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星渡りの船・その後

作者: 紫生サラ

星渡りの船のその後のお話になります。

 挿絵(By みてみん)

 命を終えた星は砕け、塵になり、風に運ばれ静かに積もる彼岸の浜辺。

 日も月も昇らないのに、空の色は淡くかわるだけ。空と同じ色の水面はいつも変わらず呼吸のように寄せては返しを繰り返しています。

 彼岸にかかる橋を渡れば、もう戻る事はできません。今日も、使いの動物達に連れられて多くの人間達がこの浜辺に行きつくのです。

 船が停まる港から少し離れた所で、彼女は今日も星を見ながら波の音を聞いて過ごしていました。

 すると、どこからともなく静かな星浜には不似合いのエンジン音が聞こえてきます。

「……?」

 膝を抱えた黒い女の子は思わずのその方向に目を向けました。

 見えたのは真っ白なプロペラの水上飛行機。飛行機が彼女の上をクルリと輪っかを描いて飛びました。

 その飛行機から白い何かが飛び出すと、クルクル回転しながら、スタッと砂浜に着地しました。まるで高い所から飛び降りた猫のように見事に着地したのは、ふわふわの白いドレスを着た小柄な愛らしい女の子でした。

「……」

「こらぁ! この馬鹿黒は!」

 白い女の子はいきなり黒い彼女を怒りました。黒い子はツンッとして視線を泳がせながら「色々あったのよ」とそれだけ言いました。

「もう、だから言ったのに! ここに生きた人間を連れてくるなんて! どうなるかわかっていたでしょう!」

「……」

 人間の体は彼女達ほど軽くはないのです。体を持った人間がここまでくるためには、自由に行ったり来たりできる彼女達とは違い、たくさんの通行料を払わなくてはならないのでした。

「戻ってくるって言ったくせに!」

 白い子は何度も何度も言ってぷりぷり怒りました。白い子があまりに怒っているので、黒い子もイライラしてきます。

「もう! うるさいわね!」

「何よ!」

 静かな白い浜で黒い子と白い子は二人とも毛が逆立つほどに威嚇し合いました。

「もう、お二人ともおやめくだちゃい」

 白い飛行機から赤い髪飾りをした小さな白い子猫が慌てて駆けだしましたが、二人の所に来る前に砂浜に足をひっかけて転んでしまいました。髪飾りの子が白い砂浜から顔を上げると、海のような青い瞳にじわじわと涙がたまっていきます。

「ううぅ……」

 今にも泣きそうな髪飾りの子を黒い蝶ネクタイの白猫があとからやってきてなだめます。

「慌てるからですよ。ほら、痛くないですねぇ」

「……うん」

「お二人ともケンカはおやめください。お嬢様も……」

 蝶ネクタイの子は髪飾りの子を立たせると星の砂を払ってあげました。星の砂はキラキラ光りながら、また砂浜に戻りました。

「ふん、いいわ。今日はケンカをしに来たわけじゃないもの。……これ、上げるわ」

「……これ?」

 白い子は金色の首飾りをさしだしました。

「そんなもの受け取れないわ」

「そんなもの!? 私の好意を受け取れないっていうの!?」

 白い子がまたふくれっ面になりそう所を蝶ネクタイの子が前に出て来ていいました。

「どうか、お受取りください。あなたがいなくなってからというもの、お嬢様は大変ふさぎ込まれて、今では自慢の毛並も薄くなられ……」

「こらっ! お前は黙ってなさい!」

白い子は蝶ネクタイの子を慌ててたしなめると、無理やり黒い子の手に首飾りを握らせました。

「黙って受け取りなさいよね!」

「……これはあなたの」

「いいって、言ってるでしょう。大体、こんな白い浜辺で、あなたみたい黒いのがいたら目障りだわ。あなたにここは似合わないわ」

「……そう、ありがとう」

 黒い子は微笑むと首飾りを胸に抱き、素直にお礼をいいました。白い子は顔を赤くして、黒い子に背中を向けていいました。

「べ、別に、そういうんじゃないから。そ、それに、約束してもらいたいの」

「約束?」

「そうよ、もうあの子に関わらないって……」

 白い子は少し意地悪な口調で言いました。だって、黒い子はきっとまたあの子に会いに行くというに違いないのですから。

「まあ、でもどうしてもって言うなら、一目ぐらいは……」

「ええ、私はもう人間に関わるつもりはないわ」

「えっ?」

「ナナミはきっと私との別れを悲しんだりしてくれたと思う。でも、悲しい事やつらい事を忘れて前に進むのが人間よ。だから私はもうナナミには会わないわ」

「……」

「あのお嬢さんをもう悲しませたくないのですね」

 蝶ネクタイの子が言ったので、黒い子は頷きました。

「それに他の誰かと暮らしたいとも思わない。だから私はもう飼い猫にはならないわ。ノラに戻って、やらなきゃいけない事をする」

「そ、そう、それは何よりだわ……」

「あなたはまだ人間と一緒に暮らした事がないでしょう? 一度暮らしてみるといいわ」

 黒い子の言葉に白い子は驚いて声をあげました。白い子が驚いたので、横で聞いていた髪飾りの子も尻尾を跳ねあげて驚きました。

「どうして私がそんなことを?」

「そうすれば、私の気持ちがわかるかもしれないでしょう?」

「いやよ、人間なんて。好きじゃないわ。特に子供なんて最悪。無駄に騒がしいし、がさつだし、下品じゃない?」

「……」

 白い子も充分「騒がしく、がさつ」な気がしましたが、黒い子は黙っていました。

「それより、あなたのやらなきゃいけない事って何よ?」

「……私は子供を産むわ」

「!?」

 黒い子の言葉に白い子はまた驚きました。

「子供?」

「……ええ。それに私はあなたと同じ時を生きる事ができない」

「……」

 もし今、命をもらって生まれても、歳をとった白い子と入れ違いになってしまうかもしれません。それに、まだたくさんの命を持つ白い子と一つしかない黒い子では、一緒にいられる時間はやっぱり少ししかないのです。

