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桃香編最終話は、ちょっぴりシリアスな展開も混ざっています。最初はコメディーチックに仕上げようと思ったのですが、筆が進むにつれてこんな展開に。とはいえ、なるべく恋姫の雰囲気を出すべく努力しましたので。よければお読みください。
その6 桃香編6~青天の霹靂~終
ちゃぽん……

「はぁ~……」

その夜の浴場にて、桃香は盛大な溜め息を吐いた。
「どうしよう~……もう、痩せてるよね……大丈夫だよね。ご主人様……」
自分が太ったと気付いたその日から、痩せるべく徹底的に活動した。ひたすら運動をし、食事の量を減らした。そのおかげで、大分体は細くなっていると思う。しかし、疲労が溜まりお腹もすいているのに無理したせいか、妙にだるい。こうして、お風呂に浸かれば疲れも洗い流せると思ったがどうやら意味はなさそうだ。
「でも、無理言って一人でお風呂に入らせてもらっているしなあ~ブクブク……」
そのまま口元まで湯に沈めぶくぶくさせながら途方に暮れる。
太った姿を見られたくないから、誰とも一緒に入らずにいるが、当然経済的ではない。お湯を沸かすのだって、大量の水と薪に手間がかかるのだ。

ガラララ……

それに、いくら痩せたって、痩せすぎや筋張った体でも嫌われるかもしれない。でも、ご主人様には心配かけたくないし、すぐに傍へ駆けつけ抱きしめてほしい。耳元で甘い言葉を言ってほしい。自分の体をほめてほしい。
けど、もしも、もしかしたら、などの嫌な想像しか浮かんでこない。完全に思考が袋小路に迷い込んでしまう。

ちゃぽん……ざぶざぶ……

「ぷはあっ! ……でも、ご主人様には嫌われたくない……」
そう、大前提となるのはこれだ。今の自分にとって、ご主人様に嫌われてしまってはもう生きていけない。北郷一刀というのはもはや自分の心と体の全てを占める存在なのである。

「はて、主が桃香様を嫌うなど、天地がひっくり返ってもありえますまい」

自分の考えは、何を言っている、といった感じの意見に一笑される。すぐさま反論する。
「ううん。だって、ご主人様は愛紗ちゃんたちみたいな魅力的な子がいいはずだもん」
「それこそ何を言いますか。桃香様とて十分魅力的なお体であると思いますが?」
「え、本当っ!? 私の体、魅力的になってる、星ちゃ……ん?」
「ええ。この蜀の家臣であり乙女の一人として不肖、星が保証いたしましょう。おや、桃香様いかがいたしましたか? ぱくぱくと口を開けていては、金魚のようですぞ」
突然の闖入者に驚きが過ぎてしまい、うまく口が回らない。
「あ、あれ? わ、私、今日も一人でって」
「非効率です。一度に大勢入ればその分、手間も資源も減りますゆえ」
「い、いつの間に……?」
「おや、これは意外な? 私は入口から堂々と入りましたぞ」
言うこと全てに返されてしまい、もはや何も言えなくなってしまう。
しかし、風呂場に星ちゃんがいて、自分の体を見ているという事実を確認した途端、恥ずかしさがこみ上げ、腕でお腹を隠し勢いをつけて首まで沈んだ。
「せ、せせせ、星ちゃん。そ、そそ、そそその、みみ、見た?」
湯から首だけ出し真っ赤になって訊ねる。

「ええ。桃香様の肢体は元々魅力的ですが、最近はさらに美しくなっておりますし」

「え?」
てっきり、以前よりふくよかになりましたな、とか、太ったのでは、みたいに聞かれるかと思ったので、肩すかしをくらってしまう結果となった。
「聞いておりますぞ。毎日鍛錬を怠らずに、さらにご自身を磨いておられるのだと。三国同盟の後となれば気合いが入るのも頷けます。今後の治世の良し悪しが全てを決めると言っても過言ではありません。まあ、少々政務が滞りがちになっているのはこの際目を瞑りましょう。なにせ、全力で行っているのです、横槍を入れるのは無粋でしょう」
「あ、あはは。うん。そ、そうだよね。……ごめんなさい」
国のために鍛錬している、という風に受け取っている星をだますようで本当に心苦しくなってしまう。ここで、そうではなく自分が痩せるために皆に迷惑をかけている、といえればどれだけ楽になれるだろう。でも、変な意地と下心が働いてしまい、曖昧に答えてしまい、後悔と羞恥とばれなかった安堵の念で押しつぶされそうだ。だが、次の星の言葉で、その全てが霧散する。

「ですが、真に無粋な行為であるのはもっと別の部分でしょうな」

「え……」
「桃香様、最近の行動は、きっとご自身に思うところがあってのことでしょう。ですが、他の者に心配をさせるのはいただけません。特に、あなたのことを想っている者は大勢いるのです」
胸を突き刺されるようであった。そうだ、自分は周りが全く見えていなかった。自分のことばかりに夢中になっていた。それも、自分のわがままで。

「あなたは王なのです。この蜀という多くの民を抱えた一国の主。民を想い、家臣を従え、皆の先頭に立つことこそが王です。後ろを見ずに、ただ突き進むだけの行為は勇敢ではなく蛮勇、あるいは無謀というもの。それでは、真の平和は夢のまた夢」

