第43話それぞれの夏休み
夏休み
私、宮本飛鳥にとっては部活、遊びなどのイメージが一般的な思いつく事柄の中
真っ先に私が思いつくのは家の手伝いである。
私の家は喫茶店を営んでおり、夏休みと言う長期休暇中は
ウェイトレス……接客の仕事を手伝わなければならない。
そして、今日もまたオレンジのフリフリの着いたウェイトレス姿で私は働いている。
「カランカラン」
「あっ!いらっしゃいませぇ〜」
慣れた手つきでお客様を席まで案内して、水とおしぼりを置く。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいねぇ!」
最後にはちゃんと笑顔も忘れない。
昔からは考えられないほどの、ちゃんとした接客をしているなぁと我ながらに思う。
元々人前で派手なことをするタイプでは無い私にとって
ウェイトレスと言う仕事は最初から自分には絶対不可能だ!と本気で思うほど
難解を極める事柄であった。
しかし……慣れと言うのは凄いもので一回、二回と回数を重ねていくごとに
ほとんど喋れず、重要事項すらまともにいえなかった私が今となっては
お客様との軽いコミニュケーション、クレーム処理までできるようになったのだから
自分でも驚きである。
こんな私でも日々成長してるんだなぁ〜
そんな思いを抱きながら、私は決められた時間である14時まで働き続ける。
時計を見れば針は13時20分を指しており、客の数もまばらになってきた。
もう後はゆっくりと終わりの時間を待つだけだ。
「終わったらどうしようかなぁ……」
頭の中までもう終わった後のことにしか考えておらず
我ながら切り替えの早い人間だと思う。
私は頭の中に浮かび上がった、この後の予定を思いつくだけ並べてみる。
家でゆっくり、友達と遊ぶ、買い物……
色々と案が思いつくが、やっぱり私と言う人間は
「……うんっ!カズちゃんの家に遊びに行こうっ!!」
いつも通りの計画を実行することにする。
よし……あともう少し頑張っていこうかなぁ!!
心の中で気合を入れなおし、ウェイトレスの仕事へと私は戻っていった。
夏休み
生徒会長である綾月蓮にとっては生徒会の仕事、仕事の日々である。
さっきまで環境なんたらサミットに生徒会長として参加して
数時間と言う長丁場の話し合いが終わったばかりである。
「本当に疲れるわ……大事なことだとは思うけれどね。さすがに会議長もやると
緊張しっぱなしだから、余計に疲れがねぇ……」
そんな愚痴が自然とこぼれてしまう。
とある事情で突然生徒会長にされた私ではあるが、どんなことであれ
学校の顔である生徒会長に今、なっているのだ。
こんな情けない姿は生徒の前で見せることは出来ない。
頬を揉んで、疲れ切った顔を笑顔に戻す。
みんなの目の前では常に笑顔で、疲れ切っている様子を見せるわけにはいかない
自分が気に入らない作り笑顔であろうとも……
時々そんな自分に嫌気を感じるが、ある人の顔を思い出すと自然と笑みがこぼれてくる。
「……ふっふっ。和弥の前だったら、いつでも勝手に笑顔になるんだけどな」
昔からだった。昔から和弥が近くにいれば、元気も出るし、笑顔にもなれた。
和弥は周りにいる人達を自然と楽しくさせる、そんな力を持っている。
理由はよくわからない……そんなことすらどうにでも良くなってしまう。
いきなり無性に和弥に会いたくなってきた。
唐突に、突然に……会いたくて仕方がなくなってきた。
「これからの予定なのですが、生徒会と部活の予算の件の話が……」
秘書のような位置である生徒会の役員がこの後の予定を述べているが
私は内容などは一切聞いておらず、頭の中が和弥一色になっている。
仕事はあと少し残っている。それを早急に終わらせるのには……
頭の中がコンピューターのように高速でこの事態を処理している。
そして、数秒後……
「走るわよ」
「……えっ?」
今日の予定を述べていた役員は突然の私の言葉にびっくりして固まっている。
「いいから走るの!さっき用事が出来たから早急に会議を終わらせるために
会場まで走るわよ!あなたは会議参加者に時間の変更を連絡して」
「えっ……でも、これは決められていたことで―――」
「生徒会長命令よ!」
「わっ、わかりました!直ちに連絡をいれます!」
役員は慌しい様子で電話を掛けている。
私の頭の中には和弥に会うことで頭がいっぱいである。
さぁ、早く仕事を終わらせないとっ!
