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小樽殺人事件
作:健司



出会い



 貝塚一樹が勤める北海道新報社は札幌に本社を置き、道内はもとより、東京、大阪にも支社を構える、北海道ではかなり大きな新聞社である。一樹は今年30歳。大学を卒業後釧路支社を振り出しに、函館支社、札幌本社を経て現在の室蘭支社へ赴任した。もうまもなく、2年になろうとしている。入社以来一貫して社会部に籍をおいている、今では中堅と言ってもよい記者である。
 吉村こずえは地元室蘭の高校を卒業後、総務事務として北海道新報社に採用され、以来室蘭支社の事務を仕事にしている。今年で在籍6年目になる。
 二人の最初の出会いは、一樹が数日に及ぶ取材を終えて夜遅くに取材費の伝票を握り締めこずえのいる総務部へ顔を出したことから始まった。一樹が総務部へ行くと、こずえがちょうど仕事を終え、帰宅の準備をしているところであった。一樹が誰ともなく声を出した。
 「参ったな、誰もいないんだ。」
 「皆さんお帰りになりましたよ。どうしました?」
とこずえが答えた。
 「これなんだけど。」
 一樹が握り締めた領収書の束をこずえに差し出した。そしてこう言った。
 「これの支払いがないと、晩飯の弁当も買えそうにないんだ。」
 こずえが呆れ顔で言った。
 「お弁当も買えないんですか?」
 一樹が照れくさそうに頭をかきながらうなずいた。
 「分かりました、かしてください、その伝票。いま出金しますから。」
 「助かった。」
 「その代わり晩ご飯ご馳走してくださいね。そうだ、牛兵の牛タン定食がいいわ。」
 牛兵は室蘭支社の向かい側にある牛肉料理の専門店である。一樹も何度か入ったことはあるが、支払いはいつも上司か、先輩任せで自分で払ったことはない。割と高そうな店だなというイメージがある。
 「いいけど、俺に払えるかな。高そうだよな。」
 「大丈夫、これだけあれば牛タン定食食べられるわ。はいどうぞ。」
 「じゃあ先に行っていて。俺机かたづけたら行くから。」
 「わかりました。待ってます。」
 以来二人のお付き合いが始まった。付き合いはじめて一年を記念して、一樹は今回の小樽旅行を計画したのである。こずえはもちろん大賛成だった。












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