って、少しは私の気持ち察してくれても
いいんじゃないのかな!昔からの鈍感な所は変わってないし……そんなどっかの
ラブコメの主人公じゃないんだからハッキリしなさいよ!」
いつもとは違い、舌足らずな喋り方ではなく、弾丸のごとく早口で
なぜか俺に向けて文句を言い続ける飛鳥。
それに同意し、「そうだ、そうだ!」と言葉を放つ蓮と奏。
俺……飛鳥達に何かしたってけ……?
考えるものの、わかる訳もなく、ただ甘んじて説教を受け続ける俺。
飛鳥も性格がいつもと違い、強気で喋っているため
言い返す暇すら与えてくれない。
どうするんだよ……これ
この飛鳥の様子を見て、全員をベットに連れて行くということの難関さを
身を持って知ってしまい、下をうつむき溜息が出てしまう。
「うぅ〜ん、カズちゃん。よそ見しちゃダメ!」
「上を向きなさい、和弥!」
「下向いてちゃダメれす〜」
下に向けていた顔を無理矢理、飛鳥達3人に上に向かされる。
すると、目の前には飛鳥達3人の顔が至近距離に……
恥ずかしくなり、目線を外そうとするものの、飛鳥達の手により顔が固定されており
目線を外すことができなくなる。
「私はねぇ……ちっちゃい頃からずっと、ずっ〜とカズちゃんだけを……」
「和弥……私は和弥の事、親友だって思っているよ。でもね、私は……」
「あの和弥さんに励まされたあの日から私、ずっと、和弥さんの事……」
とろんとした目であるが、妙に真剣な視線、瞬きすらも忘れ固まったままの俺。
そんな中、3人は近すぎる俺との距離をもっと近づけようと
ゆっくりと体を俺の体の方へと倒して来る。
「なっ……ちょっと!まっ、待て!3人とも!」
3人に向かって呼びかけてみるものの、聞こえていないのか
距離は一向に近くなるばかり。このままでは……
そう思うものの、何か行動を起すことも出来ず、ギュと強く俺は目を瞑るしかできない。
そして、自分の体に3人のぬくもりが伝わってきて……
「……………あれ?」
いつまで経っても予想していた感触などは訪れない。
どうするべきか、もう少しこのままでいるべきか悩んだが
意を決して俺はおそる、おそる目を開けてみる。
すると、飛鳥は俺にもたれ掛かって、熟睡していた。
周りを見渡すと蓮、奏も俺の両腕を枕ににするように眠っている。
「……よかった」
俺はホッと一息つき、何とかこの事態を免れたことを心から―――
「何が……良かったのかな?伝馬氏」
喜べるはずもなく、目の前にはワイングラスを片手に微笑んでいる朝倉の姿が。
やっとのことで3人を何とかできたと言うのに、最後には
朝倉と言うラスボスが待っていようとは……さすがは俺の不幸クオリティー
借金執事も顔負けの不幸っぷり―――そう思っていたのだが……
「伝馬氏。外に出て、夜空でも眺めに行かないか?」
「………えっ?」
唐突な朝倉の提案に対して、俺は驚いたような変な声を上げる。
あれ?さっき……朝倉……
平凡な提案なのにも関わらず、さっきまで酔っ払いと言う
変わったものを扱っていたためか、頭が上手く朝倉の言ったことを理解できない。
「聞こえてなかったのか?夜空、夜空を眺めに行こうと言ったのだよ!」
念を押すように、俺に顔を近づけながら言う朝倉。
間違ってはいなかったようだ。しかし……
「行くのはいいが、この4人は……」
俺は地べたやソファーの上で熟睡している飛鳥、蓮、奏、芹澤の方に視線を向ける。
「それなら大丈夫だ。セバスチャン!」
「はっ!お嬢様。お呼びでございますか?」
セバスチャン……今までドコ行ってたんすか。
疾風のように登場する、セバスチャンに向けてそんな思いが俺の胸の内から沸いてくる。
「セバスチャン、4人の後の面倒よろしく頼む。伝馬氏、これで問題はないだろう?
さぁ!この時間が一番夜空が綺麗に見える時間帯なんだ。早く行こう!!」
そう言って、朝倉は手を握り、引きずるように俺を引っ張っていく。
俺はこけそうになる両足の歩調をうまく合わせ
朝倉になんとかついていく。
暗いため、よく見えはしないがこの旅行中に見せていた
楽しそうな笑顔とは違う、妙に嬉しそうな顔をしていて
なんだか俺まで笑顔になってしまい、変な気分になってくる。
手を繋ぎながら、家の中を駆け抜けること数十秒
屋外へと出られる扉へとたどり着き、朝倉がゆっくりと扉を開く。
「………すげぇ」
「ふふっ……そうだろ?これを一度、伝馬氏に見せてあげたかったんだ」
そこには満面に広がる星空が広がっていた。
どこを見渡しても、ダイヤモンドのように輝く無限のような星達……
都会とは違う、澄んだ空だからこそ実現する
夢のような空間……それが俺の目の前に広がっていた。
その俺が驚く様子を見て、朝倉もご満悦のご様子
俺達はそのまま喋ることもなく、じっと夜空を眺めていた。
聞こえてくるのは夏の風物詩である蝉の鳴き声と風が木々を揺らす音……のみ
すると、唐突に俺の左肩の部分に重みが……
何かと思い、そちらに視線を向けると朝倉が俺の肩に寄り掛かっていた。
俺はそっと体を動かし、離れようとするが
朝倉はそれより早く、すっと寄り添ってくる。
離れてはくれないようだ……俺はもう仕方が無いと思い、そのままの体勢で
俺達は星空を眺め続ける。
「作戦……成功だな」
「……んっ?どうかしたか?」
「いや、なんでもない……私事だ」
こうして、この旅行は満面の星空に見上げながら終わりを迎えた。
次の日、二日酔いで倒れている4人とは対照的に、朝倉は信じられないくらい
機嫌が良かったことをここに記しておこう。
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