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先生は17歳!?
作:takuto



第32話ココにいる理由


「……熱い」


そんな言葉が自然にもれる。
外を見ると、まだ蝉のあのうるさい鳴き声は聞こえないものの
太陽からはこれでもかっ!ってくらいの日差しが降り注いでおり
もう夏本番だなという思いが込み上げてくる。
今度はクラスの生徒達の方向に視線を向ける。
この暑さのためか真面目に作業を行っている生徒は少ない。
大半が「暑い〜」だの「だる〜い」などと小声で言っている。
普段なら注意の一つでもしているところだが、俺もこれは仕方がないかな
という気持ちになっていた。
その理由はまず、教室のクーラーの故障である。
そのため、今の授業はクーラーなしで行っており、俺含め現代っ子である
俺たちにとってはとても辛い環境である。
それに加えて授業の内容は進路学習という、まためんどくさい授業なため
みんながだらけきってるのだ。
普通の学校なら進路学習などは大学進学について重要な授業かもしれないが
如何せん、この学校は中高大一貫校というエスカレータ式なため
ほとんどの人間が大学など選ばず、扇山大学へと進学するのが普通だ。
そのため、どんな職業に就きたいか?などの調べ学習が基本となり
まじめに作業する人は少なくなってしまうのだ。
まあ、俺自身もこの暑さのせいか頭がクラクラしてヤバイ感じになっている頃
一人の生徒が手を挙げる。


「どうした?暑いのはどうにもならんぞ」


その前から手を挙げる人間はこの暑さについての抗議が多かったため
先に釘を刺しておく。


「違うよ、伝馬。まじめな質問だ」
「……そうなのか?何だ?」


珍しい……真面目な質問らしい。俺はその生徒に目線を向ける。


「今、進路学習してるじゃん?同い年の伝馬だからこそ聞いてみたいだが
どうして天才なのに就く職業が学校の先生なんだ?」


ほう……同い年で仕事をしている俺に対して、この職業にしたり理由か……
なんか進路学習っぽい質問な気がする。
その発言をすると、さっきまでやる気なさそうにしていた生徒までが


「前々から気になってたのよ!どうしてなの?人生の先輩として教えて!」
「たしかにな……天才なんだから、他にもっと給料のいい仕事に就けたはずだろうし……」
「俺だったらその頭を使ってIT関係とかの仕事するぜ!普通、先生はないよな?」


などの声がさまざまに聞こえてくる。
ちょっとしたパニック状態だ。
委員長である奏は、みんなを止めようとするものの、この事柄には興味があるようで
いつものような威厳が見えない。
逆にこういうことは朝倉や特に芹澤なんかが飛んで、この事柄について追求してくると思った
のだが、二人とも下を向いて席から一歩も動く気配がない。
よほどこの暑さにやられてしまっているという事か……
俺はみんなを落ち着かせて、席に戻させる。
それから、生徒の期待に応えるために先生になった経緯を話し始める。


「えっとな……俺がまず先生なろうかなって思ったのは――――」


そこで俺の頭の中になにか電気みたいなモノが走る。
そういえば……俺が……先生になろうって思ったのは……
いろいろな記憶が交錯する。
それはあの人の……願い………………



「ふぅ……いい天気だ」


そんな言葉をもらしながら、俺は夏に近づきつつある朝の日差しを受けながら
教会に向かう道のりを歩いていた。
今日は1週間に一度のピアノの練習日だ。
ちょっと前までは―――さんと一緒に毎日のように練習していたのだが
この頃は沙希と泉と一緒に遊ぶことが多くなり、ピアノの練習をサボりがちであった。
だから話しあった結果1週間に一回、地元の教会のピアノを借りて練習することにした。
木々の間からこぼれる太陽の光、そして教会までの険しい道のり
背中に少し汗を感じながらも、自然と辛くはなかった。
やはり、あの人に会える
それだけで俺は何でも出来る。そんな思いになっていた。
正直そんなのは恋愛小説やドラマの中だけだと思っていたのだが、いざ自分がなってみると
想いというものは偉大であるのだと言わざるおえない。
勉強や理論などでは図ることの出来ない無限の力……
少し前まで毎日理論や公式なんかにベッタリだった俺とは思えない発言だ。
それほどあの人は俺にとってすごい人なんだとあらためて思った。
そんなことを考えていると、目の前にはかなり大きな教会が見えてくる。
俺は少し小走りなって、勢い良く扉を開ける。


