ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第一章 『絆』
第8話 『学校生活』
「これは……で、あるからにして、xに√5が代入でき……」

 壇上に立つ教師の言葉が段々トウヤとレイフォンの思考能力を奪っていく。

 向こうでさっそく仲良しになった女子生徒と座っているリーリンが睨んでいるが、そんなことも気にならないくらいに二人の意識は朦朧としていた。

「レイフォン・アルセイフ。トウヤ・カネモリ。この問題を解け」

「「……は?」」

 名前を呼ばれて顔を上げてみれば、二人にとって意味を成さない数字の羅列があった。

 たった一回の授業で見事に置いていかれた二人は慌てて周りに助けを求めるが、学校はまだ始まったばかりで知り合いも皆無。リーリンには聞かない。怖いから。

 元はといえば、授業についていけないと思ったリーリンのスパルタ授業のせいでもあるのだが、同じように付き合ったリーリンは、こうしてまじめに授業を受けているので文句は言えなかった。

「「すみません」」

 初日から注目を集めることになった二人は、顔を真っ赤にして机に沈み込んだ。




「まったくもう、二人とも武芸以外はてんでだめなんだから」

「面目ない」

「ごめん」

 リーリンは真面目に反省している二人を見ると、ふぅ、と大きくため息をついた。

 と、そこでリーリンの説教が一区切りしたのを見計らったのか、三人の女子生徒が近づいていった。

「あ、あの~……」

「ん? あら、たしか……トリンデンさんとゲルニさん。ロッテンさんだったかしら?」

「そっ。今日はこの子がそこのトウヤんに用事があるんだ」

「俺か?」

 語尾に変な単語が付いていたような気もするが、地域独特の訛りだと判断して、気にしないことに。

 金髪のツインテールが特徴的な少女に押されるようにして、三人の中では一番背が低くてスタイルの良い小柄な少女が出てきた。その手には彼女が食べるには少し大きそうなサイズのお弁当が握られていた。

