第28話飛鳥のダイエット
「飛鳥……お前、少し太ったか?」
「………えっ?」
昼食時間
私は今、巷で人気なチョココロネにかぶりつきながら、固まっていた。
えっ!今、カズちゃん、私に向かって太ったって……太ったって……
頭の中でカズちゃんの太ったか?発言が無限ループのごとく繰り返される。
たしかにこの頃は運動もロクにせずに生活していたとはいえ
すぐに太るようなことはないはず……
そう思いながら、私は昨日の食べたものを思い出してみる。
朝。寝ぼけていて正確ではないが、軽くご飯3杯と味噌汁4杯とサラダを大皿で1杯。
昼。この日は学食でハンバーグ定食(大盛り)、カツカレー(大盛り)。
夜。その日は中華で食が進み、ご飯を6杯ほどおかわり。
そして、間食としてスナック菓子とアイスを少々………
こっ、これでは……太るに決まっている!!
私は早急にこの問題の解決を図ることにする。
そうじゃないと……カズちゃんに嫌われてしまうから……
私は頭をフル回転させて、今後のことを考えていた。
俺はう〜んと唸っている飛鳥を見ながら、軽率な発言をしてしまったと後悔していた。
正直太ったと言うよりは、大きくなったという方が適切なのに
何で俺はそんなことを………
今頃思ったとしても、言ってしまったものはどうにもならない。
とにかく長年の経験でこのままでは俺に不幸が直撃すること間違いなしなので
なんとかしたいと思うのだが……
「カズちゃん!」
「どっ、どうしたんだ?」
いきなり、大声で飛鳥が喋ったため動揺する俺。
「私、ダイエットするよぉ!」
「ほっ、ほ〜う。それで?」
「だからぁ……カズちゃんも協力してっ!!」
不幸な感じが嫌なほど漂ってくる飛鳥の発言。
「どんなことをだ?」
一応のため飛鳥に聞いてみる。
「例えばぁ、ご飯量を一緒に減らすとか、一緒にジョギングするとか……」
「一緒にダイエットしろと言うのか!そんなのは俺じゃなくて周りの人間に頼め!!」
そういって蓮、奏、朝倉、芹澤のほうへ視線を送る。
するとこの4人は
「食べないと生徒会の活動できないのよ」
「もうすぐ、コンクール近いので、体調を崩すわけには……」
「少しでも食べないと、私は死ぬ!!」
「問題ないから♪」
「ほらぁ〜もうカズちゃんしか頼めないよぉ!!」
「ちょっと待て!最後の二人は結構どうでもいいような!理由だったぞ!」
そう反論してみるが、周りの4人からは飛鳥の相手は俺がするべきだと
頑なに目で訴えてきているのがわかる。
たしかに原因を生み出したのは、俺だ。
ここは潔くやるべきなのかもしれない。
そう、俺は思い、飛鳥に向かって「了承」と一言。
これにより飛鳥と俺のダイエット作戦が唐突に開始させられた。
朝
俺は朝は弱く、早起きなんかはピクニックや修学旅行などの
行事ごとしか早く起きられないタイプだ。
それなので朝5時と言う時間帯はまだ惰眠を貪っている時間である。
その一日の中でも、もっとも平和な時間に一人の侵入者が忍び寄ってくる。
部屋のドアをそっと開けて、俺の寝ているベットまで近づく。
そして………持っていた広○苑を落とした。
「んっぐっ!…………何のまねだ……飛鳥」
俺は腹に落とされた広○苑の痛みに耐えながら、実行した本人に聞く。
「だってぇ……カズちゃん。起すの大変なのわかってるから、強行手段で!!」
「いきなりか!もう少し平和的な起こし方をしてくれ!」
日頃から鍛えたくて鍛えてるわけではないが、丈夫になっている俺だからこそ
こうやってすぐに回復するものの、普通の人間ならば骨が折れてしまっている事態である。
丈夫な体な自分に感謝しつつも、こんなときにしか喜びを感じられない
俺を嘆きながら、今なぜここに飛鳥がいるのかという疑問が沸く。
「おい、飛鳥。なんで俺の部屋にいるんだ?それも無断で」
思い立ったら即実行の俺なので、飛鳥に疑問をぶつけてみる。
「そうだよぉ!忘れるところだったぁ。カズちゃん!朝のジョギングだよぉ!」
「朝のジョギング?」
「そうだよぉ!ダイエット協力してくれるんでしょ!だからまずはジョギング!」
そうだ。俺は飛鳥のダイエットを協力することになってたんだ。
今頃になって思い出す俺。
俺は飛鳥に急かされながらも、ジャージに着替えて外に出る。
外はやっとのことで明るくなっているところで、当たり前だが人影はない。
軽く準備運動しながら飛鳥に聞く。
「そういえばさぁ……ジョギングって言っても長い距離を走るんじゃないよな?」
俺は正直、体力があるほうではないので長い距離走ると言うのは危険行為に近い。
「そんなの当たり前だよぉ!ジョギングだよ」
「そっ、そうだよな。軽い運動だよな」
「そうだよぉ!軽く20kmほどのジョギングだよぉ!」
あれ?飛鳥さん……桁一つ間違えてね?
