第44話夏祭り
「わぁ〜!すごい人だよぉ!」
そう言って飛鳥は和太鼓の音や屋台で盛り上がっている人たちの方向へ走っていく。
「ちょっと待ちなさい飛鳥!ほらっ、奏!ボーッとしてないで早く行くわよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ蓮さん!着慣れないものだから歩きにくくて……」
「やはり最初は屋台めぐりだな……やはり定番の焼きそば、リンゴ飴は食べて……」
いつもは冷静沈着な蓮、奏も心なしかテンションが高く、飛鳥を追いかけていく。
朝倉はここに来て異様な雰囲気包まれているのが不気味だが……
ここまで説明して来たので、俺達が何処にいるか大体見当のつく人が殆どだろうが
今、俺を含めいつもの5人衆で近所で開かれている夏祭りに来ている。
きっかけは飛鳥が俺達に見せた夏祭りのチラシで
人ごみが嫌いな俺は最初、行くことを拒んでいたのだが
飛鳥&プラスアルファの泣き落としにも近い反則技で
仕方が無く行くこととなったのだった。
「最近……つうかこっちに帰って来てから押しに弱くなったなよな〜俺」
そんな愚痴を溢しながらも、何年も行ってない日本の風情ある祭りを楽しめ
それにサプライズ的ではあるが、飛鳥を初めとする扇山高校の美人と目される
女子達の浴衣姿を拝めたと言うことで、俺も多少は……まぁ、それなりに
テンションは高めではある。
俺は、そんな事を思いながら飛鳥たちが向かった祭りの中心部向かおうとすると……
「あれっ?そういえば……アイツさっき一緒に飛鳥たちと行ったっけ?」
そんな疑問点が浮かび、周りを眺めてみる。
こういう行事ごとには必ず参加して、飛鳥と一緒にツートップを張って騒ぎまくるアイツ
そう、俺にとってはトラブル製造機と言うあだ名がついている
トラブルメーカーと言う言葉がもっとも似合うあの人物、芹澤泉が……
「……あっ!いた!」
発見した芹澤泉は夏祭りの入り口で一人ポツンと立っている。
とにかく、一人置いていくのも難なので、芹澤の方向へ歩いていき、声を掛ける。
「おい!芹澤!」
「へぇ?……あっ、カズくん♪どうしたの?」
話しかけた瞬間、一瞬くらい雰囲気がしたがすぐに明るく振舞うように見せる芹澤。
俺は理由は分らないが、いつもの芹澤らしくないと直感的にそう思った。
「どうしたのじゃないだろう!みんな屋台の方に走って行っちゃってるのに
芹澤だけ、そんな所にいるから……体調でも悪いのか?」
「ちっ、違うよ!体調は万全だよ♪ただちょっと……」
芹澤の視線は夏祭りの入り口に飾られているこの祭りの名前が書かれた
大きな旗に向けられている。表情はどこか懐かしい物でも見ているような
穏やか表情でありながらも、どこか悲しげで憂いに満ちた表情を浮かべている。
「芹澤……祭りが嫌いなのか?」
そんな質問を投げかけてみるも
「ううん、嫌いじゃないよ。むしろ好きかも。屋台とか、盆踊りとか、花火とか……
でも、このお祭りだけは……ね」
俺は何も芹澤に対して言ってあげる言葉が見つからない。
でも、何か言葉を掛けなくては……そんな脳内での格闘を続けていると
「……さぁ!行こうよカズくん♪ほら、ほら♪」
「えっ?さっきまで芹澤……ちょっと待て!置いていくなよ!」
突然にいつものテンションに戻り、小走りながら飛鳥たちの方向へ走っていく芹澤。
俺はこの突然の変化に頭を悩ませながらも、芹澤の方へ向けて走りはじめた。
夏祭りの中心部は俺が予想していた祭りの規模を凌駕し、祭囃子が響き渡り
それに合わせて和太鼓の音が聞こえる。そして、周りを見渡せば、屋台の山、山!!