そう自分に言い聞かして、蓮は走り始めた。
夏休み
合唱部に所属している水城奏にとっては練習の日々である。
今はコンクールの帰りの電車で外をボーッと眺めている最中であった。
多少の疲れは在るものの、眠気などはほとんどなく
ただ流れる外の風景を眺めている私。
まぁ、実際は風景なんか目線だけ向けているだけで、頭の中で和弥さんのことで
いっぱいな私なのだが……
「………ふぅ」
哀愁の満ちた溜息が一つ。
自分の担任である和弥さんを好きになって早数ヶ月
恋というものを全然知らなかった私が初めに好きになった特別な人
信じられない事態だと自分でも思っているのだが、数日会えないだけで
私は心の奥底がキュとしめつけられるような思いにとらわれていた。
正直、恋愛マンガだけの過剰表現だと思っていたのに
今、まさに自分がそうなっていると思うと、なぜか微妙な気持ちになってくる。
気持ちがグラグラとゆれて今にでも折れそうになっている
自分の情けないくらい弱さに。
「こんなに私って弱かったんだ……」
自分の弱さに嫌気が差し、ボソっと独り言がもれる。
すると……
「どうしたの?水城さん」
顧問の伊織先生が私に話しかけてきてくれた。
いきなり話しかけられたため、顔が真っ赤になって言葉が出てこない。
そんな私の様子を伊織先生は笑顔を浮かべて、落ち着くまで待っていてくれる。
「……どう?落ち着いた」
「はい。大丈夫です」
「何か悩み事でもある?さっきから見ていて元気なさそうだったから」
伊織先生にはバレバレのようだ。
いや、私は顔に出やすい人間とよく言われるので皆わかっていたかもしれない。
さっきまでいろいろな人が話しかけてくれていたし……
そう考えていると、一人で悩んでいるのがバカらしくなってきたため
私は自然に口から言いたいことが言葉になって出てきた。
「そうなのかぁ……やっぱり伝馬先生をね」
全部を話した後、伊織先生は納得したような顔で私を見つめている。
私はどうすることの出来ないまま、でも話したおかげなのか心の中にあった
重く、嫌な感情がスッと抜けた感じがしていた。
そして、話し終わってから数秒後
伊織先生は私に向かってゆっくりと喋り始める。
「大好きな人に会えないのは誰でも悲しいし、愛しい思いが募るのは当たり前のことなの。
だから、水城さんは弱いわけではないのよ」
「でっ、でも……」
「どんな言い訳をしても、水城さんは会いたいんでしょ?」
そう言われると、私は何もいえない。
和弥さんに今すぐにでも会いたい!!その思いだけは変えることなど出来はしない。
「水城さん。自分の気持ちに自信を持ちなさい!その気持ちが揺るぎないことに」
そうだ……そうだったのかもしれない。
私は和弥さんの好きという気持ちに自信を持ってなかった。
だから、こんな情けないことになっていた。
そうだ!和弥さんの、和弥さんを思うこの気持ちだけは誰にも負けるわけにはいかないのだ。
自分の思いが確かであることを実感する。
帰ったら、真っ先に和弥さんに会いに行こう
そう私は心の底から思い、駅へと到着するのを今か、今かと待ちわびる私なのであった。
夏休み
私、朝倉沙希は毎日遊んでいるように見られがちだが
自分でも似合わないと思うほど接待、接待の毎日であった。
一応ではあるが、一代で成り上がった親の娘である。
普段は学校などで忙しく、パーティなどが会っても一人で家で待っていることが
ほとんどなのだが、夏休みとなればめんどくさいとは言え
手伝わないわけにはいかない。
そういうことで今、私はパーティー会場で親について周り
各界の著名人に挨拶をし回っている所である。
いつもとは違う、ドレス的な動きづらいものを着ているため
全身違和感だらけで数倍の疲労感が私を襲う。
それでも疲れた顔を一切見せず、あいさつを順調にこなしていき
なんとか自分のする仕事を終えて、休憩することができるようになった。
「……ふぅ。またパーティとは私には性に合わんな」
イスに座りながら、周りを眺めて思ったことを自然に口にしていた。
いや、元々は自分もパーティ会場にいるこっち側の人間だった。
何十と言うお稽古を習い、食事のマナーを守り
今日のようにパーティを家で催すのに参加して談笑する。
そんな堅苦しい生活を私も日々過ごしていたのだ。
伝馬和弥に会うまでは……
カズに会ってからはお嬢様と言う言葉など投げ出したかのような
型破りのことが連発な生活でいろいろとビックリさせられることがたくさん会ったが
