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6   星の告白
「え?」
 ただでさえ大きな瞳を更に大きく見開いて、その目をぱちくりさせながら、真理は目の前の尊を見た。
 そんなに驚いた顔をされるとは思っていなかった尊は、反対に少々戸惑いながら、今真理をキョトンとさせている台詞を繰り返す。
「だから、一緒に食事でもどうですか?って」
「・・・食事なら、今してますが・・・」
 そう言いながら、鮭おにぎりにカプッとかぶりつく。
 今日、秋光のコンビニでオマケしてもらったおにぎりだ。
 本日真理が「お昼ご飯」と言ってレジに出したのは、果肉たっぷりの桃ゼリーとビタミンC入りの清涼飲料水。それを見た瞬間「病人食かっ!!」と秋光に怒鳴られた。
 有無を言わせず、袋の中に、大きな鮭おにぎりをひとつ入れられた。
 「絶対食べなよ」と、一言付の睨み付き。
 昔、少々(?)「悪い子」だった彼は、そういう顔をすると妙に怖い。
 秋光君が・・・あんなに世話焼きだとは思わなかったよね・・・。
 自分の昼食のセレクトが無茶苦茶なのを棚に上げて、真理は少々心の中で愚痴る。
 こんなに大きいおにぎり食べたら、太っちゃうじゃない。
 そう思いつつも、パクパクとおにぎりをほおばる真理を見ながら、尊は困ったように頭を掻く。
「だからね、今夜一緒に食事に行きましょう。って意味なんだけど」
「え?」
 真理はおにぎりから顔を上げて、再び大きな目を見開いた。
「食事、って?私と?」
「他に誰がいるの?」
 すると真理は、同じく休憩室で昼食を取っていた美鈴の腕を引っ張る。
「美鈴さんとか」
 すると美鈴は、その腕を振りほどいて反抗した。
「ちょっと、真理ちゃん、尊先生は真理ちゃんを誘ってんのよ。男の下心に気付いてあげなさいよ」
「え?」
 「下心」に反応して真理が赤くなると、食べ終えた御弁当の空パックを袋に戻しながら、尊が慌てて片手を振る。
「違う違う『下心』はないって。あったら奥さんの前で言わないよ」
 尊が目を向けた先には、同じテーブルで真理の母である真澄が食事を採っていた。
 病院の看護師達や事務など、外で食事を採るものもいるが、大体が休憩室で取っている。
 真理は尊が入る、第2診察室を主に担当する事が多い。それもあって、尊が来てからこの2週間ほど、お昼はこのメンバーでテーブルに付くことが多かった。
「あらぁ。別にいいわよ。『下心』込みでも。ねぇ、真理」
「おっ、おかあさんっっ」
 真理が真っ赤になって、椅子から立ち上がる。尊はちょっと困ったように笑った。
「いやいや、本当にないですよ。この2週間ずっと自分に付いていてくれて、病院の事とか、お馴染みさんの子供の事とか、いろんな事教えてもらっているから・・・。ちょっとした『お礼』のつもりなんだ。それで、食事でも、と思って」
「そんな・・・。当然の事をしているだけですから、気にしないで下さい。それに私、真臣がいるから・・・夜は・・・」
 真理が断ろうとすると。真澄が口を出した。
「あら、いいわよ。まーちゃんなら私がお迎えに行くし。別に真理がいなきゃ、ご飯食べない訳でもないし、お風呂に入れないわけでも無いし、眠れない訳でもないし」
 それじゃぁ私、要らないみたいじゃないの・・・。真理が少々恨みがましい目で真澄を見る。真澄は御弁当の箸を口元に当て、うーん・・・と考えてから、
「そうねぇ、出かける時間だけ教えておいてくれれば、その時間だけは、まーちゃんを秋光君のところにでも連れて行って誤魔化すわ。小さな子供って、親が出かけるところを見ると愚図ったりするから」
「お、お母さん、秋光君に迷惑・・・」
「だから尊先生。行く時間だけ私に教えて頂戴。あっ、帰ってくる時間は、この際どうでもいいから」
「おかあさんっっ」
 勝手に話を進める母に、真理は慌てる。な、何でお母さん!話を進めようとしてるのよぉ!!
 慌てている真理が何となく可愛らしくて、尊は真理を見ながらクスクスと笑った。
「解りました。じゃぁ、真理さん、いいよね?」
「え・・・?あのっっ」
「好き嫌い、ある?」
「え?あの、別に・・・」
「じゃぁ、俺、知ってるレストランに予約入れられるか電話で訊いて来るから。それから、時間決めようね」
 「お礼」とは自分で言っていたものの、どこか嬉しそうに、尊はそそくさと休憩室を出て行く。後に残された真理は呆然としたままだ。
「何か尊先生、たのしそー」
 美鈴がニヤニヤしながら真理を見上げると、真澄は「そうねぇ」と言って、御弁当の続きを食べ始める。
 そんな二人を交互に見て、真理は今尊が出て行ったドアのほうを、困った顔で見詰めていた。


