「「いてて……」」
「ほら、じっとしてて二人とも」
情けない声を上げて逃げようとするレイフォンとトウヤを二人の幼馴染である少女――リーリンはぴしゃり、と二人の怪我をしているところを叩いて黙らせる。
「「~~~っ」」
痛みに悶絶している二人を見て、リーリンは満足げにうなずくとてきぱきと手当てを済ませていく。
今日はあの試合があった次の日。天剣になったレイフォンを一目見たい、というミーハーや、入門希望の人たちを何とか裁ききった後、いつものように二人で模擬戦をして怪我をした二人がリーリンに手当てを済ませてもらったところだった。
「…………」
そんな、一般人の少女にやり込められている天剣授受者と、それと同等の力を持った武芸者を唖然と見つめている気配に二人は気づいた。
二人の視線に気づいたリーリンが後ろを振り返ると、銀色の長髪と銀眼に白い肌をして眼鏡をかけた、いかにも賢そうな少年が立っていた。
「あ、ごめんなさい。みっともないところを見せて」
おほほ、とぎこちなく笑うリーリンに少年二人がくすくすと笑う。
「なによ」
ぎらん、と睨み付けられ、ぷるぷると首を振る二人を見ながら、少年――カリアン・ロスは昨日見たあの二人と同一人物なのか、と首を傾げたくなった。
「すみません、突然お邪魔して。僕はカリアン・ロスといいます。学園都市に向かう途中に立ち寄ったんですが、昨日のお二人の試合を見て、居ても立ってもいられずに会いに来てしまいました」
「あ、これはどうもご丁寧に。私はリーリン・マーフェス。こっちが幼馴染の……」
「トウヤ・カネモリだ。よろしく」
「レイフォン・ヴぉ、ヴォルフシュテイン? アルセイフです。よろしく」
「あっははははは、似合わねー!」
天剣としてもらった名前がまだ言い慣れないのか、しっかりと言えずにトウヤに爆笑されてレイフォンが顔を真っ赤にする。
そんな普通の少年らしいやり取りに、あんな戦いをするんだから、と何かこうすごい人物像を思い描いていたカリアンは少し申し訳なく思った。
「仲が良いんだね。三人とも」
「ん? ああ、俺は二人とは違う孤児院だけど、何故かいっつも一緒に遊んでたんだよな」
トウヤがカリアンに向かっていつもと変わらない口調で話すが、不思議とそれが腹が立たない。彼の明るい笑顔や人懐っこい雰囲気がそうさせるのだろうか。
「へぇ…あ、そうだ。遅れたけど昨日の試合はすごかったよ」
「ははは、サンキュ。負けちまったけどな」
「いや、一進一退の試合は見ていて手に汗握るものだったよ。少なくとも僕はあんなにすごい試合は見たことが無い」
「そうか? カリアンは武芸者……じゃないみたいだな。学園に行くって言っていたけど、何をしに?」
「司法…法律の事を勉強したくてね。司法研究科になるつもりだよ」
「ふーん。俺は武芸ばかりしてたから勉強はさっぱりなんだよな。そういうことができるカリアンはすごいと思うぜ」
「そうかい? 君のほうがすごいと思うけど」
会って数分で一気に仲良くなってしまった二人をレイフォンとリーリンはぽかん、と眺めていた。
その視線に気づいた二人が、はっとしたように二人に意識を向けた。
「悪い悪い。なんか、カリアンとは話し易くてな」
「そうだね。今までに無く話が弾むんだ。こんな相手は初めてだよ」
そう言うと、また二人で笑い会う様子をリーリンとレイフォンは不思議そうに見つめていた。
「いや、予想以上に長居をしてしまったようだ。僕はそろそろお暇するよ」
初めは聞いているだけだった二人も加わり、いつの間にか道場に上がってまで話し込んでいた四人だったが、レイフォンが今日王宮に呼ばれていたことを思い出したリーリンがその事を言うと、外を見たカリアンが名残惜しそうに腰を上げた。
「ああ、短い間だったけど、楽しかったぜ」
「またお話しましょうね」
「さようなら……ってリーリンその服は何!?」
「え? 今日着ていく服だけど?」
「なんでシャツにひらひらが付いてるの?」
「だって可愛いじゃない」
「お養父さーん!!」
「ははははは、相変わらずだな二人とも」
カリアンは後ろから聞こえてくる仲の良いやり取りに頬を緩めると、いつになく充実した時間をかみ締めながら宿に帰った。
この出会いが、彼のツェルニでの学園生活にどんな影響を与えるのかは分からない。
「……別に付いてこなくても良かったのに」
「何言ってるんだ。水臭い」
「そーよ、レイフォン」
放浪バスが出るバス停で、いつもの三人が固まって話しをしていた。少年少女、という域から脱しようとしている三人は大荷物を抱えている。リーリンは女性というだけあって二人よりも若干大きいかもしれない。それは彼氏であるレイフォンが無理やり持たせられていた。彼女曰く、「男の甲斐性」らしい。
そのレイフォンは、懐にある錬金鋼に手を当てて複雑な表情をする。
養父に出立のときに渡されたものだった。これを渡した養父はレイフォンを励ましてくれたが、孤児院の子供たちの白い目は厳しかった。ますます落ち込みそうになるレイフォンを救ったのは幼馴染二人の言葉だった。
「ま、いつまでもこんな暗い話題は止めようぜ。確かにレイフォンは俺たちに黙って馬鹿な事をやったが、レイフォンは俺にとって幼馴染の親友で――」
「私の大好きな人なんだから。ついていくのは当たり前」