そうだ、これでは王失格だ。自分の個人的な理由で国を、民を見ていなかった。皆で目指した平和のために、他にもっとすべきことがあったはずなのに。下手すれば、ぞのまま国の一大事に発展していた可能性もゼロではないのだ。その指摘に、うつむいた顔が真っ青になってしまう。温かい湯に浸かっているのに、体が震えてしまう。

「ですが、国だけを考えてはいけません。当然です。己を幸せにできないものが、どうして国を幸せにできましょうか」

再び挙げられた言葉。自分の心を読んだかのような力強い言葉。顔を上げれば、星ちゃんが微笑みを浮かべている。

「なればこそ、我らを頼ってくださいませ。一人で奔放するのでなく、悩むのではなく。我らと共に、協力し励まし合っていく。これこそが人として、国として、正しい在りようでございましょう」

気がつけば、頬から涙が流れていた。星ちゃんがそっと胸を貸してくれる。ご主人様への不安も、自身の行いの後悔も、全てが涙と共に流れていく。
しばらくして落ち着くと、星ちゃんはゆっくりと体を離し、目を合わせきた。

「とはいえ、今回の場合は仕方がありません。この度のことは、女性であれば誰しもが口を塞ぎ、右往左往して当然。ましてや、それが恋する乙女であれば尚のこそ」

その言葉を聞いて、思わず口が開く。だが、そっと立てられた人差し指で口を塞ぎ、片目を瞑って笑っている。その笑みは、隠し事をしていた娘の全てを知っていた母親のようでもあり、頼りになる賢しい星ちゃんらしい。

「ご安心を。この事はごく少数しか存じませんし秘匿はもちろん、主や愛紗たちにも預かり知らぬところ。そして、これが一番言いたかったことなのですが……」

やれやれといった感じでかぶりを振るう。困った風に笑っている感じな様子で言ってくれた。たぶん、一番言ってほしかった言葉を。

「我らの主が、そのような事で嫌うはずがないでしょう。もっと自信をお持ちになれ。どのようになっても桃香様は桃香様ですぞ」

その言葉に、桃香は嬉しそうに、本当に嬉しそうに頷いた。


すぐに風呂場からあがった桃香様は、すぐに主のもとへ赴くであろう。その様子が鮮明に思い浮かべることができ、苦笑してしまう。そして、桃香とすれ違うように複数の人影が風呂場にやってきた。

「それで、主にはちゃんと部屋で待っておくようにお伝えできたか? 朱里に雛里よ」
「はい。少々、仕事のし過ぎでお疲れですが大丈夫かと」
「ん……ちゃんと、しばらくは起きているようにともお伝えしました」
「それは重畳。お疲れだったの2人とも。さて、後はのんびりと湯に浸かるとしようかのう。星か紫苑、酒はないかのう。風呂場で飲む酒もまた一興」
「ふう。ぼくや月にまで面倒見せるなんて。全く世話が焼ける王さまね」
「うん……きっと桃香様も不安だったと思うの。だから、詠ちゃんもそんなに言ったら駄目だよ」
「あら、心配無用でしょ。詠ちゃんだって憎からず思っているもの。ふふ、そんなことは月ちゃんが一番よくわかっているかしらね……それと桔梗。お酒などはありません。零したりしたら掃除が大変なんですからね」

にわかに賑やかになる浴場。こうして、真実を知った者たちは、人知れず暗躍しその結果を夜の闇と温かな湯の中に沈めるのであった。


その後、北郷一刀の自室にて。

「本当にごめんなさい!! ご主人様にいっぱい迷惑かけちゃって……」
「いや、それなら仕方ないよ。それに、星が言ってくれた通り、俺はどんなになっても桃香を嫌いになることなんて絶対にないから。安心してくれ」
「うん……うん」
「ほら、泣かないで……もちろん、綺麗で魅力的な桃香が一番大好きだけどね」
「えへへ~、それじゃあ今後はもっと気をつけます。いつまでも、ご主人様が一番で好きでいられるように、ね」
「ん、ありがとう。でも、俺も本当に心配したんだから」
「うぅ~ごめんなさい……それと、ありがとう」
「それじゃ、明日からは一緒に仕事だ。桃香がいない間にたくさん溜まっているんだから」
「ひえ~大変だ~ど~しよ~」
「俺もできる限り手伝うよ。それと、一緒にお昼も食べに行って、またこうして一緒に……な」
「ん……ご主人様……」

チュッ

大好きっ!!
星が思った以上に活躍してくれました。最初はこのポジションに愛紗を考えていたのですが、やはり愛紗はやきもち焼きのキャラで一刀とラブラブを中心にしたかったので、星にしました。にしても、星は書いていて非常に書きやすい。シリアスもコメディーも両方ござれのマルチなキャラ。なるべく、原作の雰囲気を再現したつもりでしたが、力不足故至らぬ点多々ございますが、寛大な心で読んでいただければと。

これにて桃香編は終了です。次回作の主役は誰にしようか迷っている今日この頃。あと、もう少しサブタイトルもひねりたいなー、とか考えています。

応援よろしくお願いします。


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