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今度は詠のターンです。
その10 月・詠編4~メイドの看護~終
月がお盆を戻しに部屋を出て、部屋には再び詠と一刀の2人だけとなった。一刀は先ほどよりも顔色は良く、熱も下がっているようだ。ただ、熱い物を食べた後のせいか、顔には汗をかいている。それに気付いた詠は、すぐに手ぬぐいを濡らした。

「ほら、あんたまた汗かいてるわよ。じっとして……(ごしごし)」
「わっ、ふふ、く、くすぐったいな」
「いいから、ほら。口元も汚れてるわよ。全くもう……(ごしごし)」
「むがむがが」
「……はい、終わったわよ」
「ん、ありがとう。詠」
「っ!…………(カァー////)」

顔を拭いていたため、ばっちりと近くで目が合ってしまい、詠は逃げ出したいほど恥ずかしくなった。そのせいだろう。照れ隠しのせいか、妙な言動をとってしまったのは。

「ほ、ほら! そんなのいいから。そ、そうだ。あんた、体も汗かいてるでしょ! ふ、服を脱ぎなさい! ぼぼ、ぼくが拭いてあげるから!!」

自分でもなぜこんなことを言ってしまったのかわからない。別にそこまで世話を焼く必要はないし、こいつもある程度回復しているのだから自分にやらせればいいのだ。けど、月に嬉しそうに食べさせられているこいつを見ていたら、居ても立ってもいられなくなった。
けど、これが自分の仕事なのだ! 決して、寂しくなったとか、月がうらやましくなったのではない! 断じてない!! そう。これは、仕方なくやってやるのだ。そう思ったのだが、次の一言で全てが弾け飛んだ。

「あー、でも、朝起きた時、月にやってもらったから大丈夫かな」

何? 月にやってもらった? ぼくがせっかくやってやろうとした事を、既にやってもらった。しかも月に。月はきっと見たのだろう。こいつの背中を。武人ほどではないだろうが、たくましく、筋肉で覆われた力強い後ろ姿を。天の御使いとして、重いモノを背負ってきた男の背中を。何度も、閨を共にしたのだ。今更、こいつの裸体をみることにためらいはない。ないのだ。よって、恐れもためらいもいらないのだ。普段の論理的な自分とは違う、かけ離れた行動力だと、頭の片隅で思った。が、思っただけで拒もうとはしなかった。

「ええい!! ほら、いいから脱ぎなさい!! 上も! あと下も!!」
「ええっ!? 下ってズボンも!? ちょ、ちょ、さすがにそれはまずいって!?」
「ああ、もううるさい!! 月にだってやってもらったんでしょ。だったら、ぼくもやってやるって言ってんの」
「ちょ、ちょっと!! あー、駄目だー体がだるいー……し、しかし、男の尊厳が~」
「問答無用!!」

病気もあり先ほどまで寝込んでいた一刀の力では、非力な詠の力にも逆らえない。
詠は布団を剥ぎとり、往生際の悪い一刀を押さえつけるべく、馬乗りになりながら服を脱がしていく。
なので、当然、そんな状況で誰かが“のっく”したって気付くはずもない。そして、騒ぎは外にまで漏れているので、何事かと扉を開ける人に気付くはずもなかった。

がちゃっ
「あのー、ご主人様、一体何……が……はわ、はわわわわ」
「お見舞いに来ま……し、た? ……あわわわわわ」

やってきたのは朱里と雛里であった。果物を詰めた籠を持っていたが、目の前の光景にとり落としてしまう。

「「あ……」」

詠と一刀の声が重なる。

手拭いを片手に馬乗りになって脱がせようとする詠と、弱っているのでまともな抵抗ができずになすがままの一刀。見られたのは、よりによって艶本好色家の2人。その脳内には桃色に満たされているだろうことは、想像に難くない。

「「し、失礼しましたー!!」」
ばたんっ!

きゃー! と言って速攻で扉を閉める朱里と雛里。詠は慌てて飛び降り扉を開け放つが、小さくなった2人の後ろ姿しか見えない。今から追いかけても無駄だろう。仕方ないので、誤解を解くのは後にしようとして、声を聞いてしまった。

「……ま、まさか詠さんがあんな積極的な、え、えすえむぷれいというやつを……」
「…………ご主人様も抵抗してなかったし、ひょっとしていつもあんなことを……」
「………………ま、まさか、あの艶本にあった“うけ”というやつでは…………」
「……………………じゃ、じゃあ月さんと詠さんが、その、“せめ”ということに…………」

前言撤回。
今すぐにでも誤解を解かねば禁断の領域にまで妄想しかねない。
というか、ここで止めなければ蜀に自分たちの居場所がなくなる。本気で。

「なんで月まではいってんのよ!! こらー待てーーー!! 誤解だーーーー!!!」
「「きゃーーーーーーー!!」」

その後、叫びながら城中を追いかけっこした詠は、なんとか誤解を解くことに成功した。途中、逃げる2人がたまに卑猥な言葉を出すので、その度に絶叫を放ったのだが、なんとか誤魔化せていると願いたい。
そして、今度掃除するときには朱里たちの部屋にある艶本を全て焼却処分してやろうと心に誓った。

ちなみに、半裸の状態で放置された一刀はしばらくして戻ってきた月に悲鳴を上げられながら介抱されたのだが、病状が悪化したのはいうまでもない。

さらに、そのことで詠が月はおろか愛紗たちにまでお説教をくらうのは当然の帰結でもあった。結局、全員で毎日交代して看病をすることとなり、1週間後、ようやく一刀は無事に回復したのであった。


                                           終















蛇足

「ねー、おか~さん」

「なあに、璃々?」

「“えすえむぷれい”ってな~に?」

「……………………誰かしら? 璃々にそんな言葉を教えたのは…………」

「???」
とりあえず月・詠編は終わりです。
いかがでしたでしょうか? 本来ならもっと長くなる予定でしたが、作者の実力と時間が不足しているためこれが現時点での限界でした。

次は誰にしようかなー、と思う今日この頃。

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