 それを見て何を理解したのか、リーリンがレイフォンを引っ張って少し後ろに下がった。

「え、えっと、その、あの……」

 俯いて顔を真っ赤にさせていた彼女が、何かを決心したように顔を上げ、トウヤの目を見た。

「あ……」

 その琥珀色の瞳を見て、トウヤは彼女とどこで出会ったのか気づいたが、彼女が何か言おうとしていたのでそれをじっと待った。

「この間は、あ、ありがとうございました」

「いや、気にしなくてもいいよ。放っておけなかっただけだから」

「そ、それでも……です」

「そうか? ま、怪我が無いようで何より、だな」

 にっ、と人懐っこい笑みを見せるトウヤに、安心したのように彼女も小さく笑みを見せた。

「俺はトウヤ・カネモリ。好きに呼んでくれ」

「メイシェン・トリンデンです。友達からは、メイって呼ばれてます」

「じゃ、俺もメイでいいか?」

「あ……う、うん」

 笑顔を見せて話す二人に、それぞれの幼馴染はうんうん、と頷いた。

 ふと、お互いの存在を確認した四人は、いい感じの二人を放っておいて四人で集まった。

「リーリン・マーフェスよ。名前の方で呼んでね」

「レイフォン・アルセイフ。普通科だけど、武芸科も兼任してる」

「あたしはナルキ・ゲルニ。武芸科だ」

「で、わたしはミィフィ・ロッテン。わたしと、あっちのメイっちは一般教養科。わたしたち三人は交通都市ヨルテムから来たの。よろしくねー」

 ふと、視線をずらせば完熟りんごのように顔を真っ赤にしたメイシェンがお弁当をトウヤに渡しているところだった。

 それにナルキとミィフィは感心したような表情を見せる。

「へぇ、あのメイがな……」

「うんうん、頑張ったよ」

 ホロリ、と目元を拭う仕草をするミィフィ。

 彼女が何でトウヤにお弁当を渡しているのか分かっていないレイフォンの隣で、リーリンが正解にたどり着いた。

「あ、そっか」

「え? 知ってるの? リーリン」

「ほら、入学式のとき、トウヤが助けた娘じゃない」

「……ああ、そういえばそんなことも」

 レベルの低い武芸者二人が暴れまわったことぐらいしか頭に残っていなかったレイフォンは時間がかかったが、何とか思い出せたようだ。

「そういえば、三人はどこの出身? メジャーなところ?」

「あー、うん。えっとね……」

 ちら、と横目で見てくるリーリンにレイフォンは頷きを返すと口を開いた。

「槍殻都市グレンダンだよ。放浪バスで来る途中にヨルテムにも立ち寄ったよ」

「へぇー。武芸の本場かぁ。だからトウヤんはあんなに強かったんだね。レイとんも強いの?」

「まぁ、そこそこに……って、それ僕の名前?」

 トウヤと同じく訛りだと思っていたレイフォンは、自分の名前がはっきりと変わっていることに気づいて、思わず突っ込みを入れた。

「うん。そうだけど?」

 何かおかしい? といった風に聞かれ、レイフォンは自分がおかしいように錯覚してしまう。

 そこに苦笑するナルキがフォローに入る。

「すまないな。こういうやつなんだ」

「あ、うん。別にいいんだけど……」

 と、そこで一人あだ名をつけられていないリーリンの方を見てみる。

「な、何?」

「いや、リーリンならどんなあだ名が付くんだろうな~。って思って」

「う~ん、そうねぇ。リーたん、リーリー、リーやん、リーちゃん、リィンちゃん、リーちゃん。うーん、なんかぱっとしないなぁ」

「そうだな」

 う~ん、と真剣に考え始めた三人をリーリンが慌てて止めに入る。このままじゃ珍獣のようなあだ名をつけられそうだった。

「わたしは別に、普通でいいから」

「う~ん、そう? ならリリンちゃんで」

「……それでいいわよ。もう」

 がくっと肩を落とすリーリンを見て、笑いが漏れる。

 そのまましばらく穏やかで楽しい時間が続くが、ふと放っておいた二人の方を見てみると、二人仲良くお弁当を食べていた。

「………」

「……わぉ」

 ナルキは驚き、メィフィでさえ一言漏らすのが精一杯のようだった。

 極度の人見知りでそれに加えて男性が苦手なメィシェンが肉親以外とここまで一緒にいるのは初めてだった。しかもお弁当を一緒に食べている。

 メイシェンの弁当を食べたとたん笑顔になるトウヤに、メイシェンが嬉しそうに顔をほころばせる。トウヤが弁当を指しながら何事か言ったかと思うとメイシェンがまた何かをしゃべる。

「これは……」

「ひょっとして、ひょっとするか……?」

 お互いの顔を見合わせる二人にリーリンとレイフォンは首を傾げる。出会ってすぐなら確かに早いような気がするが、メイシェンはあんなことがあったのだから、吊り橋効果でトウヤへの好意が膨れ上がってもおかしくはない。女の子が異性に惚れるにはありがちなシュチュエーションだったような気がする。

「どうしたの?」

「んーん。なんでもない。詳しいことは食堂行ってから話すよ。二人は、そっとしておこう」

 るんるん、とスキップをしながら出て行くメィフィを追って、三人は教室から出ていった。




「稽古をつけてほしい?」

「ああ、頼む。このとおりだ」

 放課後、メイシェンたち三人と分かれたトウヤたちは、小隊員の合同練習があるということで武道館に向かった。

 そこで見たのは、トウヤとレイフォンに頭を下げる小隊長、ニーナの姿だった。

「うーん、ソウシン流はまだ極めたとはいえないから、難しいですね。あ、レイフォンは? 免許皆伝もらってただろう?」

「え? うーん、そうだね……出来なくもないけど……」

 現在刀を使っているレイフォンだったが、一度金儲けに使った自分が人様に教えていいものか、とレイフォンは真剣に悩んだ。

「ま、何事も試しだ。やってみろ」

「えー……」

「嫌そうな声出さないの! もう……ニーナ先輩の前なのよ?」

「あ! す、すみません隊長」

「いや、私は気にしていないが……いいのか? レイフォン」

 真摯な目で見つめられ、レイフォンは自らの手に視線を落とした。躊躇う様に数回握ったり開いたりして、ぐっ、と力強く手のひらを握り締めた。

 ゆっくりと顔を上げ、ニーナの目を見つめ返すレイフォン

「やります」

「……そうか。礼を言う、レイフォン」

 ぺこり、と頭を下げるニーナにレイフォンは尊大とも言える態度で頷くだけだった。

 それを見たリーリンにレイフォンが頭を叩かれるのはいつもの話だった。

「仲がいいな、あの二人は」

「でしょう?」

 楽しそうに言い争う二人を見て、口元を緩めるニーナにトウヤはにやっと笑って見せた。





 ごっしごっしとブラシが壁や床をこする音だけがただっぴろい空間を少しずつ反響していく。

 都市の心臓でもある機関部。中央にあるよく分からないものや複雑に入り混じった配管に注意しながら、レイフォンとトウヤはその汚れを落としていく。

「あのさー、レイフォン」

「なに? トウヤ」

 ぼんや~りと、しかし雑でなく仕事を淡々とこなしていたトウヤが、傍らのレイフォンに声をかけた。

「フェリ先輩のことどう思う?」

「フェリ先輩……ああ、あの先輩かぁ」

 レイフォンはうーん、と唸りながらちゃぽちゃぽとブラシを水につける。

「苦手……かな。あの目で見られるとどうにも落ち着かないんだ」

「そか。ま、そんなもんだろうな」

 そんなもん? と首を傾げるレイフォンを無視してトウヤは先日のフェリとの会話を思い出す。

 最初こそ何かに苛々しているようだったけど、最後の方は楽しそうだった。様な気がする。フェリの表情は読みにくいので確証は持てない。

 でも、フェリとじゃれあうようなあの時間は、確かに楽しかった。ちょっと子供っぽくって、少し背伸びしている感じが微笑ましかったフェリ。あれが本来の彼女なのだろうか。

「ま、考えて分かることじゃないな」

 まだ自分は出会ってから日が浅い。彼女のことを知っているわけでもない。ならこれから知っていこうじゃないか。そう前向きに考えることにした。

 急に独り言を呟いたトウヤを不思議そうに見るレイフォンに笑いかけながら、モップを動かした。

「なんだよ?」

「いや、なんでもない」

 そうして、後は取り留めのないことをレイフォンと話しながら時間は過ぎていった。




 遅れて済みません。

 いやー、友人から譲られた小説を書いていたり、グレイセスにはまったりと、執筆する時間が取れませんでした。

 あと、今後引き継いだ『逆行なのはさん奮闘記』と平行して書いていくことになると思います。ご了承ください。
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。