女王からの新たなヴォルフシュテインの座への勧誘を蹴ってまで自分に付いてきてくれたトウヤと、上級学校に行きたかったであろうリーリン。二人がどこか少しでも無理をしていればレイフォンは気にしただろうが、二人にそんな様子は微塵も無く、ただレイフォンに付いて行きたいから、という理由だけだった。
二人の笑顔にだいぶ心を救われたレイフォンは、少し弱弱しいながらも笑顔を見せた。
「そうそう、笑ってればいいの!」
「わっ!?」
リーリンはレイフォンの笑顔を見てうれしそうに笑うと、わしゃわしゃとレイフォンの頭を掻き混ぜた。
だんだんじゃれつきからいちゃつきに変わっていく初々しいカップルを見てトウヤは苦笑すると、そっとその場から離れてバスが来る方角をじっと眺めた。
「……お、バスが着たみたいだ。そこのいちゃついている二人。さっさと乗るぞー!」
「あっ、待ってよトウヤ」
「遅いぞバカップル」
トウヤは慌てて走って追いついて来た二人の額をつん、と小突いた。
とたん真っ赤に顔を染め上げる二人を見て、ひとしきり笑うと足を屈めた放浪バスに足を掛けた。
自律型移動都市。この荒廃した世界ならばどこでも見ることのできる、当たり前の都市。テーブル状の胴体の上に無数の建物が、中央が高く、外側に行くに従って低くなるように立ち並んでいる。その下には太い金属製の足が無数に生えていて、それらが秩序だった歩調でこの死の世界を渡り歩いている。
世界を彷徨う自律型移動都市にはさまざまな形態がある。単純に自給自足ができる環境を整えた標準型から、それぞれ何かに特化した機能を持ったものまで。
その中に学生が学ぶためだけにある都市がある。学園都市。その中の一つ、ツェル二にトウヤたちは足を踏み入れていた。
「ここが、学園都市か……」
「やっぱグレンダンとは違うね」
まず、月に何度も汚染獣が襲ってこない。当たり前の事だろうが、トウヤたちにとっては常識が覆されるような出来事だった。入る前に手渡されたパンフレットを見て
道中のバスでは、一応念のために、とトウヤがどこからともなく貴重な都市外装備を持ち出したおかげで、雄生体4期の襲撃を凌ぐ事が出来た。
一応入学式の三日前に着くことは出来た。止まる宿舎も安いところを二つ(レイフォンとリーリンのために)近いところを見つけてある。
自分たちと同じように入学するのだろう、大きな荷物を持った生徒が立ち尽くしている三人を次々に追い抜いて行く。どの人物の荷物も、三人の荷物の二、三倍はあり自分たちの貧乏さを思い知らされているようだった。
「さ、行くか」
その貧富の差に軽くショックを受けている二人に軽く声を掛けると、ひょい、と片手で荷物を持ち上げた。
後ろに二人が付いて来ている事を確認しながらこれから住む事になる寮に心を躍らせながら足を伸ばした。
幸いな事に、部屋はレイフォンと相部屋だった。今は二人してリーリンが向かった寮の前でリーリンを待っていた。
こちらも入寮の挨拶やら自己紹介やらで忙しかったが、女子寮であるからもっと時間がかかるだろう、と思い二人で鍛錬に使っているボールでキャッチボールをしていると、意外とすぐにリーリンは中から出てきた。
「ごめんね、寮長さんと話し込んじゃって」
「いや、気にして無いよ」
ぱたぱたと駆け寄ってきたリーリンを迎えると、そのまま三人で談笑しながら町を進んで行った。
今は、奨励金額がAランクのリーリンのバイト先を探しに着ているのだった。Aクラスなら学費は全額免除。生活費を稼ぐだけでいいので就労するところもたくさんあり、好きな事をすればいいのだが、残念ながらDとCランクだったレイフォンとトウヤにはそんなに選ぶ余裕は無かった。
結局、普通科で入学して体力は有り余っているので機関部清掃にした。危険で体力のいる仕事だが、報酬の良さで決めた。
「うーん、ここがいいかな。あ、ここの制服可愛いな」
基本的に学生が経営するのでどこも人手が足りていないので申し込めば大抵のところは受けてくれるだろう。なら現場を見たい、と言ったリーリンの付き添いで二人は来ていた。
ぱたぱたと元気良く駆け回る彼女を見ながらにやけるレイフォン。また頭の中で惚気てるんだろうな、と思いながらレイフォンを呼び戻すことに。
ぺしぺしとレイフォンの頭を叩きつつ先に行きすぎているリーリンを呼び戻す。しっかり者のリーリンも新しい都市、ということで浮かれているんだろうか。
「まったく、なんで俺がバカップルの世話をしなくちゃならないんだ」
そう言いつつも二人の世話をするのは嫌いではなかった。くっつきそうでくっつかない二人を一年前にくっつけたのもトウヤだった。
いつもいちゃいちゃしている二人を見ているとトウヤも恋人が欲しくなってくる。が、肝心の相手がいないことに気づいて苦笑する。
「ほら、あそこなんてどうだ?」
さりげなく二人を誘導してやりながらトウヤはツェルニを渡り歩いた。
解説入れます
自律型移動都市
自律型移動都市は円形の都市の土台に生活空間が築かれ、その外周に移動のための巨大な脚が多数備わっている。また、脚の上端部からはエアフィルター(空気の膜)が出力され、これが汚染物質が都市内に流入するのを防いでいる。
このほかにも有機的な建材による自然修復機能など様々な機能が備わっている。都市を作ったのは過去の錬金術師達と言われ、その建造技術は既に失われており、都市の中枢部分は都市民にとってブラックボックスである。
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