第42話夏休み前のちょっとした出来事
彼は計画高い男だった。
だから何日も掛けて店員が少ないかつ人ごみが少なく逃げやすい銀行を探した。
彼にはどうしても即急にお金が必要であった。
最初は真面目にバイトにいそしんでいたが、時間と言うどうしようもない事態が
彼にこの行動を促せた。
そして、今その目星のつけた銀行の近くまで来ていた。
ポケットにはあるつてで手に入れた拳銃を忍ばせている。
入り口をじっと観察する
客はまだ朝とあってか一人もおらず、銀行員も暇なのか緊張感のない顔をしている。
絶好のチャンス……千載一遇の好機
もう、今しかない!!
彼の頭にそんな思いが溢れてくる。
もう後戻りは出来ない……走り出したら止めることはできない。
彼はポケットに入っている拳銃を握り締め、銀行に向けて一歩を踏み出した……
「相変わらず校長の話は長いな……」
俺、伝馬和弥はそんな愚痴をこぼしながら、燦々と照りつける
体育館の外で一人ボーッと突っ立っていた。
今日は終業式
今、生徒達はサウナのような蒸し暑い体育館の中で
校長の長ったらしい夏休みの心得、高校生としてきちんとした生活などの
説明を熱い空気の中聞いていることであろう。
俺はそんな空間に耐え切れなくなり、外で休憩している最中だ。
明日から夏休み……長かったような、あっという間だったような学校生活も
これで一区切り付けられる。
夏休みに入っても俺達先生は事務的な仕事や補習などで学校に来なくてはならないが
普段の時と比べれば、自由な時間も多く取れることは事実。
久しぶりにゆっくりとした時間が取れると、テンションも何気なしに高くなる。
「やっぱりこの夏は買い込んでいたガン○ラの製作だよな〜。今日終わったら、足りない道具買い足して帰らないと……それに徹夜するから食べ物も買わないとな」
そう言って、和弥流楽しい夏休み計画をその頭で立てていく。
こんな職業についても、やはり17歳
夏休みが楽しみでたまらないという気持ちを抑えることなど出来ない。
ここら辺は生徒達と変わらない、歳相応だよな
そんなことを俺は思っていると
ファンファンファン…
パトカーのサイレンが聞こえてきた。
音は大きくないが、少し遠くでパトカーが走っていることがわかる。
「近くで事件でも起きたのか?」
その音が聞こえる方向に耳を向けながら、ボソッと呟く。
小さかったサイレンが徐々に大きくなっていく。
こっちへ近づいてきてるようだ。遠くてわからなかったが音が複数重なっていて
パトカーが一台でなく複数いることがわかる。
………なぜか嫌な予感がした。
俺のシックスセンスがここから離れろと強く訴えかけてくる。
それに従うべく俺はその場から立ち上がり、逃げようとすると……
「動くんじゃない!命が惜しかったら大人しくしとけ!」
後ろから話しかけられて、顔に拳銃を突きつけられる。
こっ、これってまさか……
そう俺が考えていると、学校の校門に複数のパトカーが突っ込んでくる。
「ちっ!もう追いつきやがった。おい、お前!俺について来い!!」
拳銃男は俺に拳銃を突きつけながら、引っ張って校舎のある方向へ向かっていく。
抵抗するのは相手を興奮させると思い、文句も言わずに着いて行きながら俺は
この状況を冷静に考えて、今の自分の立場を客観的に導き出していた。
俺って……いわゆる人質って奴?……と。
時を同じくして体育館の中
未だに終わりが見えてこない校長の話を聞いていた生徒達は、大きすぎるパトカーのサイレンの音にちょっとしたどよめきが起こっていた。
注意を促していた先生達や話をしていた校長も何が起こっているのか分らず
戸惑いの表情を浮かべている。
そして、そんな時間が数秒過ぎた後
体育館の扉がバンと大きな音で開かれ、かなりの人数の警官が中に押し寄せてくる。
その瞬間生徒達、先生達のざわめきは最高潮に達し、パニック状態に
訳も分らないまま生徒、先生は警察の指示に従い校門の外へと連れて行かれたのだった。
「なっ、何が起こってるのぉ?」
校門の外から不安げな顔で様子を見つめる飛鳥。
「何か起こっていることは確かね。まぁ、それが何かは分らないんだけれど……」
近くにいた蓮はそう言い、神妙そうな面持ちで警官たちを眺める。
「こんなときに限って奏でいないとはな……」
「仕方がないよ♪奏ちゃんコンクールなんだし。それにしてもこれ……どうしたんだろう?」
「わからん。何が起こっているのか……」
朝倉と芹澤も近くにいたらしく、二人で話しこんでいる。
今回の事態は情報通であるこの二人も理由はわかっていないようだ。
警官たちは世話しなく動き回っており、とにかく何らかの事件が起きたことは確実だった。
そして、4人はある大事なことに気づく。
いつもは自分達の周りには絶対いるある人物のことを……
「そういえばぁ……」
「和弥の……」
「姿が……」
「見えないよね?」
今頃になってそのこと事態に気づく4人。
そして、その瞬間嫌な予感が4人の頭に――――
「おいっ!さっき警察官が言ってたんだけど、伝馬が人質になってるんだってよ!」
一人の名も無き男子生徒が大声で叫ぶ。
そして、校舎側から銃声音が聞こえてくる。
警察官がさらに慌しく動き始め、「発砲したぞ!」「怪我人はいないか!」
という声が聞こえてくる。
4人は気が遠くなるのを感じていた。
「はぁ、はぁ……これで威嚇にはなったか」
そう言って、拳銃を持った男は汗を拭きながら呟く。
そんな中で俺は腕をロープで撒かれながらも、取り乱したりはせず
冷静な面持ちで周りを眺めていた。
今、俺達がいる場所は何と言う巡り会わせか馴染みのある2-Cの教室であり
