第37話不幸な一日
「……っん。眠いな」
俺は味噌汁を口に入れながら、ボーっとテレビを見ている。
今は平日の朝。今日は急ぐほどの用事がある訳でもなく、朝に弱い俺は目を覚ますために
朝御飯を作り、少し大きめのボリュームで朝の情報番組を見る。
これが俺の朝の習慣だ。
その後、俺は軽めの朝御飯を食べ終え、テレビの芸能、政治、スポーツなどのニュースを
横目で流しつつ、学校へ行くための準備を始める。
『今日の占いカウントダウン〜』
「おっ!もうそんな時間か……リモコンはっと……」
そう言って、俺は周辺を見渡しながらリモコンを探す。
とても私事であるが、俺はとても占いというものが嫌いだ。
まあ理由は簡単なことで、もし順位が悪かったら朝から微妙にテンションが下がるからというごく単純のことなんだがな……おっ!リモコン発見!
そしてチャンネルを変えるためテレビに向かってボタンをポチッと―――
「……うん?あれ?チャンネル……変わらない」
何度もボタンを押してみるもののチャンネルが変わる雰囲気は一向にない。
その間にも占いのランキングは続々と発表されていき……
『ごめんなさい!今日一番ツイてないのはおひつじ座のアナタ!』
結局最後まで見てしまうという結末に……それもその星座と言えば
「おひつじ座って俺じゃん……」
朝から微妙にテンションの下がる俺……だから占いっては嫌なのだ。
『今日は何をやっても空回り。金運も仕事運も恋愛運も最悪です!お金には縁もなく
恋愛の面も女性関係には要注意!仕事も同僚の思わぬことからトラブルに……
そんなあなたは今日は諦めが肝心。悟りを開くと思って難を乗り切りましょう!
それではまた』
そこまで聞いたところで俺はテレビのスイッチを切った。
金運、仕事運、恋愛運最悪って……つうかおひつじ座悪すぎるだろう……
「バカらしい……こんなもん当たるわけがない。全員のおひつじ座がそうであって見ろ!
世の中パニック状態に陥るだろうが」
そんな文句を言いつつ、学校へ行く準備の最終段階へ入っていく。
スーツに着替えて、持って行くものも全部持った。
「朝から不愉快な物見せられたからな。今日は一段とテンション上げて行くか!」
頬を何回か軽く叩いて気合を入れる。
今日は良い一日になりそうだな……そんないつもの俺としてはめずらしいポジティブシンキングな感じで玄関の扉を開き、学校へ向か―――
「カズちゃん学校一緒に行こぉ!あっ、足がぁ……」
突然侵入してきた飛鳥。
何思ったかいきなり足を滑らして、そのまま……俺と衝突
それも飛鳥の頭が俺の人体の急所を的確に射抜く。
「……っく!朝からいきなりこれかよ……」
俺は腹部から感じる信じられないほど痛みに何とか耐えながらも
あの占いは関係ない……あの占いは関係ない……
と念仏のように唱え続ける俺。
これが始まりの序章だとも知らずに……
「もう……ダメ……」
俺は死んだように自分の席で倒れていた。
学校までの道のり、それはまさしく地獄であった。
歩道に出ればまず手始めに車に引かれそうになること5回
なぜかカラスの大群に追いかけられること3回
そしてなんとか体を引き吊りながら校舎に入るものの、今度は朝練中の野球部のボールが
頭に激突し、どどめとばかりに容赦なくサッカーボールが俺の体へヒット!
これにはさすがの俺も耐えることは難しく……そのままダウン。
飛鳥と蓮に背負われるというなさけないことこの上ない形で学校へ登校したのだった。
「まさか……マジで今日は不幸な日なのか……」
そんな言葉がポツリともれる。
いくら俺が不幸体質とは言え、こんなベタな不幸な攻撃を食らうなんて人生始めてである。
どう見たって今日の俺は何かおかしい。
じゃあ今日は俺にとってはいわゆる厄日というものでは?ってことはこれから……
そこまで考えたところで俺は思考を止める。
ダメだ!ダメだ、ダメだ、ダメだ!