「さぁ!出発進行!」
「ちょっと待て!20kmはヤバイって!マジで死ぬから!」
そう反論するも、引きづられているため、どうすることも出来ない俺。
朝からある意味絶好調な俺であった。
「はぁ……はぁ……しっ、死ぬ……」
地獄のジョギングから帰宅して、すぐに俺は家の玄関で死んだように倒れていた。
俺は屍のごとくなっているが、飛鳥のほうはすっきりした感じで
今は朝御飯を作ってくれている。
前から思っていたが、飛鳥は運動に関してはバカみたいにヤバイ。
とは言え、情けなさ過ぎる姿を女子の前で見せるのは、それなりにショックなわけで……
そんなことを思いながら、呼吸を落ち着かせることに集中する俺。
「ご飯できたよぉ〜」
ある程度呼吸が整い始めた頃、飛鳥が朝御飯が出来たことを伝える。
俺は待ってました!と言わんばかりに居間の方へ体を向けて走っていく。
今日という日ほど朝御飯を食べたいと思った日はない!そう思いながら………
「こっ、これは何だ?飛鳥」
俺はテーブルに並べられたものを眺めながら、飛鳥に質問する。
「えっ?朝御飯だけどぉ……何かおかしい?」
「ああ……俺が知ってる朝御飯ってのはなぁ……こんな質素じゃないんだよぉ!!」
俺はテーブルに指を指しながら、叫ぶ。
テーブルに並んでいるのは、ほんのわずかなご飯と具のなく味も薄そうな味噌汁のみ。
箸を1,2回動かせばなくなってしまうような量だ。
「カズちゃん知らないのぉ?お坊さんは精進料理っていうこういう質素な食事を食べて生きている訳で私達も見習おうと――――」
「飛鳥!これは精進料理ではない!つうかこれでは生きていけない!」
「そんな文句言うなら食べなくていいよぉ!これしかないんだから朝御飯はぁ!」
そう言って、先に朝御飯を食べ始める飛鳥。
俺は一瞬悩んだが、結局食べることに決めた。
早くもギブアップしそうな雰囲気の俺であった。
「やっ、やばい……腹へって死にそうだ……」
3限目の授業が終わり、教務室へ帰ろうとする俺であったが
足元がふらついており、真っ直ぐに歩けないでいた。
こっ、ここまで食べないのが辛いとは……
こんなときになって食べることの大事さを実にしみて感じる俺。
とにかく教務室に行って休まなければ……
そう思い、ゆっくりと歩を進めていく。
「どうしたの?カーくん。いつも以上に影が薄いわよ?」
一言余計なことを言ってるような気がしたが、俺は突っ込む力もない。
「ああ……こんにちわ。葉月せん……葉月お姉ちゃん」
「うん……よろしい」
先生と呼びそうになった瞬間、般若の顔になったためすぐに言い直す。
「どうしたの?元気ない……お姉ちゃんに相談して?」
「……えっとですね……」
もう誰でもいいので話が聞いてほしかったので、葉月先生に今までの事情を全部話した。
「そうなの……辛かったわね……」
「はい……」
葉月先生は子供ように俺を撫でてくれているが、俺も腹が減りすぎているため
抵抗することなく、そのままの撫でられる状態でいる。
それがとても嬉しかったのか、あまり見せない笑顔を俺に見せながら
葉月先生はポケットから何かを出した。
「かわいそうなかーくん……じゃあお姉ちゃんがチョコあげる」
そういって俺の目の前に一口サイズのチョコが出てくる。
俺はこの瞬間、葉月先生が救世主に見えた。
後ろからは後光の輝きすら感じる。
「葉月お姉ちゃん……ありがとう!大好きだよ!」
もう何でもいいから、葉月先生に感謝していた。
さっきの言葉により、葉月先生が「最高!」といって倒れているのなんて
目に入らなかった。今は目の前の一口チョコのみに視線が集中。
やっとまともなものが食べれる……
そんな思いを抱きながら、チョコを口の中へと……
「何をしてるのかなぁ?かなぁ?」
俺の全身に汗が嫌なほど流れてくる。
この声は………そう思い、後ろを向いて見るとそこには
