4 真臣の「パパ」達
「・・・眠れなかった・・・」
尊は一人呟きながら、ベッドの中でよいしょっとうつ伏せになり、目の前の置時計を手に取った。
朝4時過ぎ。今からぐっすりなんて寝られるものか・・・。
夜中中、うとうとした覚えはあるが、眠った覚えはない。
────子供はいるけど、結婚している訳じゃないんです。
昨日言われた真理の言葉が、ずっと頭から離れなかった。
結婚する前に、子供の父親が死んでしまった。と。
未婚の母かぁ・・・。結婚する前、真臣君が産まれる前だろ?・・・辛い思いしたんだろうな・・・。
うつ伏せになって頭を押さえたまま、一人暮らし1LDKマンションの床に転がったビールの大缶5本を眺める。
昨日の仕事帰り、早速例のコンビニに寄って買った。
「センセー。まさか、これ全部一気に飲むの?ダメだよー。次の日酒臭くて子供達に嫌われるよ」と、店長こと、秋光にからかわれた。
「一気になんて飲まないよ。まさかー」と、言ったものの。・・・一晩かけて、飲んでしまった・・・。
女の事を考えて、一晩中酒飲んで眠れないなんて・・・。2回目、かな・・・?
尊の少々ボーっとした脳裏に、一人の女性が浮かび上がる。
大きな目。ちょっとカラーを入れたこげ茶の髪。いつもひとつにまとめ上げて、大き目のバレッタで頭の上で止めていた。
ベッドで解くと、さらさらして綺麗で、とてもいい香りがした。
────尊君は・・・セックスしたいだけだったんだよね・・・。
泣いているのに笑いながら、何も言えなくなっていた彼を責めた。
────私の事、好きだった訳じゃないんだよね・・・。
「・・・ちがうよ・・・」
呟いてから、尊はむくっと起き上がった。
とりあえず頭をスッキリさせたい。足元をちょっとふら付かせながら、尊はバスルームへと向かった。
「園居先生。どうぞ」
ちょっと患者が途切れて、フーっと小さく息を吐いた時、真理が尊の前に、小さな金色の紙に包まれた四角い物を差し出した。
「チョコです。お嫌いですかぁ?疲れているみたいだから」
「いいや。好きだよ。ありがとう」
受け取って包み紙を開くが、真理がニコッと笑って一言付け足した。
「ずっとポケットに入っていたので、溶けているかも知れないですけど」
薄ピンクのナース服。スカート部分のポケットをパンパンッと叩く。
「うんっ。溶けてるっ」
尊もニコッとして、ふざけた口調で返しながらも、上手に包み紙を傾け、溶けかかったチョコを口に入れた。
「園居先生、上手ー」
真理がまるで子供を褒めるように手を叩く。そんな事で褒められると凄く照れる。が、そう言って笑う真理がまた可愛らしくて、ちょっと見惚れてしまった。
「今日は患者さん、あんまり多くないですね。とりあえずあと1時間後くらいに、予防接種の予約が5人・・・かな・・・」
尊と真理が担当する第2診察室のドアを開けて、中待合室越しに待合室をのぞいていた真理は、いきなり「あっ!」っという声を上げた。
ん?新患でも来た?そう思いつつ尊は真理に目を移す。と、真理が嬉しそうに手を振っている。・・・常連さんの子供でも来たかな?しかし、聞こえてきたのは子供とは思えない声。
「お久し振りー。真理ネーさん」
何だぁ?!尊が慌てる。無理もない話しで、子供かと思ったその声は、何ともドスの利いた声。
しかし真理は、ニコニコしながら中待合室のほうへと出て行った。
「久し振りー。あらぁ?真臣ぃ、嬉しそうじゃない?」
え?真臣君、一緒?
「うん!だって、達パパのかたぐるま、おっきいんだもん」
たっ・・・たっ、達パパ・・・「パパ」ぁ??!!!
なんだそれはぁ!!驚きながらも焦りながら、尊も中待合室へ出る。そこに居たのは、赤い開襟シャツに首には金のネックレス。どう見ても堅気の仕事をしている風ではない顔付きの、体格の良い男が、真臣を肩車して真理と親しげに話している。
「おっきくてねー。たかいんだよー。おもしろいのー」
「何だよ真臣っ。じゃぁ、オレのは低くてヤダってーの?」
男の横に、秋光が立っていた。ちょっと怒った顔をして真臣の鼻をキュッとつまむ。
「いたいよー。秋パパのも好きだよーぉ」
「じゃぁ、おいでっ」
秋光が両手を出すと、真臣が男の肩から手を伸ばし、秋光に抱きつく。秋光はそのまま真臣を自分の肩に乗せた。まだ幼稚園の制服姿のままの真臣が、楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいる。
それを見ながら、真理が申し訳なさそうに男に言った。
「ごめんね、達也君。真臣を幼稚園まで迎えに行ってもらっちゃって」
「いいよー。何遠慮してんだよネーさん。真臣が会いたがってるって秋光に聞いてよ。こりゃぁいけねぇと思って慌てて会いに来たさ」
「仕事はこれから?時間大丈夫?何かもう一店持たせてもらうんだって?凄いね」
「いやぁ。何か気ぃ掛けてもらえててさぁ。・・・頑張るさぁ」
「最初なんて高校生のバイトだったのにね。凄いよ。頑張りやサンだね」
真理に褒められて、達也と呼ばれた男はしきりに照れている。それを見ながら、尊は目をぱちくりさせた。
な・・・なんだぁ?この異様な光景は?真理さんが、こんなヤクザみたいな男と知り合いなのか・・・?それに・・・「パパ」って何だ?「パパ」ってぇ!
