第45話逃走の果てに……
「はぁ、はぁ……ここまで来れば、大丈夫……か」
俺は周りを用心深く、眺めながら公園のベンチへと腰を下ろす。
体中信じられないほどの汗の量が噴出しており、持ってきたリュックの中から
スポーツドリンクを取り出し、勢いよく飲み始める。
液体が体の中に染み渡り、まるでポーショ○でも飲んでいるような回復感だ。
呼吸も整い始め、公園にある時計塔に目を向けてみると時間は
『16時45分』
を指していた。まだ公園にはカップルの姿や親子連れの姿など
まばらではあるが人はそこそこいた。
まぁ、時々こっちに視線を向けてくる人達がいるのが気になるが……
そう考えると、俺は単純計算6時間近く逃げ回っていることとなり
軽く鬱な気分が俺に襲ってくる。
「なんで……こんな事になっちまったかな……」
とそんな言葉をぼやきながらも、なぜこのようなことになってしまったのか……
今日一日の起きた事態のことを振り返ってみる。
始まりは俺が朝、目を覚ました瞬間から始まった……
今日の朝は学校の行く用事もなく、いつもよりゆっくりとした朝であった。
朝のテレビ番組をコーヒーを片手に優雅に楽しむ俺。
さながらセレブレティーな気分を味わいつつ、今日は家で一日ゆっくりと
ゴロゴロ過ごそうかな?とここ最近では自分でもビックリするくらい
自由な時間が作れるかも!そんな暢気なことを考えていると
トゥルルルルルル!!!
けたたましく俺の家に電話音が鳴り響く。
その瞬間、俺は一瞬で現実世界へ引き戻され、はぁと溜息を吐きながら
ノソノソと電話がある所まで歩いていく。
「はい、伝馬で―――」
『伝馬氏。緊急な用事だ』
少し偉そうな口調でありながら上品な雰囲気を感じで喋り方、電話の主は朝倉であった。
つうか俺、全部言い切ってないのだが……
そんな俺の思いなどは伝わることも無く、無視をして話を続ける朝倉。
『唐突で悪いが、今日みんなでちょっとした夏旅行にでも行くことになってるんだ』
「……ほぉ〜。で、なぜそのことを俺に?」
ここ最近で信じられないほど鍛えられた第六感が嫌な予感をビンビン感じている。
『でだ。私達5人だけでは寂しいと思ってな。伝馬氏も連れて行こうとなったのだよ!』
ベタすぎる展開が……予想通りすぎる流れで俺に迫ってくる。
「でっ、でもな!旅行費の金とかいろ―――」
『心配はいらない。金銭面その他諸々、全部私持ちだ。何の心配もすることはないぞ』
「それは……あっ!でも学校―――」
『学校への出勤は今日から五日間ないことはこっちで調べてある。それ以外にも
何か用事がないか徹底的に調べ上げたが、至って暇人のようだが?伝馬氏』
しっ、調べられてるっ!!と言うか俺のプライバシーの権利は!?
頭の中にいろいろな考えが蠢き、まともに言葉を発することができない。
『こういう風に言っているがな、伝馬氏。あなたに拒否権なんかものは存在しない。
伝馬氏は絶対参加と言うことで話を進めているのだからな……
後、一時間後にうちの人間が迎えに来る、それまでに準備を頼むぞ。
一応言っておくが、決して逃げようなどとは思わないように』
そう言って、会話と言うのか脅迫と言うべきなのか分からない通話は終了した。
俺はその場で立ち尽くしながら、頭をフル回転させて考えていた。
このまま大人しく自分が不幸な目に合うのを承知で夏の旅行へと向かうのか
無理だと分かっていてでも、逃げの一手を貫き通すのかを……
賢いのは無駄な抵抗をしないのが懸命であろう。
でもしかし!!このままあの5人衆の言いなりになってしまうのは
異様に気に入らない思いが沸々と沸いてくる。
そうだ……今こそ戦うときである
いつもは尻敷かれた夫のようにダメダメな俺だけれど、いつまでもラブコメマンガの
主人公と一緒のような状態じゃ行けないんだ!!
