第22話最高の誕生日
6月5日
その日は普通の人達にとっては変わらない、いつもどおりの平日。
しかし、私にとっては1年でもっとも大切で重要な一日。
また一つ成長し、大人へと近づいていく……そう思わせられる一日。
そう……今日は私の生まれた日……17回目の誕生日の日であった。
「和弥っ!おはよう!」
私は和弥に向けて自分が向けることの出来る最大の笑顔で和弥に話しかける。
今日の私はとても朝から気分がよく、自然と笑顔になってしまう。
しかし、和弥は対照的に「おはよう」と元気というか覇気のない返事を私に向けてする。
どうしたのかな?と思い、和弥の顔を見てみると、顔には隈が出来ており
隠そうとはしているが隠し切ることが出来ないほどの疲労感が
和弥の顔から滲み出ていた。
尋常ではない和弥の疲れ具合に私は和弥に質問してみる。すると……
「えっ……と、学校の仕事が溜まっていてな。この頃徹夜が続いてるから……
そんなに心配するな。大丈夫だよ。蓮」
そう言って私に笑顔を向ける和弥。
でも、その笑顔は疲れのためか無理して笑っているようにしか見えず
私はどうにもならない不安感でいっぱいになりながらも
止まっていた足を再び動かし、学校へ向かう通学路を歩き始めた。
「それで今日は何持って行くのぉ〜?」
「ケーキは私が用意します。それ以外には……」
「まあ多少のお菓子類と飲み物は私が用意しよう。後は料理などの食材だが……」
「それは私が持っていくよ♪大体のものは家にそろってるし♪」
私を除く4人が今日の予定に向けて話し合いを始めている。
今は昼休み
いつもどおり私達5人は同じテーブルを囲って昼食を食べている。
今日が私の誕生日だと知っていた飛鳥、奏、沙希、泉は私の家で
誕生日のパーティーを開こうと提案してくれた。
今日はその最終打ち合わせを昼食の時間を使って話し合っているようだ。
私はとても嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。
いくら外面が女の子に見えようとも、どんなに女らしい態度を取ろうとも
結局は私、綾月蓮の性別が男と言うことには変わりがなかった。
だからこそ、親しくしてくれる友人がいたとしても一線を引いた関係があるのは
どうしようもない事実であった。
だが、この4人は違っていた。
和弥を通じて出会ったこの4人はいとも簡単にその一線を越えて私と接してきてくれた。
私を女の子として、対等の人間として見てくれていた。
この人たちは私にとって親友と呼べる存在なんだ。そう思った。
だからこそこうやって私のために誕生日パーティを開いてくれるなんて
涙が出るほど嬉しいはずなのに……
「そういえば……和弥はどうしたの?」
いつの間にか私はそんなことを口走っていた。
すると飛鳥が
「えっと。今日もカズちゃんを昼食誘ったけど、今日も忙しいって言って
すぐにどっか行っちゃったよ〜」
「そうですね……この頃は一緒に昼食を食べてませんね。和弥さん……
そんなにお仕事の方忙しいのでしょうか?」
と今日の状況を説明してくれる。奏もそれなりに心配はしているようだ。
そう……和弥は1週間前くらいから私達と昼食を食べなくなった。
私達5人は何事かと思い和弥に聞いてみると
仕事がとても忙しく、昼食を食べている暇もないと説明してくれた。
17歳と言えども先生である。
それなりにハードな仕事に直面しているのであろう。
そう思い私達はその場は納得していた。
しかし、1週間も昼食に顔を出さないとなると話が変わってくる。
私だけでなく飛鳥、奏、沙希、泉までも不安な気持ちで駆られていた。
「でっ、でも……誕生パーティーはなんとかして顔を出すってカズちゃん言ってたよ!」
唐突に私に話しかける飛鳥。
よほど私が変な顔をしていたのか、心配をして言葉をかけてくれた。
「うん!分かったわ。じゃあ放課後に校門前集合ってことでいいかしら?」
「うんっ!」
「はい!」
「ああ了解だ」
「おっけ〜♪」
もう昼休憩も終わりに近づいているところで話し合いを終わらせる。
そうだ……何を沈んでいるんだ私!今日は誕生日だぞ!楽しまなくちゃ!