「あっ、センセー、毎度っ!」
秋光が、訳の分からない顔でこの光景を見ている尊に気付き、声を掛けた。それに気付いた達也が、尊の目の前に歩み寄る。
「どうも。秋光に聞いてますが、新しい先生だとか?」
「はい・・・そうですが・・・」
すると達也はズボンのポケットから数枚の小さな紙を出し、尊の手に持たせた。
「真理ネーさんをよろしく。これは、お近づきのしるしです。うちの新しい店の利用サービス券ですので、是非っ、いらして下さいっ」
「・・・ど、どうも・・・」
な、何だろ?バーか何かかな・・・?そう思って、名刺大のそれを見た尊は、思わず苦笑いをした。
・・・そ、ソープ?
「あー、いいなぁ園居先生っ。達也くーん、私にも頂戴っ」
「ネーさんはだめだよっ!何の券だかわかってんの?」
「どうせキャバクラのサービス券でしょ?もー、私がお酒飲めないからってぇ。ケチィ」
・ ・・お酒飲めても、駄目だと思うよ。尊が心の中で呟く。女性にソープのサービス券を渡す人間も居ないだろう・・・。
と、その時、慌てて息を切らしながら、男が一人飛び込んできた。
作業服のようなつなぎ姿。肩にかかりそうな赤茶色の髪をした細身で背が高い男だ。
「真臣っ!」
「あー!健パパだぁ!」
秋光の肩に乗っていた真臣が、嬉しそうに手を伸ばすと、男は真臣を抱き上げて自分の肩に乗せた。
また、「パパ」?尊が固まる。
「健君、久し振りだね」
「お久し振りっス。綾はよくオネーさんに会ってるだろうけど。最近整備工場のほうが忙しくて、なかなか顔出せなくてスミマセン」
「いいのよ。一生懸命仕事しているんだもの。元気だった?綾は悪阻苦しそうにしてない?」
「はいっ。でもたまに機嫌悪くて八つ当たりされるッスよー」
「悪阻の時はしょうがないのよ。勘弁してあげてね」
「はいっ。・・・あっ、そうだ、秋光っ!」
肩に乗っかって、自分の赤茶の髪で遊んでいる真臣をゆすりながら、健は目の前の秋光に向かって渋い顔を作る。
「お前っ!コンビニの軽トラで暴走すんのやめろよなっ!またエンジンがイっちゃいかけてたぞ!今度修理に出したらエンジンチェンジしかないからな!」
「え?そうか?いいじゃん、修理代稼げて」
「アホ!もうちょっと車大事にしろ!そんな事してたら、お前のスカイライン、もう直してやんねーぞ!」
「そう言うなよ〜。健ちゃーん」
「本当にお前は!細かくやんちゃなところが全然治んないッスね!!」
仲良く(?)言い争いをする二人を見ながらクスクス笑う真理の傍に近寄り、尊は小声で聞いた。
「あの・・・、真理さん。彼らは?」
「皆、高校の後輩です。死んだ真臣の父親の『仲間』。真臣が産まれた時から可愛がってくれていて、だから皆のこと『パパ』って呼んでいるの」
「仲間」・・・って事は、死んだ「彼」も「そういう人」だったって事なんだろうか・・・?
尊は呆然としながら、目の前の3人の男と真理を交互に見る。
どう見ても、「不良」と「優等生」。
接点が有りそうにはない・・・。
・・・いったい・・・。
いったい、どういう人だったんだ!真理さんの「彼」はぁ!!
───今夜も、眠れないかもしれない・・・・・。
こんにちは。玉紀 直です。
真理の身辺が気になってしょうがない尊。
でも、彼も、何かありそう・・・。
次回は、真理の息子、真臣君がいっぱいでますよー。
可愛いいたずらっ子が大活躍です。
ほのぼの母子でお楽しみ下さい。・・・って、尊も出ますが。(笑)
次回の更新は、本当なら来週火曜日なのですが、ゴールデンウィーク中はうまく執筆時間が取れそうも無く、(毎日更新の連載だけは何とか出来そうなんですが・・・)申し訳ありませんが、次は5月11日の更新になります。
10日くらい空いちゃって、申し訳ありません!
では、次回!
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