「俺は……俺はやってやるぜぇぇぇぇ!!」
そんな体中から火が飛び出しているような熱血ぶりを発揮して
俺はさっそく準備に取り掛かる。
リュックの中に財布、飲み物、食料、地図、それから……
「これはいざと言う時のために……」
なりふり構ってはいられない。目をくらますにはこれを使うのは一番だからな。
そうして、準備した物をリュックの中へと入れていき
俺は音を立てず、ゆっくりと人気のない裏道から家の外へ出て行く。
さぁ……ミッション開始だ
俺一人の孤独な戦いが幕を開けた。
……のだが、俺は朝倉沙希という存在を甘く、過小評価しすぎていた。
あいつは一応ながらも朝倉グループの社長の娘であると言うことを……
逃走を開始してから、1時間
早くも俺は遊園地の時、銃を突きつけられながら連れて来られた
黒服を着た男達が俺を追いかけてくる。
その数………ざっと見て30人ほど……
それも全員同じ服装で、なぜかクローン人間!?と思ってしまうほど同じ顔の集団が
俺を後ろから追いかけてくる。
例を挙げるならば、俺は今、さながらマトリッ○スのエージェントスミ○に
追いかけられているアンダー○ン君状態である。
うまく地元の利を利用して何回もスミ○集団を撒くものの
なぜかすぐに追いついてきたり、時には先回りされてしまう。
正直、泣きそうになるくらい怖かった。いや、実際は泣いていたのかもしれない。
分かって欲しい。みんなにもこの恐怖感を……
俺は後悔していた……早くも。やっぱ止めとけばよかったと……
でも、足を止めることなど、あの集団につかまると考えると、嫌でも体が動いてしまう。
とは言え、元々運動嫌いな俺にとってこの走行距離はもう限界など
軽く超えており、足もガクガクと震えスピードも落ちてきていた。
このままでは直に捕まってしまうことは確実。しかし、それは……
「いや……いや!!ダメだ!!あんなのに捕まるなんて!」
走りながら、雲ひとつない快晴の空に向かって叫ぶ。
捕まるくらいなら、いっそのこと……
俺は用意していた最終手段を使うことを決意した。
まことに不本意ながらも……
……それで今に至るわけである。
結局のところ、俺がした最終手段と言うのは
「仕方が無かったとは言え、やっぱり恥ずかしい……スカートとか止めときゃよかったな。
まぁ、これしかなかったからしょうがないが」
いわゆる、女装であった。
たまたま飛鳥ママがバイトのときにプレゼントしてくれた女性物の服を持っていた俺は
最後の手段として、リュックに入れて持ってきてたのだった。
とは言え、これでなんとか逃げ切れているのだから大助かりではある。
精神的ダメージは計り知れないものではあるが……
公園で休んだのがよかったのか、体の疲れも少しは癒えてきていた。
長い間一箇所に留まっているのは危険行動なので、俺は今日の泊まる場所でも探すため
ベンチから腰を上げようとした、その時!!
「人間……そこを動いたら、貴様を抹殺する」
俺が座っているベンチの周りを囲むように黒服の集団が銃を俺に突きつける。
スミ○じゃなくて、ターミ○ータだったんですね……
聞こえるはずのないあの定番の「ダダッダッダダン!!」と言うBGMが
俺の脳内から流れてくる。
「それにしても伝馬氏。まさか逃げるために女装までするとは……
こっちも探すのに手間を掛けたぞ」
そう言って量産型ターミ○ータ集団の中から、割って朝倉が姿を見せる。
「あらゆる人材、機材、移動手段を駆使して探さしてもらったぞ。
もう……観念するんだな、伝馬氏」
そう言って、不敵な笑みを朝倉は俺に向ける。
完全なる敗北であった。
そんな財力に物を言わせて捕まえるなんて……なんかせこい!!とか言いたいが
自信満々な顔をした朝倉に、俺はなにも言うことなどできない。
俺は小さな声で一言、「わかりました」と言い
夏休みの旅行への参加が強制的に決定した。
こうして、一日限りの俺の逃走劇は幕を閉じたのであった。
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