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小樽殺人事件
作:健司



断定


 翌日一樹はベッドサイドの電話の音で目を覚ました。
 「はい、もしもし。」
 フロントからの電話であった。
 「貝塚様のお部屋でしょうか?」
 「はいそうですが。」
 「ロビーに沼倉様というお客様がお見えですが。」
 反射的に一樹は電話の隣においてある小さな目覚まし時計をみた。時計の針は9時を少し回っていた。
 「わかりました。すぐいきますから。」
 そう答えて一樹は受話器を置いた。ふととなりのベッドに目をやると、こずえの姿がなかった。サイドテーブルにホテルの便箋に走り書きをしたメモが置いてあった。
 ”かなり遅くまでがんばったみたいね。一緒に朝ごはん食べたかったけど、グッスリ寝てるようだから一人で行くね。沼倉さんが来るころには食べ終わると思うから。”
 一樹はとりあえず着替えてロビーに下りた。沼倉のスーツ姿と、笑うこずえの顔が見えた。こずえが気づいて一樹に手を振った。
 「先輩、あっいや支局長おはようございます。」
 「いままでどおり先輩でいいよ。」
 沼倉が煙草に火をつけながら言った。
 「それより貝塚、夕べ遅くまでネットで何か調べていたらしいな。」
 一樹が一瞬こずえを見ると、彼女が舌を出した。
 「もうききましたか。」
 「ああ、彼女怒ってるぞ。せっかく旅行に来たのに事件のことしか頭にないって。
で、何を調べてた。」
 「先輩昨日死体で見つかった加藤栄三さんにはもうひとつの顔があるっていいましたよね。」
 「ああ言った。」
 「その顔っていうのがどうも引っかかって。それを調べてみたんです。」
 「で、分かったか?」
 「ええ、運河再開発の反対運動のリーダーなんですね。」
 「へえ、インターネットっていうやつはそんなことまですぐ分かるのか。」
 「先輩はその反対運動と今回の転落死が関係してると思ってるんじゃないですか?」
 「まあ、そんなところだ。それより貝塚、警察はその転落を殺人と断定し、今朝小樽署に帳場が立った。」
 「捜査本部ができたんですか?殺人と断定した根拠は何ですか?」
 「首筋の痕だ。紐で締められたようなあとがあったらしい。」
 「じゃあ首を絞めて殺してから、突き落としたってことですか?」
 「そんなところだ。」
 「ひどいわ。」
 それまで黙って二人の話を聞いていたこずえが声を出した。沼倉が続けた。
 「貝塚そこで頼みだが、この取材手伝ってくれないか?」
 「でも僕は室蘭支社の人間ですよ。それに支局にも記者はいるでしょう。」
 「支局といっても小樽は小さな局だ。取材記者は俺を含めて3人。そして事務の女の子が一人。あとはバイトの商大生が一人だ。」
 沼倉は新しい煙草に火をつけながら続けた。
 「その上一人の記者は1週間の休暇中だ。もう一人を遊軍にしておくと動けるのは俺だけになってしまう。」
 「手伝いたいのはやまやまですが、部長が何て言うか・・・。」
 「室蘭の片桐か。やつには今朝電話をしておいた。俺の頼みじゃ断れないって笑っていたよ。」
 「そうですか、でも彼女は・・・。」
 「一緒なのは片桐も知っていたよ。」
 「そうなんですか?」
 「奴だって室蘭の社会部の頭だ。鼻は利くよ。彼女も応援出張という形にしといてくれるそうだ。」
 「わかりました。」
 「でもな貝塚、小樽は小さな支局だ。いくら応援とはいえ、こんな高級ホテルには宿は取れないぞ。」
 「分かってます、先輩。でも、じゃあどこで寝ればいいんですか?」
 「俺の家だよ。」
 「先輩の家って、じゃあ毎日遼子先輩の手料理が食えるって事ですか。」
 「まあな。あいつも久しぶりにおまえに会えるって楽しみにしていたよ。じゃあ貝塚昼前に一度支局に顔を出してくれるか。それまでに分かるとこまでやっておくから。」
 「わかりました。」
 沼倉がこずえのほうを向いて言った。
 「お嬢さん、心配はしなくていい。どうせ今回の旅行は親には内緒だろうから、うまく言っておくと社会部長片桐からの伝言だ。」
 こずえが頬を赤くして下を向いた。














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