当たり前ではあるが、完全にお祭り一色なムードであった。
「すっ、すげぇ……」
そんな言葉が自然と出てきてしまう。
かなり昔ではあるがこの祭りに来たことがあり、記憶は曖昧ではあるが
これほど大きな祭りではなかった気がするのだが……
「和弥があっちに行った後に町長が町に活気をつけるために!ってことで気合入れたみたいで
町内会の屋台とか、祭りのセットとか、かなり凝ったみたいよ」
「今では全国の祭りの中でも雑誌に載るほど有名な祭りになったんですよ」
ガイドの人のように蓮と奏が祭りについて説明をしてくれる。
確かにそんじょそこらのレベルとは格が違う。
「……ほらっ、伝馬氏もどうだ?」
そう言って、たこ焼きを俺の前に持ってくる朝倉。
それを俺は一つ口の中へ……
「……うっ、うまいぞ!これ!」
「ふぅん。そうだろう?この祭りは屋台の数の豊富さだけではなく味にもちゃんと気合が
入っているからな。これを楽しみに来る人間も少なくないのだよ」
そう言って、自分の事のように自慢げに話す朝倉。
当の本人は両手には綿飴とリンゴ飴。それに腕には焼きそばとお好み焼きのパックを
袋に入れて吊り下げており、かなり祭りを満喫なさっているご様子だ。
朝倉……食べすぎには気をつけろよ
そんな思いを口には出さず、心の中で思いながら再び周りの様子を眺めてみると
「うわぁぁぁん!!カズちゃん〜敵うってよぉ!!」
そう言って、俺の腹部に突っ込んでくる飛鳥。
いっ、いつも思うんだが、そこはヤバイって……
なんとか痛みに耐えて飛鳥のほうに視線を向ける。
「……で何があったんだ?」
「えっとね。あっちにある射的してたんだけど、欲しいのが取れなくてぇ……
助けてよぉ!カズえもん!!」
半泣きながら、俺に訴えてくる飛鳥。
かっ、カズえもんって……おいっ、朝倉。笑うんじゃない。
「でもな、俺だって金はあんまり」
「……うるうるうるうるうる」
「そんな濡れた瞳を俺の方に向けてきたって」
「……大勢の前で泣いちゃうよぉ?この人痴漢ですって言って」
なんていうことを言うんだこの子は。飛鳥……恐ろしい子っ!
仕方が無く、本当に仕方が無く!!俺は射的のところへと足を向ける。
「おじさん。射的一回」
「はいよっ!」
威勢のよさ気なおじさんが俺に銃と玉を渡してくれる。
「和弥ってこういうの得意だったかしら……本当に大丈夫?」
「スポーツは和弥さん苦手のようですから、飛鳥さんの敵を取れるのか心配ですけど」
「……んっく。無理だ、無理!伝馬氏にそんな才能がある訳ない」
蓮と奏は心配した面持ちで俺の方に視線を向ける。
朝倉……食いながら、それも完全否定は止めてくれ……涙が出てくるから。
そんな中で一人、飛鳥は自信満々な面持ちで俺に視線を向けている。
「大丈夫だよぉ!みんな。カズちゃんなら絶対やってくれるよぉ!」
「本当なのか?」
自信満々な飛鳥の言葉に真っ向から疑ってかかるような言い方で朝倉が聞き返す。
「うんっ!昔の話なんだけれどカズちゃんはここら辺では有名になるくらいの
射的名人だったんだよぉ!絶対狙った獲物は逃さない……スナイパーみたいだ!って
それでみんながカズちゃんにある異名が付けたんだっ!」
「……で、その異名とは?」
「頭のいい、の○太くん」
「……あ〜」
納得したような顔をみんながしないでください……
たしかにゴル○じゃなくての○太って所は俺らしいがな。
俺は心の中で涙を流しながらも、銃の中に玉を詰め終わる。
そして、飛鳥が欲しいと言っていた人形へと標準を合せ……引き金を引いた。
「わぁ〜い!!ありがとねぇ!カズちゃん」
「良かったわね、飛鳥。それにしても凄かったわね」
「本当に凄かったです!あんな正確に射抜くなんて……」
「まぁ、勉強だけではなかったということか」
それぞれにさっきの射的場の俺の射的技術について感想を口々にもらしている。
飛鳥はお気に入りの人形を手に入れて、ご満悦のようだ。
そんな様子を俺は眺めながら、あることに気づく。
「あれ?そう言えば……芹澤は?」
射的前までは姿があったはずの芹澤の姿がない。
「えっと、確か途中でトイレに行って来るって言って……
そういえばぁ、祭りでテンション上がってて忘れちゃってたけれど
泉ちゃんトイレ行ってからかなり時間が経ってる様な」
喋っている飛鳥も徐々に不安そうな声へと変わっていっている。
蓮や奏、朝倉までもが不安そうな顔をしている。
確かにあの時からトイレ行っていると考えると、あまりにも長すぎる。
「みんな、ここで待っていてくれ。俺がトイレの方へちょっと行ってくる」
そういって俺はトイレのある方向へ走り始める。
「ちょっと待つんだ!伝馬氏!もうすぐ花火が始まるから、そっちの方向は―――」