「すいません。園居先生」
 真理は少々申し訳なさそうに言いながら、尊の横について歩いた。
「いいよー。どうして謝るの?」
「だって、私、お酒が飲めないから・・・」
 尊が連れて行ってくれたのは、あまり堅苦しくない感じの、若者が多いイタリアンレストランだった。安価でも、美味しいワインが多く用意されていることで人気のある店だが、実は真理はお酒が飲めない。
 食事の後は軽く飲める店を考えていた尊だが、レストランで真理がお酒がダメなのを知って、諦めた。
 どうやら真理は、それを察したらしい。「じゃぁ、このまま帰るのももったいないから、少し庭でも歩こうか」と気を遣って言ってくれた尊の横で、さっきから申し訳なさそうな顔をしている。
 このレストランは、周囲に作られた庭がちょっとした遊歩道風になっていて小さな公園のようだ。たまに置かれたベンチの上で、恋人同士らしき男女が抱き合っていたりする。それが嫌でも目に入ってしまい、真理は慌てて目を逸らした。
「気にしないでよ。お酒のめるか飲めないか、事前に確認しなかった俺も悪いし」
 そうは言われるものの、「まったくお酒が飲めない」という人間のほうが珍しいのではないか?せっかく色々考えてくれていたみたいなのに・・・。真理は余計に申し訳なさを感じる。
「せっかく・・・。園居先生が誘ってくれたのに・・・」
「あのさ、真理さん」
「はい?」
「真理さんは、どうして名前で呼んでくれないの?」
「は?」
 あまりにも気にして気を遣う真理を止めるように、尊は話題を変える。
「とりあえず、半月ほど経つけどさ、皆『尊先生』って呼んでくれるのに、真理さんだけ『園居先生』なんだよね」
「え?あ、あの・・・。だって・・・」
 真理はちょっと慌てる。まさかそんな事を言われるとは思わなかった。
「男の人を、そんな気安く名前で呼んじゃいけないと思って・・・」
 そう言うと、尊がぷっと吹き出す。
「そっ、そのいせんせいっ?」
「あっ、ごめん・・・。ククッ・・真面目だなー、と思ってさ。さすがに高校の時に3年間も風紀委員をやっていただけの事はあるよね」
 真理は高校時代、3年間、風紀委員を務め、3年生の時は委員長も務めた。高校の教師達も一目置く優等生だったのだ。
 それをさっき食事のときに話すと、尊は高校の時、朝が弱く遅刻が多くて、よく風紀委員に睨まれていた。そのせいであまり風紀委員に良い思い出がない、という話をして真理を笑わせた。
 尊はゆっくりと歩いていた足をフッと止めると、横の真理を見下ろした。
「じゃぁさ、今日から名前で呼んでくれる?俺も、真理ちゃん、って呼ぶから」
「えっ?えっ?あの・・・」
 ま・・・真理ちゃん??真理はちょっと赤くなった。そんな呼び方は、病院に来る常連の子供くらいにしかされた事がない。ましてや男性になど・・・。
「病院では『尊先生』でいいかなー。でも、プライベートは、尊さん、か呼び捨てがいいな。本当は」
「・・・え?」
 なんでいきなりプライベートの話・・・?
 真理が小首を傾げると、そんな彼女を見て尊はクスッと笑い、彼女の正面に立った。
「真理ちゃん」
「はっ、はい?」
 何故か真理は、ドキッとする。
「また一緒に、食事に来てくれる?」
「あの、でも私、お酒飲めないから、つまらないんじゃないかと・・・」
「関係ないよ。そんなの」
「・・・・・」
「食事じゃなくても、真理ちゃんと一緒に居たいんだ」
 真理はちょっと目を見開いた。
 どういう意味だろう。少々見当は付く。しかし、元々の生真面目な性格のせいか、なんとなく真理の理性がそれを否定する。「そんな訳はない」と。

「一目惚れって、解る?」
「あの・・・」

 胸の鼓動が高くなり続ける。
 この先の言葉が予想できないほど、子供ではない。

「俺、真理ちゃんが好きなんだ」

 真理は更に目を大きく見開いた。

 ───そんな彼女を、尊の肩越しに、少し霞がかかった月が、覗くように見ていた・・・。


 


 こんにちは。玉紀 直です。
 好きだという気持ちを言ってしまった尊。
 子持ちだろうと何だろうと、好きなものはしょうがありません。
 とりあえずはフリーですから。
 でも、「しょうがない」で済ませられないのは真理の気持ち。
 彼女の心の中には、まだ「彼」が住んでいるんです・・・。

 告白をされる真理を、尊の肩越しから見ていた物・・・。
 それは・・・。

 次回は、秋光が少々怒ります。誰に?
 尊だって、告白だけじゃ終わりません。
 さらに、行動に出ます。

 次回は、5月19日更新。

 では、次回!

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