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1. 平凡な日々
 


 あの日、いつもと変わらない毎日がずっと、ずっと続くのだと思っていた。
 
 人生いつ何があるかわからないなんて

 生きてるってすごいことだなんて言いつつも、
 
 本当の意味でわかってなんかいなかった。

 もう、取り返しの付かないもの

 もう、失われた日々。








 



 




 真夜中の病院はとても静かだ。
 しかし、それでも物音が途絶えることはない。人の息づく音や、機械音、看護師の足音。
 音は何かしら聞こえてくる。
 

 「ふわあああああああ・・・・・」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・それが、あくびの声でも。

 ・・・・・・・・ごちっ
 「痛っ。もう、何!?」

 振り返るとため息つく同僚の姿。

 「あんたねえ、もう患者も寝てるんだから、静かにしなさいよ。
  あと、一応女なんだから、あくびは隠しな」

 「ごめんごめん。なんか暇で・・・。にしても平和だよね、うち。」
  
 「まあ、整形外科だしね・・・」

 看護師になって6年。
 そこそこの大きさの総合病院に就職し、仕事にも慣れた。
 看護学生時代は患者の心に寄り添った看護を!!なんて考えていたけれど、
 現実そういってばかりもいられない。
 やらなければいけないことだらけで、あっという間に時間が過ぎていく。
 慣れというのは怖いもので、ちょっとばかり血を見てもきゃあきゃあなんて騒ぎもしなくなった。
 6年もいれば、職場の人間関係も、よっぽどの上司じゃなければ慣れが生じる。
 
 この日の夜勤も、仲のいい同期だ。
 同じ26歳。年々減っていく独身友達。
 2年前に姉も結婚し、ついこの間には甥っ子も誕生した。
 つまり・・・・無言のというよりは、だんだんあからさまになっていく親からのプレッシャーと戦いつつ、自由な時間を満喫している。
 恋愛さえも遠のいていて、
 このごろは一人でも生きていけそうな気さえしてしまう。
「枯れてるよねえ」

「あんたがね」
 痛い一言。そうだった。愛子にはいたんだった。もう4年になる彼が。
 改めて見ると、スタイルもいいし、顔も綺麗。さばさばした性格は女の自分から見てもいいと思う。
 ともすれば、出不精になりがちな私と温泉にもいってくれる。
 「だって、ごろごろしつつ読書が最高なんだもん。もう初孫もいるし、親もいい加減あきらめてほしいよねえ」
 本当に。親の気持ちは良くわかるけれど。
 「確かあんたのお母さん、離婚してもいいから結婚しろって言ってたっけ・・・」
 ここまできたら苦笑しかない。
 「そ。でも結婚はいいや。子供は欲しいけど、絶対じゃないし。
 恋愛はもうこりごり。いまどき30独身だっておかしくないのにね」
 「あんたのことが心配なのよ。いろいろあったし・・・」
 言いかけてやめる。
 愛子の難点。
 そんなに、きつそうな顔してた?

 「もういいじゃん。仕事。仕事」
 沈黙が怖くて話をそらした。
 まだ痛くて、2年もたつのに向き合えない。
 忘れたと、忘れられたと思ったのに。
 ふとした拍子に、まだ痛む。

 だから、恋愛なんて
 踏み出せそうにない。
 今が幸せ。
 平凡な、変化のないこの日々が。 


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