そう心の中で思いながら、次の授業へ向かっていく。
しかし、未だにどうすることもできない不安感は拭い去れてはいなかった。
真っ暗な空間に浮かぶ17本のろうそく
それを私はじっと眺めてから、1本1本丁寧にろうそくを吹き消していく。
「「「「誕生日おめでとう――――!!!」」」」
その全部を消し終わった後、みんなから祝福の言葉が贈られた。
「みんな……ありがとね!」
私は感慨深い気持ちになりながらも、はっきりと4人向けて
感謝の言葉を述べた。
そう、今はわたしの家にて誕生パーティーを開始していた。
ろうそくを吹き終えた後は、みんなでケーキを切り分けて談笑しながら楽しむ。
その間に沙希と泉が料理をテーブルへと運んでくる。
意外な話だがお嬢様である沙希や泉は料理を作るのが趣味と言う
お嬢様らしかなる趣味を持った二人であった。
さすが、料理を趣味と言うだけのことはあり、出てくる料理は
シェフ顔負けの料理が次々と出てくる。
私はその料理の作り方を二人に聞きながら、今度は私の和食料理をごちそうして
逆に料理に作り方を二人に聞かれたりなどして楽しいひと時を過ごしていった。
だが、この時間にも終わりはやってくる。
夜の10時となり、もう夜も遅いと言うことで4人は帰宅することになった。
「楽しかったよぉ〜!!またねぇ〜」
「楽しかったです。本当に。また学校で……」
「うん。今日はとてもいい日だった。また今度」
「楽しかったよ♪教えてもらった料理早速試すね〜♪」
そう個々に言葉を残して帰っていく。
私は手を振りながら、家の外でみんな見えなくなるまで手を振り続けていた。
「終わっちゃったな……」
小さく、呟くような声で言う私。
今日という一日は最高の一日であった。
親友と呼べる人間と一緒に祝う17回目の誕生日。
これ以上望むものはない。これ以上に最高なことはない。
それなのに………
私は……涙を流していた。
結局誕生パーティーの間和弥は姿を現すことはなく
途中飛鳥たちが和弥に電話を入れてくれたが、電源を切っているのかつながらなかった。
私は心の中で何度も和弥は仕事が忙しいから来れないだけと念仏のように繰り返す私。
それじゃないと私の心はすぐにでも崩れてしまいそうだったから……
誕生パーティーに和弥がこない。
その事実は和弥にとって私という存在はそれだけのものであると言うことを示していた。
分かってはいた……
覚悟していたはずだった……
和弥にとって綾月蓮と言う人物は男友達と言う認識しかないと言うことを……
女の子と言う頭数に入っていなかったと言うことを……
分かっていた。分かってはいたことだ。気づかないフリをしていただけなのだ。
だから、だからこそわかる。
この恋心が嘘ではない、本当の恋であるということを……
「和弥……私はいつまであなたを好きって思っていていいの?」
星空が輝く夜空に向けて私は呟いた。
「何やってんだ?蓮」
「………えっ?」
驚いて後ろを振り向くとそこには……和弥がいた。
なぜ和弥がこんなところに?
私は頭がパニック状態に陥ってしまってまともに会話することすらできなくなっていた。
「ああ……もうパーティー終わっちゃったのか……急いできたつもりだったんだが……」
そう言い、頭を抱える和弥。
えっ……それって………
「とにかくまずは……すまん!蓮!遅刻してしまった!」
私の前まで来て、謝る和弥。
「えっ!?これってどういうこと?和弥は私のパーティに来るつもりだったの?」
「何言ってるんだ?そんなの当たり前だろうが。まあ……諸事情で
大幅な遅刻をしてしまったが」
少し罰の悪い顔をして言う和弥。
そうか……和弥は来てくれるつもりだったのだ……
それだけで私の心は落ち着きを取り戻す。
すると、冷静さを取り戻してきたためか、疑問点が浮かび上がる。
「じゃあ!なんでこんな遅刻したのよ!和弥が来ないから
私少し……ショックだったんだから!」
ショックの幅は少しと言うものではなかったが、そのままの思いを和弥に伝える。
「そうだったのか?……なんと言うかすまん。遅刻したのはな理由があってでな……
まあ、それよりに渡すものがある。ほらっ!これ」
そう言って和弥は私に向けて、箱状のものを投げてくる。
突然のことで焦るが、なんとか落とすことなくキャッチすることに成功。
「これ……なに?」
「まあいいから開けてみろ」
そう和弥に言われて、箱を開く。
すると中にはクロス型ネックレスが入っていた。
「えっ?これは……」
「誕生日プレゼントだ。お前この前テレビ見てたとき欲しい〜って言ってただろう?」
「えっ!?でもこのネックレスって限定物でもう日本にはないんじゃ……」
そう、このネックレスは前から欲しかったものである。
しかし、限定で日本販売されて、私が欲しいと思ったときには
もう日本での販売は終わっていた。
今では、世界中でも希少価値といわれるほどのネックレスであると聞いたことがある。
それなのに……なぜこんなところに?
「言っておくが偽者じゃないぞ。まあそこそこ苦労したが、蓮の誕生日プレゼントだからな。
このくらいの苦労はどうってことないよ」
そういって私のほうに笑顔を向ける和弥。
私はこの時すべてを悟った。
この1週間なぜ昼食を一緒に食べなかったか、なぜ毎日のように疲れたような顔をしていたか
それは私の誕生日プレゼントであるネックレスを手に入れるために
ただそれだけのために……和弥は1週間もの間頑張っていたのだ。
こんな私のために……
もう私の心はぐちゃぐちゃにかき回されていた。
どうすることもできない熱い思い……悲しい気持ち……
しかし、一つだけ揺らぐことないひとつの真実。
それは………和弥が大好きであるという思い……
歯止めのきかないこの気持ち……
抑えることは……できない……
その瞬間、私は和弥に抱きついていた。
「えっ!?おい!蓮どうしたんだ?たしかに悪いとは思ってるがそこまで怒らなくても……」
「和弥……少しだけ……少しだけでいいからこのままでいさせて」
心のそこから願うような思いで和弥に懇願する。
「………少しだけだからな……」
そう言って、私の肩に手をかけてくれた和弥。
私は体全体に和弥の温かさを感じながら、小さな声で呟いた。
「もう少しだけ……もう少しだけでいいから和弥を好きでいさせて……」
こうして蓮の17回目の誕生日は終わりを向かえた。
|