俺はネガティブな気持ちを全部外へ押し出し、冷静さを取り戻す。
そうだ…よく考えてみろ!伝馬和弥。俺は不幸な目など
もう数え切れないほど経験してきているんだ。今頃になっておびえる必要などない。
「キンコーンカンコーン」
一時間目の始まる予鈴がなる。今日は一時間目から授業だ。
いつもと違い、気合を入れた表情で授業のある教室へと向かう。
来るなら来い!不幸という名の悪魔よぉぉぉ!!俺が打ち負かしてくれるわぁ!!
そんな間違った方向に気合を入れつつ、俺の学校での一日が始まった。
その後は俺にとって不幸との決戦。いや、死闘の連続であった。
授業中体育で飛んできた野球ボールが俺の元へ向かってくること3回
廊下でこぼれた水に滑り、倒れそうになること5回
緩くて外れかけていたのか上から電球や蛍光灯が落ちてくること4回
歴史の授業で使ったのか、廊下を歩いている俺の元に手裏剣、クナイが飛んで来ること一回
などなどベタなことから、ちょっと有り得ないだろう!とつっこんでしまうようなことなど
いろいろな攻撃が俺に降り注いだ。
しかし、今日の俺は一味違っていた。
いつもならすべてを受け入れるかのごとく不幸を一心に浴び続ける俺であったが、ボールから普通は考えられない手裏剣などが飛んで来ても「見えるぞ、私も敵が見える!」という某赤い彗星状態で華麗に攻撃を交わし、不幸から逃げ続けた。
そう、正しく俺はさながらニュー○イプ状態と思ってしまうほどの運動能力を発揮していた。
執念が呼び込んだ軌跡といえよう……意味は分からないが……
まあその甲斐もあってか、俺は一度も物理的攻撃を受けずに放課後まで逃げ続けたのであった
「……っはぁ、はぁ……しんどい」
まあとは言え、思い込みなんかでは限界が来るのも早く俺はほぼ瀕死状態で
教務室の自分の席で倒れていた。
「大丈夫ですか?」
そう声を掛けて来てくれた伊織先生。
とても心配そうなまなざしを俺に向けるため、俺は心配を掛けまいと体を上げる。
「だっ、大丈夫ですよ。ちょっと疲れが出てきただけですから」
「そうなんですか……だったらそんな伝馬先生にはこれを……」
そう言って俺に差し出したのは何か液体が入っている小瓶であった。
こんな時に渡すくらいだから健康ドリンク何かなのだろうか
そんなことを考えつつ、小瓶をボーッと見続ける。
「葉月先生から預かったもので、ぜひ伝馬先生に渡してもらいたいと……
とても元気が出るらしいですよ」
「へぇ……葉月先生がね……」
そう言いつつ、小瓶の蓋を開き、匂いを嗅ぐ……すると健康ドリンク独特のにおいが
してくる。変なものではなさそうだ。
「あっ!手紙も付いてます。私、読みましょうか?」
「はい、お願いします」
そう言った後、俺は一緒についていた細いストローで飲み始める。
意外に飲みやすい。胃にも優しい感じで、すぐに何かが効いてくる感じだ。
「えっと……いきなりですが、かーくん。これはいわゆる一つの惚れ薬です」
「……ごくん。……えっ?」
俺は飲み終わった瓶に視線を向けながら固まっていた。
「なんか完成してしまったのでかーくんに送ります。一応効果を簡単に説明すると、飲んでから最初に見た人に惚れるという簡単システム。あっ、大丈夫……男とは目を合わせても惚れないから無問題。……って書いてありますけど……」
あの先生はなんていう事を!!!