「おはようございます!」


すると奥のピアノに座っていた女性がゆっくりと立ち上がる。
教会という場所のせいか、その姿はまるで女神を彷彿させるような姿で
俺に向かって微笑みかけてくる。


「おはよう。カズくん♪」


ただ俺に向かって笑いかけてくる……
それだけで俺は幸せな思いになってくる。


「それじゃ、練習始めましょうか♪」
「あっ、はい!」


顔が真っ赤になっているのを気づかれないように
そんなことを考えながら、練習は開始された。


「大分うまくなったね♪この調子だったら、すぐに私なんか抜いちゃうかもね♪」
「そんなことないですよ……俺なんかまだまだです」


少しこそばゆい思いになりながらも、嬉しい思いを隠せない俺。
コンクールはもうすぐである。
やはり出るからには結果が欲しい。
それに教えてくれているあの人のためにも……


「優勝できるのかな……俺」


そんな言葉が自然と出てくる。
その様子を見てあの人は


「そんな結果とか気にしなくていいんじゃないかな?」


と俺に言葉を投げかける。


「たしかに結果も大事かもしれないけれど、私は見てくれる人が楽しんでくれれば
それでいいと思うの。演奏をして、見てる人たちが楽しい気持ちになってくれる……
それだけで私はとても嬉しくなる……私にとってピアノはそういうものだから」


そうだ……まただ。
また、俺は結果というものに固着しようとしていた。
それでは昔の俺と一緒である。
やっぱり俺にはそういう精神がどうしてもあるらしい。
そうなる度に俺はあの人にそういう思い以外にも大事なものというのを教えてきてくれた。
そんなことを思いながら、話に聞き入っていた。


「そういえば、カズくんって将来の夢とかある?」
「……将来の夢ですか?」
「うん♪」


あいかわらずのマイペースさで唐突に話題を変えてくる。
将来の夢……いままで勉強ばっかやってきた俺だが
あらためてそんなことを聞かれると返答に困る。
自分の頭の中であらゆる職業を思い浮かべて見るも、それと言った候補は見つからない。


「今はこれと言って……」


結局は今はないという方向で返答する俺。


「それじゃあ、―――さんは何か将来の夢とかは決めているんですか?」


俺は同じ質問を返してみる。


「私?私はね……将来は先生なるのが夢なの♪」
「……えっ!?先生?」
「そう!先生♪音楽の先生になりたいなって思ってるの」


意外な答えだった。
これだけピアノできる人が先生なんて……


「どうしてなんですか?こんなにピアノできるのに……」


気になってしょうがなかった。こんなにすごい人が
なぜそこまで先生になりたいのかと


「えっとね、私は子供達と同じ目線になって音楽がこんなに素晴らしいだよ〜
って伝えたいの♪たしかに演奏者になるのもアリなんだろうけど、私は子供達と一緒に
純粋に音楽というものを楽しみたい……そう思ったの。だから先生♪」


笑顔を俺のほうに向けながら、そう答える。
あの人らしい答えであった。


「先生か……大丈夫です。あなたならなれますよ!」
「そうかな?ちょっと心配なんだけど……」
「絶対なれますよ!あなたなら……最高の先生に」
「そうだよね。頑張るよ♪」


そう言って俺に笑顔を向ける。
俺はそんな笑顔を見ながら、この人の未来を想像する。
先生になって生徒と一緒に歌や楽器などを使って、音楽を楽しんでる光景が目に浮かぶ。
そんな輝かしく、あの人が理想とする未来が見えてくる。
もしも、もしも叶うなら……そのあの人の未来に俺という人間が関わっていければ
そんなことを俺は考えていた。