朝倉が何か俺に向けて言っているようだったが、俺の耳にはもう届いていなった。
「……っ!はぁ、はぁ。トイレの方にはもういないか」
荒々しい呼吸音を抑えながら、そんな言葉が口から出てくる。
トイレ周辺を眺めてみるも、人が多すぎてこれでは見つけるのは難しい。
それにもうすぐ花火が始まるのか見えるところに移動するため
人混みが激しく動き回っており、俺自身がうまく身動きが取れない。
どうしようもできない不安感が俺を襲う。
何事も起きてない、何も起きてない。ただ芹澤は迷子になっているだけ……
そう心に言い聞かすも、不安感は一向に消えはしない。
「どこに……どこにいるんだよ。芹澤……いたらマジで返事しろよ!!」
自分でも情けないと思うくらいの掠れた叫び声で芹澤を呼ぶ。
当然のごとく……返事など返ってくるはずも……
『ぅっ……ぅっ……ひっく……』
何処からか、女の子の泣き声が聞こえてくる。
耳から聞こえてくるよな感じではなく……脳内に語りかけるように……
俺の足が己の意思など関係なく、動き始める。
自分の意識がどこかに行ってしまったようなそんな感覚……
『ひっく……ここどこなのぉ……暗い……恐いよぉ』
5,6歳の少女の泣いた姿が見えてくる。
顔は良く見えない……泣き声と花柄模様の着物をきた少女の姿が見える。
これは何なんだ……まるで白黒テレビの乱れた映像でも見ているみたいに……
『誰でもっ……いいからぁ……お父さん……お母さん……―――っん』
映像がクリアになっていく……
着物の色は水色……最後の言葉はなぜか上手く聞き取れない。
でも、この光景はなぜか俺に覚えがあった。
昔、懐かしい光景を見ているように……
捨ててはならない大事なものがそこにあるような……
もう少し……もう少しで何かが……
その瞬間、映っていた少女の姿がグラグラと崩れ始める。
まるで割れたガラスのように……崩れた場所から光がもれてくる。
あと少し!あと少しなんだ!そうすれば何かが……何が!!
そんな願いとは裏腹に夢にでも醒めるかのように
視界が鮮明に……遠ざかっていた意識が……戻っていった。
目の前に広がるのは大きく広がった星が輝く夜空。
下を見下ろせば、町全体の電気の光が広がり、さながら一つの芸術品のようにも見える。
誰も知らない、秘密の穴場のような場所である。
「えっ!?……カズ……くん?」
声の聞こえた方へ体を向ける。
そこには水色を基調とした花柄模様の浴衣を着た芹澤泉の姿があった。
その姿を確かめた途端、俺は無意識に芹澤の方へ急いで駆け寄り……ギュと抱きしめていた。
「うぇ?えっ!?ちょ、ちょっと……どっ、どうしたの!?カズくん!」
突然のことでびっくりしたのか、いつも冷静な芹澤も信じられないほど混乱している模様。
「本当に……本当によかった。なぜか、このまま会えなくなってしまうような気がして」
「そんな事あるわけないでしょうが!!いいから!早く離して!!」
そう言って、顔を真っ赤にしながら離れていく芹澤。
俺も自分が今やったことに顔を赤くしながらも、ホッとした気持ちになっている。
そうしていると、やっとのことで俺の頭も正常に稼動し始めたらしく
今度は芹澤に対する怒りが込み上げてくる。
「それよりな!何でいきなりいなくなったりしたんだ!みんなめちゃくちゃ心配してたんだぞこうやって何もなかったから良かったけれど……」
さっきとは違い、怒気の篭もった声で芹澤を話しかける。
「ごめんなさい。でも、どうしても今日はこの場所に来たかったから……思い出の場所だし。
それにここは――――」
―――ドォン……
「「……あっ」」
夜空の上に赤く、そして黄色、オレンジと変わりゆく大輪の花が咲いた。
その後は様々な工夫を凝らした花火が打ちあがる。
「きれい……だね。カズくん」
「……ああ」
芹澤に対する怒りなど、どこか遠くへ行ってしまった様だ。
俺は打ち上げられる様々な花火をただ眺めているだけだった。
どれくらいの時間が過ぎ去っていったのだろうか
芹澤がスッと俺の左手を握る。
「……おっ、おい!芹澤―――」
「私を抱きしめた罰だよ♪手を握るくらい良いでしょ?」
そう言われたら、俺も断ることなど出来ない。
俺と芹澤は手を握りながら、大きく広がる夜空の下
打ちあがる煌びやかで大きな花火を眺めていた。
「いつまでも、永久にでも、こうしていたいな」
「……何か言ったか?」
「ううん。何でもないよ♪ただの独り言……叶わない願望……かな」
幾千の輝きを放つ光の帯が手を繋ぐ二人の下へ優しく降り注いだ。
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