よく考えてみればあの葉月先生が用意したものなのだ。
少し考えれば得体の知れないものだって分かったことだろうに……
今頃になって気づくものの、時すでに遅し。俺はもう一滴残らず飲んでしまっていた。
何とか視線は瓶に向けていたため、誰とも顔は合わせてはいないのが幸いだ。
唐突に俺の人生の関わる不幸が舞い降りて、俺はとにかくこの伏し目がちな状態で
どのようにこの状態を切り抜けるのか考えていると
「伝馬先生!」
後ろからポンと伊織先生に肩を叩かれる。
「えっと……なんでしょうか?伊織先生」
「伝馬先生。ここは飲ませた私が責任とって私と目を会わせて下さい!」
「えっ!?伊織先生……何血迷ったことを……」
「大丈夫です!私もそろそろ結婚かな〜って思った頃ですから。さぁ!どうぞ!」
何が大丈夫なんですか!!
ヤバイ……良く分からないが伊織先生がその気になっておられる。どうするよ俺……
下に視線を向けつつ、背後から感じるプレッシャーに耐えながら俺は考えた。
そして、天才といわれる頭脳が考えた策とは……
「とにかく逃げるが勝ちだぁ!!」
と叫びながら、視線を下に向けて走り抜けた。
天才の頭脳が導き出した策とは思えないほど、なさけないものだが
そんなことを考えるほどの余裕は俺にはなかった。
「なんとか……その場から脱出できたな」
今は二階の校舎内
放課後というため人がほとんどいないので、人と目の合う心配は少ないので安心だが
これからどうするべきか……
思いついたのはやはり葉月先生に会うことであった。
作ったあの人なら解毒剤を持っている可能性も高いという考え方だ。
「となると……化学室か……」
葉月先生がいるとなると、一番高い可能性なのが化学室である。
ここからは化学室は少し遠い位置にあるな。慎重に行かなくてはな……
そう思い、化学室の方向へ足を向けて歩き始めようとすると
「カズちゃん!どうしたのぉ?こんな所で」
「そうだぞ!伝馬氏。こんな人気のないところでどうしたのだ?」
「何か用事でもあるんですか?」
「用事ないなら一緒に帰ろ♪」
飛鳥、朝倉、奏、芹澤が声を掛けてきてくれてるようだ。
後ろを向いてるため顔まで確認はしてないが……
「ああっ……ちょっと用事があってな、今はすぐには帰れ―――」
そこである疑問点が頭に浮かぶ。
いつもなら一緒に帰ろうって時には校門前で待つのが決まりになっている。
なのに今日に限って、こんな人気のない廊下まで来るなんて
「かっ、カズちゃん!顔が見えないなぁ〜。こっち向いてよぉ」
「そっ、そうだぞ!伝馬氏。人と話す時には面と向かって話すのが常識であろうが」
「そうですよね!朝倉さん!」
「とにかくこっち向いて♪カズくん♪」
みんなの話し方が妙にぎこちない……これってやっぱ
「お前達……もしかして―――」
「しっ、知らないぉ!葉月先生にメールもらってカズちゃんが
惚れ薬飲んだことなんて知らないよぉ!」
「「「………あっ」」」
その瞬間、俺はもう全速力で走り始めていた。
後ろから「あっ!逃げた」という声が聞こえたが、全部無視。
とにかく逃げること一本に集中する。
100メートルくらい走り始めた頃、後ろから背筋が凍るような陸上で言うところのビハインドプレッシャーというものを感じていた。
今いる!絶対誰かが俺の後ろにいる!!
後ろを向けないという状態で聞こえてくるのは、少し遠くから聞こえる呼吸の音のみ
俺の精神的な面に大きなダメージを与えてくる。
「何か……何か武器はないのか!」
そう叫びながら、周りを見渡す。
すると、自分の視界にある大きな人の集団が見えた。
あれは……考えて暇はない。行くしかない!!