窓際に銃を傾けながら男は外の様子を眺めていた。
逃げようと考えるものの、扉までは距離があってたどり着く前に銃で打たれる可能性が高い。
「逃げるのは難しいか……」
小声で呟く俺。
次に男のほうに目を向ける。
年齢は二十代前半と言ったところ、疲れている感じがあり
銃も上手く使えているとは言いがたい。
それにさっきから「ヤバイな……こんなこと大事になるだったらしなかったらよかった」
と仕切りに呟いており、かなりひ弱で諦めている感じが見て取れる。
これなら何とかできるかもしれない……
そんな考えが俺の中に浮かび上がってくる。
素人である俺は何もしないのが一番であるのは良く知っているのだが
何とかできるのでは?と頭の中で思い始めていた。
思い立ったら即行動!俺は相手を怒らせないように言葉を選びながら話しかけた。
「それじゃあ一人、一人が集めた情報を言い合いましょうか」
飛鳥、蓮、朝倉、芹澤の4人は円になって話始める。
「えっと飛鳥からね。やっぱり人質になっているのはカズちゃんで間違いないみたい。
犯人は男で銃を持ってるって言ってたよぉ!」
「次は私だな。事件の経緯だが、本日の朝学校の近くの銀行に銃を追った男が押し入ったらしい。金目的だったらしく、銃を突きつけて金を要求するものの、犯人はドンくさかったらしく
焦ってお金を入れている間に通報されてこの扇山高校に逃げ込んだらしい」
「次は私♪だいたい二人が言っちゃったから、言ってないことといえば犯人は
2-Cの教室に立てこもっているって事ぐらいかな?」
生徒会長として、生徒を指揮しなければならない蓮以外の3人は
個々に動いて情報を手に入れて、それにより今回の事件の全貌が見えてきた。
「これで大体事態は把握できたわね。あとは和弥のことなんだけれど……」
「助けに行く!そう言いたいが、ただの高校生には無理なことだろう」
「そうなのぉ……でも、カズちゃん心配だよぉ」
「今回のことはさすがに警察に任せないと……」
心配と不安が入り混じった気持ちが4人から溢れ出ている。
どうにかしたい!でも、どうすることもできない……
そんな思いを4人が感じている時
後ろから4人に背後を動く3人の人影が見えていた。
そんな校門の外ですごいことが始まりそうになっている頃
校舎内では俺と拳銃男は刑事ドラマのように対峙して話し合っていた。
上手い具合に説得がうまくいき、あと少しというところまで追い詰めていた。
「どうしても……どうしてもお金が欲しかったんだ」
「でも、わかっているでしょ?盗むことはいけないって」
「わかってるさ!それぐらいのこと。でも……でも、時間が無かったんだ!」
「どんなことを言ってたって犯罪は犯罪なんです。人間として恥ずかしいでしょ?」
「…………」
拳銃男は沈黙したまま、視線を下に向けている。
もう少し……もう少しだ
俺は成功を目前にして、焦る気持ちを感じながらも冷静さを何とか保つ。
落ち着くんだ。クールになれ前原けいい……違う!伝馬和弥!
多少間違えながらも自分に言い聞かせる。
「もう自首しましょう」
「………」
「そんなお金で手に入れたって、何にもならないんですよ!」
「………」
拳銃男は黙ったまま、俺が何を言っても下を向いたままだ。
そして、そんな状況が数分たった後、おもむろに男が口を開く。
「何度も言うがわかってるさ。こんなことしたって……でも!それでもいい。欲しかったんだ!俺は!どうしても……どうしても!!1/12 RX-78-2ガン○ムが欲しかったんだぁぁ!!」
正に叫ぶように言う拳銃男。そして、崩れ落ちる。
俺はその様子を口をポカーンと開きながら聞いていた。
えっ?どういうこと?まさかこの人……
「発売日が明日だったんだ。でも……お金がなくて。悪かったと思っている。
ファンとして失格だよな……自首するよ」
涙を流しながら、語る拳銃男。
俺はなんちゅうしょうもないことでと思いながらも、少し気持ちがわかるような
微妙な面持ちでその様子眺めていた。
とは言え、事件は大掛かりなことになった割にはあっけなく終わったが
これで解決……そう俺が思った瞬間
「俺、参上!!」
「モモ○ロス!?」
教室の扉が唐突に開き、伊織先生、橘先生、葉月先生が登場する。
俺はいきなりの事態に驚きながらも、突っ込みだけは忘れない。
葉月先生……特撮好きなんですか……
「先生達!この事件はもう――――」
俺は3人を止めるために今の状況を説明しようとするが
「伝馬ちゃんに何するつもりだったんですかね。万死に当たる行為ですよ♪」
「伝馬くんにね〜。どういう殺られ方が好み?」
「かーくん……大丈夫。お姉ちゃんこういうの得意だから……」
やっ、ヤバイ……3人とも俺の止められる雰囲気ではなくなっている。
3人の周りにはいわゆるディ○トーションフィールド、もしくはA○フィールドのようなものが張られている感じになっている。
今風ならば閉鎖○間と言った所だろうか……
とにかく拳銃男には悪いが……
「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!!」
犠牲になってもらいことにしよう。
こうやって、夏休み前の終業式
最後の最後まで俺はトラブルに巻き込まれると言う、俺らしいと言えば
俺らしい展開で幕を閉じた。
こうして、先生になって初めての夏休みが始まった。
運命と言う歯車を……止めることのできない歯車を背負いながら……
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