あの日あんなことが起きるまでは……

でも……着実に運命のあの日まで……近づいていたのだ。

だけど……止めることのできない……抗うことなどできない……

運命という糸はもう残酷な鎮魂歌を奏でることしかできないのだから……



突然のことだった。
突然にカズは糸が切れたように教室の床に倒れた。
私達生徒はいきなりのことに動転しながらも、奏を中心にまず、教務室にいるであろう
橘先生を飛鳥が呼びにいく。
その後何人かの男子生徒が協力し、カズを保健室に運んだ。
幸いなことに橘先生の診断結果。熱中症だと分かった。
今日の異様な暑さのためであろう。
一安心した私達はみんなホッとした顔で保健室から出て行く。
その中の私、朝倉沙希は橘先生が用事のためカズの面倒を見るように命じられる。
私はみんなが出て行ってから、いつものように文句の一つでも言ってやろうと思った時


「……たすけ…られなかった……ごめ…ん…な…麻衣……さん」
「……えっ?」


そんな言葉を寝言のように呟くカズ。
私は自分の耳を疑った。これから生きていく中でもう聞くことのない名が
カズの口からもれてきた。


「なっ、なんで……あの人の名前を……どうして……」


私は体中が震えた。あの人に関する記憶を全部失ったはずのカズがあの人の名を……
何が起きているんだ?どういうこと?頭の中が混乱する。


「おん……がえ…し…も…できな…かった」
「止めて……」


私はカズの発言に拒否の言葉を出すことしか出来なかった。
現実として受け止めることが出来ない。


「せんせい……に」
「止めて……」
「なりたい……って…言ってた…のに」
「止めてくれ!!カズ!!」


私はうわ言のように喋るカズを抱きしめた。
するとカズの目から流れるように涙が流れているのに気づく。
カズの姿はいつもの力強さなどはなく、不安と絶望に満ち溢れた顔を私に向ける。
どうして!どうしてカズは苦しまなくちゃならないの?
そんな思いが私の中から込み上げてくる。


「カズ!もういいんだ!苦しまなく…ても……いいんだよ…カズ……
もっ、もう……カズは……悪くない…」


私も涙を流しながら、カズを強く抱きしめる。
私達の記憶が消えても、あの人……麻衣の記憶は消えてはなかった。
カズは今のなお、心の奥に大きな傷跡を抱えている。
そして悪くないはずの自分自身をただ責め続けている……記憶を失ってまで
だけど私はもう、こんなカズの姿は見たくなかった。
いつものカズでいて欲しかった……だからこそ……


「大丈夫…だ。カズ……私がいる……一人じゃない……だから…大丈夫」


途切れ途切れながらもはっきりとした言葉でカズに伝える。
そして、今度こそは私がカズの支えになる。
そう心の中で誓う……


ゆっくりと……ゆっくりと動き始めた運命の歯車

和弥は記憶を失いながらも麻衣という人物を忘れられずにいた……

過去を知る沙希は和弥のために新たな決意を固める……

過去知らぬ蓮、奏は何も知らずに平凡な日々を過ごす……

もう一人の過去を知る少女、芹澤泉は保健室の扉の前で一人涙を流し、悲しみにくれていた。

いまだ癒されぬ和弥の痛みと自分のどうすることもできない立場に嘆きながら

ただ声を押し殺して泣くことしか泉はできなかった……


期末も終わり、ちょっとリラックスしているtakutoです。今回は自分でもびっくりするくらいの暗さですね。ただなぜ和弥が先生という職業に就こうとしたかという理由を書きたかっただけなのに……まあ、次回は全く持って反対なコメディになってるでしょうけれど……感想、評価お待ちしております!現在コメディ系の書いてほしい話募集してます!絶対書くとは限りませんが……






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