俺はその人の集団がいる方向へ走り始めた。
その集団とは……
「オマエハァァ伝馬和弥!!!」
今となっては妙ななつかしささえ、感じてしまう飛鳥親衛隊の人たちである。
俺は会長である須藤の攻撃をさらりと交わし、数十人いる集団の中を
高速のスピードで駆け抜けていく。
「あっ!飛鳥ちゃんが俺のところにぃぃ!!これは夢なの―――」
「邪魔なのぉ!!」
「へぇ!?グハァ!!」
会長須藤は愛しの飛鳥に会えたのにも関わらず、秒殺で吹っ飛ばされたようだ。
とは言え、このファンの集団の弾幕を抜けることは困難
戸惑っている間に俺は出させる力を振り絞り、全力で走った。
化学室前
もう足はボロボロ……精神もボロボロな状態であるが、なんとか化学室へ到着した。
とにかく葉月先生を……そう思いながら扉に手をかけようとすると
ガラガラガラッと扉が開き、そこから
「うん?どうしたの……かーくん。そんなに……ボロボロになって」
葉月先生が出てきた。それも完璧に目を合わした状態で……
惚れ薬を飲んでから最初に目を合わした人物。
それは目の前で少しボーッとした感じの白衣を着た女性……葉月先生なのであった。
「はっ、葉月先生……」
「どうしたの?かーくん。ボーッとしちゃって……」
葉月先生は少し困ったような顔で俺を眺めている。
葉月先生って良く見たら美人だよな……料理も上手いし、何事も完璧主義だし
それにショタコンだか理由が分からないが、俺のこといじめるし
この前だって俺の女装写真これ見よがしに見せてきて昼飯奢らせようと……あれ?
「なんか……全然惚れてる気がしないんだけれど……」
何と言うか古典的ではあるが胸がドキドキするような思いを感じていなかった。
「心の中で人の悪口言わないの……それよりかーくん何びっくりした顔してるの?」
「えっ?だって……惚れ薬で目合わせたから惚れちゃうんじゃ……あれ?」
俺の頭の中が混乱している。どういうことだがよく分からない……
そうして俺が混乱していると、葉月先生は
「もしかして……かーくん惚れ薬のこと言ってるの?」
「そう!それです!だって目を合わしたら惚れるって……」
「かーくん……あれ……嘘だよ」
嘘?うそ?ウソ?
頭の中がグルグルと渦を巻いて、混乱している。
「かーくん。よく考えてみて……惚れ薬なんて作れるわけないでしょ」
その通りである。俺としたことがそんな簡単なことにも気づいてなかったのである。
常識的に考えて惚れ薬というものは存在してない。当たり前のことである。
それなのに俺は混乱してしまって、こんなことに……
軽く自己嫌悪に陥る俺。
「ふふっ……天才であるかーくんがそんなミスを……バカみたいだね」
その言葉にカチンと来る俺。
そうだよ……俺が気づくとか気づかないの前に葉月先生がこんなことをしなければ……
「あっ、あれ?かーくん……本気で怒ってる?」
めずらしく顔を歪める葉月先生……言いようのないプレッシャーが先生に迫る。
「葉月先生……星座って何ですか?」
「星座!?……おひつじ座……だけど」
「へぇ、今日おひつじ座占いで最下位なんですよ。金運も恋愛運も仕事運も最悪……
葉月先生、今日ひどい目に合いました?」
「あっ、合ってない……かな?あの……かーくん。すごく顔に……」
「おかしいですね?じゃあこれから不幸が訪れるのかな?今すぐにでも」
「ごめん……悪かったと思ってる……だからかーくんここは穏便に―――」
「問答無用」
こうして今日という長い一日は終わりを告げた。
葉月先生は和弥の指示により、生徒5人衆と伊織先生、橘先生の食事代を丸々奢る羽目になり
それプラス和弥からは冷たい眼差し、冷たい態度を取られてしまい
多大な精神的ダメージを受けることとなった。
そのせいなのか次の日は学校を休む羽目となった葉月先生。
今日という一日は葉月先生の不幸の一日という、めずらしい結末となった一日であった。
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