あの時と同じ某ゲームの鉈女口調の飛鳥が立っていた。
「こっ、これは!」
なにか良い言い訳はないか探してみるが、そんな時間も与えることなく
「カズちゃん……裏切りは……いけないんだよぉ?」
体中が動揺でブルブルと震える。
この状態に入った飛鳥は俺では止めることはできない……
俺はどうすることも出来なかった。
「没収……」
俺は……俺は!!チョコを守ることができなかったんだ……
惨劇を繰り返してしまったんだ……
訳分からないことを考えるほど、おかしくなっている俺であった。
そしてこんな日々が1週間続いた。
人間慣れてくるとと何とかなるもので、一週間もすれば上手く順応していた。
今は教務室で今回の出来事を伊織先生に話しながら、時間を過ごしていた。
「そうなんですか。伝馬先生も色々大変ですね」
「まあ……それくらいは問題ないですよ。それよりも飛鳥の方が心配で……」
「飛鳥さんが?どうかしたんですか?」
「いや……この頃あまり元気がなくて……大丈夫かな……と」
そう、ここ最近飛鳥の様子が変である。
間違いなく無理なダイエットのせいなのだが、俺が止めようとしても
頑なにやめようとはしない。何があいつをそこまでするのか見当がつかないが
このままではいつか――――
ガラッ
すごい勢いで教務室のドアが開く。何事かと思い、その方向へ体を向ける。
すると一人の女性生徒が
「先生!体育中に宮本さんがいきなり倒れて―――」
そこまで聴いた瞬間
俺は教務室を飛び出して走り出していた。
「………ぅん?」
「気がついたか?飛鳥」
起きると目の前にカズちゃん顔があった。
私はびっくりしながらも、体を起し、周りを確認する。
ここは保健室のようだ。
どうして私はここに?そう思っているとカズちゃんが立ち上がって
「お前、体育中に倒れたんだぞ。俺がここまで運んだ。分かってると思うが
原因は栄養不足……ダイエットのせいだ」
そうだ……私眩暈がして倒れちゃったんだ……
やっとのことで今の現状を確認する。
「たしかに太ったか?といってしまった俺が悪いが、そんなに無理しなくてもいいだろ?
何でそこまで痩せたいなんて……」
めずらしくブツブツと説教のように長く話すカズちゃん。
とても私を心配してくれていたようだ。
でも……私は……カズちゃんの前では……
「だって……カズちゃんの前ではきれいでいたかったんだもん……」
私は正直な思いをカズちゃんに伝えた。
どんな人でもそうだ。自分の好きな人の前ではきれいであり続けたい。
ずっと私だけを見続けてほしい。
そう思ってるから……
「この!バカ飛鳥がぁ!!」
「……っ!痛いよぉ!いきなり殴らないでよぉカズちゃん!」
唐突に私に拳骨を食らわせるカズちゃん。
「お前、そんなことで悩んでいたのか!だったらこれから言うことよく聞いとけ!
飛鳥。お前はな、正直言って綺麗だよ!信じられないくらい綺麗だよ!
そりゃあアイドルなんてまったくもって相手にならないくらいな!
だから……さぁ……ダイエットするとか思うなよ」
そう言って後ろを向くカズちゃん。
普段言わない台詞を言って、顔が真っ赤。
「前にもこんなことが……」そんなことをブツブツと呟いている。
私は、その言葉を言われた瞬間、涙がポロッと流れてくる。
それをカズちゃんにばれない様にすばやく拭く。
「じゃ、じゃあ……これからもカズちゃんの側にいてもいいのかな?」
「当たり前だろうが!」
「……うん。ありがとね……カズちゃん!」
これにより飛鳥のダイエットは終了した。
しかし、この後おなかが空きすぎた飛鳥に和弥は大量のご飯を奢らなくてはならなくなり
結局は最後まで不幸な目にあう和弥であった。
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