第34話一日バイト体験 開店
「カランカラン」
「「「いらっしゃいませ!!」」」
2人の男性客が店の中に入る。
それにあわせて3人の女性店員が唱和して、腰を折る。
「こっ、こちらへどうぞ」
その中で少し顔に赤みを帯びた店員が窓際の席に案内する。
そして、おしぼりと水をテーブルに置く。
「お決まりになったらお呼びください」
とぎこちなさを感じながらも魅力的な笑顔を向けながら言う。
それに男性客の二人は言葉も発することなく、まるで磁石に吸いつけられるように
その店員に視線を向けていた。
「おい……さっきの子、めちゃくちゃかわいくなったか?」
「俺も思った。やばいよ……変な芸能人なんかよりも断然かわいかった」
注文もせず、さっきの店員について話が盛り上がる男性二人。
余程びっくりしたのか、かなり興奮気味に話をしている。
顔には締りなどなく、ゆるみっぱなしだ。
だが、この男性二人はある重要な点に気づいていないはいなかったのだった。
「……っは、っは……なんとか、接客できた……」
俺はお客さんの見えないところでうずくまりながら息を整えていた。
多分今までで一番勇気を使った瞬間であろう。
なぜなら今、俺は女装してウェイトレスをしているのだから……
今、俺の格好はオレンジのウェイトレス服を身にまとい
頭にはロングヘアーのカツラをつけて接客を行っている。
俺は最初に着替えた時、男だとばれてしまうのでは?と不安だったのだが
ここの従業員の女性スタッフにおもちゃ……いや親切心により
胸にはパッドをいれ、化粧までして
挙句の果てには女性言葉での接客の仕方まで教えてもらった。
おかげでさっきのお客さんの通り男とはばれていないようだ……
とは言え、接客時は多大な精神的ダメージを受けることは、さっきの実験で確認済みである。
「和美!4番テーブルオーダーお願い!」
フロアチーフの人から声が掛かる。ちなみ和美というの俺のことだ。
もう後戻りは出来ないのだ……
開店から徐々に客の数が増えてきた。もうすぐすればかなりの人数になると
従業員の方が言っていた。
飛鳥ママのためにも……百華屋の従業員のためにも……
「よし……行こう!!」
気合を入れて立ち上がる。
接客は笑顔が第一。笑顔でオーダーを取りに行く。
「はい!ご注文はお決まりですか?」
今日一日は女になりきってみせる!!
そんな微妙な気合を入れながら、俺の一日アルバイトは幕を開けた。
その後俺は接客にもなれて順調に仕事をこなしていった。
昼の地獄のオーダーの嵐とまれにチャラチャラした男にナンパされる以外は
問題(?)なく過ごしていった。
そして昼も過ぎて、少し仕事も楽なってきた頃
やっぱりトラブルは舞い降りてきた。
「カランカラン」
「「「いらっしゃいませ!!」」」
もう三人で完璧にシンクロしている挨拶でお客様を出迎える。
そしておしぼりと水を俺がテーブルへ持っていこうとすると
「本当お腹空きましたね。さっきまで仕事してたから今頃の時間になっちゃいましたが」
「本当にね。保険医なのに土曜まで仕事なんて……」
「おなか……すいた……死に…そう」
あっ、あれって……まさか……先生3人衆か!?
俺の体中から汗が出てくる。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……
このシチュエーションは危険すぎる!!
俺の頭の中が危険信号を送っていた。
今の俺の格好は女物の衣装である。
もし、あの3人にばれてしまったら……俺は学校に行けない……
とにかく!ばれないように接客する!
それを頭において、3人の座っているテーブルへと近づいていった。
「失礼します……注文がお決まりになりましたらお呼びください」
テーブルにおしぼりと水を置き、ばれないように
そして悟られないように言葉を述べる。
チラッと下を向けていた視線を先生の方向に向けてみる。
伊織先生と橘先生はメニューを眺めて、何にするか迷っているようだ。
一方葉月先生といえば
「ジーーーー……」
なぜか俺に向けて視線を送っていた。
つうか睨んでるような視線で……
「どっ、どうかいたしましたか?お客様」
視線が気になり、葉月先生に質問する。
何かミスをした覚えはないのだが……
「どっかで……会ったこと……ある?あなた」
すっ、鋭い……
さすがは葉月先生と言ったところか……
というかヤバイッ!!バレたら一巻の終わり、ジ・エンドである。
「いっ、いや見覚えがありませんが……」
「本当に?どこかで……あったことあるような……」
「おっ、お客様!?顔を近づけられるのは―――」
「ちょっと黙ってて……」
いつものどうにも出来ない気迫に押されて、どうにもできない俺。
ヤバイ……本当にこのままじゃ……
「カランカラン」
「「いらっしゃいませ!!」」
本当でナイスタイミングでお客様が来店してくる。
「すいません。お決まりになりましたらお呼びください」
と言葉を残して、その場を去った。
危機一髪とはこの事だろうと言う位のギリギリ具合であった。
とは言え、なんとかピンチを脱した俺はさっきは行ってきたお客様に
おしぼりと水を用意し、テーブルへ持って行こうと……
「さっきまで補習受けてたからおなか空いたよぉ〜」
「それは飛鳥が悪いんでしょ!自業自得よ」
「でも偶然ですよね。違う用事で学校に来てたのに帰りは一緒だなんて」
「まあ、私達はなんらかのつながりを持ったもの同士なのかもしれないな」
「そんなこといいからご飯食べよう♪お腹空いちゃったし」
今度はお前たちかぁ!!!
ことごとく重なる偶然……それが織り成す不幸という名の旋律
さすがは俺……さすがは不幸体質……
そう言わざるおえない状況であった。
生徒5人衆と先生3人衆……
そんな二大勢力に囲まれた俺……
どうやってこの事態を切り抜けるのか。
もうバイトなんてそっちのけな方向に進んでいるなんて考えることもなく
俺は一人頭を悩ませていたのだった。
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