いっしょに暮らそっ! (結)PDFで表示縦書き表示RDF


グループ小説企画第十一弾「起承転結作品」です。
いっしょに暮らそっ! (結)
作:春野天使


 遊園地の開園時刻になっても、兄貴は来なかった。次々に遊園地内に入っていくカップルや家族連れ達の群を横目に、俺も翼さんも途方にくれる。時間だけが、無駄に過ぎ去っていく。
「取り敢えず、中に入ってみようか……」
 約三十分間、お互い無言で棒立ちになっていた後、翼さんがポツリと言った。
「来たらケータイにかけてくれると思うし」
「……そうですね。また寝坊してるのかもしれないです」
 あのバカ兄貴め! どこまで世話を焼かせりゃ気が済むんだ! ちゃんと約束守れっての。ま、あの兄がきちんと時間どおりに来るなんてことはまずない。遅刻どころか、ドタキャン常習犯なのだ。やってらんねぇな! お陰で翼さんと俺は待ちぼうけくって、二人で遊ばなきゃなんない……待てよ、俺と翼さん二人切り? これってデートってことじゃん!?
 そう考えたとたん、俺の顔は上気してきた。
「えっと……ど、どこいきます?」
 急に緊張して、思わず噛んでしまう。
「実はね、俺、遊園地って苦手なんだ」
 並んで歩いていた翼さんは、立ち止まる。
「その、絶叫マシーンが大の苦手で……乗れるのは、メリーゴーランドと観覧車くらい」
 翼さんはちょっと頬を染めて、照れくさそうに笑う。か、可愛い……俺の胸は少女のようにトクンとときめいた。
「俺も実は苦手なんですよ。遊園地が好きなのは兄貴だけです」
 全く、あのバカ兄は自分の好みのことしか考えてない。
「……じゃ、観覧車乗ろうか? ちょうど目の前にあることだし」
 翼さんは上を見上げて言った。俺と翼さんの前には、巨大な観覧車がそびえ立っていた……実は、俺、高い所も苦手なんだけど。翼さんと二人きりで乗れるなら、我慢出来そう。

 二人を乗せて観覧車はゆっくりと上昇していく。こんな小さな箱の中、翼さんと二人だけだなんて! これは紛れもなく、正真正銘のデートじゃないか! 俺の心臓はドクンドクンと激しく脈打つ。それは、次第に上がる高度のせいだけじゃない。今、この世には俺と翼さんだけ、なんていうドラマチックな思いがよぎったりする。これは、絶好の告白タイムじゃないか! 観覧車が頂上へと向かい、俺の心臓が爆発寸前のちょうどその時、俺のケータイのメール受信音が鳴り響いた。誰だ! こんな時に!
 俺は震える手で、ケータイを取り出す。バカ兄だ。
『ジャーン! サプラズデートはいかが? 翼と二人きりラブラブだったりして──』
 なっ、何!? 俺は気が遠くなる。これは、高さのせいじゃない。何でだ? 何でバカ兄が俺と翼さんをデートさせる? っていうか、何で俺が翼さんを好きだって知ってる?? ダメだ。本当に気を失いそうだ。俺は冷や汗を拭ってメールの続きを読む。
『分かってたぜ、お前が翼のこと好きなの。けど、まさかなぁ! まさか、お前がゲイだったとは! 今思えば、お前に彼女が出来なかったのは、そのせいだったからか。お前は男しか愛せない体質だったんだなぁ……。だが、弟よ、兄は同性愛だろうと応援するぜ! 翼は、もう明らかにオカマちゃんだし。きっと二人は上手くいく! 頑張れ! 弟よ! お前を愛する心優しき兄より』
 まじで、気分悪い……俺は軽い目眩を起こした。
「大丈夫? 虎次君、顔真っ青だよ」
 翼さんは心配そうな顔で俺を気遣ってくれる。優しい人だ。
「だ、大丈夫です」
 俺は平気なふりして、辛うじて笑った。
「そう、それならいいけど……」
 翼さんは、何故かふと寂しそうな表情をして目を伏せた。と、その時、カタッと少しだけ観覧車が揺れて、一瞬止まった。ついに頂上だ。恐る恐る外の景色を見て、俺は気を失いかける。た、高い……。
「虎次君!」
 ふいに翼さんが、キッと顔を上げ俺を見つめた。俺の心臓は、またもやドキンと激しく脈打った。
「俺……俺、竜一のこと、何度も諦めようと思った。思いながら、どうしても諦めることが出来なかった。けど、やっぱり、そろそろキッパリ諦めた方が良いかと思う」
 翼さんの真剣な眼差しが、俺の心臓を射抜く。そうだ。翼さんは、あんなダメ兄はさっさと諦めた方が良いんだ。
「それで、決めたんだ。今後、いっさい竜一のことは男として意識しないことにする」
 そうだ、そうだ! それが良い。翼さんなら他にいくらでも相手が見付かるさ。例えば俺とか!
「竜一はただの男友達の一人。もし、俺がまた竜一を好きになりそうになった時、虎次君、俺を叱ってくれよ」
「は、はい」
 翼さんは男らしい。いや、本当にそこいらの男よりずっと男だ。
「ありがとう……少しずつ、竜一のこと忘れていくから。まだ完全に忘れてしまうことは出来ないけど、そのうち綺麗さっぱり忘れようと思うんだ」
 翼さんは、俺の顔を見てニコリと笑った。か、かっこいいなぁ……惚れてしまいそうだ。やばい、俺は完全に女役のような気がしてきた。
 ガタンっといって、ようやく観覧車が到着した。一気に力が抜ける。俺はしばらく立ち上がることが出来ず、翼さんと係りの人に支えられるようにして観覧車を降りた。