「だから、お願いがあるの」

「お、お願い?」

 白い子は黒い子にお願いされるなんて思ってもみなかったので、急にドキドキと胸を弾ませました。

「もしどこかで出会う事ができたなら、私の子と友達になってほしいの。お願いできるかしら」

 黒い子のお願いに白い子はふるふると肩を震わせ、おもむろに顔を上げて言いました。

「しょ、しょうがないわね! そこまでお願いされたら、聞かないわけにいかないわ!」

「まだ一度しかお願いされてないでしゅ……」と髪飾りの子が言おうとしたので、蝶ネクタイの子が慌てて髪飾りの子の口を押えました。

「ふふ、ありがとう」

 黒い子は微笑んでまたお礼を言ったので、白い子はますます気分をよくしました。

「お嬢様、そろそろ……」

 蝶ネクタイの子が懐中時計を見ながら言いました。どうやら、もう起きる時間のようです。

 彼女達は眠っている間だけ、ここにやってくる事ができるのです。彼女達がいくらたくさん寝るからと言っても、ずっと寝ているわけにいきません。やがて起きなければならないのです。

「そう……じゃあ、行くわ」

「ええ、また向こうで会えたらいいわね。……忘れないでいてよ」

 ここにいる時のことはとても曖昧で、目を覚ましたら忘れてしまったり、思い出せなくなったりしてしまうのでした。ここに来ればまた思い出しますが、目を覚ますと夢の出来事のように忘れてしまうのです。

「大丈夫よ。あなたこそ忘れないでよ!」

 白い女の子は飛行機に乗り込みむと蝶ネクタイの子が操縦席に、髪飾りの子はペコリとお辞儀をしてから、飛行機の中にもぐりこみます。

 飛び立った飛行機はクルリと黒い子の上で輪っかを描いてから日も月も昇らない空へと消えて行きました。

 黒い子は白い飛行機が見えなくなるまで見送りました。それから、黒い子はゆっくりと星の砂浜を歩き出したのでした。


   ★彡


 その街にはそれはそれは美しい黒猫が住んでいました。彼女が歩けば、同じ猫だけでなく通りかかった人も思わず足を止め、彼女が公園で過ごす姿を見かければ、それだけでとても幸せな気分になるような、そんな猫でした。

街のボスも、街一番の切れ者も、狩りの得意な者足の速い者、多くの異性から評判のいい者も、彼女に声をかけたくしかたがありませんでした。けれど、彼女の不思議な雰囲気に誰も声をかける事ができませんでした。

社交的なようでいて、いつも一人、一人でいるのが好きなようでいて、いつも誰かを待っている、彼女はそんな猫でした。

いつの頃からか、彼女の周りには彼女にそっくりの真っ黒な子猫が遊ぶようになりました。

体の小さなお姉ちゃんとしっかり者の次女、少し呑気な三女は、飼い猫になった事のないはずのお母さんが話してくれる人間の話と子供達が一度も会った事がないお母さんの友達の話が大好きでした。


   ☆


 やがて一つの命を終えた白猫が新たな命を創めようとした時の事。白い子は次にどこで生まれるだろうと考えました。

ふと黒い子の事を思い出して、白い子は小さな手と手を合わせ、少しだけ猫神様に祈りました。


   ☆彡


 ある所に、長毛種の白い子猫がおりました。

 まだまだ幼い白い子猫は、人間の大人の手に包まれて一人の女の子の前に出されました。

 白い猫はふと何か思い出しそうになりましたが、何も思い出せず猫は首を傾げました。

「さあ、名前をつけてあげて」

「うん……あのね、えっと……」

「……」

 この子があたしの名前をつけるの?

 白い猫は悩む女の子の顔を見上げながら、彼女が何というのかをジッと待ちました。

 もし変な名前を言ったりしたら、抗議してやろうと準備をしていたのです。

 きっと変な名前ね。変な名前に違いないわ。

 白い猫は特に理由もないのに決めつけます。理由はよくわからないけど、きっと人間の子供は「無駄に騒がしくて、がさつで、下品」なような気がしていたからです。

 女の子は一生懸命考えたあと「……ミミ。ミミにしようと思う」そう言って、小さな両手でミミを抱き上げ寄せ、頭を撫でました。

「……」

 ミミ? 何その名前、ふん、普通の名前ね、別に悪くないけど……。

「ミミ、どう? 気にいった?」

「みぃ~」

 白猫は目を細めると小さく鳴きました。

 その日から、白猫はミミとなったのでした。


関連作品

「星渡りの船」「さくら色のマリー」

となります。よろしければ、そちらもご覧頂ければ幸いですm(__)m


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[良い点] 星渡りの船に引き続き、幻想的世界、堪能させていただきました! 二つ分の命をナナミちゃんに捧げて残りひとつとなった黒い子。そんな、特別な力をもつ猫も、結局は限りある命。そのへんが、切ないです…
[良い点] ・白い子が可愛らしい ・黒い子の母性に憧れる [一言]  こんばんは、紫生サラ様。上野文です。  御作を読みました。  白い子と黒い子の威嚇とか、二人の別れ、生まれ変わった黒い子のその後……
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