それ以上に楽しい毎日を今もなお送ることができている。
「カズはまさしく私を鳥かごから連れ出した、いたずら小僧と言ったところか」
そんな表現を自分で上げて、笑いがこぼれる。
こんな話をしていたら無性にカズに会いたくなってきた。
父と母は議員らしき人と話しこんでいて、私のほうを見る様子など無い。
私は携帯電話を取り出し、電話をかける。
「あっ、すまないが急用で行かなければならないところが出来た。……あぁ、大丈夫だ。
父上、母上の許可も取ってある。至急駐車場に車を準備してくれ」
そう言って、電話を切る。
当たり前だが、親の許可など取ってはいない。
ウソに迷いが無く、上手くその場を対応できるこの対応
これもカズのおかげと言ったところか。
もう私にはお嬢様とか箱入り娘なんて言葉は全く持って似合わない人間になってしまったが
ありのままの自分を出したほうがいいとカズが言ってたから……
「さぁ……カズの元へ向かおうか」
私は椅子から体を起し、スッと人ごみに紛れるようにパーティー会場から出ていった。
夏休み
私、芹澤泉は一般的な学生の例に漏れず、昼になるまで惰眠を貪っていた。
さすがに昼になると、目が覚めるようで私は目をこすりながら一階へと降りていく。
「はぁ〜……おはよう」
誰がいるわけでもないが、なぜかクセでそう言ってしまうのは人間の性なのだろうか。
私は2階建てと言う、そこそこ大きな家に住んでるにもかかわらず一人暮らしだ。
親は死んでるわけではなく、ここにはいないだけで世界のどこかで
生きていることは間違いないだろう。
あの人は普通には死なない人だろうし……
そう私は思いながら、郵便物と新聞を取りにいく。
手紙が一通……差出人は我が、母からだった。
噂をすれば影とはよく言ったものでその通りなるとはなんともあの母らしい。
そして、手紙には一言「近々、帰る」と書き殴った感じで書いてある。
「へぇ……帰ってくるんだ」
唐突なところはいつものことで、こんな感想しか私には浮かばない。
それも帰るというだけしか書いてないとは……
「アバウトにも程があるよ……」
そんな言葉を私は言い、手紙を物入れ用の箱へとしまった。
その後は朝食兼昼食を兼ねたBLTサンドを食べて
服を外に出ることのできる、ちゃんとした服装へと着替える。
持ち物は何も持たず、鍵だけ持って外へと出かける。
「んっと♪やっぱり暇な日はカズくんの家が一番♪」
軽く体を伸ばし、私はカズくんの家へと歩き始めた。
「今日も一日お疲れ様って感じだな」
そんな独り言を言いながら俺、伝馬和弥は家へと帰る道を
燦々と照りつける太陽の下、汗を流しながら歩いていた。
今日は数学の補習のため学校に行っていた帰り道なのだが、さすがは夏と言ったところか
熱さが尋常ではなく、スーツなんか着込んでいる俺にとってはまさに地獄
そんな表現がとても理にかなっている状況だ。
とは言え、あと家まで距離にして40メートル……走れば一瞬の距離だ。
「……よぉし。レディゴー!!」
ちょっと古臭い掛け声とともに、家までの距離を全速力で走っていく俺。
距離も30……20……10と縮んでいき
「ゴールッ!!………ってなんで家のドアが開いてるんだ?」
疑問点が浮かび上がり、下を見てみるとそこには靴が5足……これって……
「おかえりぃ!カズちゃん。喉乾いたでしょ?はいっお水!」
「お帰り和弥!今日は私がスタミナつくような食べ物作ってあげるからお楽しみに!」
「お帰りなさい和弥さん。コンクール、和弥さんが頑張れって行ってくれたから最優秀賞もらえました。ありがとうございます」
「うん……お帰り伝馬氏。餞別という訳ではないが、伝馬氏の好きなジュースとアイス買って来ておいたぞ。熱いから早く上がれ」
「おっかえりぃ♪カズくん。今日こそ、この前負けたレースゲームで勝負だよ♪」
………また不法侵入ですか
前々から自分の家が無法地帯になっているのはわかっているが
なんともいえない思いが募ってくるのはなぜだろう……
でも、今日はそこまで悲しいとかつらい様な思いは少ない。
なぜだろうか。俺は一瞬考えてみる……すぐにその答えを導き出すことが出来た。
それは「おかえり」という温かい言葉
一人暮らしでは感じることの出来ない、昔ではわからなかった言葉の癒し。
俺はそれを今、実感していた。
ならば、俺の次にすることは決まっている。
俺も最大限の気持ちを込めて、5人向けてこの言葉を贈る。
「……ただいま!」
と感謝の意味も込めながら……
|