 衝撃の観覧車デートから数日が過ぎた。
 その間、兄貴は俺に冷やかしメールや電話を何度もかけてきたが、俺は適当にあしらってやった。もうすぐ、翼さんも兄貴のことをキッバリ忘れることだし、出来るだけ兄貴とは接点がない方が良いだろうな。翼さんも、以前より兄貴と一緒にいる回数を減らしているみたいだ。いつか、完璧に兄貴を忘れたら、俺は翼さんに告白しようと思う。そしたら、もう翼さんは男みたいな格好しなくても良い。ボーイッシュな翼さんも良いけど、色っぽい翼さんも見てみたい。
 俺の妄想は限りなく広がる。
 ピンポーン! 突然、チャイムが鳴り響いた。こんな夜中に一体誰だ? 翼さんは友達と旅行に行っている。俺は不吉な予感を感じながら、そっとドアを開けた。
「よー! 愛する弟よ! 久しぶりだな」
 やっぱり兄貴だった。
「何の用?」
「テレビ見なかったのか?」
「テレビ?」
「ニュースだよ。ニュース」
 兄貴はズカズカと上がり込んでくると、勝手にテレビをつけた。ちょうど深夜のニュース番組をしている。火事のニュースだ。アパート一棟が全焼……。
「これは……」
 見覚えのあるアパート。それは、兄が住んでいたアパートの無惨な姿だった。
「アパートが焼けちまってさ。なんか俺、火事に縁があるよなぁ」
 何だと! このクソ兄、またアパートを燃やしたのか! 俺は口をあんぐりと開けたまま棒立ちになる。
「ってことで、しばらくここにやっかいになるな」
 兄貴は部屋をキョロキョロと見回す。
「あれ? 今日は翼いないのか? お前等のラブラブなとこ見たかったんだけどなぁ。ま、遠慮なくやってくれや」
 兄貴は脳天気に笑う。これが、火事で焼け出されたばかりの人間の態度か!? こいつ、人間じゃない! それよりも、翼さんはやっと兄貴のこと忘れる決心をしたってのに、三人一緒に暮らせるか! いや、待て、兄貴は翼さんを男だと信じ切ってんだ、バレずに暮らせることなんて出来るのか!?
 バカ兄はヘラヘラと笑っている。俺の心の苦しみがお前には分からないのか!!
「ジーザス!!」
 俺は思いっきり叫んだ。今回こそは、大声を張り上げて!         了







いかがだったでしょうか? 上手く「結」になっているかな?^^; 書いていてとても楽しかったです。また、こういう企画をやってみたいですね〜(^^)













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう